「わが子はゲーム依存?」発達障害のある子とゲームの関係、親の関わりを解説『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』児童精神科医・吉川徹先生インタビューも
ライター:発達ナビBOOKガイド
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合同出版
「ゲームばかりしている」「片時もスマホを放さない」程度ならよくある話かもしれませんが、「ゲームがうまくいかず暴言を吐く」「スマホばかりで昼夜逆転、朝起きられない」など日常生活に支障をきたす、感情が不安定になるなどで悩んでいる家庭が増えています。ICTは生活を豊かにするものでもあり、これからの生活に不可欠なもの。まずは大人が子どもの世界を知り、「上手なつきあい方」を教えていくことが必要です。本書は子育て中の方はもちろん、学校の先生や子どもと関わる福祉関係者の方にも読んでほしい1冊です。
子どもたちが使っているICTはどんなものなのか知ろう
本書は、児童精神科医の吉川徹先生が長年ゲームに親しんだ自身の経験をもとに、ネットやゲームとのつき合い方をポシティブに考察した1冊です。
ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち
合同出版
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「子どもがネットをやりすぎている」「ゲームに夢中で引きこもりがち」などが心配であれば、まずは子どもがどんなゲームやネットに興味があるのか、なにをどのように使っているのかを知ることが大切です。
本書第1~3章では、どんなゲームやネットを楽しんでいるのか、ICTで他者とどのようなコミュニケーションを取っているのかなど、子どものICTの利用状況を詳しくかつ分かりやすく解説しています。
本書第1~3章では、どんなゲームやネットを楽しんでいるのか、ICTで他者とどのようなコミュニケーションを取っているのかなど、子どものICTの利用状況を詳しくかつ分かりやすく解説しています。
子どものプレイスタイルを知ろう
6~19歳の子どもの大半が「インターネットを使ったことがある」という調査結果が出ています。1日の利用時間は小学生が2時間未満、中学生2時間以上3時間未満、高校生では5時間以上と、年齢が上がるにつれ使用時間も長くなっています。
ゲーム以外のコンテンツはどんなものがある?
どのようなコンテンツがあるのか、特徴や魅力にも触れながら詳しく解説しています。また、動画の配信者やゲーム・プログラムの開発者になるなど、インターネットを介した活躍の場も紹介され、ネット上で発表の場があることが子どもたちの創作活動の動機や励ましになる、と記されています。
子どもたちはICTでどうコミュニケーションを取っているの?
SNSなどのネット上のコミュニケーションツールの発展は、子どもたちのコミュニケーションスタイルに大きな影響を与えています。いろいろな人と繋がることができたり、メールやLINEだけでなくゲームの中で戦いながら会話できたり、それぞれに特徴のあるコミュニケーションサービスが生まれています。
子どもたちは実際にネット上でどんな人と繋がっているのか、どんなツールを使ってコミュニケーションを行っているのかなど、さまざまな切り口から解説しています。
子どもたちは実際にネット上でどんな人と繋がっているのか、どんなツールを使ってコミュニケーションを行っているのかなど、さまざまな切り口から解説しています。
ICTのお金にまつわる問題
ICTにかかわるお金の決済方法や、子どもたちが課金する目的やスタイル、ユーチューバーなどネット上でお金を稼いでいる子どもたちについても詳しく解説しています。その中で、「上限がない課金で使いすぎるリスクがある反面、無料や安価なゲームは、“自分なりに工夫・努力をして購入する経験“を奪うことになり、社会参加や就労に向けた動機づけが難しくなる可能性がある」とも述べられています。
発達障害のある子どもとICTの関係
