自分の「努力が足りない」「性格の問題」と感じてしまうのはなぜ?最新研究が解き明かす、ASD(自閉スペクトラム症)の「生きづらさの正体」

ライター:発達ナビ編集部
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「人と会ったあとはどっと疲れる」「周りに合わせるほど自分が分からなくなる」「なぜかいつも孤独を感じる」…そんな「言葉にしづらい生きづらさ」はあなたの努力不足や性格のせいではないかもしれません。
千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの管思清特任研究員、大島郁葉教授(責任著者)らがASD(自閉スペクトラム症)の若者の困難のメカニズムを解明、成果が国際学術誌『Autism』に掲載されました。この研究は、生きづらさの多くが個人の問題ではなく「社会のあり方」に起因することを示しています。

その生きづらさ、あなたのせい?最新研究が「社会の圧力」を解明

なぜか人付き合いでひどく消耗してしまう。周囲に馴染もうとすればするほど、自分らしさを見失うようで、ふと孤独感に襲われる……。
発達ナビの読者の皆さまの中にも、こうした「言葉にしづらい生きづらさ」に共感する当事者の方や、そうしたご家族を支える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
もしそうした困難を感じていても、「自分の努力が足りないからだ」「自分の性格の問題だ」とご自身を責める必要はないかもしれません。
ASD(自閉スペクトラム症)の若者がなぜこうした困難に直面するのか、その心理的なメカニズムを解き明かした最新の研究が、このほど国際的な学術誌『Autism』に発表されました。
研究を行ったのは、千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの管思清さん(筆頭著者)と大島郁葉教授(責任著者)らの共同研究チームです。この記事では、その画期的な研究内容と、責任著者である大島先生からいただいたメッセージをご紹介します。

「能力主義」が生む、見えない圧力

ASD(自閉スペクトラム症)の若者は、抑うつや不安などのメンタルヘルス格差に直面しています。その背景には社会的な孤立や孤独があり、研究チームは少数派が差別にさらされ続けることで生じる「マイノリティ・ストレス」に着目しました。
特にストレスの原因となるのが、「努力すれば報われる」といった「能力主義」に基づく考え方です。これは「できないのは努力不足」という見方を助長し、「ASD(自閉スペクトラム症)に見えないね」といった善意に見える「マイクロアグレッション(さりげない差別)」として現れます。これらが当事者には「多数派に合わせろ」という強い圧力となり、心理的負担となっています。

自分を隠す「社会的カモフラージュ」

こうした圧力の結果、当事者はASD(自閉スペクトラム症)特性を隠したり、周囲の規範に合わせたりする「社会的カモフラージュ」という行動をとるようになります。研究では、主に3つのタイプの「社会的カモフラージュ」が測定されました。

  • マスキング: 自閉的な行動や表情を抑える
  • 補償: 社会的困難を補うために、会話のルールを暗記するなど意図的に努力する
  • 同化: 非自閉的多数派の社会規範に、自分自身を合わせようとする

これらは短期的にはいじめの回避などに繋がっても、長期的には燃え尽きや抑うつなど、メンタルヘルスを悪化させる要因となります。

研究が突き止めた「孤独」と「同化」の連鎖

今回の調査(対象:ASD当事者330名)では、マイクロアグレッションの経験が多いほど、3種類すべてのカモフラージュ行動が増加することが分かりました。
さらに、「同化」行動については、深刻な「負の連鎖」が明らかになりました。

「能力主義的マイクロアグレッション」を経験する
→「社会に受け入れられていない」という感覚(外的被受容感の低さ)が強まる
→「孤独感」が高まる
→孤独を解消するため「同化」行動が促進される

つまり、本人の自己受容以上に、「社会からどう扱われるか」が当事者を孤独にし、本来の自分を隠す行動へと追い立てていたのです。
研究の概念図
研究の概念図
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研究者に聞く「社会の圧力」と私たちにできること

本研究は、科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)による「オールマイノリティプロジェクト:発達障害者をはじめとするマイノリティが社会的孤立・孤独に陥らないための、認知行動療法を用いた社会ネットワークづくり」の一環として実施されました。
こちらでは責任著者の千葉大学子どものこころの発達教育研究センターの大島郁葉教授に、研究の背景と、発達ナビの読者へのメッセージをいただきました。

「目に見えない社会の圧力」への着目

――今回の研究は「オールマイノリティプロジェクト」の一環とのことですが、先生がASD(自閉スペクトラム症)の当事者の方々が抱える「生きづらさ」や「孤独」を研究される中で、特に「能力主義」や「マイクロアグレッション」といった、目に見えにくい社会の圧力が原因ではないか、と着目されたきっかけや背景を教えていただけますか?

日本は福祉に弱い国なので、何か人と異なることやできないことがあると、「自己責任」という形で責任をおしつけられがちです。また、支援者がそのような思想を信じていると、おのずと当事者の人をそれとなく責めて、追い詰めてしまうような「マイクロアグレッション」の事例も数多くあるのではというアイデアが自分の中にありました。「マジョリティ側は無頓着に傲慢かもしれない」「マイノリティはマイノリティ・ストレスにさらされているのではないか」と、徐々に考えるようになりました。

当事者が自分を守るために大切な視点

――記事を読む当事者の中には、まさにこうした「マイクロアグレッション」に日々傷つきながらも、どう対処すればよいか分からず、カモフラージュを続けて疲弊している方が多いかと思います。当事者が自分自身の心を守るために、どのような視点を持つことが大切でしょうか?

まず、ご自身がマイノリティ・ストレスを受けていることを自覚して、ストレス対処を積極的に行ってください。ゆっくりお風呂に入るとか、ネットから離れるとか、早く寝るとかなど、簡単にできるものがいいと思います。その上で、マジョリティ(一般人)は、その特権性があるがゆえに「悪気なく」マイクロアグレッションをしてしまうのだということを頭でまず理解することが、自分自身の心を守るコツになるかもしれません。

周囲ができること:「無自覚な加害者」にならないために

――家族や支援者、職場の上司など、周囲の人々は「善意」のつもりでかけた言葉が、意図せず当事者を傷つけている現実があります。私たちが「無自覚な加害者」にならないために、どのようなことを心がけるべきでしょうか?

まず、マイノリティの人はどんな体験をしているかの想像力を持つことが大事だと思います。たとえば、夜道を歩く人は、男性よりも女性のほうが犯罪の被害に遭いやすいため、怖く感じやすいことに対し、男性側も意識することが大事です。要するに「無自覚さ」を減らすために、自分の属性以外の人がどのような気持ちで日々を暮らしているかを、知ることがとても大事だと思います。
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