身につけたいのはスキルではなく、「生き方の力加減」。TRPG活動を通じて子どもの心理的側面が育まれる仕組み(金子総合研究所/東京学芸大学・加藤浩平先生)

ライター:加藤浩平
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筆者は、平日は編集者として発達障害・特別支援の分野に関わり、土日は研究者として発達障害やその傾向のある子ども・若者たちの余暇活動支援に取り組んでいます。その活動の中でも主としている活動の1つが「TRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)」です。今回のコラムでは、「TRPG」がいかに子どもたちの自信を育み、精神的な健康を支える力になるのか、その背景にある心理的な仕組みとともにご紹介します。

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執筆: 加藤浩平
金子総合研究所 所長
東京学芸大学 非常勤講師
博士(教育学)
編集者として自閉症の子どもたちや家族への取材をするいっぽう、研究者として、自閉スペクトラム症(ASD)やその傾向のある子どもや若者たちを対象にした、テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)などを用いた余暇活動支援の実践・研究に取り組んでいる。

TRPGの中で子どもたちが育んでいるもの

ゲームマスター(GM):さて……迷宮の最奥部にたどり着き、ついに目的の財宝を見つけた君たち冒険者の一行だが、財宝の前には「番人」のゴーレム(魔法で動く石像)が立ちはだかっている。
狩人:ゴーレム、キター!(笑)。
GM:ゴーレムは、ゆっくりと腕を振り上げて、君たちに近づいてくる……。
戦士:よし、さっきゲットした「雷撃の剣」で返り討ちだ!
魔術師:がんばれー。骨は拾ってやるぞー。(棒読み口調で)
戦士:(魔術師に)……お前も一緒に戦うんだよ。
魔術師:えー……しょうがないなー。なんか魔法を使うか。
狩人:アタシは後ろから弓矢を撃って援護するよ!
GM:では、まず先制で攻撃できるか決めるので、サイコロを振ってください。
戦士:(GMと戦士役のプレイヤーがお互いサイコロを振る)……よっしゃ、こっちの勝ち!
GM:じゃあ、そちらから攻撃をどうぞ。
戦士:ザコが、粉々にしてくれる。
魔術師:そう言って、この前の冒険で逃げてたのは誰だっけ?
戦士:うるさい。(サイコロを2つ振る)……9だ!
GM:攻撃、命中しました。ゴーレムは3ポイントのダメージを受けたよ。
魔術師:いたそー!
戦士:石像が痛がるのか?(笑)。
狩人:じゃあ、次は自分!「命中値」のアップするスキルを使って弓で攻撃するよ!
魔術師:じゃあ、僕は後ろから回り込んで、お宝だけもらって帰ろうとするよ。
戦士&狩人:お前も戦うんだよ!(言いながら一同笑い)。

筆者が余暇活動の場で実施しているテーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)で、参加者の子どもたちは、ある時は魔術師や戦士といった冒険者になって、古代の財宝を求めてドラゴンや恐ろしい怪物が潜むダンジョン(迷宮)を探検したり、またある時は現代社会で活躍する異能使いや超能力者となって、街の片隅で起きる怪奇現象に立ち向かったり……と、毎回さまざまな物語を、キャラクターを通じて楽しんでいます。

TRPGを通じて、子どもたちが豊かで楽しいコミュニケーションを育んでいることはもちろんですが、同時にTRPG活動の中での体験が子どもたちの「こころ」の成長や発達にも影響を与えていたりもします。たとえば、感情のコントロールやメタ認知、自尊感情、そしてレジリエンスなど……TRPGで子どもたちと関わっていると、子どもの中でそういった心理的側面が自然と発達していることに気づかされます。

スキルの訓練ではなく、「遊び」と「対話」の中で自然に起きること

TRPGなどの余暇活動の場で、筆者が大事にしているのは、コミュニケーションが上手になることなどの「能力の向上」ではなく、もし失敗をしてもやり直せる安心感を持てること、感情が不安定になっても周囲の仲間や自分を信じて気持ちを整え直せること、そして活動の後に「楽しかったな」「また来たいな」と思ってもらえることです。それらの子どもたちの変化は、教え込まれたり訓練されたりして獲得させる「スキル」というより、遊びを続ける中で少しずつ身についていく「生き方の力加減」というものに近いように感じます。