ネットやゲームの問題を考えるとき、よく話題になるのが「発達障害」のある子どもにとって、ネットやゲームがどんな存在であるかということ。発達障害の子どもたちは、ものの見方、感じ方、考え方の特性から、メリット、デメリットの両方が共に大きいともいえます。
第4章では、発達障害のある子どもの主な特性と、ネットやゲームとの関係について、詳しく解説されています。
第4章では、発達障害のある子どもの主な特性と、ネットやゲームとの関係について、詳しく解説されています。
2021年5月8日(土)午前10時半から、本書の出版記念オンラインイベント(合同出版主催)/#出版記念 第2弾『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』 吉川徹さん(児童精神科医)×竹内和雄さん(兵庫県立大学准教授)が開催されます。
特性によって付き合い方の傾向は少し異なる
・自閉スペクトラム症(ASD)
人付き合いが行動のアクセルやブレーキになることが少ない、興味や関心が広がりにくく好きなものややりたいことが増えにくいという特性があります。「自分のペースで読んで返信できる」文字のコミュニケーションは有利な方法といえます。また、マニアックな情報サイトで自分の興味や関心を深め、それが人付き合いにも繋がっていく可能性があります。しかし、行動の切り替えが苦手という特性もあるため、ネットやゲームを「おしまい」にすることが苦手です。
・注意欠如・多動症(ADHD)
注意を持続する、必要な所に行きわたらせるのが苦手な反面、ゲームやネットへの過集中が問題になるという特性があります。スマホにToDoリストを入れる、リマインダーをセットするなど、不注意を補ってくれる機能が有効になります。
また、多動・衝動性という特性もあるので、ネットであちこちの情報に飛べる環境は、ADHDの人にはかなり居心地がいいかもしれません。しかし、そのことで無駄な買い物をしたり、危険なネットにアクセスしたりしてしまうなど、厄介ごとに巻き込まれる可能性もあります。
・限局性学習症(SLD)
知的な障害はないものの、読み書き計算など、学習にかかわる特定の領域に困難があるという特性があります。ICTの読み上げ機能、キーボードあるいは音声入力や計算機機能を使えば、苦手な部分をカバーすることができます。ICTのメリットを一番得られるのは、SLDの子どもたちかもしれません。
人付き合いが行動のアクセルやブレーキになることが少ない、興味や関心が広がりにくく好きなものややりたいことが増えにくいという特性があります。「自分のペースで読んで返信できる」文字のコミュニケーションは有利な方法といえます。また、マニアックな情報サイトで自分の興味や関心を深め、それが人付き合いにも繋がっていく可能性があります。しかし、行動の切り替えが苦手という特性もあるため、ネットやゲームを「おしまい」にすることが苦手です。
・注意欠如・多動症(ADHD)
注意を持続する、必要な所に行きわたらせるのが苦手な反面、ゲームやネットへの過集中が問題になるという特性があります。スマホにToDoリストを入れる、リマインダーをセットするなど、不注意を補ってくれる機能が有効になります。
また、多動・衝動性という特性もあるので、ネットであちこちの情報に飛べる環境は、ADHDの人にはかなり居心地がいいかもしれません。しかし、そのことで無駄な買い物をしたり、危険なネットにアクセスしたりしてしまうなど、厄介ごとに巻き込まれる可能性もあります。
・限局性学習症(SLD)
知的な障害はないものの、読み書き計算など、学習にかかわる特定の領域に困難があるという特性があります。ICTの読み上げ機能、キーボードあるいは音声入力や計算機機能を使えば、苦手な部分をカバーすることができます。ICTのメリットを一番得られるのは、SLDの子どもたちかもしれません。
発達障害とゲーム・ネットの使い過ぎ
発達障害のある子どもにとって、ICTの使い過ぎも大きな問題となっています。特にASDやADHDのある子どもはやめにくさ、没頭しやすさが課題で、インターネット依存の子が多くみられています。しかし、それは非常に流動的で、依存になっても数年後には治ったりするものであることもわかっています。
子どもとICTリテラシー
