理学療法士(PT)の支援とは?発達障害がある子どもの姿勢や運動の悩みに、期待できる効果や保護者が意識したいこと【日本理学療法士協会 清宮清美さん取材】

ライター:専門家インタビュー
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理学療法士はPhysical Therapist(PT)とも呼ばれ、医学的リハビリテーションを行う身体と運動機能の専門家です。ケガや病気のあとのリハビリテーションはもちろん、発達障害のある子どもの支援も行っています。今回は日本理学療法士協会常務理事の清宮清美さんに、理学療法を受けることで期待できる効果や相談先、理学療法を受ける際のポイントなどを伺いました。

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監修: 清宮清美
公益社団法人日本理学療法士協会 常務理事
理学療法士免許取得後埼玉県に入職し、総合リハビリテーションセンター勤務をはじめ、重度身体障害者療護施設への出向、介護保険制度の開始に伴い県立特別養護老人ホームの立ち上げ、更生相談所業務などを行った。 定年退職後、埼玉県の更生相談に継続して従事し、現在は東京保健医療専門職大学の教員(リハビリテーション学部理学療法学科 学科長 教授)である。 日本理学療法士協会では、発達障害関係やパラスポーツ関係の事業を担当し公益活動に取り組んでいる。

発達障害のあるわが子が理学療法を受けられる場とは?

支援の一つに「理学療法」があるのは知っているけれど、具体的にどのような発達支援を受けられるのか分からない。発達障害があるわが子の、どんな悩みを相談すればいいの?そう思われている保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、日本理学療法士協会常務理事の清宮清美さんに、理学療法士による発達支援について教えていただきました。

――理学療法というと、事故やケガで身体が不自由になった人のためのもの、というイメージが強いかもしれません。発達障害など、子どもの発達にかかわる分野では理学療法はどのように取り入れられているのでしょうか?

清宮:そうですね、病院のリハ室での歩行練習などが、理学療法の一般的なイメージかもしれませんね。理学療法は、戦後、社会復帰をめざす傷痍軍人のために、養成が始まった技能です。当時は、外国から講師を招いて、専門技術の教育が行われたようですよ。

現在は、小児、スポーツ障害、急性期医療、高齢者などあらゆる世代のさまざまな疾患、障害に対して、運動機能の面からサポートをしています。

――日本で理学療法士として働く方はどのくらいいらっしゃるのですか?

清宮:日本理学療法士協会の会員となっている理学療法士は、約13万人です。病院などの医療機関で働く理学療法士が約8割ですが、保健センターや発達障害者支援センター、放課後等デイサービスなどの福祉施設に在籍する理学療法士もいますし、特別支援学校や特別支援学級に理学療法士が配置されている地域もあります。また、就労移行支援事業や就労継続支援A型・B型事業に従事している場合もあります。就労支援においては、職場内の座席の配慮、座位での作業や休憩時間の確保など、合理的配慮の検討・実施に携わるといった役割を担っています。

発達障害の支援になぜ理学療法が有効?

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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10161002189
――発達障害のあるお子さんの支援では、どのようなことが行われるのですか?

清宮:理学療法士は、医師の指示のもと支援を行い、作業療法士(OT)などほかの専門家との連携も大切にしています。

発達障害のあるお子さんは、筋力が弱めだったり、目と身体の協調運動が苦手だったりすることが少なくありません。授業中、机につっぷしてしまったり、じっと椅子にすわっていることができなかったりするのも、注意が散漫だからという理由だけではなく、体幹の筋力の弱さや感覚過敏や感覚鈍麻、感覚と運動の関係性がうまく働きにくい、といった理由が隠れていることも多いのです。理学療法士は、姿勢や運動の専門家。身体を使った遊びなどを通して、そのお子さんが抱えている困難を改善し、よりよく発達していくお手伝いをしていきます。

――運動発達や筋肉面からのアプローチで、発達障害の特性による困りごとが改善する可能性もあるんですね。

清宮:体幹の筋力をつけることで、落ち着いて座っていられるようになったという実例もたくさんあります。ただ、具体的にどんなプログラムを行うかは、お子さんによっても異なります。縄跳びやボール遊び、ブランコ、サーキット遊びなどのダイナミックに身体を使う遊びや、体幹を鍛えるためのストレッチやトレーニング、マッサージなどが行われることもありますよ。

