発達障害の娘、就職して半年。壁にぶち当たっていた時に出合った本が教えてくれた「本当の自己決定」
ライター:荒木まち子
1年ほど前、発達障害の娘が特例子会社に就職して半年たったころのことです。当時、娘は、心身ともに弱り、会社も休みがちでした。そして私もどうしたらいいのだろうと悩んでいました。
壁にぶち当たり、私は明石洋子さんの著書『思いを育てる、自立を助ける』を読みました。そして、大きな気づきを得たのです。
私たちに、この本が教えてくれたこととは――。
発達障害の娘、就職して半年。壁にぶち当たっていた時期に
明石洋子さんの著書『思いを育てる、自立を助ける』を読みました。
思いを育てる、自立を助ける (発達障害の子の子育て相談 1)
本の種出版
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この本は、子育てに悩む親の相談に、明石さんがご自身の子育て経験を元にQ&Aで答える形式です。当初、私は小さいお子さんを持つ親御さん向けの本だと思っていました。
ところが…
本は付箋だらけに…
単なるハウツー本ではない、明石さんの人柄まで感じられる本
この本は“子どものこんな困った行動にはこんな方法が効果的!”といったことが書いてあるような単なるハウツー本ではありません。
知的障害を伴う自閉症の息子さん、徹之さんは現在川崎市の職員として(障害者枠でなく一般枠で採用)働き、一人暮らしをされています。
明石さんが試行錯誤しながら実践してきた子育てに基づくお話はとても参考になりますし、また、ご自身が運営されている社会福祉法人で実際に多くの方の相談に乗ってこられた明石さんの言葉には重みがあります。
テレビで放送された番組や、各地で行われている講演会などで明石さんのお話を聞いた事がある方なら分かると思いますが、難しいテーマにも決してネガティブにならず、パワフルで温かい明石さんのお人柄がこの本の随所から感じられます。
知的障害を伴う自閉症の息子さん、徹之さんは現在川崎市の職員として(障害者枠でなく一般枠で採用)働き、一人暮らしをされています。
明石さんが試行錯誤しながら実践してきた子育てに基づくお話はとても参考になりますし、また、ご自身が運営されている社会福祉法人で実際に多くの方の相談に乗ってこられた明石さんの言葉には重みがあります。
テレビで放送された番組や、各地で行われている講演会などで明石さんのお話を聞いた事がある方なら分かると思いますが、難しいテーマにも決してネガティブにならず、パワフルで温かい明石さんのお人柄がこの本の随所から感じられます。
「本当に地域で幸せになれるの?」という質問に対しては…
「私は、不幸とは①地域に生きる場がない、②世間から同情・憐れみ・差別・偏見を受ける、この2点だと、息子が小学校に入る頃から考えるようになりました。では幸せになる道を探せばいいですね。「①地域で生きる場の開拓」、同情や偏見などは知らないゆえの誤解ですから、とにかく「②知ってもらうこと」を考えました。そのためには息子と共に地域に飛び出すことにしました。(中略)障害をなくすことを目的とした治療に奔走するより、障害があってもあたりまえに「地域での自立」ができるようになることを子育ての目標にしました。
『思いを育てる、自立を助ける (発達障害の子の子育て相談 1)』より
ほかにも、
「強がりでなく「ありのままでいい」と言える日がくるのでしょうか?」
「独り言など、その場にふさわしくない行動をやめさせるには?」
「働くということを教えるには?」
といった質問にもご自身の経験を元に丁寧に回答されています。
またタブー視されがちな性のしつけに関する相談についても回答をされています。
Q&Aだけでなくところどころに挿入されているコラムも楽しい内容でとても魅力的です。
ノーマライゼーションや障害者の権利宣言、ICF(国際生活機能分類)についても分かりやすく書かれていらっしゃるあたりはさすが、明石さん!といった感じです。
「強がりでなく「ありのままでいい」と言える日がくるのでしょうか?」