ICTリテラシーとは、「情報通信技術を使える能力」を指しています。第5~7章では、筆者が考える、ICTとつき合うために必要不可欠ともいえる3つのリテラシーを紹介しています。
ICTを使えるリテラシー
文部科学省が定めた新しい学習指導要領の中で、「情報活用能力を育成する」ために具体的な目標や方法が盛り込まれました。その中には「情報を見つけ、整理し、分析する力」「プログラミングする力」など、子どもが大人になった後の生活や生涯学習に欠かせない、使えるリテラシーに関連する項目がたくさん含まれています。しかし、日本は先進国の中でかなり遅れているのが現状。授業でデジタル機器を使う時間の国際比較が図解されています。
家庭でICT機器の教え方を教えながら一緒にゲームを楽しんだり、家庭学習の中にICTを取り込んだりしながら、多くの子どもがICTに親しみ、それを生活の向上に繋げていく教育が必要と考えられます。
家庭でICT機器の教え方を教えながら一緒にゲームを楽しんだり、家庭学習の中にICTを取り込んだりしながら、多くの子どもがICTに親しみ、それを生活の向上に繋げていく教育が必要と考えられます。
ICTを安全に使うリテラシー
ICTを安全に使うための知識やスキル、ツールはたくさんあります。ネットやゲーム上での悪影響・リスクにはどんなものがあるのか、それに対してどのような対応方法があるのかを、詳しく解説しています。
子どもの「安全に使いたい気持ち」や「コミュニケーション力」を育てること、お金の付き合い方を一緒に考えること、そしてなにより何か問題が起きたとき、知識と解決能力がある大人が早めに介入できるように備えておくことが大切だと説いています。
子どもの「安全に使いたい気持ち」や「コミュニケーション力」を育てること、お金の付き合い方を一緒に考えること、そしてなにより何か問題が起きたとき、知識と解決能力がある大人が早めに介入できるように備えておくことが大切だと説いています。
ICTを使いすぎないリテラシー
どのくらい使うと使い過ぎなのか、ネットやゲームの使い過ぎは本当に病気なのか…ネットやゲームにはまりすぎる子どもに潜む問題や考えられる原因を挙げ、時間制限は果たして有効なのか、ゲームと学力は関係あるのかなどにも触れながら、「使い過ぎを防ぐためにできること」を詳しく紹介しています。
大切なのは、ゲームやネットへの依存(嗜癖)のみを問題視しすぎることで、その子どもが抱える問題の本質から目をそらしてしまわないことです。
大切なのは、ゲームやネットへの依存(嗜癖)のみを問題視しすぎることで、その子どもが抱える問題の本質から目をそらしてしまわないことです。
大人と子どもの「約束」
ICTを安全に使う、使いすぎないリテラシーを身につけるためには、子どもに「約束」を守ってもらうこと。そのとき大切なのは、「ネットやゲームについての約束は子どもには守れない」と思うこと、そして小さいころから約束を守ることができた経験を一つ一つ積み重ねていくことです。
子どもと一緒に約束をつくる、厳しい制限から緩い制限へ切り替えていく必要性と共に、その子の特性に合った「約束」をつくる10のポイントや約束を守るためのコンテンツなども紹介しています。
しかし、約束を巡って家族で衝突ばかりしてメンタルヘルスに悪影響が出る、約束をうやむやする癖がつく、などのリスクもあります。約束を守らせることももちろん大切ですが、「リアルな世界の中で楽しいことや好きなものを増やしていくことを継続的に支援すること」がなによりも大切だと説いています。
子どもと一緒に約束をつくる、厳しい制限から緩い制限へ切り替えていく必要性と共に、その子の特性に合った「約束」をつくる10のポイントや約束を守るためのコンテンツなども紹介しています。
しかし、約束を巡って家族で衝突ばかりしてメンタルヘルスに悪影響が出る、約束をうやむやする癖がつく、などのリスクもあります。約束を守らせることももちろん大切ですが、「リアルな世界の中で楽しいことや好きなものを増やしていくことを継続的に支援すること」がなによりも大切だと説いています。
「依存かな」と思ったらできること
