【星槎大学大学院教授 阿部利彦】「頼る=甘え」じゃない。「援助を求める力」とは、「自分らしくあることを保つための表明」家族・先生・友だちへの援助要請の具体例を解説
ライター:阿部利彦
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「自分一人で頑張らなきゃ」「人に頼るのは甘えだ」――。
真面目で一生懸命なお子さんや保護者の方ほど、そう自分を律して限界を迎えてしまうことがあります。しかし、本当の「自立」とは、何でも一人で完結させることではありません。自分の限界を正しく知り、適切に周囲の力を借りることこそが、自分らしく生き抜くための「最強の防御力」になります。
本稿では星槎大学大学院の阿部利彦先生に、「生きるための多層的なコミュニケーション」としての援助要請スキルについて紐解いていただきました。(編集部)
執筆: 阿部利彦
星槎大学大学院教育実践研究科 教授
長年にわたり発達障害のある子どもとその家族の相談支援に携わるとともに、全国各地で講演会や研修会の講師を多数務めている。近年は「誰もが安心して学べる場づくり」を大切にし、教育現場のユニバーサルデザイン化や発達が気になる子どもの「強み」に着目した支援など、多様性を尊重した教育実践の推進に取り組んでいる。
自分の限界を正しく知り、適切に周囲の力を借りることこそが、自分らしく生き抜くための「最強の防御力」
「自分一人で頑張らなきゃ」「人に頼るのは甘えだ」――。
真面目で一生懸命なお子さんや保護者の方ほど、そう自分を律して限界を迎えてしまうことがあります。しかし、本当の「自立」とは、何でも一人で完結させることではありません。自分の限界を正しく知り、適切に周囲の力を借りることこそが、自分らしく生き抜くための「最強の防御力」になります。
本稿では星槎大学大学院の阿部利彦先生に、「生きるための多層的なコミュニケーション」としての援助要請スキルについて紐解いていただきました。
真面目で一生懸命なお子さんや保護者の方ほど、そう自分を律して限界を迎えてしまうことがあります。しかし、本当の「自立」とは、何でも一人で完結させることではありません。自分の限界を正しく知り、適切に周囲の力を借りることこそが、自分らしく生き抜くための「最強の防御力」になります。
本稿では星槎大学大学院の阿部利彦先生に、「生きるための多層的なコミュニケーション」としての援助要請スキルについて紐解いていただきました。
「援助を求める力」について大切にしたいこと
「援助を求める力」とは「問題を解決するために、適切な相手の力を借りながら、最終的には自力解決するための技術」(阿部,2025)だと捉えています。 一般には「援助要請スキル」と呼ばれているものです。「援助要請」とは、単なる「質問の技術」ではありません。自分の状態を客観的に捉えるメタ認知能力であり、トラブルが深刻化する前に自分を守るための最強の防御力です。
ソーシャルスキルをはじめとしたこのような「コミュニケーションスキル」については、スキルを持っている子とそうでない子、というように分けて捉えられる傾向があります。さらに、支援者としては「スキルを持っている子の方が優れている」「不足しているスキルを身につけさせなければ」などと考えがちです。
とはいえ、ここで私が目指しているのは、子どもたちに特定の『正しいとされる形』を強いることではありません。私の考える「援助を求める力」とは、『自分の限界を知り、自らの心地よさを自分で守るための表明』とも言えるものです。
ですから、もし目の前のお子さんが今はそのスキルを発揮することを必要とせず、今の在り方で満たされているのであれば、それを見守り、尊重することもまた、支援者の重要な役割であると考えています。決して支援が『押し付け』にならないよう、常に本人のウェルビーイング(幸せ)を中心におくことを忘れないようにしたいものです。
ソーシャルスキルをはじめとしたこのような「コミュニケーションスキル」については、スキルを持っている子とそうでない子、というように分けて捉えられる傾向があります。さらに、支援者としては「スキルを持っている子の方が優れている」「不足しているスキルを身につけさせなければ」などと考えがちです。