また、誤解のないようにさまざまな場でよく言っているのですが、TRPGは「何かをできるようにさせるための訓練」ではありませんし、TRPGに参加する子どもたちは上手に話す練習をするために集まっているわけでもありません。それでも、遊びを続ける中で、本人が自分なりの対人関係の工夫を見つけたり、失敗しても立て直せるようになったり、「次はこうしてみよう」と前向きに考えたりすることがあります。たとえば、疲れて集中が切れそうになったら少し休憩する、困った時にはほかの人にアドバイスを求めるし、困っている人がいたらサポートする、感情が昂(たかぶ)っても、席を離れて少しクールダウンする――そうした小さな本人なりの「工夫」が積み重なると、結果として自尊感情やQOL(生活の満足感)の向上にもつながっていきます。

ここで、筆者がTRPG活動の場で出会ってきた発達障害の子どもたちの変化の様子について紹介しましょう。なお、紹介する事例は、個人情報保護のため、複数の場面を組み合わせた架空事例となります。

事例その1:失敗を受け止められるようになったコウジさん

コウジさん(仮名)は小学校5年生の男の子で、通級指導教室の担任の紹介をきっかけにTRPG活動に参加しました。活動参加当初のコウジさんは、ゲームの中で自分の思い通りにいかない出来事が起こると強い感情反応を示していました。たとえば、キャラクターの行動の成否を決めるサイコロの出目が悪く、行動が失敗した際には、そのたびに癇癪(かんしゃく)を起こしたり、「もうやめる」と泣き叫んだりする様子が見られました。思い通りに進まない状況を受け止めることが難しく、失敗経験がそのまま強いフラストレーションにつながっていたと考えられます。

しかし、TRPG活動を継続する中で、コウジさんは「行動は失敗することもあるが、成功することもある」という経験を少しずつ積み重ねていきました。その過程で、失敗をただ否定的に捉えるのではなく、ゲームの一部として受け止める様子が見られるようになりました。あるセッションでは、自分のキャラクターの行動が続けて失敗したにもかかわらず、「今日はサイコロの調子が悪いな。別のサイコロに換えてみよう」と自分なりの理屈をつけて状況を捉え、感情を爆発させることなくその場をやり過ごしていました。これは、感情のコントロールや認知的な切り替えが育ってきたことを示す場面であったといえます。

その後、コウジさんは活動中に癇癪を起こしたり泣き出したりすることがほとんどなくなりました。さらに、自分だけでなくほかの参加者にも目を向けるようになり、ほかの子のキャラクターの行動が失敗した際には、「ドンマイ、次はうまくいくって!」と励ましの声をかける姿が見られるようになりました。この事例から、TRPG活動は、失敗を含む不確実な出来事を安全な文脈の中で繰り返し経験することを通じて、感情調整や他者への共感的な関わりを育む可能性があることが示唆されます。
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事例その2:自己表現をきっかけに自信を取り戻したメイカさん

メイカさん(仮名)は中学2年生の女の子で、知的発達の遅れはありませんが、対人関係のぎこちなさや感覚の過敏があり、ASD(自閉スペクトラム症)傾向が指摘されていました。学校での成績は比較的良い一方で、同級生との雑談や距離感の調整が苦手で、母親やスクールカウンセラーに「自分は変だ」「ほかの人みたいにうまく話せない」とこぼしていて、自尊感情が低い状態にありました。他方で、オリジナルの物語を書いたりイラストを描くことを好んでいましたが、それを他者に見せることはありませんでした。

メイカさんは保護者に勧められてTRPG活動に参加しました。当初は緊張が強く、自分から発言することはほとんどありませんでしたが、自作したキャラクターの設定には強いこだわりを見せていました。転機となったのは、TRPGの一場面で、メイカさんのキャラクターがほかのキャラクターを助けた場面でした。周囲の参加者から「助かった!」「ありがとう!」といった肯定的な反応が返されたことで、メイカさんは自分の発言や行動が場に受け入れられる経験を得ました。