ネットやゲームの世界は広く奥行きの深いもの。全体像を知るだけでなく、目の前の一人ひとりの子どもがネットやゲームとどのように関わっていのか知ることが、その子どもに合った対応策を導き出します。
第8章、9章では、子どもが関わっているネットやゲームの情報収集法、どのような評価をしてどのような支援をしたらいいのか、詳しく解説していきます。
第8章、9章では、子どもが関わっているネットやゲームの情報収集法、どのような評価をしてどのような支援をしたらいいのか、詳しく解説していきます。
きちんとした情報収集が早期発見・対応に繋がる
ネットやゲームの問題を抱える子どもの「支援者(親、先生、医師など)」がどんな事柄を知っておいた方がいいのか、日ごろどこに気を配っておけばいいのかを考える際に参考になる問診項目が提案されています。
核心ともいえる項目が「ネットやゲームを使う時のルールはあるの?」です。子どもの実態を知るだけでなく、周囲の大人の関心や子どもと大人の関係など、いろいろなことを推測する手がかりとなるからです。
収集した情報から、ネットやゲームに関すること、子どもの成育環境やリアルな世界での人付き合いを含め、全体像を把握し、ネットやゲームの使用が健全なのかリスクの高い状態なのかを評価していきます。その評価方法やポイントも詳しく説明されています。
収集した情報から、ネットやゲームに関すること、子どもの成育環境やリアルな世界での人付き合いを含め、全体像を把握し、ネットやゲームの使用が健全なのかリスクの高い状態なのかを評価していきます。その評価方法やポイントも詳しく説明されています。
依存が始まっていると気づいたとき、大人ができること
「依存している」「依存によって問題が起きている」場合でも、ネットやゲームの問題だけを見るのではなく、少し引いた視点から子どもと子どもを取り巻く社会の全体像を把握し、評価していくことが適切な支援につながります。
ネットやゲーム依存になりうる子どもが抱える本当の「困りごと」(発達障害、不安症・強迫症)や、人との関係性の評価の大切さが述べられています。そこから考えられる「包括的な支援」についても詳しく解説しています
ネットやゲーム依存になりうる子どもが抱える本当の「困りごと」(発達障害、不安症・強迫症)や、人との関係性の評価の大切さが述べられています。そこから考えられる「包括的な支援」についても詳しく解説しています
対立しない支援
「急にやめさせる」「取り上げる」ことは対立を深めることになり、暴力や暴言などの危険行為にもつながる可能性があります。ネットやゲームを上手く距離を取っていくためには、話し合いと本人の同意に基づくものでなければうまくいきません。
家族だけではなかなかうまくいかない場合もあります。本書では、外部の援助を求めることの必要性を説いています。このとき、子どもに関わる大人たちがほどほどに足並みをそろえること、社会との繋がりを回復していくにはスモールステップを心がけること、「就労」「自立」などいきなり高い目標を設定しないことが大切になってきます。
いかに子どもと対立したり激しく衝突したりすることなく、長く支援を続けていけるかがカギとなります。
家族だけではなかなかうまくいかない場合もあります。本書では、外部の援助を求めることの必要性を説いています。このとき、子どもに関わる大人たちがほどほどに足並みをそろえること、社会との繋がりを回復していくにはスモールステップを心がけること、「就労」「自立」などいきなり高い目標を設定しないことが大切になってきます。
いかに子どもと対立したり激しく衝突したりすることなく、長く支援を続けていけるかがカギとなります。
吉川徹先生に聞く『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』の一冊ができるまで
本書を手がけたのは、児童精神科医の吉川徹先生。愛知県を中心に、発達障害のある児童青年の臨床に長年携わってこられました。本書をつくられたきっかけや背景などをお聞きしました。
子どもに関わる仕事がしたい
――はじめに、児童精神科医になられたきっかけについて教えてください。
吉川:高校生のころ、学校の先生になりたいと思っていましたが、ある時期に自分は学校の先生の文化には馴染まないのではないかと気づきました。そこで学校の先生ではなく子どもに関わる仕事はないかと探して最後に残ったのが、子どもの精神科医でした。
