モデル・金子エミさん取材!ダウン症の息子・カイトさんが世界ダウン症水泳選手権 で3つのアジア記録を更新!ポジティブな声かけで培かわれた自信が「強さ」の背景に

2021/12/14 更新
モデル・金子エミさん取材!ダウン症の息子・カイトさんが世界ダウン症水泳選手権 で3つのアジア記録を更新!ポジティブな声かけで培かわれた自信が「強さ」の背景にのタイトル画像

パーツモデル・美容家として活躍する金子エミさん。長男のカイトさんはダウン症のあるスイマーとして、世界チャンピオンを目指しています。世界の舞台で活躍する度胸、強さはどうやって育まれたのか、金子エミさんにLITALICO発達ナビ編集長・牟田暁子がインタビュー。「ポジティブな声かけで育てる大切さ」について教えていただきました。

発達ナビ編集部さんのアイコン
発達ナビ編集部
11748 View

息子の笑顔を見たときに、「この子を大切に育てていこう」と思った

パーツモデル・美容家として活躍する金子エミさんの長男カイトさんは、ダウン症のあるスイマーとして、世界チャンピオンを目指しています。世界の舞台で活躍する度胸、強さはどうやって育まれたのか、金子エミさんにLITALICO発達ナビ編集長が聞きました。
左:金子エミさん 右:牟田編集長(LITALICO発達ナビ)
左:金子エミさん 右:牟田編集長(LITALICO発達ナビ)
Upload By 発達ナビ編集部
発達ナビ編集長(以下――)カイトさんが生まれたときのことから、聞かせてください。カイトさんにダウン症があると分かったのはいつでしたか?

金子エミさん(以下、金子) 生まれてすぐに気づきました。顔を見たときにハッとしたんです。席がよく隣同士だった小学校の同級生にそっくりだったんです。彼にはダウン症がありました。ショックというよりも、「なんで!?」と、ずっと考えていました。看護師さんに聞くと、「顔立ちだけでは分からない」と言われましたが、そのときの対応が焦っているような、ドキッとしているような感じに見えたから、やはりそうなんだろうなと思っていました。

――金子さんがご自分について書かれた本などを読むと、初めからかなりポジティブにとらえられている感じがしましたが、実際にはどうでしたか?

金子:彼にダウン症があることについて受け入れたのは、早いほうだったとは思います。だけど、1ヶ月くらいは(カイトの)鎖肛(※)の手術などもあって入院していましたから、もう日付とか時間とかよく分からない感じで過ごしていました。私が先に退院したので、とにかく母乳を絞って冷凍して、病院にせっせと届ける日々でした。その当時は、パーツモデルの仕事も今後はできないだろうと思っていましたから、手肌を気遣うこともなく普通に家事をして、手は荒れ放題でした。

※鎖肛とは:生まれつき肛門がうまくつくられなかった病気

―そこからどういうきっかけで、子育てもご自分のキャリアも両立しようと思われたのですか?

金子:当時のマネージャーに、「ダウン症のある子が生まれたから、たぶんもうモデルの仕事はできないと思う」と打ち明けたんですね。そうしたら、彼女には身内にダウン症のある人がいたようで、「ダウン症の子、普通よ~?」と言ったんです。私は「何言ってるの?障害がある子の子育てとモデルの仕事の両立なんて無理じゃない?」と思っていたんですが、「辞めるのはいつでもできるから」と説得されました。それでとりあえず事務所に籍は置いておくことにしたんです。

カイトのことを受け入れられたきっかけは、彼の笑顔でした。とにかく笑うんですよ。おとなしい子で、いつもソファのすみの定位置に座ってニコニコ笑っているんです。その笑顔が「かわいいー!」と思ったんです、心から。それが生後半年くらいのころ。そのときに、この笑顔に支えられている自分を感じたし、大切に育てていこうと決意しました。

ちょうどそのころ、「そろそろ仕事復帰してみる?」という話がちらほらくるようになったタイミングでした。そして、カメラの「カシャッ」というシャッターの音を聞いたときに、ああ、やっぱりこの撮影の現場がたまらなく好きだ、やっぱり私、モデルの仕事したい、と思ったんです。仕事をしたいという気持ちと同時に、カイトの親であることを理由に何かをあきらめるということは、一つもつくりたくないと思ったんです。私がやりたいことは全部やってやろうと。それで保育園に入れる覚悟をして、仕事に復帰しました。

――それでも、お子さんが小さいころは、両立は大変ではなかったですか?

