ペアトレの誤解を見直し、「ほめて育てる」実践力を引き出す!『困っている子をほめて育てるペアレント・トレーニングガイドブック 第2版』

ライター:発達ナビBOOKガイド
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ペアトレ、ペアレント・トレーニング。ずいぶんと浸透してきた言葉ですが、ペアトレを実践した支援が行き渡っているわけではありません。「困っている子をほめて育てる ペアレント・トレーニングガイドブック 第2版」では、ペアトレそのものの理解からグループセッション運営までを網羅しています。ふんだんな資料や事例とともに構成された360ページにわたる本をご紹介します。

行動変容を起こさせる原動力「ほめる」ということが、日本に伝わるまで

ペアレント・トレーニング(以下、ペアトレ)は「ほめて育てる」が基本。でも、その「ほめる」とは、具体的にどんなシーンで、どんな視点から、どんな言葉でと考えたときに、実はとても複雑で奥深いものです。それを分かりやすく丁寧に教え、またグループセッションでペアトレを実践していくときに必要な情報を伝えているのが「困っている子をほめて育てる ペアレント・トレーニングガイドブック 第2版」です。
困っている子をほめて育てる ペアレント・トレーニングガイドブック 第2版 活用のポイントと実践例
岩坂 英巳 (著, 編集)
じほう
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本書は2004年に発行された「AD/HDのペアレント・トレーニングガイドブック ー家庭と医療機関・学校をつなぐ架け橋―」の続編として2012年に作られた「困っている子をほめて育てる ペアレント・トレーニングガイドブック」の第2版となっています。

この間に、日本のペアトレを取り巻く状況も大きく変わりました。ADHDにおいても、「第一段階の治療として、環境調整と心理社会的治療を行うこと」(はじめに より抜粋)とガイドラインに記載されるようになり、ペアトレは必要なものとして認知されるようになりました。

その一方で「『ペアトレを受けたが、子どもの行動は改善されなかった』という保護者の声が聞かれるようになっていきました」(はじめに より)といったことも起こるようになります。2015年からは、ペアトレ専門家や研究者が集って情報交換を行うなどの動きが始まり、2019年には厚生労働省による大規模なペアトレ実態調査が行われています。

こうした時流を背景に生まれたのが、この本です。編著者である岩坂英巳さん(一般財団法人信貴山病院ハートランドしぎさん子どもと大人の発達センター長)は、1990年代に児童精神科医としてUCLA(米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に留学し、ペアトレを学び、日本でのペアトレ普及に貢献してこられました。

この本の冒頭には、UCLAで「ペアレント・トレーニングと子どもの友だち作りプログラム」準ディレクターを務めるシンシア・ウィッタムさんからの「日本の皆さんへ」と題したメッセージがあります。岩坂先生が留学していた当時のことを振り返り、こう述べています。
――行動変容のテクニックのすべてにつながる「ほめる」 ことは日本の家族や文化にとって最も慣れていない―ある意味、最も「外国的な」―ものでした。米国でさえ、多くの親たちは子どもの動機付けとしてほめることを使わないのですが、その理由の多くはその親のまた親の世代がほめて育てることをしていなかったからです。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4840753571/
日本には「躾(しつけ)」という言葉があり、規範に沿って、ときに「叱る」ことによって子どもに行儀や礼儀を教え込む、という考え方が強くありました。かつては、「ほめる」ことは外国の育て方だったのでしょう。
もちろん、親はみな子どものために「よかれ」と思って子育てをしているはずです。でも、叱ることでは子どもも親も、そして子どもを見守る周囲の大人たちみんなが、困ってしまうことがあります。
「ほめる」ことが第一であることを、系統立てて教えてくれるのがペアトレです。現在の私たちには、この考え方はずいぶん理解しやすくなっているはずです。これもペアレトレが浸透してきたおかげなのでしょう。

ペアトレを学び、実践し、ワークショップ運営をしたい人すべてに向けて書かれている

この本の大まかな流れについて、ご紹介します。

第1章「ペアレント・トレーニングとは」と第2章「ペアレント・トレーニングの誤解」では、ペアレント·トレーニングの概略と理論。基本的なことが分かります。

第3章「標準版プログラムの各セッションのポイント」は、ペアトレを行うセッション内容のポイントについて。支援者だけでなく、家庭でトライしてみたい方にも分かりやすく伝えています。

第4章「セッション運営時のポイントーインストラクターとなるためにー」は、グループを運営するときに生じやすい進行上の疑問について、Q&A方式で分かりやすく解説しています。

第5章「基本プラットフォーム」 は、これだけはおさえておきたいペアトレの基本部分についての解説、そして、第6章から第9章までは、幼児から思春期まで、 実施機関の目的別にペアトレの実践ノウハウが書かれています。

第6章 「短縮版プログラム」(幼児版) 幼児に行われることの多い短縮版

第7章 「学校版プログラム」 幼稚園·保育園も含めた学校版

第8章 「子どもと親の特性に応じた工夫」 広汎性発達障害、親子の愛着の援助、思春期版など子どもの心理発達特性に応じた工夫

第9章 「実施期間に応じた工夫」 発達支援や子育て支援の場、 家族が集う場、虐待防止の場など実施機関の目的に応じた工夫 
となっています。

第10章では、地域で展開させている例の紹介、親の心理過程の変化の大切さをふまえて、ペアトレの未来についてまで述べられています。

巻末には、約100ページに渡る資料があります。学校やグループでペアトレについて学ぶときに配布する資料のひな型が収録されています。標準版だけでなく、短縮版や学校版などの目的に合わせた例が豊富に挙げられ、ペアトレのセッションを実践したい人にとって非常に役立つものとなっています。
子どもの「ちょっと良いエピソード」を一人ひとり披露
(6ページより)
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実践している人ほど、見直しておきたいペアトレの「誤解」

