【発達障害とアルバイト】派遣・塾講師・研究室補助…大学生息子が「向いていない仕事」から知った、自分に合う環境の見つけ方
ライター:寺島ヒロ
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大学に入ってすぐの頃、息子が「アルバイトをしてみたい」と言い出しました。高校生時代はお金を稼ぐどころか、お金を払うこともまったくできなかった息子。親としては心配もありましたが、何事も経験と、派遣会社に登録してアルバイトを紹介してもらうことにしました。果たして……。
監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。
1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。
障害学生として大学で支援を受ける
息子は現在25歳、ASD(自閉スペクトラム症)の診断があり、現在は障害学生として支援を受けながら、大学院に通っています。
大学に入ってすぐの頃です、息子が「一度、普通のアルバイトをしてみたい」と言いました。「普通の大学生がやるような方法で仕事を見つけて、普通に面接を受けて、普通の学生バイトをやってみたい」と言うのです。
それまで、息子が働いたことといったら、夫の実家で農業の作業の手伝いをしたことと、やや専門的な分野でのライターの仕事をちょっとやったぐらいです。「人手」としてうまくやっていけるか心配ではありましたが、本人のやる気があるうちに「普通の学生バイト」を経験しておくのは良いことだと思いました。
さっそく、SNSの広告から地域の人材派遣の会社に登録し、短期のアルバイトを紹介してもらうことにしました。
会場設営の単発バイト
最初に経験したのは、コンサートやセミナー会場の設営など、単発の一日派遣バイトです。作業自体は特に問題なく、仕事もそれなりにこなせていました。ただ、本人にとっては仕事内容以外の部分が大きな負担だったようです。
現場で大きな声で指示をされること、休憩所で多くの人がタバコを吸っていること。匂いが苦手な息子には、それがかなりつらかったようでした。
あちこちのイベントや展示会場に行けるのは面白かったようですが、結局、半年ほどでその派遣の仕事は辞めることになりました。
塾講師のアルバイト
その後、求人広告を見て、塾の講師補助のアルバイトに挑戦しました。
担当するのは夜の部で高学年の小学生ばかり。スタッフの方々もみな教育畑なので、息子に特性があることをすぐ見抜き、甘やかさず、しかし手を抜かず接してくれました。「これなら続くかもしれない」と感じていたのですが、数か月後にコロナ禍が直撃!塾は閉鎖され、そのまま廃業してしまいました。
「また別の塾を探してみる?」と聞いたことがあります。すると息子は、「言われたことはちゃんとやっていたと思うけど、子どもに教えるのは難しかった。自分には向いていないと思う」と話しました。
それ以降、塾関係の仕事に応募することはありませんでしたが、「たとえその仕事ができる能力があり採用されたとしても、向いていない仕事がある」ということが分かったのは、大きな収穫だったように思います。
大学の中に仕事があった!
大学学部生の後半になると、息子は研究室の手伝いを始めました。そのため、一般的なアルバイトはしていませんでしたが、学部生の頃からアシスタントとして雑用などを担当し、大学院生になってからは正式なTA(ティーチング・アシスタント)として、学内で仕事をすることになりました。
授業のあるときだけ出勤していって、学生が授業で使った実験機器を洗ったり、配布する資料をコピーしたりするのが主な仕事です。先日は、先生や先輩の研究データをデータセンターに入力する仕事もしていました。
これらの仕事は、インターンのような、そのまま就職につながるものではないかもしれません。でも、今学んでいることと地続きで、「何をしているのか分かる」「意味が理解できる」仕事なので、息子は興味を持って取り組めているように見えます。
本格的な就職活動の前に……
発達障害のある子どもにとって、アルバイトは「お金を稼ぐ経験」であると同時に、「自分に合う環境、合わない環境を知る場」でもあるんじゃないでしょうか。
うまくいかなかった経験も含めて、あとから振り返ると、どれも無駄ではなかったと思える日がくるんじゃないかなあと思います。
執筆/寺島ヒロ
うまくいかなかった経験も含めて、あとから振り返ると、どれも無駄ではなかったと思える日がくるんじゃないかなあと思います。
執筆/寺島ヒロ
専門家コメント 鈴木直光先生(筑波こどものこころクリニック院長)
アルバイトなどで社会に一歩踏み出す経験は、将来の就職を見据えた際、大きな自信と力になります。例えば、現場での活気ある指示の声や、特有の環境(タバコの臭いなど)といった「社会のリアル」を肌で感じることは、お子さんにとって非常に貴重な成長の機会となるからです。親と大学の先生以外の大人と接することは世界を広げるのに重要と言えます。ご家庭という安心できる場を離れ、多様な価値観に触れることで、お子さんは自分なりの適応力を育むことができるのです。今回、他人から勧められたわけではなく、自分からアルバイトをやってみたいと言い出したことは立派だと思います。なかなかそういった勇気が出ず立ち止まってしまう学生も少なくない中で、自らアルバイトを始めようとしたその気持ちが大事だと思います。この先の就職にも生かせることでしょう。(監修:筑波こどものこころクリニック院長 鈴木直光先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。