子育ての孤立を防ぐ「伴走する支援」とは?市民公開プログラム情報も【会頭・濱﨑考史先生に聞く/第73回日本小児保健協会学術集会】

ライター:発達ナビ【編集部Eye】
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2026年6月19日(金)~21日(日)に、大阪市中央公会堂にて「第73回日本小児保健協会学術集会」が開催されます。今大会のテーマは「みんなで育む子どもの未来」です。
今回は、今大会の会頭を務める濱﨑考史先生(大阪公立大学大学院医学研究科 発達小児医学 教授)にお話を伺いました。「指摘ではなく伴走する支援」のあり方や、「困った子」ではなく「特性ゆえに困っている子」という視点への転換など、家庭や地域で子どもたちの育ちをどう見守っていくべきか、語っていただきました。

目次

2026年6月19日(金)~21日(日)に、大阪市中央公会堂にて「第73回日本小児保健協会学術集会」が開催。会頭・濱﨑考史先生にお話を伺いました。

2026年6月19日(金)~21日(日)に、大阪市中央公会堂にて「第73回日本小児保健協会学術集会」が開催されます。今大会のテーマは「みんなで育む子どもの未来」です。

発達が気になる子育てにおいて、「専門家に何か指摘されるのではないか」と不安を抱え、孤立してしまう保護者の方は少なくありません。本大会では、そうしたご家族を支えるため、医療の枠を超えて教育や地域社会と連携し、社会全体で子どもを包み込む仕組みづくりが議論されます。

今回は、今大会の会頭を務める濱﨑考史先生(大阪公立大学大学院医学研究科 発達小児医学 教授)にお話を伺いました。「指摘ではなく伴走する支援」のあり方や、「困った子」ではなく「特性ゆえに困っている子」という視点への転換など、家庭や地域で子どもたちの育ちをどう見守っていくべきか、語っていただきました。
第73回日本小児保健協会学術集会
第73回日本小児保健協会学術集会
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大会テーマに込めた想い

LITALICO発達ナビ編集部(以下――)今回のテーマ「みんなで育む 子どもの未来」には、多職種連携への強いメッセージを感じます。孤立しがちな発達が気になる子どもの保護者に対して、本大会を通じてどのような「支え」の形を提示したいとお考えでしょうか?

濱﨑考史先生(以下、濱﨑):このテーマには、小児医療が病院の壁を越え、保健、福祉、教育、そして行政や地域住民、さらには次世代を担う学生たちまでが手を取り合い、社会全体で子どもたちを包み込むという強い決意を込めています。小児保健の課題は、虐待、貧困、不登校、ゲーム依存など非常に多様化しています。これらは医師一人の力で解決できるものではありません。大阪公立大学小児科学教室(発達小児医学)は1944年の開講以来、築いてきた伝統を礎に、「顔の見える関係」で多職種が繋がり、一人の子どもの命と成長を「みんなで」守り抜く姿を、この大阪の地から発信したいと考えています。

――発達が気になる子どもの保護者へ提示したい「支え」の形はどのようなものが考えられますか?

濱﨑:孤立しがちな保護者の皆さまに対し、本大会を通じて私たちが提示したい「支え」の形は、主に以下の3点です。

  • 「指摘」ではなく「伴走」する支援(ポピュレーションアプローチの深化)
  • 「医療モデル」から「地域・生活モデル」への転換
  • 「子どものこえ」を軸にしたアドボカシー(権利擁護)の輪

1.「指摘」ではなく「伴走」する支援(ポピュレーションアプローチの深化)
保護者が「何かを指摘される、指導される」と感じてしまうと、かえって本当の悩みを隠し、孤立を深めてしまうことがあります。本大会の基調講演でも触れられるように、私たちは「誰にでも関わっている、誰にでも支援している」というスタンスを大切にします。例えば、大阪で社会実装を進めている「5歳児健診」は、単なる健康診断ではなく、就学という大きな節目において、医療と教育が連携して保護者の不安を早期に解消し、子どもたちの「普通の生活」を支えるための重要な伴走の機会です。

