あえて「支援しない」居場所――誰もが肩書の鎧を脱ぐ「みやの森」カフェを取材。『庭に小さなカフェをつくったら、みんなの居場所になった』が発売

ライター:発達ナビBOOKガイド
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ぶどう社
あえて「支援しない」居場所――誰もが肩書の鎧を脱ぐ「みやの森」カフェを取材。『庭に小さなカフェをつくったら、みんなの居場所になった』が発売のタイトル画像

富山にある「みやの森カフェ」。そこには、さまざまな人が集まります。大人、子ども、学生、障害のある人・ない人…そうした属性も関係なく、お客さんはこのカフェを「居心地のいい場所」と感じ、そこからつながりが生まれていく。そんなカフェの魅力を探った『庭に小さなカフェを作ったら、みんなの居場所になった』(ぶどう社)の編著者、南雲明彦さん自身に、”つながり”と”居場所”について聞いてみました。

さまざまな人が集う居場所、「みやの森カフェ」

富山にある「みやの森カフェ」。そこには、さまざまな人が集います。大人、子ども、学生、障がいのある人・ない人…。お客さんはこのカフェを「居心地のいい場所」と感じ、そこからつながりが生まれていく。そんな「みやの森カフェ」の魅力を探った『庭に小さなカフェを作ったら、みんなの居場所になった』(ぶどう社)が発売となりました。
庭に小さなカフェをつくったら、みんなの居場所になった。~つなげる×つながる ごちゃまぜカフェ
南雲明彦 (著), みやの森カフェ (著)
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そこで、この本の編著者・南雲明彦さん自身に、「つながり」「居場所」について取材。「みやの森カフェ」がどうして居心地のいい場所となっているのか、自分の身近でどうしたら居場所作りができるのか――などを伺いました。

編著者・南雲明彦さんに、本誕生の背景を聞く

本の編著者・南雲明彦さん
本の編著者・南雲明彦さん
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編集部(以下、――):南雲さんは、このカフェのオーナーではなく、お客さんの一人ですよね。ふだんは、通信制高校の共育コーディネーターをされています。『庭に小さなカフェをつくったら、みんなの居場所になった』をつくることになったきっかけを教えてもらえますか?

南雲さん:今、私が拠点としているのは新潟県で、富山は隣の県とはいえ、簡単に行ける距離ではありません。でも不思議と「みやの森カフェ」には行きたくなるんです。オーナーの加藤愛理子さんとは、知り合って10年ほどになります。まだ加藤さんがフリースクールに勤務されていたころからのお付き合いで、カフェを開いたと聞いて、フラッと遊びに行ったのが、最初でした。

それ以来、「みやの森カフェ」は、行くたびにいろいろな人と出会える場所になっているんです。はじめは加藤さんたちと元からつながりがあった人が多かった印象がありますが、次第にさまざまなお客さんが出入りするようになっていました。不思議な魅力のある場所で、その秘密を知りたい、関わる一人一人の背景を知りたいと思ったのが、この本を作ったきっかけでした。

このカフェの大きな魅力は、人とつながり、そのつながりがさらに広がっていくこと。実は、私自身はもともと『つながり』の良さをあまり感じていませんでした。しがらみが増えるのが面倒だと思っていたし、心をゆるした人とだけつながっていればいいと思っているようなところがありました。でも、このカフェを知れば知るほど、誰かとつながりたくなりました。

○○な人のため、ではないからこそ、居心地よく広がりもできる

左:みやの森カフェのオーナー、加藤さん 右:加藤さんのお父さま
左:みやの森カフェのオーナー、加藤さん 右:加藤さんのお父さま
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右:もう一人のオーナー、水野さん
右:もう一人のオーナー、水野さん
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――「みやの森カフェ」のオーナー、加藤愛理子さんの妹さんは脳性麻痺があり、もう一人のオーナーの水野カオルさんのお姉さんには重度の知的と身体の障害があり、2人とも「きょうだい児」です。ただ、ここは、あくまでカフェであって、「きょうだい児のための」あるいは「障害者のための」といったキャッチフレーズがつく場所ではありません。
「きょうだい児の支援も大切」と言われるようになってきていますが、「支援してあげる」と言われても、何を支援してもらうのかがわからない。でも、もし自分が子どもだったとき、「一緒だね」と言い合える仲間がいたらそれはうれしかったかもしれないなとはちょっと思います。「仲間」と「居場所」があって、必要なときだけ行けたらそれはいいかも。そんなゆるい「居場所」をつくろうと二人でスタート。