金子:大変でしたよ。余裕はまったくなくて、次から次へとやることがあって、キッチンで泣いたこともあります。「だれかごはんつくってー!だれかー!」って。ただ、仕事・育児・家事と分けて考えてはいなかったですね。すべて私のやるべきこと、一つの道としてシンプルに考えていました。目の前にあることをとにかく必死にやり切る毎日だったので、細かいことはもう覚えていないのですが。

「得意なもの探し」をするよりも、息子のことをとにかくよく見て育てた

モデル・水泳選手として活躍中のカイトさん
モデル・水泳選手として活躍中のカイトさん
Upload By 発達ナビ編集部
――ところで、カイトさんは小さいころから運動が得意だったんですか?

金子:全然!陸の運動は苦手なんですよ、走るのも体育の授業も嫌い。水泳だけがたまたま好きだったんです。

――水泳に出合うまで、彼の得意なことや好きな物を特に探したりしましたか?

金子:好きなことや一生懸命やりたがることが何なのかは、よく見ていましたが、何かをさせてみるということはなかったです。カイトはどちらかというと、絵や字を書いたりすることが好きで、泳いでいるとき以外は、じっとしているような子なんです。でも、小さいころから水がとても好きで、ちょっと目を離すとお風呂に直行しちゃうような子でした。危ないのでお風呂場には水をためないように気をつけていたくらい。とにかく水が好きなんだなと思っていました。

――最初に通われたスイミングクラブでは障害児向けのクラスがあったんですか?

金子:当時はインターネットの情報なんてないから、電話して問い合わせました。そこでは表立って障害児向けクラスを設けていたわけではなかったんですが、ダウン症のある子が通っていたんですよ。それで聞いてみた。11歳のときでした。

そのときにも先生から、「この子はお水が好きだから、頑張って通わせてね」と言われたのですが、当時は私も仕事に復帰していたので、週1回からまずは通わせ始めました。中学校1~2年のころには週3回通うようになりました。

――選手になれるかもと思ったのは、いつごろから?

金子:私自身は一度もそういうことを思ったことがなくて。先生から、「東京都障害者スポーツ競技大会があるけど出てみる?」と聞かれて、「え?出られるんですか?」という感じでした。13歳から日本選手権に出られるから、まずは東京都の大会からということに。ダウン症だけでなく自閉スペクトラム症のある子どももいる知的障害者のS-14のクラスに出場しました。水泳は、そもそも彼がやっていて楽しくて、健康のためにということがいちばんの目的だったので、選手なんてまさか想像もしませんでした。

――よく見て、認めて、カイトくんが好きなことをと思ったことがつながったんでしょうね。

つらいことを楽しく乗り越えさせてくれるコーチとの出会い

水泳の練習に打ち込むカイトさん
水泳の練習に打ち込むカイトさん
Upload By 発達ナビ編集部
――子ども自身をよく見ること、ポジティブな言葉をかけること、とても大事だなと私も思っています。

金子:ポジティブな言葉の声かけは、カイトが小さいときから大切にしてきました。彼の場合、覚えられる言葉というのが限られているので。だから、汚い言葉、ネガティブな言葉を彼にかけたことは一回もありません。たとえば、嫌いな食べ物についても、「これを食べると強くなるよ」と言います。「これを食べないと××になっちゃうよ」というネガティブな言い方はしてこなかったですね。

今、彼は死に物狂いで泳いでトレーニングを積んでいるんです。精神的にもかなり追い込まれているので、ネガティブな否定形の脅し文句のようなことばを言われてしまうと、折れちゃいそう。試合前に「そういう泳ぎしていたら負けるぞ!」なんて言われると、やめてー!って思います。

――うちに来てくれるヘルパーさんの中に、海外からいらっしゃった方がいて。彼女とても明るくてかける言葉がすべてポジティブ。娘が座り込んで歩かなかったりすると「大丈夫!●●ちゃんはできるよ!」と、ちょっと強引かも?という調子で励ましてくれるのですが、そんなふうに娘ができると信じ切ってポジティブに励ましてくれると、実際それで歩けたりするんですよね。

金子:ほんとそういうことが大事!カイトの専属のコーチはアメリカで勉強してきた先生で、すごくポジティブで、ネガティブなことは一切言いません。だけど、練習はとっても厳しいんですよ。1日に2回練習するときは3,500~5,000mといったすごい距離を、パーソナル練習では息継ぎもほとんどさせずにがんがん泳がせる。つらいことを、こんなに楽しく超えさせるということが素晴らしくて。「楽しく強くなろうな!」って言ってくれるんです。

――それにしてもすごい!5,000mですか!?

