ダウン症がある子ども「食べ物を丸のみ」していない?摂食・咀嚼・嚥下機能が弱い理由やデメリット、トレーニング方法も解説【医師監修】
ライター:発達障害のキホン
食べる(摂食)という行為は、噛むこと(咀嚼・そしゃく)と飲み込むこと(嚥下・えんげ)がセットになっています。実はダウン症のある人は、噛まずに飲み込んでしまう「丸のみ」が習慣化している場合が少なくありません。でも、早期から正しい食べ方を身につけることで、丸のみを防いでいくことができるようです。丸のみしてしまう理由は何なのか、正しい食べ方のトレーニング方法について知っておきましょう。
監修: 小松知子
神奈川歯科大学 全身管理歯科学講座 障害者歯科学分野 分野長/教授
歯周病の病態メカニズムと唾液における酸化ストレス研究により、エビデンスに基づく歯科臨床を目指して活動しています。様々な障害のある人に対して歯科診療や摂食嚥下リハビリテーションを専門とし、障害特性に配慮した歯科治療および予防的アプローチを行なっています。さらに、多職種協働による地域包括歯科連携の体制づくりに取り組んでいる。
食べる・飲み込む力はどう成長していく?
食べる(摂食)という行為は、噛むこと(咀嚼・そしゃく)と飲み込むこと(嚥下・えんげ)がセットになっています。実はダウン症のある人は、噛まずに飲み込んでしまう「丸のみ」が習慣化している場合が少なくありません。では、丸のみするとどのような問題があるのでしょうか?詳しく解説をしていきます。
私たちは普段、食べるときに、その一つひとつの行動を確認しながら食べることはないかもしれません。だから、正しい食べ方を子どもに伝えようとしても、何からどう伝えていいか分からないことが多いものです。まずは栄養源を体の中に取り込むための「食べる」という行為は、どんなプロセスを経るのかをみてみましょう。
1. 食べ物が口に入るまえに、食べ物を認知します。目で見ることで多くの情報を処理して、手や食具を使って食べ物を口に運びます。
2. 次に、食べ物を口に取り込み、かみ砕き、だ液とまぜて「食塊」にします。
3. この食塊を、舌を使ってのどのほうへと送り込みます。このときは口が閉じています。
4. ごっくんと飲み込むことで、のどから食道へ送り込みます。このときに気道が閉じていないとむせてしまいます。
5. 食道に入った食塊は胃へと送られていきます。
このプロセスが「摂食」と「嚥下」です。食べる・飲み込むという行為は、練習しなくても誰もが獲得できる機能にみえますが、ダウン症のある子どもや障害のある子どもの場合、正しい食べ方を獲得するためにさまざまなトレーニングが必要になることがあります。
私たちは普段、食べるときに、その一つひとつの行動を確認しながら食べることはないかもしれません。だから、正しい食べ方を子どもに伝えようとしても、何からどう伝えていいか分からないことが多いものです。まずは栄養源を体の中に取り込むための「食べる」という行為は、どんなプロセスを経るのかをみてみましょう。
1. 食べ物が口に入るまえに、食べ物を認知します。目で見ることで多くの情報を処理して、手や食具を使って食べ物を口に運びます。
2. 次に、食べ物を口に取り込み、かみ砕き、だ液とまぜて「食塊」にします。
3. この食塊を、舌を使ってのどのほうへと送り込みます。このときは口が閉じています。
4. ごっくんと飲み込むことで、のどから食道へ送り込みます。このときに気道が閉じていないとむせてしまいます。
5. 食道に入った食塊は胃へと送られていきます。
このプロセスが「摂食」と「嚥下」です。食べる・飲み込むという行為は、練習しなくても誰もが獲得できる機能にみえますが、ダウン症のある子どもや障害のある子どもの場合、正しい食べ方を獲得するためにさまざまなトレーニングが必要になることがあります。
摂食嚥下に必要な心身の発達
摂食嚥下は、口の中だけの課題ではなく、全身の成長・発達が大きく関係しています。まず首が座っていることが重要です。頭がぐらぐらしていると、食べ物に目の焦点を合わせて見ることができないので、口にものを入れることが上手にできません。
また、原始反射が消えていることが摂食には必要です。哺乳のための一連の反射の1つである乳首を吸うための吸てつ反射が残っていると、スプーンを口に入れようとしたときに口を閉じてしまいます。舌の挺出反射が残っていると舌で押し戻してしまう、といったことが起こります。
ほかにも、鼻呼吸がうまくできるようになること、食べ物を舌と歯と頬でバランスを取りながら噛んだりつぶしたりするという動作ができることなど、成長・発達していくことで、摂食・嚥下はできるようになっていきます。
また、原始反射が消えていることが摂食には必要です。哺乳のための一連の反射の1つである乳首を吸うための吸てつ反射が残っていると、スプーンを口に入れようとしたときに口を閉じてしまいます。舌の挺出反射が残っていると舌で押し戻してしまう、といったことが起こります。
ほかにも、鼻呼吸がうまくできるようになること、食べ物を舌と歯と頬でバランスを取りながら噛んだりつぶしたりするという動作ができることなど、成長・発達していくことで、摂食・嚥下はできるようになっていきます。
なぜダウン症のある子どもは摂食嚥下機能が弱いの?