――発達障害のあるお子さんは、「ちゃんと座りなさい」「落ち着いて話を聞きなさい」と注意を受ける機会が多くなりがちです。遊びや簡単なトレーニングで困りごとが改善されていけば、本人の達成感にもつながりますね。

清宮:座るのが苦痛なお子さんに、「座る練習をしましょう」といってもつらいですよね。赤ちゃんの発達を思い出してみてください。赤ちゃんは、生まれてからの1年で、まず首がすわり、腰がすわって、寝返り、はいはいができるようになって、めざましい成長をとげますね。そして1歳から1歳半の間にはひとりで立って歩けるようになり、おおむね3歳までには走るようになります。でも、病気やケガ、障害などによって、運動の発達がうまくいかなかったり、できるようになっていたことができなくなってしまったりすることもあります。そうしたときには、もう一度発達の流れに沿って、順番にトレーニングしていくことが大事。今できることから始め、焦らずじっくり段階を踏んでいくことが重要です。

――理学療法を受ける際に、保護者が意識するとよいことはありますか?

清宮:お母さん、お父さんの目で見て気がついたことというのは、理学療法士にとってもお子さんのニーズを把握するための大切な情報となります。まずは、保護者の方がどんなことで悩んでいて、どんなふうに解決したいと思っているかを、ストレートに伝えてもらえたらと思います。おうちでの遊びの様子、お風呂や食事など日常生活の様子など、1日のなかでの行動やエピソードも、お子さんに合わせたプログラムをつくるために役立ちます。「これは理学療法とは関係ないかな?」などと心配せず、なんでも気軽にお話してほしいな、と思います。

――また、理学療法について園や学校の先生とも連携していくために、保護者ができることはありますか?

清宮:いま、理学療法のセラピーでどんなことをしているのかを共有できるといいですね。私が担当しているお子さんは、学校の先生に理学療法の様子を見学に来てもらったりしたこともあります。一度、実際に見ていただくと、理解がぐんと進みますね。保護者面談の際などに、セラピーのようすを伝えるのでもよいと思います。また、進級・進学するときには、これからの生活でどんなセラピーが必要か、学校や園とも相談しながら、その内容を理学療法士にもフィードバックしてもらって事前に準備を進めていけるとよいと思います。

理学療法士による継続的な支援を

日本理学療法士協会|発達障がい児に関する国民向けパンフレット(P7、P9)
日本理学療法士協会|発達障がい児に関する国民向けパンフレット(P7、P9)
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日本理学療法士協会|発達障がい児に関する国民向けパンフレット
https://www.japanpt.or.jp/activity/asset/pdf/pamphlet_compressed.pdf
――日本理学療法士協会では、発達障害のあるお子さんを持つ保護者の方に向けたパンフレットも作成されていらっしゃいますね。

清宮:発達障害の支援としての理学療法をより広く知っていただくことに加え、お子さんが大人になって就労するまで、継続的な発達支援ができることもお伝えしたいという思いからパンフレットを作成しました。自立した生活を営むための支援にも、理学療法士の果たす役割は大きいと考えています。パンフレットのなかには、成長過程のなかで受けることができる福祉的な支援と、そこに関わる理学療法について、まとめてあります。

例えば、就学を機に発達支援センターなど福祉機関でうけていた理学療法が終了する場合もありますね。そうしたとき、例えば医療機関の外来でリハビリテーションを受けたり、訪問看護ステーションから理学療法士を派遣してもらうことが可能な場合もあります。幼児期、学齢期から継続して、社会人になってからも理学療法を受けることができるのです。

――将来にわたって、理学療法士をはじめとする支援とつながりを持ち続けることが重要なんですね。

清宮:そうですね。たとえば未就学のころには週に1回、月に1回と理学療法を受けていたとしても、それを同じペースでずっと続ける必要はないと思うんです。ただ、大人になって「親なきあと」も見据えて自分で人生を組み立てていくとき、何か困ったことがでてきたら相談できる先がある、ということは、自立した豊かな生活を送るための助けになるものだと思います。理学療法士からのアドバイスや悩みに合わせたトレーニングが解決の糸口になることもあるはずです。
次ページ「親子で楽しみながら理学療法による変化を感じてほしい」

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