自閉症長男、思春期男子に溶け込めずからかいの的に。「言い返しなさい」と伝えた母の後悔
ライター:安田ふくこ
わが家の長男ハルはASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)と診断されています。ハルが小学校の高学年に差し掛かった頃、周囲の男子たちは、性的なことに興味を示し始めていました。しかし、ハルはまだよく理解しておらず、そのことでトラブルになってしまったことがありました。
監修: 森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニックにて勤務。産業医として一般企業のケアも行っている。
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高学年になってからの学校トラブル。先生の叱責がきっかけで、からかいのターゲットに
ある日学校で、ハルはクラスの男子たちが純粋そうな女子に対して「〇〇って知ってる?」と性的な言葉をわざと使って質問し、からかっている場面に遭遇しました。困惑している女子を見て、ハルは「僕も分からないから、辞書で調べてみるよ」と辞書を開こうとしました。すると、男子たちはさらに騒ぎ立て、慌てていた担任の先生はハルのその行動にビックリしてしまい、「やめなさいハル君!!」とすごい剣幕で叱りました。ハルはなぜ自分が叱られたのか理解できず、ぼくが悪かったのか……と困惑し、落ち込んでしまいました。
その後、その出来事をきっかけに、強めな男子たちはハルをからかいのターゲットにするようになりました。
その後、その出来事をきっかけに、強めな男子たちはハルをからかいのターゲットにするようになりました。
わが子が置かれた状況を知り、激しく動揺。これ以上からかわれないために「強く言い返しなさい」と伝えたが……
元気がなさそうなハルの様子が気になっていた私は、ハルに学校で何かあったのかたずねました。ハルから事情を聞いた私は、激しく動揺しました。「もっと毅然と強くならなければ、ハルはこれからもからかいの対象になってしまう!」と感じ、ハルに「強く言い返さないままだと、もっとからかわれる。言い返すことができないのなら家で練習してみなさい」と言ってしまったのです。
すると、ハルは「僕はできない……強く言い返すとか、そんなことしたくない!」と泣きだし、過呼吸になってしまいました。その様子を目の当たりにし、やっと自分の対応が間違っていたことに気がついた私は、ハルへかけた言葉を心から後悔しました。
すると、ハルは「僕はできない……強く言い返すとか、そんなことしたくない!」と泣きだし、過呼吸になってしまいました。その様子を目の当たりにし、やっと自分の対応が間違っていたことに気がついた私は、ハルへかけた言葉を心から後悔しました。
すぐにハルに謝り、抱きしめながら「お母さんが間違ったよ、本当にごめん。大変な状況の中、葛藤して頑張っていたんだよね……。あなたは間違っていないし、決して弱くもなかった。むしろ優しさという“本当の強さ”を持っているって、お母さん気がついたよ」と伝えました。強く言い返すことができない気持ちごと受け止め、本質にあるハルの優しさを認めることこそ、母親としての役割なのだと痛感しました。
するとハルは「自分にとって納得できない、大変なことを“やれ”って言われるのは苦しい。つらくても頑張ってる時は、家族にはそんなふうに“あなたは間違ってない、とても頑張ってる”って言ってもらいたかった」と泣きながらも、自分の思いを伝えてくれ、落ち着きを取り戻しました。
するとハルは「自分にとって納得できない、大変なことを“やれ”って言われるのは苦しい。つらくても頑張ってる時は、家族にはそんなふうに“あなたは間違ってない、とても頑張ってる”って言ってもらいたかった」と泣きながらも、自分の思いを伝えてくれ、落ち着きを取り戻しました。
「もっとこうしなさい」ではなく「一緒に考えてみる」ことで得た気づきとは?
それからは、気が強く支配的なところのある男子が、たとえひどい言葉で“自分たちに従わず、周囲とは反応が異なる溶け込めないハル”を傷つけようとしてきても、以前ほどには気持ちが動揺しなくなりました。しかし、引き続きハルの気持ちを見守ってはいました。
小6のある日、ある強気な男子にひどい言葉で傷つけられ、ハルが落ち込んだことがありました。その頃の私は「もっとこうしなさい」ではなく「ハルと一緒に考えてみる」という発想を持つようになっていました。
そして「なぜハルはひどいことを言われるのか?」だけではなく、「なぜ相手はひどい言葉で傷つけてくるのか?」と、ハルと一緒に客観的に考えてみるようにもなりました。
これまでどうしても私は、発達が独特でゆっくりなハルを心配するあまり、「早く周囲に溶け込めるように、周囲と足並みを合わせられるように……」と考えてきました。ですが、そう考えることを少し改め、今ある状態を多面的に捉えることで分かったことがありました。
攻撃してくる相手は、実は自分自身の心の弱さを隠しているのだということ。周囲とは異なる人を攻撃することで自分を保っている、そんな弱いところがあるのだということです。
小6のある日、ある強気な男子にひどい言葉で傷つけられ、ハルが落ち込んだことがありました。その頃の私は「もっとこうしなさい」ではなく「ハルと一緒に考えてみる」という発想を持つようになっていました。
そして「なぜハルはひどいことを言われるのか?」だけではなく、「なぜ相手はひどい言葉で傷つけてくるのか?」と、ハルと一緒に客観的に考えてみるようにもなりました。
これまでどうしても私は、発達が独特でゆっくりなハルを心配するあまり、「早く周囲に溶け込めるように、周囲と足並みを合わせられるように……」と考えてきました。ですが、そう考えることを少し改め、今ある状態を多面的に捉えることで分かったことがありました。
攻撃してくる相手は、実は自分自身の心の弱さを隠しているのだということ。周囲とは異なる人を攻撃することで自分を保っている、そんな弱いところがあるのだということです。
そのことに気づいたハルも「じゃあ自分の心は、そんな小さなものに囚われなくて良いんだね」と前を向き、一回り成長したように見えました。それからはハルも私も、「強く見えるだけ」ではない「本当の強さ」とは何かを、いつも心に留めるようになりました。