それではなぜダウン症のある子どもは、食べたり飲み込んだりがうまくいかないのでしょうか。ダウン症の特性と合わせてみていきましょう。
発達がゆっくりであること
まず、発達がゆっくりであることがあげられます。食べ物をあげようとしても、舌が前に出やすいために、食べ物をのせたスプーンを舌で押し戻そうとしてしまいます。これは、発達がゆっくりなため原始反射が消えていくのもゆっくりだからということもあります。まずは原始反射が消えるのを待ってから、離乳食を開始します。
全身の筋力の緊張が低いため、噛む力が弱い
全身の筋力の緊張が低いために、噛む力が弱い場合もあります。ダウン症のある人は筋の緊張が弱く、噛む力も強くないこともあります。このため、口に入った食品をよく噛んで食べるということがむずかしく、食べたものをそのまま飲み込んでしまうことが起こります。
噛み合わせの問題
噛み合わせの問題がある場合もあります。ダウン症のある人は、上下の前歯が噛み合わず、開いた状態(開咬・かいこう)や受け口(反対咬合)などの歯並びになりやすく、上下の歯のかみ合わせが悪いことがあります。
口の中の形状的な理由
口の中の形状的な理由がある場合もあります。上あごがせまくて高いということから、舌がうまく使えないことも多くあります。通常は、飲み込むときに舌は上あごに接触しながら食べ物をのどの方へと送り込みます。しかしその舌の動きがうまくできなかったり、上あごが高くて舌が十分に届かなかったりする場合があります。すると、上あごに食べ物が残っていたり、食べるときに空気を一緒に飲み込んでしまったりすることがあります。
鼻呼吸ができない
鼻で呼吸ができずに、口呼吸になってしまうのも原因の一つです。摂食嚥下のプロセスの中で、大事なことは、食べ物を口の中で噛んで飲み込むまでの間、上下の口唇が閉じていることです。食べ物を口の中で噛むときに口が開いていると食べこぼしの原因となります。また、のどへと送り込むことやごっくんするときは、口が開いたままではできません。
一口量の認知の問題
一口量の認知の問題もあります。身体面の特性だけでなく、認知力も食べ方に影響します。一口サイズがどのくらいなのかがよく分からないために、大きく食べ物をかじりとり、そのままよく噛まずに食べてしまうということがあります。
こうした特徴から、食べ物を大きい塊のまま口の中に入れて、筋力が弱いためにうまくかみ砕くことができず、食べ物をそのまま飲み込んでしまう「丸のみ」をしやすいことが、ダウン症のある人の摂食嚥下の特徴となります。
こうした特徴から、食べ物を大きい塊のまま口の中に入れて、筋力が弱いためにうまくかみ砕くことができず、食べ物をそのまま飲み込んでしまう「丸のみ」をしやすいことが、ダウン症のある人の摂食嚥下の特徴となります。
ダウン症のある人に多い、丸のみはなぜいけないの? デメリットについて
よく噛まずに、食べ物を丸のみすることが、なぜよくないことなのか、もう少し詳しく見てみましょう。
のどに詰まらせる(窒息の恐れ)
食品を一口大に噛みちぎることができたとしても、そのまま噛まなければ大きすぎるので、のどに詰まってしまうことがあります。のどの奥で、呼吸をするための気道と食べ物を胃に送るための食道に分かれていますが、丸のみした食べ物がのどでつかえてしまうと、その気道をふさいでしまい窒息してしまいます。
胃腸など消化器に負担がかかる
食物は、本来は口の中でこまかく噛み砕かれ、消化酵素を含む唾液とまざった状態で胃に運ばれます。ところが、丸のみしてしまうと食べ物はそのまま胃に運ばれてしまうので、胃腸での消化に負担がかかります。胃でもよくこなれないまま腸へと進むと、下痢や便秘の原因にもなります。
栄養障害
こうして消化器に負担がかかると、栄養が体にうまくとりこまれなくなり、長期的には栄養障害を起こすことになります。ごくたまに、よく噛まないで呑み込んでしまうこともあっても仕方ありませんが、それが毎食のことになると、健康状態を損ねることにつながってしまうのです。