短期的ではなく、中・長期的な視点で、一人ひとりの学びと成長に向き合う

ーーインクルーシブ教育を推進する中で、具体的にどんな困難がありましたか?

困難……。家が少し遠いので、毎日通勤するのが大変なことくらいですかね(笑)。というのは半分本気で半分冗談で、物事を推進する中でハードルがあったり人と人との軋轢が生まれたりするのは当たり前のことなので。だから、ハードルがあるから推進できないとあきらめるのではなく、そういうものだと開き直ってでも力強く進めることが必要なんだと思います。
稲垣教育長
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ーーそれでも、組織の中の一部には不安な空気もあったかと思います。

それは当然あると思うので、だから単純に言うと「稲垣があれだから仕方ないよね」と私を悪者にしてあきらめてもらって、それで進んでいけばと。結果それが町のためになったら何よりです。

ーーインクルーシブ教育推進のために、今まさに取り組んでいることも教えてください。

実証実験として、LITALICOの教育ソフトの導入を進めています。誰もが凹凸があり、好き嫌いがあり、勉強の得意苦手があるので、自分をどう活かしていくかを子どもたち自身が理解していくことが大切だと考えているんです。支援が必要なお子さんの指導においても、教員の経験や感覚だけではなく、明確な軸を持てるのが良いと思います。
LITALICO教育ソフト
葉山町が導入しているLITALICOの教育ソフト。特別支援教育に携わる先生方の支援をサポートするICTシステム。
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ーー先生や生徒にとって必要な体制を揃えていかれるのですね。

はい。そして今年、この3年間で各校の校長先生とも話し練ってきた葉山町としてのスクールミッションを出します。これは教育委員会が葉山の学校に対しての指針となる3本柱と考え方を明確にしたもので、このミッションを受けて各学校がスクールポリシーを出す計画になっています。各学校での個性を最大限活かしながら、目線の先はしっかりと葉山町全体で足並みを揃えていくための取り組みです。
スクールミッション
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ーーなるほど。「楽校」という言葉からも葉山町の目指す方向がイメージできます。

そして、インクルーシブ教育の考え方にも繋がるのですが、葉山の長柄小学校と南郷中学校を小中一貫校として統合します。昔から中1ギャップという考え方がありますが、葉山でも例外ではなく中学から学校に行かなくなる子たちが増えてしまう現状があるんです。だから、義務教育の6年+3年を一連の流れで考えることで、中・長期的な視点で少しでも成長を滑らかに支援していきたいと思っています。

9年間で同一の指導方針を持てることは、子どもたちが夢を見つけて進路を決めるうえでも良いことです。それに、中学校の先生が小学校に来てもいいし、小学校の先生が教えた子がどうなったか見に行く、そんな交流も生まれると思います。何より生徒も喜ぶし、先生も喜ぶ、それが日常化していってほしいですね。

ーーなるほど。それではインクルーシブ教育を推進する中で、変わってきた印象はありますか?

一番変わったのは組織だと思います。結局教育長としての仕事も組織論として捉えることが多くて、どう職員室をマネジメントするかが大切だと捉えているんです。

インクルーシブはもちろんですが教育には答えがないので、仕事においてたとえしくじってしまっても挑戦してもらうことを大切にしています。成功することが至上命題という考え方を捨てて、結果が元々目指していた場所から変わってしまってもそれで良いとすることが必要。当初はネガティブな捉え方もあったかと思うのですが、前向きな発言が波及してきて組織全体として挑戦を積み上げられているという実感がありますね。
稲垣教育長
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ーーさまざまな視点でお話をいただきありがとうございました。最後に、今後のビジョンを教えてください。

ポリシーをつくることでブレない教育理念がちゃんとあって、そこに向けてきちんと学校が自走していくことが今後の理想だと思っています。

そしていつか、子どもたちがこの町に戻ってきてもらって、新しいサイクルを生んでくれたら理想です。子どもたちが成長して20年後に振り返った時に、小・中学校の大切な時間を葉山で過ごせてよかったなと思ってもらえたら、それ以上のことはありません。

この連載を重ねることで、皆さまの中でインクルーシブ教育への解像度が上がりますように

稲垣さんは謙遜をされていましたが、隣に寄り添っていた教育委員会の課長は「今の教育長ほど一人ひとりの声に耳を傾け、寄り添っている人を見たことがない」とおっしゃっていました。その姿勢こそが先生方や保護者の方の教育へのモチベーションにも繋がり、同じ目線で進んでいくための原動力になっているようにも感じられました。
稲垣教育長
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これから全国の教育リーダーズの話を取材し、皆さんにお伝えしていきます。インクルーシブ教育の取り組みを知ることで指針を集め、今まさに実践されている、実践しようとしている方のヒントになりますように。ここまで読んでいただきありがとうございました。

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