他者と「うまく話せる」より大切にしたいこと。TRPGで育まれる、子どもたちの「楽しいコミュニケーション」(金子総合研究所/東京学芸大学・加藤浩平先生)
ライター:加藤浩平
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筆者は、平日は編集者として発達障害・特別支援の分野に関わり、土日は研究者として発達障害やその傾向のある子ども・若者たちの余暇活動支援に関わっています。その活動の中でも主としている活動の1つが「TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)」です。今回のコラムでは、筆者が15年以上取り組んでいる余暇活動の1つ「TRPG」について、実際に参加している子どもたちの様子も交えながら紹介します。
執筆: 加藤浩平
金子総合研究所 所長
東京学芸大学 非常勤講師
博士(教育学)
編集者として自閉症の子どもたちや家族への取材をするいっぽう、研究者として、自閉スペクトラム症(ASD)やその傾向のある子どもや若者たちを対象にした、テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)などを用いた余暇活動支援の実践・研究に取り組んでいる。
東京学芸大学 非常勤講師
博士(教育学)
TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)とは?
本コラムでは、筆者が発達障害の子ども・若者たちとの余暇活動で長年実施している「TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)」というゲームについてご紹介したいと思います。
TRPGを用いた余暇活動の実践について話をする前に、「そもそもTRPGってなに?」という読者の方のほうが多いかもしれません。TRPGは、皆さんが慣れ親しんでいる、コンピュータのRPG(ロールプレイングゲーム)のルーツとも言えるゲームで、ゲームマスター(GM)と呼ばれる進行役1名と、複数名のプレイヤーがテーブルを囲み、会話のやり取りで架空の物語を作り上げていく遊びです。プレイヤーは「戦士」「魔術師」などの役割(ロール)を持つキャラクターを作り、そのキャラクターを通して、GMが語る物語世界に参加します。物語の中でのキャラクターの行動の成否は、ルールに基づいてダイス(サイコロ)を振って判定します。
以下は、TRPGを遊んでいる一場面です。「戦士ジャン、魔術師アリス、狩人リウトの3人の冒険者たちが、旅先で出会った領主の依頼を受けて、森の奥深くにあるダンジョン(石造りの迷宮)に眠る『魔法の水晶』を探しに行く」という物語を進めている時の会話のやり取りを抜粋したものになります。実際には、イラスト(図1)のように、参加者はテーブルを囲み、プレイヤー(ここでは子どもたち)はキャラクターシートを手元に置き、進行役のGMの語りを受けて相談しながらゲームを進めています。
GM:……さて、君たちは薄暗い石造りのダンジョンを進み、左右に道が分かれた場所にたどり着いたよ。
ジャン:(ほかの2人に)右と左、どっちに行く?
アリス:とりあえず周りを調べない?手がかりがあるかも。
リウト:じゃ、たいまつで地面を照らして見てみる。
GM:OK。地面を見ると、右の通路に動物の足跡が続いている。
ジャン:よっしゃ、足跡のほうに突撃だ!
アリス:ジャン、ちょっと待って!……ゲームマスター、足跡を調べます。
GM:いいよ。判定しよう。サイコロを振ってください。
アリス:(アリスのプレイヤーがサイコロ2つを転がす)……合計11!成功でしょ?
GM:そうだね。では、アリスは足跡が「ミノタウロス」のものだと分かるよ。
アリス:その情報をみんなと共有します。「これ、ミノタウロスの足跡だよ」って。
リウト:ミノタウロスって……食えるの?(一同笑)。
アリス:かなり強いモンスターだから、逆にこっちが食われるんじゃね?(笑)。
ジャン:マジで?じゃあ突撃やめるわ……。
TRPGを用いた余暇活動の実践について話をする前に、「そもそもTRPGってなに?」という読者の方のほうが多いかもしれません。TRPGは、皆さんが慣れ親しんでいる、コンピュータのRPG(ロールプレイングゲーム)のルーツとも言えるゲームで、ゲームマスター(GM)と呼ばれる進行役1名と、複数名のプレイヤーがテーブルを囲み、会話のやり取りで架空の物語を作り上げていく遊びです。プレイヤーは「戦士」「魔術師」などの役割(ロール)を持つキャラクターを作り、そのキャラクターを通して、GMが語る物語世界に参加します。物語の中でのキャラクターの行動の成否は、ルールに基づいてダイス(サイコロ)を振って判定します。
以下は、TRPGを遊んでいる一場面です。「戦士ジャン、魔術師アリス、狩人リウトの3人の冒険者たちが、旅先で出会った領主の依頼を受けて、森の奥深くにあるダンジョン(石造りの迷宮)に眠る『魔法の水晶』を探しに行く」という物語を進めている時の会話のやり取りを抜粋したものになります。実際には、イラスト(図1)のように、参加者はテーブルを囲み、プレイヤー(ここでは子どもたち)はキャラクターシートを手元に置き、進行役のGMの語りを受けて相談しながらゲームを進めています。
GM:……さて、君たちは薄暗い石造りのダンジョンを進み、左右に道が分かれた場所にたどり着いたよ。
ジャン:(ほかの2人に)右と左、どっちに行く?