はじめは不登校の子どもの診療などが専門になると思っていました。でも精神科医になって1年か2年目に精神科医の杉山登志郎先生に誘われ、愛知県自閉症協会のキャンプに参加しました。以来、そのキャンプの同伴をずっとやっているのですが、今思えば発達障害の周辺を専門にするきっかけになったのはこの出来事だったと思います。
吉川:高校生のころ、学校の先生になりたいと思っていましたが、ある時期に自分は学校の先生の文化には馴染まないのではないかと気づきました。そこで学校の先生ではなく子どもに関わる仕事はないかと探して最後に残ったのが、子どもの精神科医でした。
はじめは不登校の子どもの診療などが専門になると思っていました。でも精神科医になって1年か2年目に精神科医の杉山登志郎先生に誘われ、愛知県自閉症協会のキャンプに参加しました。以来、そのキャンプの同伴をずっとやっているのですが、今思えば発達障害の周辺を専門にするきっかけになったのはこの出来事だったと思います。
「必要不可欠な物なのに距離が取れない」この矛盾をポシティブに考えたかった
――本書をつくられたきっかけについて教えてください。
吉川:最初は同僚の児童精神科医などに向けて「最近の子どものデジタル機器とのつき合い方」などについてお話ししていたのですが、2017年の日本児童青年精神医学会のシンポジウムで、「子どものICTリテラシーの向上」について話題提供する機会をいただきました。恐る恐るICTの活用についてポジティブな切り口から話したところ、意外に好意的な評価をいただき、こうしたスタンスからの発信が求められているのかな、と初めて感じました。その後ゲームに関する条例制定の動きなどもあり、まとまった発信をしてもよいのかと思うようになりました。
――本書を執筆するにあたり、大切にされたこと・工夫されたことを教えてください。
吉川:この本は医学・心理学の専門家だけでなく、教師や養育者にも読んでもらうことをイメージして、できるだけ読みやすい文章にしたいと考えていました。もう一方でこれまでの研究でわかっていること、まだわかっていないこと、意見が分かれていることなどについて、自分にできる範囲でできるだけ最新の知見を盛り込めるようにしました。
――「ネットとゲームにどっぷり浸かって成長してきた」立場として、ポジティブに書かれた想いを教えてください。
吉川:まだゲーム・ネットへの依存に関する研究が日進月歩ということもあり、メディアで取り上げられる話題はネット社会への警鐘や副次的な問題、予防が中心でした。発達障害や不登校の臨床をしていると、ICTに長時間触れることで必ずしもネガティブな側面だけが現れているわけではないように思います。私自身もゲームやネットの便利さや魅力を経験を通して知っています。『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』というタイトルは編集部の方から提案していただいたのですが、自分が書きたかったのはこのことなのだと思いました。
子どもたちが成長してこれから暮らしていく世界は、ICTとの密接な関わり抜きでは考えられなくなってきているのに、そこから遠ざかる対応に勝ち目があるのか疑問に感じます。しかしICTから距離を取れなくなってしまっている子どもたちも確かにいます。このある意味で矛盾した状況に対して、大人に何ができるのか、いま利用できる研究成果を最大限に活かす形で考えてみたいと思いました。
吉川:最初は同僚の児童精神科医などに向けて「最近の子どものデジタル機器とのつき合い方」などについてお話ししていたのですが、2017年の日本児童青年精神医学会のシンポジウムで、「子どものICTリテラシーの向上」について話題提供する機会をいただきました。恐る恐るICTの活用についてポジティブな切り口から話したところ、意外に好意的な評価をいただき、こうしたスタンスからの発信が求められているのかな、と初めて感じました。その後ゲームに関する条例制定の動きなどもあり、まとまった発信をしてもよいのかと思うようになりました。
