事例その2:自己表現をきっかけに自信を取り戻したメイカさん
メイカさん(仮名)は中学2年生の女の子で、知的発達の遅れはありませんが、対人関係のぎこちなさや感覚の過敏があり、ASD(自閉スペクトラム症)傾向が指摘されていました。学校での成績は比較的良い一方で、同級生との雑談や距離感の調整が苦手で、母親やスクールカウンセラーに「自分は変だ」「ほかの人みたいにうまく話せない」とこぼしていて、自尊感情が低い状態にありました。他方で、オリジナルの物語を書いたりイラストを描くことを好んでいましたが、それを他者に見せることはありませんでした。
メイカさんは保護者に勧められてTRPG活動に参加しました。当初は緊張が強く、自分から発言することはほとんどありませんでしたが、自作したキャラクターの設定には強いこだわりを見せていました。転機となったのは、TRPGの一場面で、メイカさんのキャラクターがほかのキャラクターを助けた場面でした。周囲の参加者から「助かった!」「ありがとう!」といった肯定的な反応が返されたことで、メイカさんは自分の発言や行動が場に受け入れられる経験を得ました。
その後、メイカさんは徐々に自発的に発言をしたり、ほかの参加者のキャラクターの行動に関心を示したりするようになりました。自分のキャラクターの行動がほかの参加者に肯定的に受け容れられた経験は、本人の不安の軽減につながったと考えられます。さらに後には、自分が参加したTRPGのキャラクターたちを主人公にした創作小説を書いてきて、筆者やほかの参加者たちにも読ませてくれました。メイカさんの事例から、TRPGがASD(自閉スペクトラム症)傾向のある子にとっても安全な自己表現の場となり、自尊感情や自己効力感の回復を支える可能性があることを感じました。
メイカさんは保護者に勧められてTRPG活動に参加しました。当初は緊張が強く、自分から発言することはほとんどありませんでしたが、自作したキャラクターの設定には強いこだわりを見せていました。転機となったのは、TRPGの一場面で、メイカさんのキャラクターがほかのキャラクターを助けた場面でした。周囲の参加者から「助かった!」「ありがとう!」といった肯定的な反応が返されたことで、メイカさんは自分の発言や行動が場に受け入れられる経験を得ました。
その後、メイカさんは徐々に自発的に発言をしたり、ほかの参加者のキャラクターの行動に関心を示したりするようになりました。自分のキャラクターの行動がほかの参加者に肯定的に受け容れられた経験は、本人の不安の軽減につながったと考えられます。さらに後には、自分が参加したTRPGのキャラクターたちを主人公にした創作小説を書いてきて、筆者やほかの参加者たちにも読ませてくれました。メイカさんの事例から、TRPGがASD(自閉スペクトラム症)傾向のある子にとっても安全な自己表現の場となり、自尊感情や自己効力感の回復を支える可能性があることを感じました。
子どもたちの変化の背景にあるTRPGの「3つの構造」
コミュニケーションや集団活動で、対人トラブルを起こしたり、自分に自信がなかったり……と言われている発達障害の子どもたちが、TRPGを通じて、コミュニケーションの面でもそれ以外の面でも、ポジティブな成長を見せている背景には、以下のようなTRPGならではの「構造」が寄与していると筆者は考えています。
1.「柔らかい枠組み」の中での自由な行動選択
TRPGに参加するプレイヤーは、TRPGのルールや世界観という枠組みの中で、進行役のGMが用意した物語に沿いつつ、自由に会話をし、時にストーリーから外れたアドリブなどを楽しむこともできます。ASD(自閉スペクトラム症)の子どもは暗黙のルールの理解が困難と言われますが、ルールが言語で明示されていることで、子どもたちは安心して参加し、その「柔らかい枠組み」の中で自由に行動ができます。
2.明確化された役割
TRPGは「戦士」や「魔術師」といった職業や特技(魔法や超能力などのスキル)によって、物語の中で「役割」が明確化されています。キャラクターごとの特性(長所・短所)で「活躍できる場面」が分かりますし、誰かの得意が別の誰かの苦手を補う形で、自然と役割分担と協力関係が生まれます。
3.キャラクターを介した間接的コミュニケーション