アリス:とりあえず周りを調べない?手がかりがあるかも。
リウト:じゃ、たいまつで地面を照らして見てみる。
GM:OK。地面を見ると、右の通路に動物の足跡が続いている。
ジャン:よっしゃ、足跡のほうに突撃だ!
アリス:ジャン、ちょっと待って!……ゲームマスター、足跡を調べます。
GM:いいよ。判定しよう。サイコロを振ってください。
アリス:(アリスのプレイヤーがサイコロ2つを転がす)……合計11!成功でしょ?
GM:そうだね。では、アリスは足跡が「ミノタウロス」のものだと分かるよ。
アリス:その情報をみんなと共有します。「これ、ミノタウロスの足跡だよ」って。
リウト:ミノタウロスって……食えるの?(一同笑)。
アリス:かなり強いモンスターだから、逆にこっちが食われるんじゃね?(笑)。
ジャン:マジで?じゃあ突撃やめるわ……。
TRPGは、勝ち負けを競わないゲーム
たまに「TRPGってゲームですよね?負けた子どもがかんしゃくを起こした時にどうするのですか?」と質問されることがありますが、TRPGでは基本的に勝ち負けを競うことはありません。物語を進めながら、その中で起きる出来事に対して、どうするかをみんなで話し合い、それぞれがキャラクターを操り、時に軽い演技(ロールプレイ)もしながら、全員で物語を楽しむことがTRPGというゲームの目的になります。
また、TRPGを対面で遊ぶ際には、コンピュータなどは基本的に使用しません(なお、TRPGには、インターネットでチャットをしながら楽しむ「オンラインセッション」という遊び方もあります)。コンピュータの代わりに、TRPGの基本的な進め方や物語の世界設定に関する資料などプレイをするのに必要なデータをまとめた「ルールブック」という冊子のほか、「キャラクターシート」と呼ばれる記録用紙や、サイコロ、筆記具などを使用します。TRPGのルールブックは書店などで市販されていて、日本国内だけでもその種類は100をくだりません。世界観も、剣と魔法のファンタジー世界ものや、ホラーもの、近未来もの、探偵ものなど、バリエーションも豊富です。
また、TRPGを対面で遊ぶ際には、コンピュータなどは基本的に使用しません(なお、TRPGには、インターネットでチャットをしながら楽しむ「オンラインセッション」という遊び方もあります)。コンピュータの代わりに、TRPGの基本的な進め方や物語の世界設定に関する資料などプレイをするのに必要なデータをまとめた「ルールブック」という冊子のほか、「キャラクターシート」と呼ばれる記録用紙や、サイコロ、筆記具などを使用します。TRPGのルールブックは書店などで市販されていて、日本国内だけでもその種類は100をくだりません。世界観も、剣と魔法のファンタジー世界ものや、ホラーもの、近未来もの、探偵ものなど、バリエーションも豊富です。
また、「コミュニケーションをしながら物語を楽しむ遊び」と聞くと、「コミュニケーションが苦手なASD(自閉スペクトラム症)などの発達障害の子どもたちに不向きな活動では?」と思われる方も多いです。ですが、TRPG活動に参加しているASD(自閉スペクトラム症)などの発達障害のある子どもたちは、最初こそ不安にしていたり、戸惑っていたり、時に反抗的だったりする子もいますが、TRPGに参加する中で、しだいに活動の中でのコミュニケーションのやり取りを楽しむようになっていきます。
TRPGを楽しむ発達障害の子どもたち
ここで、いくつかTRPGに参加している子のエピソードを紹介しましょう(エピソードは複数のケースを組み合わせた架空事例です)。
「うぜえ!」「話しかけんな!」と乱暴な言葉をぶつける小学校高学年のレンジ君。周囲の大人が注意しても暴言が止まらなかったが、TRPG中にレンジ君のキャラクターがピンチの時、いつも暴言を吐かれていた子のキャラクターが助けてくれました。レンジ君は「助けてとか言ってねぇし」とブツブツ言っていたが、最後に「……ありがとう」と一言。その後は暴言も減り、気づけば休憩時間にほかの子たちと漫画やゲームの話で仲良くおしゃべりをすることが増えました。
学校の友だちグループの中で、自分の好きな話を一方的に話す傾向のある中学生のメイコさん。彼女はTRPG活動でもおしゃべりですが、だんだんほかの参加者の発言やアドバイスを聞いて発言したり自分のキャラクターの役割を意識して行動できるようになってきました。その後、担任の先生から、メイコさんが学校行事や部活動などでも、TRPG活動の時のように話し合いなどの場で周囲の子の意見を求めるようになったという話を聞きました。