(加藤さんの言葉 1みやの森カフェをつくる人 P17より)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402397
南雲さん:特定な『○○な人のため』の場所というと、対象がわかりやすい一方で人を限定してしまい、○○以外の人が入りづらくなるという面があります。○○な人を『囲い込む』ことになってしまいやすいのではないかと思います。

私は17歳の時に不登校になりました。夏休み中に夜眠れなくなり、徐々に学校から足が遠のいていきました。そんな時に「不登校の会」を紹介されました。しかし、その集まりがどうも好きになれませんでした。そうした集まりに行っても、つながりは限られた中でしかできなかった。囲い込まれた形でその集団は孤立してしまうのではないか、と感じたからです。

たしかに、『○○な人のため』の場所は、○○な人への理解があって安心だし、安全な場所かもしれない。でも、それが本人の幸せにつながるとは限らない――。特定の人たちだけで集まるのではなくて、さまざまな価値観の人と触れ合うことが大切なのではないか?と私は思います。

もちろん、当事者だけの集まりが悪いわけではありません。ただ、集まりがしっかりしたものになるほど、小さなズレが生じた時にその集まりを守るために誰かを排除するような形になったり、そこから抜けるのが大変になったりすることもあります。もっとしがらみのない、いつ行ってもいい、ほかの場所にも行っていい、そんな場所が理想的だと感じていて、それを体現しているのが「みやの森カフェ」だと思ったのです。

つながりを生み出していくのは、強いリーダーシップではないのかもしれない

本の編著者・南雲明彦さん
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実は、みやの森カフェでの合いことばの一つは、「儲けよう」です。なかなか組織では働くことができない若者たちにも「みんなで儲けようよ」と声をかけています。福祉の世界と儲ける世界は正反対というイメージもあります。私のカフェは福祉ではないです。システムの中に入っていないし、誰かを救う機関でもない。

(加藤さんの言葉 1みやの森カフェをつくる人 P53より)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402397
――「みやの森カフェ」は、ボランティアでも、支援団体でもないんですよね。

南雲さん:「みやの森カフェ」は普通のカフェで、飲み物や食べ物を提供する側と、それに対してお金を払うお客さんがいます。時々、お金を払う代わりに皿洗いなどの労働をして対価を払う場合もあるのが、「みやの森カフェ」の面白いところですが、いずれにしても、お客さんは一方的にサービスされるだけではないし、お店も場所を提供するだけではありません。そこにお金のやりとり・労働力のやりとりがあります。

カフェを継続していくには、資金が必要です。お金の話はタブー視されがちだけど、お金は必要です。「みやの森カフェ」が居心地のいい場所としてあり続けるために、加藤さんは、「どうしたらいい?」と、カフェに関わる人たちに投げかけることもあります。そこが加藤さんらしいところなんですが、自分だけで全部なんとかしようとは思っていないんですね。これは弱さではなく、強さです。

そうすると、自然と知恵が集まってくるんです。知恵を貸した人は恩を売るつもりも、何か見返りを求める訳でもありません。自分が出した知恵を材料にして、それがどう”料理”されるのかなと面白がっているのです。

当然、知恵を借りても、うまくいかないこともあります。そんな時の加藤さんは諦めが早くて、動きが速い。意固地にならずに、「うまくいかないね、じゃあ次はどうしたらいい?」と別の知恵を探します。「頼んだのにできなかったじゃない」「言われたようにしたのにうまくいかなかった」と責めることはなく、できないなら、「ま、いっか」と思って次へ行く。この楽天的な発想とフットワークの軽さが「みやの森カフェ」を支えています。

――みんなを強く引っ張って行くリーダーが、居心地のいい場所を作り、みんなをまとめていくこともあります。でも、「みやの森カフェ」は真逆のようです。

みんな「個」として動いているから、つながることができる

みやの森カフェの様子
みやの森カフェの様子
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南雲さんここは、サポートする側・される側、もなく、ゆるくつながっている場所なんですよね。”つながり”って、本来”かたまり”ではなくて、変わり続けて、流れていくものなんです。
カフェに厳密なルールはありますか?