金子:通い始めたころは、カイトはそんな距離を泳ぐことはぜんぜんできなくて、練習についていけなかったんです。だから、続けられないかもと思っていたら、先生から「お母さん、仕事が忙しいかもしれないけれど、カイトは水と水泳が大好きだから、練習に来てもいいよ!」と言われたんです。

このコーチのところでは、初めは親も子どもと一緒にプールに入るのが条件。先生は一人で20人の選手を見ているので、指示したことが伝わらない可能性もあります。だから、「まずはお母さんがカイトに伝わる言葉で伝えて」と言われました。「僕はお母さんがどんな風にカイトに伝えているかを勉強するから。そこから、僕も何をどういえばカイトに伝わるか学びます」と言われたんです。

今は、4年目に入って、ようやく一対一のパーソナルトレーニングも始まりました。ここまでの3年、コーチとカイトの間に信頼関係を築く時間でした。それは、死ぬ気で泳がないとメダルは狙えないから。だから3年間、頑張って通いました。

――やっぱり世界に進出するって大変なことですね。そんなカイトさんとエミさんの関係は良好ですか?

金子:今ね、カイトに「リコンしたいです」って言われているんです(笑)。リコンということばの意味をよく分かっていないで言っているんですけど、要するにあまりにいつも一緒だから、少し離れたいということみたい。四六時中一緒にいますからね、水泳に行くときはもちろん一緒だし。私の仕事のときくらいですね、別行動は。仕事も今は以前ほどは入れていませんから、カイトと過ごす時間が長いんです。

一時期、カイトはB型支援作業所での仕事をしていたことがあったんですが、仕事とトレーニングの両立がきつくて、私としてもカイトには若い今しかできないことを優先してほしいと思ったので辞めることになりました。このことに関してはさまざまな考え方があるかと思いますが、少なくてもパリのパラリンピックまでは、この体制で四六時中一緒にいようと決めました。顔色を見て、食べ物の管理をして、全部見るつもりです。リコンしようとは言われますが、ほんとうに命が危ないくらいギリギリまでトレーニングしているので、体調の変化にも敏感でいたいので、とにかく今は一緒に行動しています。

ポジティブな声かけが、「自分が好き」という「強さ」を育てる

ポジティブな声かけについて話す金子エミさん
Upload By 発達ナビ編集部
金子:声かけをポジティブにしているのがアスリートとしても成功したと思ったのは、調子が悪いときにも、自分でポジティブに考えるくせができたこと。小さいころから私がメンタルトレーナーのような役割をしてきたんだと思うんですね。社会に出ると、いやなことってたくさんあるじゃないですか? それでも、ポジティブな気持ちに変換できるのは、小さいころから、ポジティブな言葉の声かけをしてきたからだなぁと。

――先日、娘の体育発表会があったのですが、娘は自分で自分をほめて拍手をしながら、楽しそうに走っていたんです。そして、ゴール直前で立ち止まって、同じレースに出ているお友達が追いつくのを応援しながら待って一緒にゴールしたと思ったら、大好きな先生のところに走って行って、「私のことほめてー!」という具合。ポジティブな言葉かけで育てると、自分のことが好きな人に育つのだなと思います。カイトさんも自分のことが好きなんですよね。

金子:自分を好きでいるって、私たち自身にとってもとても大事なこと。彼を見ていると学びます。自分を大切にしていますよね、彼は。

たとえば、友達と会ったときに、知らんぷりされるようなことがあってもけっこう平気なんです。そこで「ぼくは嫌われ者」とは自分で思わない。「自分は自分」と言っています。人と比べないし、ねたみもない。人がうまくできたらほめるし。あ、でも水泳だけは別です。自分がチャンピオンになりたいから、友達が優勝したときは、見ないんですよ、その友達のことを。知らんぷりしています。

水泳は、やはり勝負の世界だから、足を引っ張られるようなこともあります。特に、チャンピオンになりそうなときがいちばんつらいです。今は、世界でメダルを取るか、というところまできたので環境も変わってきましたが。いろいろあっても、ひどく落ち込むことがなかったのは、自分が好きだという強さがあったからだと思っています。

私はカイトの笑顔が、小さいころよりもなお一層、好きなんです。それは、人から自分が否定されるようなことがあってもまったくへっちゃらという「自分が好き」な強さからうまれる笑顔でもあると思っています。
願いについて語る金子エミさん
Upload By 発達ナビ編集部
――カイトさんは、東京2020大会のパラリンピック閉会式に出演されましたが、とても堂々としていましたね!