――本書を執筆するにあたり、大切にされたこと・工夫されたことを教えてください。
吉川:この本は医学・心理学の専門家だけでなく、教師や養育者にも読んでもらうことをイメージして、できるだけ読みやすい文章にしたいと考えていました。もう一方でこれまでの研究でわかっていること、まだわかっていないこと、意見が分かれていることなどについて、自分にできる範囲でできるだけ最新の知見を盛り込めるようにしました。
――「ネットとゲームにどっぷり浸かって成長してきた」立場として、ポジティブに書かれた想いを教えてください。
吉川:まだゲーム・ネットへの依存に関する研究が日進月歩ということもあり、メディアで取り上げられる話題はネット社会への警鐘や副次的な問題、予防が中心でした。発達障害や不登校の臨床をしていると、ICTに長時間触れることで必ずしもネガティブな側面だけが現れているわけではないように思います。私自身もゲームやネットの便利さや魅力を経験を通して知っています。『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち』というタイトルは編集部の方から提案していただいたのですが、自分が書きたかったのはこのことなのだと思いました。
子どもたちが成長してこれから暮らしていく世界は、ICTとの密接な関わり抜きでは考えられなくなってきているのに、そこから遠ざかる対応に勝ち目があるのか疑問に感じます。しかしICTから距離を取れなくなってしまっている子どもたちも確かにいます。このある意味で矛盾した状況に対して、大人に何ができるのか、いま利用できる研究成果を最大限に活かす形で考えてみたいと思いました。
発達障害のある子どもはICTから受ける影響が大きい
――第4章では発達障害がある場合について解説されています。お子さまの依存を心配されている発達障害のあるお子さまの保護者の方に、アドバイスをお願いします。
吉川:自分の専門分野でもあり、本書の中でも一番力を入れて書いた部分でもあります。発達障害のある子どもは多数派の子どもに比べて、ICTからうける利益も損失もそれぞれが大きくなることが多いように見えます。悪い影響も予想し、先回りして和らげながら、最大限に活用していくという姿勢が、バランスがよいのではないかと思います。
吉川:自分の専門分野でもあり、本書の中でも一番力を入れて書いた部分でもあります。発達障害のある子どもは多数派の子どもに比べて、ICTからうける利益も損失もそれぞれが大きくなることが多いように見えます。悪い影響も予想し、先回りして和らげながら、最大限に活用していくという姿勢が、バランスがよいのではないかと思います。
コロナで大幅に変わった「ICTに対する考え方」
――「問診票」や「使用ルールの確認」で状況把握がしやすくなると感じました。成果や利用者の声、または活用する際のポイントなどありましたら教えてください。
吉川:自分の話を聞いていただいた児童精神科の先生に、「問診票にする」というアイデアをもらってまとめてみました。問診票は頭に入っているので、今もあえて使う機会は多くありませんが、診察室で渡して次回の診察までに書いてきてもらうこともあります。項目を埋めることよりも、しっかり考えながら書き込むことで、今の状況を振りかえるきっかけとして使っていただけるとよいと思います。
――コロナ禍は「ゲーム・ネットと子どもたち」には、どのような変化があったとお考えですか。また、実際に聞かれる声がありましたら教えてください。
吉川:最も大きいのは、世の大人達のICTに対する考え方に起こった変化ではないかと思います。オンライン授業や対面にこだわらないコミュニケーションへの順応性を見ると、子どもや若者達は意外にコロナ禍以前から、こうした状況をなんとなく予感していたのではないかとも感じます。
新型コロナ(COVID-19)の流行による子どもたちへの影響はネガティブなものとともに、意外にポジティブなものも多かったようです。不登校の子どもや大学生からのオンラインでの交流の増加を喜ぶ声も聞かれました。パンデミックが終わった後も、行動の選択肢が広がる形でよい影響が残っていくといいなと思います。
