中学での環境の変化と、息子が手放した「お守り」

小学校での困難を乗り越え、中学・高校と進むにつれて、息子は大きく成長していきました。中学になると、小学校時代のような大きな声や不協和音が減り、息子にとって生活しやすい環境になったと感じます。適切な距離の取り方も分かるようになり、気の合う友だちと一緒に過ごす時間が増えました。イヤーマフは、悪目立ちすることを嫌がり、使わなくなりましたが、しばらくは「使わずとも手元には置いておきたい」と机のフックに掛けていました。

そして、高校生になった2年前、「あー、もう大丈夫かな……使わなくても。耐えられなかった時は静かになれる場所に移動するから」と、イヤーマフをほかの人に譲りました。「お守り」がなくても自分で対処できるほど、息子は成長していたのです。

また、偏食への向き合い方にも変化がありました。中学では、小学校のような手厚い給食の支援(おにぎり持参など)は受けられませんでした。しかし息子は「しょうがないよな。何とかするから大丈夫だよ」と、私を心配させないように明るく振る舞っていました。きっとこの時、「一口は食べよう!」と、自分で決めて頑張っていたのだと思います。

今では、嫌いなものはあっても偏食とまでは言えない程度にまで改善しました。食べてみたら意外においしく感じたものもあったようで「小学校時代から食べていれば良かった」と悔やむ姿も見せるほどです。自分で状況を受け止め、行動を決める力(セルフコントロール)が育ったことを感じます。

終わりは必ず来る。頑張りすぎずに乗り越えて

私自身の経験から言えるのは、たとえ日々の生活の中で終わりが見えないと感じても、「今がずっと続く訳ではない」いうことです。
子どもたちはゆっくりでもできることが増えていきます。この「成長している」という事実が、私自身の気持ちをとても楽にしてくれました。

お子さんの発達に悩んでいる方は、本当にお子さんのことを良く見て、何とかしたいという気持ちを強くもっていらっしゃると思います。だからこそ、頑張り屋さんで、つい力を入れすぎて疲弊してしまうこともあるでしょう。そんな時は少し休んで、適度に肩の力を抜くことで、これまで見えなかった解決策が見えてくることもあるかもしれません。当時「お先真っ暗」だと感じていた日々も、今は穏やかに振り返ることができるようになりました。あの頃、私自身が一番ほしかった言葉は、「あなたは充分頑張っていますよ」という一言でした。あの頃の自分のようにつらい思いをしている方に、この言葉がそっと届いてくれたら幸いです。

イラスト/もっつん
エピソード参考/しのっぺ

(監修:新美先生より)
聴覚過敏のある息子さんの学校での困難さと、その中で見つけていった工夫や親御さんの心の変化を聞かせていただきありがとうございます。ASD(自閉スペクトラム症)のあるお子さんにとって、学校は想像以上に刺激の多い環境です。特に聴覚過敏がある場合、本人にとって音は「我慢すれば慣れるもの」ではなく、常に神経をすり減らすほどの苦痛として感じられることがあります。授業に集中できない、落ち着かないといった様子の背景には、意欲や努力の問題ではなく、感覚過敏による疲労や限界が隠れていることも少なくありません。

イヤーマフの導入によって息子さんの状態が大きく改善したというエピソードは、「環境を整えること」がいかに重要かを示しています。音の刺激が軽減されたことで、聴覚過敏そのものだけでなく、結果的に板書の困難や忘れ物の減少につながった点も印象的です。これは、本人の力が急に伸びたというよりも、「本来持っている力を発揮できる環境が整った」結果だといえるでしょう。イヤーマフは決して甘やかしではなく、合理的配慮の一つであり、息子さんにとって心身を守る大切な“お守り”だったのだと思います。

また、親御さんが感じてこられた精神的な孤立や、「負のループ」に陥ってしまう苦しさは、多くの保護者の方が共感される部分ではないでしょうか。学校からの連絡に怯え、周囲の視線を気にし、自分を責めてしまう——そのような状況の中で、勇気を出してカミングアウトされたことは、とても大きな一歩だったと思います。支援は、専門職だけで完結するものではなく、周囲の理解が広がることで初めて持続可能なものになります。思春期以降、イヤーマフを手放し、自分で対処方法を選べるようになった息子さんの姿からは、成長とは「困りごとが消えること」ではなく、「自分なりの対処法を身につけ、折り合いをつけられる力が育つこと」なのだと、改めて感じさせられます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。
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