2.「医療モデル」から「地域・生活モデル」への転換
医療的ケアや発達の特性がある子どもの支援を、病院の中だけの「医療モデル」にとどめるのではなく、家庭や学校、地域での暮らしを中心とした「生活モデル・地域モデル」へと広げていきます。10年以上続けてきた在宅支援の人材育成プログラムや、2027年に開設予定の「医療的ケア児外来」などは、まさに専門医療が地域へと滲み出し、保護者が「一人ではない」と実感できる体制を構築するための挑戦です。

3.「子どものこえ」を軸にしたアドボカシー(権利擁護)の輪
保護者が抱える孤独を和らげるには、医療者だけでなく、社会の温かい眼差しが必要です。本教室が長年続けている「ベッドサイドボランティア」や「サンタパレード」では、学生たちが「近所のおにいちゃん・おねえちゃん」として子どもたちに寄り添います。また、「こども本の森 中之島」での「すくすくの森相談室」のように、専門知識を親しみやすい形で地域に届ける活動も展開しています。こうしたアドボカシー活動の輪を広げることが、保護者にとって「社会が自分たちを見守ってくれている」という安心感(支え)に繋がると信じています。

本集会が、多職種・多機関が「顔の見える関係」を築き、子どもたちとご家族のために明るい未来を創生する確かなきっかけとなることを願っております。

気になる発達や「困りごと」への向き合い方と、医療・生活の両輪での関わり

――子どもの発達に気になる点や困りごとがある場合、すべてを「治療・矯正すべきこと」と捉えるのではなく、医療が必要な場面と、家庭や社会での関わり方をどう整理していくべきか、多くのお子さんを診てこられた医師としての視点から大切だと考えられていることを教えてください。

濱﨑:子どもの発達における気になる点や「困りごと」に向き合う際、医療が担うべき専門的な役割と、家庭や地域社会が担う生活の支えをどのように整理し、統合していくべきか。多くの臨床経験と研究を経て私が大切だと考えている視点は、主に以下の3点に集約されます。

  • 「医療モデル」から「生活・地域モデル」へのパラダイムシフト
  • 医療の役割:早期の「気づき」と「先端研究」による選択肢の提示
  • 関わり方の姿勢:「指摘」ではなく「伴走」する

1. 「医療モデル」から「生活・地域モデル」へのパラダイムシフト
これまでの小児医療は、病気や障害を「治すべき対象」と捉える「医療モデル」が中心でした。しかし、発達の特性や医療的ケアが必要な子どもたちにとって、医療はあくまで「普通の生活」を支えるための手段の一つです。大切なのは、病院完結型の支援から、家庭や学校、地域での暮らしを基盤とした「生活モデル・地域モデル」へと視点を移すことです。例えば、日常の入浴や更衣、遊びの工夫、適切なポジショニングなどは、それ自体が子どもの発達を促す重要な「ケア」であり、多職種が連携してこれらを支えることで、ご家族の自信と子どもの育ちが共創されます。

2. 医療の役割:早期の「気づき」と「先端研究」による選択肢の提示
医療が必要な場面とは、エビデンスに基づいた客観的な評価と、未来の選択肢を増やすための介入を行う時です。

・適切なスクリーニングと評価: 新生児マススクリーニングや、私たちが大阪で社会実装を推進している「5歳児健診」は、就学という大きな節目に、子どもの特性を早期に捉え、適切な環境調整(合理的配慮)に繋げるための重要な接点です。
・新しい治療法の開発: ASD(自閉スペクトラム症)に対する臍帯血を用いた細胞治療など、先端研究を通じて「新しい治療の選択肢」を創り出すことは大学病院の責務です。これにより、困難な症状に悩む子どもたちとご家族に「希望と安心」を届けたいと考えています。

3. 関わり方の姿勢:「指摘」ではなく「伴走」する
保護者にとって、専門家から「何かを指摘される、指導される」と感じることは、時に孤立を深める原因となります。
誰にでも関わるスタンス: 基調講演でも触れられるように、「あなたに問題があるから支援する」のではなく、「誰にでも関わり、誰にでも面談している」というポピュレーションアプローチの姿勢が、相談のハードルを下げます。

「困った子」ではなく「困っている子」: 不登校や行動問題の背景には、本人の怠けではなく、感覚過敏や情報の処理の苦手さといった「特性による困りごと」が隠れている場合があります。大人がこの視点を持つことで、叱責ではなく、指示の具体化や環境調整といった具体的な「支え」が可能になります。