金子:プロのモデルの私から見ても、すごいと思いました。カイト自身、人前に立つことが好きみたいですが、大きい舞台で堂々とパフォーマンスできたのは、水泳から学んだことがあったからだと思います。ずっと毎日トレーニングしてきて、舞台は一本勝負。集中力とか、度胸とか、水泳を通じて得たものなのでしょう。

カイトがなぜ、あの閉会式のクライマックスシーンに選ばれたかと言うのは、もちろんさまざまなご縁があってのことですが、やはり勝負の世界で真剣に戦ってきたから、この子なら大丈夫だと任されたのだろうと、私は思っています。

本人はすごく楽しかったと言っています。見ている私のほうがプレッシャーで、疲れました!(笑) 彼は何かの使命をもって生まれてきていますよね。私はその使命を全うするお手伝いをしていると思っています。自分の夢は、ただのパーツモデルが広告の世界に出させてもらったときに、全ての夢は叶ったし、思った以上の自分になれたから、もう十分なんです。

とにかく今は、次のフランスのパラリンピックにはダウン症クラスができて、スイマーとして出場することが私たちの願いです。カイトが世界の舞台で金メダルをとれたら、と。そして、たくさんの人に応援してほしいと願っています。
金子エミさんの手
Upload By 発達ナビ編集部
文/関川香織
撮影/鈴木江実子
【監督インタビュー】「撮りたかったのは、支えあう人々の物語」 ダウン症の娘と年老いた父親の家族の形を描く『わたしはダフネ』7月公開。撮影現場でのエピソードものタイトル画像

関連記事

【監督インタビュー】「撮りたかったのは、支えあう人々の物語」 ダウン症の娘と年老いた父親の家族の形を描く『わたしはダフネ』7月公開。撮影現場でのエピソードも

第3回日本ダウン症会議・合同学術集会をレポート。自立していくため、保護者の不安と孤独を埋めるためにーー「つながる」の大切さとはのタイトル画像

関連記事

第3回日本ダウン症会議・合同学術集会をレポート。自立していくため、保護者の不安と孤独を埋めるためにーー「つながる」の大切さとは

ダウン症とは?症状や具体的な特徴、生活の様子などのタイトル画像

関連記事

ダウン症とは?症状や具体的な特徴、生活の様子など

発達ナビPLUSバナー
当サイトに掲載されている情報、及びこの情報を用いて行う利用者の行動や判断につきまして、正確性、完全性、有益性、適合性、その他一切について責任を負うものではありません。また、掲載されている感想やご意見等に関しましても個々人のものとなり、全ての方にあてはまるものではありません。
あわせて読みたい関連記事

あわせて読みたい関連記事

この記事を書いた人

発達ナビ編集部 さんが書いた記事

2歳半の娘が療育に通うと伝えたら。「劣っている子の保育は難しい」園長の言葉に、退園を決意して――【保育園トラブル】発達ナビユーザー体験談のタイトル画像

2歳半の娘が療育に通うと伝えたら。「劣っている子の保育は難しい」園長の言葉に、退園を決意して――【保育園トラブル】発達ナビユーザー体験談

【発達ナビではユーザーさんからの子育てエピソードを募集中!今回は「保育園トラブル」についてのエピソードをご紹介します。】 娘は2歳半。診断...
発達障害のこと
787 view
2022/05/21 更新
東京パラのメダリスト直伝!「発達が気になる子どもの挑戦」をどう支える?苦手なこと、新しいことへの寄り添い方――発達ナビ編集長鼎談のタイトル画像

東京パラのメダリスト直伝!「発達が気になる子どもの挑戦」をどう支える?苦手なこと、新しいことへの寄り添い方――発達ナビ編集長鼎談

まずは何から始めたら良いの?保護者が大切にしたい心構えって?子どもの運動に関するそんな疑問に、パラリンピック競泳日本代表メダリストが答えて...
学習・運動
145 view
2022/05/17 更新
多動の長男が公園で行方不明!娘の大癇癪に気を取られていて…【2人育児のヒヤリ】ーー発達ナビユーザー体験談のタイトル画像

多動の長男が公園で行方不明!娘の大癇癪に気を取られていて…【2人育児のヒヤリ】ーー発達ナビユーザー体験談

【発達ナビではユーザーさんからの子育てエピソードを募集中!今回は「癇癪」についてのエピソードをご紹介します。】 長女が5歳、長男が2歳のと...
自分と家族のこと
1699 view
2022/05/16 更新
放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。