「独り言など、その場にふさわしくない行動をやめさせるには?」
「働くということを教えるには?」
といった質問にもご自身の経験を元に丁寧に回答されています。
またタブー視されがちな性のしつけに関する相談についても回答をされています。
Q&Aだけでなくところどころに挿入されているコラムも楽しい内容でとても魅力的です。
ノーマライゼーションや障害者の権利宣言、ICF(国際生活機能分類)についても分かりやすく書かれていらっしゃるあたりはさすが、明石さん!といった感じです。
娘がぶち当たっていた壁についても書かれていた
今、特別支援学校等から一般就労する人がずいぶん増えました。障害者雇用の制度が進んだのと、「就労移行支援」事業所等のサービスが充実してきたことによるのでしょう。しかし、就労の継続は難しいようです。就労の機会が増えたことは喜ばしいのですが、金銭感覚や就労意欲を育てることを忘れて、「学校を卒業します。さあ働きましょう」と押し出されている現状のようです。ASD(自閉スペクトラム症)と知的障害がある若者の「働けない・働かない」相談が毎月きます。
『思いを育てる、自立を助ける (発達障害の子の子育て相談 1)』あとがきより
これは娘にも当てはまりました。障害がある人の働く場が増えてきたことは、嬉しいことです。でも、ただでさえ成長がゆっくりな障害のある子どもが、高校を卒業してすぐに社会に飛び出すことの心身の負担は並大抵のものではありません。子ども自身の用意ができていない段階で社会に飛び出していっても、過度なストレスがかかり、思うように仕事ができないことで自信を失ったりという状況があるという面もあるのだと思います。
そんな子どもが無理を重ね、こじれてしまうことで、二次障害や家庭内・外でのトラブルにつながってしまう例にも、明石さんは触れています。
そんな子どもが無理を重ね、こじれてしまうことで、二次障害や家庭内・外でのトラブルにつながってしまう例にも、明石さんは触れています。
たとえば、「本人に就労意欲がない」との理由で解雇され、「働く楽しさを身に付けるように」と福祉作業所を勧められても、作業所には行きたがらないとの相談。親御さんから「力ずくでも行かない。毎日ぶらぶらして問題ばかり起こす。お金がないのに衝動が抑えられず、万引きしたり代引きで買い物したり、消費者金融でお金を借りたり、人に無心してトラブルになったり……。どうしたらいいか」との相談です。家族に暴力をふるい、親は疲弊し、グループホームに入れても、ホームの世話人からは「朝起きないなど基本的な生活習慣がついてない。日中活動に行かないならホームを退去」と言われているとのこと。せっかく就労の機会が増えても残念な話ですね。
『思いを育てる、自立を助ける (発達障害の子の子育て相談 1)』あとがきより
すべての障害のある子どもがそうではないかもしれませんが、私達はまさにその頃、就労の継続の難しさを肌で感じていました。特例子会社に就労して一年目だった娘は「家にいる時や休みの日は平気なのに、会社のある日の朝になると吐く」という状態が続き、秋にはほとんど会社に通えなくなってしまっていたのです。このままでは休職か転職しかない、といったギリギリの状態でした。
先輩のように仕事ができない自分に落ち込む。
職場の人ともっと仲良くしたいのにそれができない。
理想と現実の間で娘は負のループに陥っていました。
学校で「働くこと」について学んでいたとはいえ、実際働き始めると娘はそれまでの学生生活とギャップに戸惑い苦しみました。 就労はゴールではなく、その先の長い人生のスタート地点だという自覚が、娘にも私にも足りていなかったのかもしれません。
先輩のように仕事ができない自分に落ち込む。
職場の人ともっと仲良くしたいのにそれができない。
理想と現実の間で娘は負のループに陥っていました。
学校で「働くこと」について学んでいたとはいえ、実際働き始めると娘はそれまでの学生生活とギャップに戸惑い苦しみました。 就労はゴールではなく、その先の長い人生のスタート地点だという自覚が、娘にも私にも足りていなかったのかもしれません。