「自己肯定感はつぶさなければ伸びる」「特別支援教育、全人類に効果あり」熱血じゃないからこそ響く?Twitterフォロワー数7万人の平熱先生がつぶやきに込めた思いをーー発達ナビ編集長対談

ライター:発達ナビ編集部
「自己肯定感はつぶさなければ伸びる」「特別支援教育、全人類に効果あり」熱血じゃないからこそ響く?Twitterフォロワー数7万人の平熱先生がつぶやきに込めた思いをーー発達ナビ編集長対談のタイトル画像

Twitterフォロワー数7万人の「平熱」先生は特別支援学校の先生。特別支援教育の現場から見えてきたことを、ユーモアたっぷりに、でもマジメに鋭い視点から生まれることばで繰り広げています。そんなツイートを集めた『「ここ塗ってね」と画用紙を指さしたわたしの指を丁寧に塗りたくってくれる特別支援学校って最高じゃない?』(飛鳥新社)を巡って、平熱先生に発達ナビ牟田暁子編集長がインタビュー。みんなの生きづらさを小さくできるよね!というお話です。「このむつかしい話わかる?」(平熱先生の決めゼリフ)

特別支援学校は教育の最先端! 特別支援教育の考え方を知ると、生きづらさを小さくできる

『「ここ塗ってね」と画用紙を指さしたわたしの指を丁寧に塗りたくってくれる特別支援学校って最高じゃない?』は、これまで発信してきたツイートに、解説や補足を平熱先生自身が書き下ろした本です。左ページにツイート、右ページにその解説で1見開き・1テーマで完結。ユーモアたっぷりでときにホロリとさせるイラストも楽しく、とても読みやすい構成です。特別支援教育の良さや面白さ、先生の働き方、ときどき教育とは関係ないつぶやきも登場します。この本を巡って、平熱先生に発達ナビ編集長牟田暁子がインタビューしました。
 オンラインインタビューの様子。左:平熱先生 右:発達ナビ編集長・牟田
オンラインインタビューの様子。左:平熱先生 右:発達ナビ編集長・牟田
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平熱(へいねつ)先生 プロフィール

おもに知的障害がある子どもたちが通う特別支援学校で10年くらい働く現役の先生。小学部、中学部、高等部のすべての学部を担任し、幅広い年齢やニーズの子どもたち、保護者と関わる。「視覚支援」「課題の分解」「スモールステップ」「見えないところを考える」など、発達障害やグレーゾーンの子どもたちだけではなく、全人類に有効な特別支援教育にぞっこん。
「ここ塗ってね」と画用紙を指差したわたしの指を丁寧に塗りたくってくれる特別支援学校って最高じゃない?
平熱
飛鳥新社
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発達ナビ牟田暁子編集長(以下――) この本は、障害があるお子さんの保護者にとって、さまざまな気づきがあり、さらに障害がある人と普段あまりかかわりがない人にも読んでもらいたい内容だなと思いながら、楽しく読ませていただきました。

平熱先生(以下、平熱) ありがとうございます、うれしいです。いちばんに届けたいのは、やはり特別支援学級などに通う子どもの保護者ですが、障害のある子どもたちと関わってない方にも、単純に読み物として面白いと思ってもらえたら理想的だなと思って書きました。

――「平熱」というお名前について聞かせてください。「はじめに」にも書かれていますが、“熱血先生”ではなく“平熱”だからこそ共感が集まったのかなと感じていますが、ご自身ではどうですか?

平熱 平熱であることに共感が集まるのは、時代の流れもあると思っています。自分が学生のころは、たとえばドラマに出てくる先生のロールモデルみたいなものって、良くも悪くも熱血漢でしたよね。竹刀を持っていたり、何かあると怒鳴って威圧する。その一方で、自分の生徒がトラブルに巻き込まれていたら夜中でもどこでも即駆けつける。24時間熱血で、情熱を持って奉仕する姿がよしとされたから、教師は聖職と言われるようにもなったと思うんです。

だけど、学校の先生をブラックな職業ではなく単なる働き手として持続可能なロールモデルにしていくなら、熱血はいらなくないですか? 朝8時半に学校に行き17時に帰るまでの間、一生懸命頑張って自分の役割を果たせる先生が認められていかないといけないと思っていて、それをするのに熱血である必要はなく、平熱で淡々とできればいいのではと考えています。そこに今の時代の多くの人が共感してくれたから、ツイートもたくさんの人に見てもらえていると感じています。

――平熱で淡々と、だから伝わってくるものがあるんですよね。それから、この本の冒頭に登場する、「特別支援教育、全人類に効果あり」というツイート、私も共感します。
「特別支援教育、全人類に効果あり」についてのツイート内容と解説
「特別支援教育、全人類に効果あり」(P6より)
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平熱 特別支援教育の考え方には、わたし自身が学ぶことで生きやすくなった実感があるんですよ。具体的に言えば、「課題の分解」「スモールステップ」「見通しを持つ」といった方法で、一応障害がないとされている自分自身が、すごく生きやすくなったから。特別支援教育は別に障害がある人でなくても、誰が知って身につけても、生きづらさを小さくできると思っています。
特別支援教育は全人類に有効ですというツイートの、何が有効なのか?についての解説
(P61より)
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――スモールステップは、最近よく知られるようになった考え方だと思うんですけど、見通しはまだスケジュールについてのことだけと思われている場合がありますね。本にはスモールステップや見通しについて、いくつも解説事例があって分かりやすかったです。
「①うるさいけど②すわって③友だちは見ていない」 は一旦セーフにしよう、という考え方についての解説
「①うるさいけど②すわって③友だちは見ていない」 は一旦セーフにしよう。(P34より)
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見通し不安の具体的な解消法についての紹介。「味噌汁の具がわからなくて不安」なんて子に中身を説明したり、 汁と具を分けたりするのも「見通し」
「味噌汁の具がわからなくて不安」なんて子に中身を説明したり、 汁と具を分けたりするのも「見通し」(P47より)
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――たとえば、食べられないものがあるんだったら食べられるように料理で改善していくというのも、スモールステップなんですね。