注目したいのは、第2章「ペアレント・トレーニングの誤解」。ペアトレについての5つの誤解について解説されています。ペアトレという言葉を最近知った人にとっては基本的な考え方を理解でき、これまで携わってきた人にとっても、ハッと気づいて初心に帰ることができるポイントが並びます。抜粋してご紹介します。

誤解1 ペアトレの基礎にある行動療法は飴と鞭である
行動療法は「できたことにはご褒美、できなかったら罰」という単純な飴と鞭ではなく、基盤にあるのは、親子の信頼関係であること、「大好きな親にほめられるからこそ、子どもはがんばる」ということを忘れてはいけません。

誤解2 ペアトレとは親を訓練、指導するものである
ペアレント・トレーニングは、専門家が「上から目線」で親を訓練していくものではありません。もともと親自身がもっている、子どもを理解して受け止めて、子どもにかかわる力を引き出し、トレーニングし、パワーアップしていくことがペアトレです。

誤解3 ペアトレに副作用はない
ペアトレを実践するときに注意すべき点が挙げられています。1つは、「無視」という言葉について。子どもが好ましい行動をしない場合に、「(注目を外して)待つ」「知らんぷり」という意味での「無視」がありますが、これはネグレクトとは違います。もう1つは3歳以下の子どもへの対応です。3歳以下は、自他の境目がなく、親を「必ず守ってくれる人」という認識の基盤を築くときなので、徹底してほめることに重点をおきます。

誤解4 無視は冷たい感じがする
3とも共通しますが、子どもが好ましい行動をしないときにする無視について、注目を外して待っている状態だけれども、それは「ほめるために待っている」ということ。ここで言う無視は冷たいものではなく、少しでも良い面が見いだせたらすかさずほめる準備をしている状態だということです。

誤解5 ペアトレのインストラクターは難しい
ペアトレを行う際の最大の課題は「誰がインストラクターをやるのか」ということになると思います。ペアトレの効果を出すには、インストラクターが一定の研修を受けていることが望ましいとされますが、なかなかそのような機会がないのが日本の現状です。ただ、インストラクターは難しいものですが、その分やってみると楽しいですし、ニーズもあり、期待されているものです。この本を読んだ一人でも多くの方にインストラクターへの取りくみを行っていただければ、と思います。グループでのセッションを行うことによって、インストラクター自身も成長する機会となります。

この「第2章」は3ページと短いですが、第3章から第9章までの、ペアトレをどう実践していくかの内容を深く理解するために、非常に大切な章となっています。
ほめて育てる
(74ページより)
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親子だけの課題ではない、「ほめて育てる」

第3章から第9章では、ペアトレを実践するときのセッションの組み方、事例、Q&Aが、対象となる親の属性やペアトレを行う場に分けて、細かく丁寧に解説されています。さらに「第10章 ペアレント・トレーニングの可能性」にある④ペアレント・トレーニングの父親参加(執筆は鳥取大学教授の井上雅彦先生)に注目してみましょう。

ペアトレは母親だけを対象にしたものではありません。でも、実際には父親の参加はとても少ないのが現状。父親がなぜペアトレになかなか参加できないのか、といったことを心理面・仕事などの環境面両方から分析し、さらに父親向けのペアトレを実践するための注意点まで書かれています。

父親だけに限ったことではなく、ペアトレを受けたことがある、あるいは知っている親はまだ少数派です。むしろ「困っている子」を育てる「困っている親」だけが知っている、といったことが日本の今のペアトレかもしれません。でも、本当は多くの大人がペアトレの本質、「ほめて育てる」の実践を必要としています。
父親の育児関与も重要
(248ページより)
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冒頭の「日本のみなさまへ~UCLA シンシア・ウィッタムさんからのメッセージ~」の中でも、次のように書かれています。
――私は、私のペアレント・トレーニングの本を大量に買い込んだある会社のオーナーのことを思い出しました。彼は15名の店長にその本を与えたかったのです。彼は、店長たちにいかに店員たちのやる気を出させるかを教えたかったのです。彼は、「私はこの本を店長たちに読ませるつもりだ。そして、こう言うつもりだ。『このように店員たちにかかわらなければならない。このやり方(ほめる)が店員の協力を引きだし、生産性を上げるために適した方法だ』」と言いました。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4840753571/
親子・家族がいちばん小さな社会の単位だとしたら、その小さな社会に必要なペアトレは、学校、地域、会社といった様々な社会の中でも必要とされるものに違いありません。

実は、編著者の岩坂英巳さんは「おわりに」の中で闘病中であることも明かしています。
――「患者岩坂」として「言われると嬉しい」メッセージを2つ。本人へは「ひとりではないですよ」、家族へは「本当にがんばっておられますね」、これらが自然に伝わるような支援を粘り強く続けていくことで、子どもも、親も、そしてあなた自身も「生きる力」を発揮して輝いていくことができるでしょう。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4840753571/
ペアトレは、単に親子だけの問題ではない、という思いが、この本全体に行き渡っているように感じる一節です。子どもがその子らしく成長することは、親自身もその人らしく成長することであり、そうした大人が増えたら社会全体も成長していくかもしれません。「ほめて育てる」を実践するために理解を深め、必要な基礎を学ぶための「困っている子をほめて育てる ペアレント・トレーニングガイドブック 第2版」は、まさにペアトレの指南書です。

文/関川香織
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