吉川:自分の話を聞いていただいた児童精神科の先生に、「問診票にする」というアイデアをもらってまとめてみました。問診票は頭に入っているので、今もあえて使う機会は多くありませんが、診察室で渡して次回の診察までに書いてきてもらうこともあります。項目を埋めることよりも、しっかり考えながら書き込むことで、今の状況を振りかえるきっかけとして使っていただけるとよいと思います。
――コロナ禍は「ゲーム・ネットと子どもたち」には、どのような変化があったとお考えですか。また、実際に聞かれる声がありましたら教えてください。
吉川:最も大きいのは、世の大人達のICTに対する考え方に起こった変化ではないかと思います。オンライン授業や対面にこだわらないコミュニケーションへの順応性を見ると、子どもや若者達は意外にコロナ禍以前から、こうした状況をなんとなく予感していたのではないかとも感じます。
新型コロナ(COVID-19)の流行による子どもたちへの影響はネガティブなものとともに、意外にポジティブなものも多かったようです。不登校の子どもや大学生からのオンラインでの交流の増加を喜ぶ声も聞かれました。パンデミックが終わった後も、行動の選択肢が広がる形でよい影響が残っていくといいなと思います。
親子でICTとうまく付き合うきっかけに
子どもが社会から孤立しないために、大人にはいったい何ができるのか。ネットやゲーム、育った環境、現在子どもを取り巻く環境、人との関係…さまざまな要因が絡み合った複雑な問題を解決することは、非常に難しいことです。
しかしICTがもたらした恩恵は大きく、特にこのコロナ禍でICTとの付き合い方が大幅に変化し、我々の生活にはもはや欠かせない存在となっているのも事実です。本書を介して、前向きに子どもとネットやゲームの話ができるようになり、協力できる関係をつくりながらICTとうまく付き合っていけたら幸いです。
取材・文/田崎美穂子
しかしICTがもたらした恩恵は大きく、特にこのコロナ禍でICTとの付き合い方が大幅に変化し、我々の生活にはもはや欠かせない存在となっているのも事実です。本書を介して、前向きに子どもとネットやゲームの話ができるようになり、協力できる関係をつくりながらICTとうまく付き合っていけたら幸いです。
取材・文/田崎美穂子
著者
吉川 徹
児童精神科医。愛知県医療療育総合センター中央病院子どものこころ科(児童精神科)部長。あいち発達障害者支援センター副センター長などを兼務。専門分野は児童青年精神医学。子どものこころ専門医、日本精神神経学会、専門医・指導医、日本自閉症スペクトラム学会、常任理事、日本青年期精神療法学会、理事、日本児童青年精神医学会代議員、認定医ほか。
編著書に『子どもの発達と情緒の障害』(岩崎学術出版社)、『ペアレント・メンター入門講座 発達障害の子どもをもつ親が行なう親支援』(学苑社)、『ペアレント・メンター活動ハンドブック:親と地域でつながる支援』(学苑社)などがある。
児童精神科医。愛知県医療療育総合センター中央病院子どものこころ科(児童精神科)部長。あいち発達障害者支援センター副センター長などを兼務。専門分野は児童青年精神医学。子どものこころ専門医、日本精神神経学会、専門医・指導医、日本自閉症スペクトラム学会、常任理事、日本青年期精神療法学会、理事、日本児童青年精神医学会代議員、認定医ほか。
編著書に『子どもの発達と情緒の障害』(岩崎学術出版社)、『ペアレント・メンター入門講座 発達障害の子どもをもつ親が行なう親支援』(学苑社)、『ペアレント・メンター活動ハンドブック:親と地域でつながる支援』(学苑社)などがある。
吉川徹さんも登壇!本書出版記念オンラインイベント開催
開催日時:2021年5月8日(土)10時半スタート、12時終了予定
主催:合同出版株式会社
出演者:吉川徹さん(児童精神科医)×竹内和雄さん(兵庫県立大学准教授)
*オンライン参加のみです
*参加者のカメラはオフになります
*先着300名
*参加費1,000円
主催:合同出版株式会社
出演者:吉川徹さん(児童精神科医)×竹内和雄さん(兵庫県立大学准教授)
*オンライン参加のみです
*参加者のカメラはオフになります
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