繰り返しになりますが、最終的に大切なのは、大人の都合で「矯正」することではなく、子どものアドボカシー(権利擁護)、つまり子どもの「こえ」に耳を傾けることです。 当教室が長年続けている「ベッドサイドボランティア」では、学生が「近所のおにいちゃん・おねえちゃん」として、病名ではなく「一緒に遊びたい一人の子ども」として向き合います。 医療、保健、福祉、教育、そして地域住民が「顔の見える関係」で繋がり、一人の子どもの命と成長を「みんなで」楽しみながら見守っていく。そんな明るい未来の創生こそが、小児保健の真髄であると信じています。

社会課題(不登校・虐待・ゲーム障害等)への包括的アプローチ

――今大会では「ゲーム障害」など、現代特有の困難も議論されます。発達に特性のある子がこうした二次的な課題を抱えないために、本学術集会ではどのような支援の在り方が模索されているのでしょうか?

濱﨑:現代の子どもたちが直面する不登校、虐待、ゲーム障害(ゲーム依存)といった課題は、非常に複雑かつ多様化しており、もはや医療だけで解決できるものではありません。本学術集会では、発達に特性のある子がこれらの二次的な困難を抱えないために、「視点の転換」と「多職種による切れ目ない伴走」という2つの大きな支援の在り方を模索しています。

  • 「困った子」ではなく「困っている子」という視点への転換
  • 「5歳児健診」を起点とした教育・行政との強力な連携
  • リスクを見逃さない「ハイリスクアプローチ」の充実
  • 子どもの「こえ」を聴くアドボカシーの精神

1. 「困った子」ではなく「困っている子」という視点への転換
二次的な課題の多くは、本人の特性と周囲の環境や対応とのミスマッチから生じます。本集会のイブニングセミナーでも議論されるように、不登校や暴言などの「問題行動」を、単なる「甘えや怠け」として捉えて叱責やルールの強制で解決しようとすると、かえって事態を悪化させ、二次障害を引き起こしてしまいます。 私たちは、その行動の背景にある感覚過敏や見通しの持てなさ、情報処理の苦手さを正しく理解し、大人が「困った子」という見方から「特性ゆえに困っている子」という視点に立つことを重視しています。この理解に基づいた環境調整や指示の具体化こそが、子どもたちの自尊心を守り、不登校や依存への入り口を塞ぐ鍵となります。

2. 「5歳児健診」を起点とした教育・行政との強力な連携
二次的課題を未然に防ぐための具体的な戦略として、大阪でも社会実装を進めている「5歳児健診」に注目しみんなで壁をのりこえるためのシンポジウムをおこないます。それに加えて、日本小児保健協会の「健やか親子21・成育医療等基本方針推進委員会」は、5歳児健診を単なる健康確認の場ではなく、こどものウェルビーイング(Well-being)を高める機会とするための提言をまとめ、パネルディスカッションをおこないます。

・「ひっそりさん」の早期発見: 集団生活で目立ちにくいものの、就学後に学習不振や友人関係で困難を抱えやすい「ひっそりさん(多動性のないASDや境界知能など)」を就学前に見つけ出し、適切な支援を開始することを目指しています。

・医療・教育コーディネーターの役割: 医療機関に元教員などを「医療教育コーディネーター」として配置し、学校現場と医療の「顔の見える架け橋」となることで、就学後の不適応を未然に防ぐ先駆的な取り組みも紹介されます。

3. リスクを見逃さない「ハイリスクアプローチ」の充実
虐待や貧困といった、より深刻な社会的リスクに対しては、地域の保健師や児童相談所、学校と密に連携するハイリスクアプローチの強化を議論します。一人の子どもの「防ぎ得た死」を多職種で検証するチャイルド・デス・レビュー(CDR)の検討もその一環であり、一歩踏み込んだ支援体制を構築することで、悲劇の連鎖を断ち切るエビデンスを創出していきます。