その後、メイカさんは徐々に自発的に発言をしたり、ほかの参加者のキャラクターの行動に関心を示したりするようになりました。自分のキャラクターの行動がほかの参加者に肯定的に受け容れられた経験は、本人の不安の軽減につながったと考えられます。さらに後には、自分が参加したTRPGのキャラクターたちを主人公にした創作小説を書いてきて、筆者やほかの参加者たちにも読ませてくれました。メイカさんの事例から、TRPGがASD(自閉スペクトラム症)傾向のある子にとっても安全な自己表現の場となり、自尊感情や自己効力感の回復を支える可能性があることを感じました。

子どもたちの変化の背景にあるTRPGの「3つの構造」

コミュニケーションや集団活動で、対人トラブルを起こしたり、自分に自信がなかったり……と言われている発達障害の子どもたちが、TRPGを通じて、コミュニケーションの面でもそれ以外の面でも、ポジティブな成長を見せている背景には、以下のようなTRPGならではの「構造」が寄与していると筆者は考えています。

1.「柔らかい枠組み」の中での自由な行動選択
TRPGに参加するプレイヤーは、TRPGのルールや世界観という枠組みの中で、進行役のGMが用意した物語に沿いつつ、自由に会話をし、時にストーリーから外れたアドリブなどを楽しむこともできます。ASD(自閉スペクトラム症)の子どもは暗黙のルールの理解が困難と言われますが、ルールが言語で明示されていることで、子どもたちは安心して参加し、その「柔らかい枠組み」の中で自由に行動ができます。

2.明確化された役割
TRPGは「戦士」や「魔術師」といった職業や特技(魔法や超能力などのスキル)によって、物語の中で「役割」が明確化されています。キャラクターごとの特性(長所・短所)で「活躍できる場面」が分かりますし、誰かの得意が別の誰かの苦手を補う形で、自然と役割分担と協力関係が生まれます。

3.キャラクターを介した間接的コミュニケーション
TRPGでは自分で作ったキャラクターを通じて物語の世界に参加します。ですので、もしネガティブな体験をしても、それは自分(プレイヤー)にではなく、そのキャラクターの体験と受け取ることができます。そのため、人前で会話をしたり集団活動に参加したりするのが苦手な子でも、キャラクターという「ワンクッション」があることで比較的行動がしやすくなります。

これらのTRPGに内在する「構造」があることで、発達障害やその傾向がある子であっても、コミュニケーションや集団参加に対するハードルが自然と下がり、活動の中で自尊心を育んでいったり情動調整の成功体験を積み上げていったりできているのではないかと思います。

大事なのは「上手に話すこと」よりも「自分らしく楽しく話せること」

TRPG活動の場で子どもたちがおこなって行っているのは「会話の練習」ではありません。ルールや世界観という柔らかい枠組み、役割の明確さ、キャラクターを介した間接的なやり取りといったTRPGならではの構造の中で、子どもたちは安心して失敗し、やり直し、少しずつ自分なりに対人関係や感情調整のための「工夫」を編み出しています。そのプロセスで育まれているのは、コミュニケーションはもちろんですが、感情を整える力や、うまくいかない時にも立て直す力、そして「自分もここにいてよい」「自分にもできることがある」と感じられる自信です。

こうした実践的な手応えは、研究の結果とも重なります。筆者の研究では、50名ほどのASD(自閉スペクトラム症)の子どもを対象にTRPG活動への参加前後でQOLの値を比較した結果、有意な向上が認められ、とくに精神的健康などの領域では効果量が高かったことを報告しています(加藤・藤野,2016)。
加藤浩平・藤野博(2016)TRPGはASD児のQOLを高めるか?.東京学芸大学紀要. 総合教育科学系 67(2), 215-221.
https://u-gakugei.repo.nii.ac.jp/records/33152
もちろん、こうした変化をすべてTRPGだけの効果として単純に言い切ることはできませんが、少なくとも、TRPGという余暇の場が、発達障害のある子どもたちにとって「安心して参加できる仲間との時間」や「成功と失敗の両方を受け止めてもらえる経験」を提供し、それがQOLの向上につながりうることは示唆されているといえるでしょう。学校や家庭の中では「苦手さ」や「できなさ」が目立ちやすい子どもたちにとって、TRPGのような余暇活動は「うまく話せるようになるための訓練」ではなく、「仲間と一緒に楽しみながら、自分らしく成長していくための大切な場」なのです。
前の記事はこちら
https://h-navi.jp/column/article/35030955
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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