TRPGでは自分で作ったキャラクターを通じて物語の世界に参加します。ですので、もしネガティブな体験をしても、それは自分(プレイヤー)にではなく、そのキャラクターの体験と受け取ることができます。そのため、人前で会話をしたり集団活動に参加したりするのが苦手な子でも、キャラクターという「ワンクッション」があることで比較的行動がしやすくなります。
これらのTRPGに内在する「構造」があることで、発達障害やその傾向がある子であっても、コミュニケーションや集団参加に対するハードルが自然と下がり、活動の中で自尊心を育んでいったり情動調整の成功体験を積み上げていったりできているのではないかと思います。
1.「柔らかい枠組み」の中での自由な行動選択
TRPGに参加するプレイヤーは、TRPGのルールや世界観という枠組みの中で、進行役のGMが用意した物語に沿いつつ、自由に会話をし、時にストーリーから外れたアドリブなどを楽しむこともできます。ASD(自閉スペクトラム症)の子どもは暗黙のルールの理解が困難と言われますが、ルールが言語で明示されていることで、子どもたちは安心して参加し、その「柔らかい枠組み」の中で自由に行動ができます。
2.明確化された役割
TRPGは「戦士」や「魔術師」といった職業や特技(魔法や超能力などのスキル)によって、物語の中で「役割」が明確化されています。キャラクターごとの特性(長所・短所)で「活躍できる場面」が分かりますし、誰かの得意が別の誰かの苦手を補う形で、自然と役割分担と協力関係が生まれます。
3.キャラクターを介した間接的コミュニケーション
TRPGでは自分で作ったキャラクターを通じて物語の世界に参加します。ですので、もしネガティブな体験をしても、それは自分(プレイヤー)にではなく、そのキャラクターの体験と受け取ることができます。そのため、人前で会話をしたり集団活動に参加したりするのが苦手な子でも、キャラクターという「ワンクッション」があることで比較的行動がしやすくなります。
これらのTRPGに内在する「構造」があることで、発達障害やその傾向がある子であっても、コミュニケーションや集団参加に対するハードルが自然と下がり、活動の中で自尊心を育んでいったり情動調整の成功体験を積み上げていったりできているのではないかと思います。
大事なのは「上手に話すこと」よりも「自分らしく楽しく話せること」
TRPG活動の場で子どもたちがおこなって行っているのは「会話の練習」ではありません。ルールや世界観という柔らかい枠組み、役割の明確さ、キャラクターを介した間接的なやり取りといったTRPGならではの構造の中で、子どもたちは安心して失敗し、やり直し、少しずつ自分なりに対人関係や感情調整のための「工夫」を編み出しています。そのプロセスで育まれているのは、コミュニケーションはもちろんですが、感情を整える力や、うまくいかない時にも立て直す力、そして「自分もここにいてよい」「自分にもできることがある」と感じられる自信です。
こうした実践的な手応えは、研究の結果とも重なります。筆者の研究では、50名ほどのASD(自閉スペクトラム症)の子どもを対象にTRPG活動への参加前後でQOLの値を比較した結果、有意な向上が認められ、とくに精神的健康などの領域では効果量が高かったことを報告しています(加藤・藤野,2016)。
こうした実践的な手応えは、研究の結果とも重なります。筆者の研究では、50名ほどのASD(自閉スペクトラム症)の子どもを対象にTRPG活動への参加前後でQOLの値を比較した結果、有意な向上が認められ、とくに精神的健康などの領域では効果量が高かったことを報告しています(加藤・藤野,2016)。
もちろん、こうした変化をすべてTRPGだけの効果として単純に言い切ることはできませんが、少なくとも、TRPGという余暇の場が、発達障害のある子どもたちにとって「安心して参加できる仲間との時間」や「成功と失敗の両方を受け止めてもらえる経験」を提供し、それがQOLの向上につながりうることは示唆されているといえるでしょう。学校や家庭の中では「苦手さ」や「できなさ」が目立ちやすい子どもたちにとって、TRPGのような余暇活動は「うまく話せるようになるための訓練」ではなく、「仲間と一緒に楽しみながら、自分らしく成長していくための大切な場」なのです。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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