4. 子どもの「こえ」を聴くアドボカシーの精神
最終的に、子どもたちが孤立しないために最も大切なのは、大人の都合を押し付けるのではなく、子どもの「こえ(意思や願い)」を真ん中に置くことです。 本集会では、学生たちが取り組むベッドサイドボランティアやサンタパレードを通じて、病名や特性ではなく「一人の子ども」として向き合うアドボカシー(権利擁護)活動についても深く掘り下げます。子どもが「自分は大切にされている」と実感できる社会のつながりこそが、あらゆる社会課題に対する最強の防波堤になると信じています。

多様な専門職が大阪に集い、それぞれの知恵を出し合うことで、子どもたちが自分らしく輝ける「明るい未来の創生」に向けた確かな指針を提示したいと考えています。

大会の見どころと保護者へのメッセージ

――今大会の数あるプログラム(特別講演やシンポジウムなど)の中で、特に「子育ての現場」にいる方々に知ってほしいトピックや、濱﨑先生が個人的に注目されているポイントを教えてください。

濱﨑:今大会では、一般の方々も無料で参加できる「市民公開プログラム」が充実しており、子育てに直結する以下の3つのトピックが大きな見どころです。

・災害時における特性のある子どもへの支援: 2026年6月20日(土)に開催されるシンポジウム5では、「災害時の子ども支援を学ぶ・話す・つながる」をテーマに、発達に特性のある子どもと家族を支える方法について、専門家や災害を経験した当事者が語り合います。

・難病児のサポートと学生による「アドボカシー」: 6月21日(日)の特別企画では、病気と闘う子どもたちの「生きる」を支えるために、学生たちがどのような活動(アドボカシー:権利擁護・代弁)を行っているかが紹介されます。これには、大阪・関西万博でも展示された「ランプシェード制作」を通じた子どもたちへの寄り添いなどの活動が含まれます。

・親子で学ぶ「いのち」の大切さ: 6月21日(日)の市民公開講座では、「親子落語会」が開催されます。落語家の桂あやめ氏を迎え、落語を通じて「いのち・からだ・心の大切さ」を楽しく伝える内容となっており、助産師もパネリストとして参加して、誰もが自分らしく安心して子育てできる地域づくりについて考えます。

一般の方に注目してもらいたいポイント
本集会では、学術的な議論にとどまらず、「学会を『あかるく』盛り上げる」ことを大切にしています。そのための象徴的な取り組みとして、以下の点に注力しています。
学生と地域団体の力を取り入れた活気ある会場作り: 病気の子どもたちに笑顔を届ける「サンタパレード(OSAKAあかるクラブ)」や、医学生による活動を知って抱きたいと思っています。

体験型ブースの設置: 単なる講演だけでなく、会場入口に設置される「サンタパレード・ブース」でのゲーム体験や、「ランプシェード・ブース」でのワークショップなど、参加者が実際に見て、触れて、楽しめる場を設けることで、子どもたちや保護者が笑顔になっていただきたく存じます。

これらの活動を通じて、学生が活躍する場を広げるとともに、学会全体が子どもたちの未来を明るく照らす一助となることを期待します。

「みんな」で支え合うことの重要性

「『困った子』ではなく『困っている子』という視点を持つこと」、そして「指摘ではなく伴走すること」。先生のお言葉は、日々の育児で戸惑いや孤独を感じている保護者の方にとって、肩の荷が下りるような大きな安心感に繋がったのではないでしょうか。子どもの育ちを家庭や医療の中だけで抱え込むのではなく、教育や地域社会、そして学生ボランティアを含めた「みんな」で支え合うことの重要性を改めて実感しました。

「第73回日本小児保健協会学術集会」では、専門家向けの学術的なプログラムだけでなく、一般の方も無料で参加できる「市民公開プログラム」が充実しています。災害時の支援について考えるシンポジウムや、学生たちが企画する体験型ブースなど、親子で楽しみながら「みんなで育む未来」を体感できる貴重な機会です。ぜひ、会場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。

学会概要

『第73回日本小児保健協会学術集会』
  • 会頭:濱﨑考史 先生(大阪公立大学大学院医学研究科 発達小児医学 教授)
  • 日時:令和8(2026)年6月19日(金)~21日(日)
  • 会場:大阪市中央公会堂(〒530-0005 大阪市北区中之島1丁目1番27号)
  • テーマ:みんなで育む子どもの未来
※ボタンをクリックすると第73回日本小児保健協会学術集会公式Webサイトに遷移します
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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