とはいえ、ここで私が目指しているのは、子どもたちに特定の『正しいとされる形』を強いることではありません。私の考える「援助を求める力」とは、『自分の限界を知り、自らの心地よさを自分で守るための表明』とも言えるものです。
ですから、もし目の前のお子さんが今はそのスキルを発揮することを必要とせず、今の在り方で満たされているのであれば、それを見守り、尊重することもまた、支援者の重要な役割であると考えています。決して支援が『押し付け』にならないよう、常に本人のウェルビーイング(幸せ)を中心におくことを忘れないようにしたいものです。
援助を求めることは「依存」ではない
また、援助要請スキルは、単なる依存行動ではなく、自己決定的に行動し、自己の成長を志向する自立性の一部だと考えます。「依存」は、自己調整学習や主体的問題解決を阻害してしまいますが、自立型の援助要請は自己成長や社会的適応を促進していきます。自立型の援助要請スキルがある人は、さまざまな問題に圧倒されず、問題となっている状況と一定の距離を保ちつつ、必要な時にだけ他者の力を借りることができるのです。
援助要請の具体
「援助要請スキル」について、「なんとなくイメージはできるけれど、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?」と聞かれることがあります。そこで、いくつかの具体例をご紹介します。
家族への援助要請(情緒的・基盤的サポート)
- 情緒的・受容的要請: 「今日いやなことがあった」「悲しかった」と、感情をそのままアウトプットし、共感や慰めを求める。
- 生活・環境調整の要請: 「学校に行きたくない」「朝になると、体が動かない」といった、登校や生活リズムに関する切実な限界を訴える。
- 物理的・資源的要請: 忘れ物を届けてもらう、必要な文房具を買ってもらうなど、学習を支える物理的なリソースを求める。
先生への援助要請(道具的・解決的サポート)
- 学習に関する要請: 「解き方が分からない」「ヒントがほしい」など、学習上の行き詰まりを解決するための情報を求める。
- 環境調整の要請(合理的配慮): 「音がうるさくて集中できない」「席を替えてほしい」「時間内に終わらないので課題の量を減らしてほしい」など、バリアを取り除くための交渉を行う。
- 安全確保・対人関係に関する要請: 「トラブルに巻き込まれた」「いじめられている」など、自分の力では及ばない対人関係の解決や安全の保障を求める。
- 承認・確認の要請: 「これで合っているか?」「このまま進めてよいか?」という、見通しを立てるための確認を行う。
友だちへの援助要請(共生的・社会的サポート)
- 協働的要請: 「一緒にやって」「ここを教えて」「半分持って」など、作業を分担してもらいながら、協働でゴールを目指すための協力要請を行う。
- モデル(見本)の要請: 「ノート見せて」「どうやったか見せて」と、同年代のモデルを参考にすることで、自分の立ち位置を確認する。
- 社会的確認の要請: 「みんなはそう思わない?」「みんなはどうしてる?」と、集団の中での「正解」や「安心」を確認する。
- 遊び・余暇の共有: 「いれて」「一緒に遊ぼう」という、集団への所属を求める要請を行う。
我々支援者が子どもの「援助要請をキャッチ」し、支援を行う際に、以下のような視点で「今、この子はどのカテゴリーの、どんな助けを求めているのか」について捉え直してみると、具体的支援が見えやすくなります。例を挙げてみましょう。
このように整理してみることで、「援助要請=依存」という狭い解釈から、「援助要請=生きるための多層的なコミュニケーション」という豊かな捉え方へと我々の認識をリフレーミングすることができるのではないか、そう私は考えています。
- 家族に言うべきこと(情緒)を先生にぶつけてしまっていないか?
- 先生に言うべきこと(環境調整)を友だちに求めてトラブルになっていないか?
- 友だちに言うべきこと(協力)を一人で抱え込んで孤立していないか?
このように整理してみることで、「援助要請=依存」という狭い解釈から、「援助要請=生きるための多層的なコミュニケーション」という豊かな捉え方へと我々の認識をリフレーミングすることができるのではないか、そう私は考えています。