私の居場所づくりの素は、「固定しない」、「執着しない」という感覚です。また、「支援者」と「当事者」をわけるのではなく、「みんなが自分のできることをもち寄って集ってくれればいいな」と思っていました。

(加藤さんの言葉 1 みやの森カフェをつくる人 P35より)

出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402397
南雲さん:ここでは、”何者でもない状態”が心地いいんです。人って、社会の中にいるといつのまにか肩書きが必要になって、肩書きによって発言したりもしますが、このカフェという空間の中で、自分が誰なのかは関係ないんですよね。このカフェに偉い人はいなくて、”お客さん”しかいません。

私自身、一時期学校にも行っていない、仕事もしていない時がありました。自分が何者でもなかったころ、ひとから「何をしているんですか?」と聞かれても、どう答えていいのかわかりませんでした。でも、ここではそんなものは関係ないんです。こんな場所がいろいろな地域にあったら、安心して生きることができる人たちが増える気がします。
みやの森カフェが魅力的なのは、自分が何者なのかを、「ここにとどまる資格があることを、ある特定のやり方で証明する必要がない」、というところ、でも、自分のことを話したかったら話してもよくて、しかもたまたま居合わせた人が、私の話に驚かず、興味本位ではなく聞いてくれたりするところかなあと思います。

(みやの森カフェのお客さん・五十嵐祐紀子さんの話 2 みやの森カフェに集う人たち P134より)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402397
南雲さん:肩書きがあることで先入観が生まれ、”生きづらさ”を押しつけられることがあります。支援が必要な人だと決めつけて接すると、関係はフェアではなくなります。”する人・される人”ではなく、一緒に歩むということが”つながる”ことではないでしょうか。

実は、この本を書くために、カフェにいる人の話をききたいと思って取材を始めた時、お客さん、調理場にいる人、支援する人という具合に、ジャンル分けして考えていたんです。だけど、どうしても違和感があった。それはなぜなのか考えたら、分けること自体がナンセンスなんだ!と気づいたんです。ジャンルでくくるのではなく、みんな”個”として動いているから、つながることができるんです。

伝えたかったのは、「つながり」のできる場所の作り方

本を手に持つ、南雲明彦さん
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――この本で、南雲さんが伝えたかったことはどんなことですか?

南雲さん:人間はひとりではなにもできないし、孤独がつらい。だから、自分が、そのままでいられて自然と人とつながる「みやの森カフェ」みたいな場所をそれぞれの地域でつくる人が増えることを望んでいます。

加藤さんは純粋に人をつなげるのが好きな人。つなげなきゃとも思っていなくて、何も見返りを求めていません。でも、こうしたことは、加藤さんにしかできないことではなく、みんなができるはず。そういうつながりや居場所の大切さを、この本では伝えられたらと思っています。
カフェを運営する中で大切にしている理念はありますか?

私の中には、「自分のためにやっている」という気持ちが揺れていないか、「自分ができないことに手を出していないか」が一番気になるところです。それが守られていれば継続ができる、ぶれないでいられると思う。「場」をつくっているだけで喜ばれるのであれば、ぶれずにこれをやり続ければいいのだと思います。

(加藤さんの言葉 1 みやの森カフェをつくる人 P34より)
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4892402397

居場所づくりを気負わずに始めてみよう、そんな気持ちになる本

この本の登場人物は、6人。オーナー・加藤愛理子さん、もう一人のオーナー・水野カオルさん、スタッフ&臨床美術士・渡辺恭子さん、パティシエ&お客さん・深浦舞さん、台湾からのお客さん・五十嵐祐紀子さん、仲間・宮袋季美さん。彼女たちの話を南雲さんが丁寧に聞き取り、記録しているのが『庭に小さなカフェをつくったら、みんなの居場所になった つなげる×つながるごちゃまぜカフェ』。”居場所”はどうしたらできるのか、”つながり”って何なのか、気づかされることがたくさんあります。

「みやの森カフェ」は、加藤愛理子さんという天性の”つながり”づくりができる人が作った特別な場所かもしれません。でも、いくつかのルール――「何者なのかを問わない」、「○○する側・される側という限定をしない」、「つながることを楽しむ」を知ったら、自分も居場所が作れるのではないか。小さくてもいい、気負わずに居場所づくりを始めてみよう。そんな気持ちになれる本です。

『庭に小さなカフェをつくったら、みんなの居場所になった。~つなげる×つながる ごちゃまぜカフェ』

庭に小さなカフェをつくったら、みんなの居場所になった。~つなげる×つながる ごちゃまぜカフェ
南雲明彦 (著), みやの森カフェ (著)
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取材・文/関川香織
写真/近藤誠
「療育しない、押しつけない、たくさん話をする」。堀内家の子育てにはたくさんのヒントがあった――『ADHDと自閉症スペクトラムの自分がみつけた未来』著者インタビューのタイトル画像
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