「うぜえ!」「話しかけんな!」と乱暴な言葉をぶつける小学校高学年のレンジ君。周囲の大人が注意しても暴言が止まらなかったが、TRPG中にレンジ君のキャラクターがピンチの時、いつも暴言を吐かれていた子のキャラクターが助けてくれました。レンジ君は「助けてとか言ってねぇし」とブツブツ言っていたが、最後に「……ありがとう」と一言。その後は暴言も減り、気づけば休憩時間にほかの子たちと漫画やゲームの話で仲良くおしゃべりをすることが増えました。
学校の友だちグループの中で、自分の好きな話を一方的に話す傾向のある中学生のメイコさん。彼女はTRPG活動でもおしゃべりですが、だんだんほかの参加者の発言やアドバイスを聞いて発言したり自分のキャラクターの役割を意識して行動できるようになってきました。その後、担任の先生から、メイコさんが学校行事や部活動などでも、TRPG活動の時のように話し合いなどの場で周囲の子の意見を求めるようになったという話を聞きました。
「つまらない」「面倒くさい」と言って学校や地域の集団活動に参加をしたがらない中学生のヨシオ君。TRPG参加当初は「親に誘われて仕方なく来た」という感じでした。しかし活動に参加している中で、ほかの人とは違ったヨシオ君ならではの独自の発言や提案がTRPGの物語を盛り上げることが多く、いつの間にか参謀的な役割を担い周囲に頼られるようになりました。本人もまんざらでもなく、だんだんと積極的に発言をしたり雑談をするようになってきました。
ほかにも、筆者の研究では、TRPGに参加した子どもたちから以下のような感想をもらっています。
子どもたちはTRPGに参加することで、いきなり「上手に話せるようになる」わけではありませんし、筆者もそういったことを目的にはしていません。TRPGの中で子どもたちに起きている変化は、「コミュニケーションを教え込んだ結果」ではなく、TRPGの中で「一緒に楽しく遊び語る」経験が積み重なった結果として立ち上がってきたものです。筆者が目指しているのは、コミュニケーションの訓練ではなく、「楽しいから続く」「続くから関係も本人も育っていく」という循環です。活動の共通コンセプトとして「『うまく話すこと』より『楽しく話すこと』を大切に」ということを掲げています。
講演会や研修会でTRPGについての話をすると、ソーシャルスキル・トレーニング(SST)のような活動だと誤解されることがあります。しかしTRPGは訓練型のアプローチとは異なり、物語と役割の中で「やり取りが起きやすい形」を用意し、そこで遊びとしての面白さを損なわずに関係が育っていく活動です。
ほかにも、筆者の研究では、TRPGに参加した子どもたちから以下のような感想をもらっています。
- TRPGは色んなイベントが起きるたびにみんなと話し合うので、話題に困ることが少ない。
- 知らない人相手は緊張して喋れないことがあるけど、キャラクターとして会話したら意外と話せた。
- TRPGのあとで「こういうのが良かったよね」という話題で雑談ができる。それで自然と話せるようになった。
- TRPGを体験してから、前よりも会話することが楽しくなった。
- ゲームの楽しさとは別にほかの子とのやり取り自体が楽しかった。
子どもたちはTRPGに参加することで、いきなり「上手に話せるようになる」わけではありませんし、筆者もそういったことを目的にはしていません。TRPGの中で子どもたちに起きている変化は、「コミュニケーションを教え込んだ結果」ではなく、TRPGの中で「一緒に楽しく遊び語る」経験が積み重なった結果として立ち上がってきたものです。筆者が目指しているのは、コミュニケーションの訓練ではなく、「楽しいから続く」「続くから関係も本人も育っていく」という循環です。活動の共通コンセプトとして「『うまく話すこと』より『楽しく話すこと』を大切に」ということを掲げています。
講演会や研修会でTRPGについての話をすると、ソーシャルスキル・トレーニング(SST)のような活動だと誤解されることがあります。しかしTRPGは訓練型のアプローチとは異なり、物語と役割の中で「やり取りが起きやすい形」を用意し、そこで遊びとしての面白さを損なわずに関係が育っていく活動です。