勉強ができることは「勝ち組へのパスポート」 ではなかった――生きづらさから傲慢だった発達障害の私。就活挫折と仕事での苦難から気づいたこと

ライター:宇樹義子
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高機能自閉症のある私。学校の成績がよかったのもあって、発達障害を発覚しないまま難関大学に進学し、周囲からは「そのまま有名企業に就職するだろう」と期待を受けていました。しかし私は大学時代、就活で大きな挫折を経験します。この記事では、その後10年近くのひきこもり生活を経て現在は在宅で文筆業をなりわいとしている私が、「勉強のできる発達障害者と仕事」について考えていることをお伝えします。

勉強ができる=仕事ができる=人生は順風満帆 ではなかった

誰かが「勉強ができる」ことは、その誰かが「たまたま勉強において好成績をとるのに向いた特性を持っている」ことを表すにすぎません。

仕事や生活では、体力やコミュニケーション能力、応用力や瞬発力、マルチタスク能力が要求されたり、ジェネラリストであることが求められることも多くあります。勉強がよくできても、仕事や生活管理がうまくできるとは限りません。勉強のできる発達障害者の場合、こうした本人内での凸凹が大きいので、「勉強はできても仕事はできない」ということが十分起こりえます。

しかし、大学時代、就活をしていた当時の私は、自分に発達障害があるとは気づいていませんでした。自分の中で能力の凸凹があるという自覚もありませんでした。新卒採用の面接で落ちまくったり仕事がことごとくうまくいかなくなったりするようになるまで、勉強ができる=仕事ができる=人生は順風満帆 だと思いこんでいたのです。

勉強ができる=本人の努力のおかげ、でもない

勉強の成績には、本人の生まれ持っての特性や努力だけでなく、育つ環境も大きく関わっています。たとえば、本人にポテンシャルがあったとしても、家庭が勉強に集中できる環境でなければ本来の力が発揮できないでしょうし、逆に、家庭に教育にコストをかける十分な余裕があれば、本人の力を最大限に引き出すことができるでしょう。

また、誰かのある能力が「〇〇ができる」と評価されるのは、その能力が運よくその世相で価値があるとされるものであるからにすぎません。たとえば、現在天才物理学者とされているアルバート・アインシュタインも、たまたま世で価値があるとされる物理理論を発見したからこのような評価を得ていますが、あの発見がなければ、あるいはあの理論が世から価値あるものとして見いだされなければ、彼はもしかしたらただの変わった人として扱われていたかもしれないのです。

こうしたことは勉強の成績だけの話ではありません。人からの「◯◯ができる」という評価には、育つ環境や世相といった運が大きく関わっているのです。生活上おおよそすべてのスキルについて、何かが人よりできることに傲慢になってもいけないし、何かができないことについて本人の努力の問題にしてはいけないと、私は思っています。

勉強ができることに対する嫉妬や差別での苦労

私は、「勉強ができること」を理由に嫉妬や差別を受けることもありました。

小さいころには、勉強ができるからってお高くとまっている、ずるい、などと言われましたし、職場で「基本的には高学歴の人は採らないようにしている」「これだから高学歴は使いづらい」などと罵られたこともありました。職場で「宇樹さん◯◯大卒だって」と言いふらされ、同僚からしつこく嫌味を言われたり、周囲からひそひそ話されたりするようになったこともあります。

私の場合、学歴や、喋ったときの理屈っぽさが変に目立つ一方、周囲とうまくなじめないし、仕事はぜんぜんうまくできないので、「勉強ができるならほかのこともできるはずだ→ 人間関係や仕事がうまくこなせないのは本気を出していないからだ、悪意だ」と感じる人が多かったのではないかと思います。私が「勉強ができる」ことで嫉妬や差別を受けやすかったことの原因のひとつは、こうした私自身の中での能力のアンバランスさにあったと感じています。

こうした嫉妬や差別のもうひとつの原因は、いまの社会が「能力」に重きを置きすぎた世界観で回っていることにあると思います。多くの人がなんとなく「世の中、能力があるほうが得だ」と感じているような雰囲気がありますよね。これは容易に、「能力がある人は得してずるい!」に転じます。

私はこの雰囲気には疑問を持ち続けておかなければならないと思っています。私の能力が非常にアンバランスだったように、人の能力は決して一枚岩ではありません。それに、「人間として全面的に能力に溢れた人」だけが得をする世の中が正しいのかと考えると、どうしたってそうは思えないのです。
次ページ「そもそも人生を勝ち負けで考えることをやめる」

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