「パラレルアイデンティティー」でいいと気づいて。ASDの私の、見失った「私らしさ」を探す旅

ライター:宇樹義子
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発達障害があり、加えて複雑なトラウマを負ってきた私。そんな私のアイデンティティーは最近まで混乱していて、自分が何者であるのかをうまく定義できずにいました。しかし、カウンセラーの力を借りて、40代となったいま、初めて自分のヘルシーなアイデンティティーを見つけることができました。今回はその気づきの過程についてお話します。

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監修: 初川久美子
臨床心理士・公認心理師
東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了。在学中よりスクールカウンセリングを学び、臨床心理士資格取得後よりスクールカウンセラーとして勤務。児童精神科医の三木崇弘とともに「発達研修ユニットみつばち」を結成し、教員向け・保護者向け・専門家向け研修・講演講師も行っている。都内公立教育相談室にて教育相談員兼務。

アイデンティティーとは? 私という人間を俯瞰して

アイデンティティーについて辞書で調べると、以下のように定義されています。
1 自己が環境や時間の変化にかかわらず、連続する同一のものであること。主体性。自己同一性。「―の喪失」
2 本人にまちがいないこと。また、身分証明。
引用: デジタル大辞泉 小学館
出典:https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3%E...
アイデンティティーとは、誰かが「私はBやCではなく、間違いなくAという存在である」と言うときのAだということですね。

私のアイデンティティーは長らく混乱していました。若いころには子ども時代に親や社会から背負わされた役割を自分のアイデンティティーだと誤解。一方、背負わされたものは捨てていいのだと理解したここしばらくは、代わりに何をアイデンティティーとしていいのか分からなかったのです。

自分のアイデンティティーを発見するのに必要だったこと

ここ数回のカウンセラーの先生とのセッションでは、ずっとアイデンティティーがテーマになっていたように思います。

「今後、どう生きていくべきだろうか。私が人生で本当にやりたいことはなんだろうか。それがよく分からない…」

トラウマ治療を専門としている先生は「複雑なトラウマのある人は自分の欲求を感じる部分が混乱していて、つい『べき』で動いてしまうことがある。コツとしては、何かをしているときの自分を想像してみて、身体感覚が楽になるか不快になるかを基準とするといい」と説明してくれました。

しばらくそれをヒントに過ごして自分と向かい合ってみたあと、ある日のセッションで、私は先生に掘り下げてもらいながらこんなことを語りました。

「私は、文章を書くことは得意だし、周囲から要請されるからやってきたけど、実はそれほどやりたいことではないのかもしれない」
「最低限人生でやりたいことは、夫のパートナーとして共に楽しく穏やかにささやかな日々を暮らすこと」
「価値観の合う人たちと人生について深い語り合いをするようなことが大好き」
「私的なアイデンティティーと職業上のアイデンティティーはそれぞれ違うものなのかもしれない」

これらの考えが、私が自分のアイデンティティーを見つけるうえでの大きなヒントになりました。

私の私的なアイデンティティー

「べき」を捨てて自分の心身にとことん素直になった私が、では自分の私的なアイデンティティーとはなんだろう? 私は私的な人生において何者だと言えるのだろう? と考えてみて、こんな答えが出てきました。

・私は「夫の妻」である。
・私は「父の娘」である。

私は、理屈で考える場合には女性を「誰々の妻/娘」と定義づけることは好まないのですが、自分の中から出てきた素直な感覚は、夫の妻であり父の娘ということでした。これには驚きました。

こうした答えには、私がいま、夫の妻であることを自ら選択し、彼の妻という生き方を楽しんでいることが現れていると思います。同時に、関係の悪化や断絶といった紆余曲折を経て、いまは父の娘として関わることを自ら選択し、彼との関係性を大事にできていることも。

逆に、私が彼らと関係性を持つことを望まないのであれば、夫とは離婚し、父とも関係を断絶すればいいはず。私が、まだ存命中の母と関係を断絶し、自らを「母の娘」とは呼んでいないように。でも私は望んで夫と父との関係性を続けていっているのです。
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