平熱 ふりかけがないと白米が食べられないという子ども、少なくないですよね。それで、ふりかけをかけずに食べろと言うのはなかなかに厳しいこと。でも、スモールステップでだんだんふりかけの量を減らしていこうとしてみる。始めはふりかけ1袋を使ってたけど、次に3分の2で食べられるようになって、次は2分の1、3分の1…というステップで使うふりかけの量を減らしていく。これって、ふりかけの依存度を下げることなんです。これが0か100かの思考では、本当にしんどくなっちゃう。ふりかけはかけずに根性で食べろ、というやり方がこれまではびこり過ぎていたんだと思うんです。食べられる子どもはそれでいいけど、食べられなくてどんどん学校に行きづらくなってしまった子どももいるんだろうなと感じます。

障害があるからできない?「思い込み」に気づくことを大事にしたい

「エッチな本の隠し方を教えてください」から連想する状況と、「母親が思春期の息子からBL本を隠す話」とのずれのエピソードから、固定概念について解説
「エッチな本の隠し方を教えてください」~「母親が思春期の息子からBL本を隠す話」だった。(P80より)
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――「思い込み」や「無意識の線引き」について気づかせてくれる話題もすごく面白かったです。「当たり前」とはなんだろう、どうしてそう考えるのだろう、というところは、多くの人に「障害があるから○○だろう」などといった考えにも一石を投じるものですね。

平熱 「エッチな本の隠し方を教えてください」っていう文面だけを見ると、男の子がエッチな本をお母さんから隠す話だと、いつの間にか思っちゃってる自分がいて、でも続きを読むとお母さんが持っているBL本を隠す話だったという。そうか、女の人がエッチな本を隠すという文脈だって全然あるのに、という気づきがあるわけですよね。

できる・できないの線引きを、わたしたちは本当に無意識のうちにしているんです。それは障害があるからできなくて仕方ないよね、という目線にもつながってしまうかもしれないから気をつけたいです。別に障害があろうが、できることはできるし、しなきゃいけないことはしなきゃいけない。常になるべくフラットに物を見て、先入観なく、できることとできないことをしっかり見極めていきたいなとは思いますね。
あたりまえだというボーダーはどうやって設定しているのかについての解説
100メートル9秒で走れなくても絶対怒らないのに、あいさつの声が小さいと怒っちゃう。それは「できなくてあたりまえ」と「できてあたりまえ」にわたしたちが知らない間に線を引いているからだ。(P14より)
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――そして「不機嫌で人をコントロールしない」ということは、特別支援教育に限らず、多くの人がハッとさせられる言葉だと感じました。
不機嫌で人をコントロールすることをすべきではないことについての解説
「不機嫌で人をコントロールしない」は大人の大事な条件だ。(P84)
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平熱 「不機嫌でコントロールしない」は、わたしの大事な軸にしている考え方です。これは、保護者へというよりも、教育のプロとして現場に立っている先生には、強く伝えていきたいことです。親と子もそうだけど、先生と子どもたち、上司と部下の関係で、反撃されないと分かってる立場の人が、相手を不機嫌でコントロールしちゃうと、もうどうしようもない。威圧できる人が偉いというのはすごくずるいやり方だし、絶対に間違っています。

――どうして、こういうことがさまざまな関係性で起こってくるのでしょう。

平熱 不機嫌でコントロールする人は、間違った成功体験を重ねています。自分がイライラしていれば周りは言うことを聞いてくれて、相手を自分のいいようにできてしまう。そうなってしまう理由は、自分自身がされてきた経験でもあるだろうし、恐怖でコントロールする「成功例」を見て、体感してきたからでもあるでしょう。そうなると、子どもは不機嫌な人の言うことは聞いて、優しくて機嫌がいい人の言うことは聞かないということが起きてきちゃいます。人を不機嫌かどうか・怖いかどうかとかだけで判断してしまうようになる。正しいかどうかではなく、ゆがんだ要素で判断する子どもになってしまうんです。

だから、「不機嫌でコントロールしない」をベースにして、子どもとフラットにやりとりしていきたいです。

自分のことを知るスモールステップ

――ところで、スモールステップの話に戻るのですが、これは自己分析にも使えるんですよね。自分が何をどうしたらうれしいのかとか、意外と分かっていなかったりするので。

平熱 わたしもこの仕事を始めてから、いろんなことに気づくようになりましたね。自分でこういうことがうれしいんだ、こういう人が嫌なんだなとか。じゃあなぜこの人が嫌でこの人はいいのかをよく考えるようになり、だいぶ言語化できるようになってきました。

こういう考え方は、実は障害あるなしは関係なくどんな人にも当てはまること。どうしてわたしはこれが苦手なんだろうとか、これができないのはなんでだろう、これが億劫なのはどうしてだろうということを分解していくと、「そうか、ここでつまずいてるんだ」ということや、「別に全部ができないわけじゃなくて、ここからここまではできていたんだ」とか、そういう気づきも実はあると思っています。

そういう意味で、やっぱり特別支援教育は本当にいろんな人に役に立つんだと思いますね。
次ページ「自己肯定感の低い赤ちゃんはいない」

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