「正当な要望」と「クレーム」の線引きポイントとは?教師をやる気にさせる3つのステップも――保護者と教師がパートナーとなるために【明治大学教授・諸富祥彦】

2020/10/14 更新
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私は20年あまり、千葉県内の中学や高校でスクールカウンセラーをしてきました。また、30年近くにわたって多くの小中高の先生方と親密な関係を築き、1999年からは「教師を支える会」を主宰しています。長年、保護者と教師の双方からの悩みをうかがってきました。前回に続いて今回も、保護者の方に向けて、先生とより良い関係を築くためのアドバイスをお伝えしていきたいと思います。

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諸富 祥彦
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教師が保護者から言われてうれしい一言

前回のお話

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このコラムをお読みの保護者の方に質問です。学校の先生が保護者から言われて「うれしい」一言をご存じでしょうか? 
ちょっと考えてみてください。

「先生が担任で本当に良かったです」
「来年も先生が担任だといいのに」
「先生のおかげで〇〇ができるようになりました」


いろいろとうれしい言葉はあるでしょう。
私が、知り合いの先生から聞いて「なるほど」と思ったのは――

「何かお手伝いできることはありますか?」

という一言です。その先生は、次のように語っていました。

「僕たち教員は、猫の手を借りたいほど忙しいです。でも、保護者の方に実際にお手伝いいただく場面というのはあまりないんです。それでも、僕たちの気持ちをくんでくれて『何かお手伝いできることはありますか?』と保護者の方に言われるとうれしいですね」

教師のやる気をアップさせる保護者とは?

子どもが学校で良い体験ができるように教師を応援する親。逆に、何かあったら教師に文句をつける親。
どちらが教師のやる気をアップさせる保護者であるかは明白でしょう。
教師にクレームばかりつけていると、めぐりめぐって保護者や子どもに〝損〞が返ってきます。

「あの保護者の言うことは大げさだから、話半分に割り引いて聞こう」
「あの子どもにかかわると、背景にはあの親がいるのか……」

そんなふうに教師に思わせて、意欲を削いでしまうと、教師がその保護者の子どもとかかわることに苦手意識をもつようになるのは想像にかたくないでしょう。

先生にお願いするときの3ステップ

保護者から先生にお願いをするときには、次の3つのステップを踏むと効果的です。
 
1つ目は「先生、いつもありがとうございます」と感謝を示すこと。

2つ目が、抽象的な要望ではなく、具体的な行動レベルのお願いをすること。
 
3つ目が、勇気づけです。


「ほかの先生じゃダメだけど、先生だったらやってくださると思って」
「信頼している先生だからこそ、申し上げるのです」


などとその先生のことを「信頼している」「期待している」というメッセージを伝えて、先生のやる気を喚起させるのです。
特に、40代の保護者と20代の先生という組み合わせだと、保護者から見て先生が頼りなく思えてしまいがちです(これが、保護者が50代だと「20代にもいいところがある」と余裕が出てくるものです)。20代の若手教員を一番否定しがちなのが、40代の保護者なのです。

どこまでが正当な要望で、どこからが過剰な要望なの?

ここまで読まれた読者の方、特に保護者の方は、こんな疑問をもたれるかもしれません。
「何かあったらおっしゃってくださいというけど……どこまでが正当なリクエストで、どこからが過剰なクレームなのだろう?」
リクエストとクレームの線引きポイントは、どこにあるのでしょうか?

私は、「正当な理由があるかどうか」によると思います。
正当な理由とは、「子どもが困っている➡だからこうしてほしい」という配慮のお願いです。

前回のコラムで紹介したように、
「何が宿題として出されているのか、口頭で聞いただけではうちの子どもは理解しづらい➡だから黒板に書いてほしい」
「うちの子は板書を書き写すのに時間がかかる➡だからうしろの黒板に書き残してほしい」

これは、子どもの困り感に対応した配慮のお願いです。
ほかにも、
「うちの子は視力が悪い➡だから板書が見えやすいように前の席に座らせてほしい」
「慢性的な病気をもっている➡だから体育の時間は運動量を軽減してほしい」

というのも、正当な理由です。

保護者からの要望、どこまでが正当なものなの?

最近、小学校の特別支援学級(支援級)に通うお子さんの保護者の方から、こんな相談を受けました。

「うちの子は2年生なのですが、通っている支援級では1年生の授業をやっています。国語ではカタカナ、算数では数をかぞえるとか簡単な足し算を習っています。でも、うちの子は漢字の読み書きもできますし、家では繰り上がりのある足し算をやっています。うちの子だけ、もっと進んだ学習をさせてほしいというのは、要望が過ぎますか?」

これは先生にリクエストしてもいい案件だと思います。この場合、お子さん自身は授業の進度が遅いからといって困ってはいないでしょう。

ただし、授業の進度がお子さんの学力に見合っていないのであれば、お子さんの能力は十分には伸びず、機会損失をしてしまい不利益になるかもしれません。
正当な要望かどうかの見極めは「それは、子どものためになることか?」という点もポイントになります。 

では、どこからが過剰な要望なの?

もうひとつ、小学校の支援級に通うお子さんの保護者による相談を紹介しましょう。

「うちの子はなんでも一番にならないと気がすまないタイプで……朝も一番に登校したがります。これまで7時半に登校していたのですが、先日、副校長先生から登校時間を守って、8時10分以降に登校してください、と言われてしまいました。
学校は個別対応をしてくれないのですね」

 
登校時間については、学校側の管理責任や登校後の安全面の問題もあります。先生がその分、早く出勤せざるをえない時間に登校されてしまうと、その先生の負担は増えてしまいます。
「うちの子だけ7時半登校を認めてほしい」というのは、要望が過ぎるのではと思います。

また、「7時半に登校できない」というのがお子さんの「困りごと」かというと、そうでもないでしょう。
むしろ、お子さんには「一番になれないこともある」「ルール(登校時間)がある」ということを学ぶいいチャンスだと思って、定時での登校にチャレンジさせてほしいと思います。

保護者と教師は「パートナー」

保護者と教師は、子どもを育てるパートナーです。
保護者の方は、先生との会話の中で「うちの子がすごく喜んでいました」「ありがとうございます」と、まず先生への「感謝」や「ねぎらい」の気持ちを伝えることが大切です。

先生の頑張りに対して、まずお礼を言うだけで「教師のその子へのやる気」はアップし、子どものメリットにつながります。
保護者の方々には〝子どものために〞ぜひ先生に「感謝とねぎらいの言葉」を伝えていただければと思います。

その上で、先生に伝えるべきことを伝え、〝変えてほしいこと、見直してほしいこと〞をお願いするのです。先生のプライドを大事にする言い方をすれば、先生のやる気を失わせず、なおかつ、現実的なリクエストならば、それも聞き入れてもらいやすくなるでしょう。
いい教師の条件
諸富祥彦
SBクリエイティブ
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【著者プロフィール】
千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。 臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表。 著書に『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『プロカウンセラー諸富祥彦の教師の悩み解決塾』(教育開発研究所)、『孤独の達人』(PHP新書)、『男の子の育て方』『女の子の育て方』(ともにWAVE出版)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』『教室に正義を!』(いずれも図書文化社)など多数。
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