ASD(自閉スペクトラム症)と自律神経不全。睡眠や便秘とのつながり
ところで、感覚過敏や鈍麻が診断項目の1つとなっているASD(自閉スペクトラム症)の人では、自律神経系に関する問題が多くみられることが知られています。
イギリスのグループによる研究では、28名のASDの人において、7割以上にのぼる20名で何らかの自律神経系の不全による疾患がみられました。起立性低血圧症のほか、めまいや多汗症など症状は多岐にわたったほか、複数の疾患を併発している方もいらっしゃいました。
前回、ASDの人では、睡眠に重要なメラトニンの分泌に問題がみられる場合が多いことをお伝えしました。
イギリスのグループによる研究では、28名のASDの人において、7割以上にのぼる20名で何らかの自律神経系の不全による疾患がみられました。起立性低血圧症のほか、めまいや多汗症など症状は多岐にわたったほか、複数の疾患を併発している方もいらっしゃいました。
前回、ASDの人では、睡眠に重要なメラトニンの分泌に問題がみられる場合が多いことをお伝えしました。
【専門家解説】ASDの感覚過敏を「脳の視点」から紐解く!最新研究から迫るこれからの支援や適切な対処(杏林大学・渥美剛史先生)
私たちが覚醒するには、目から入る光が、交感神経の作用を介して、メラトニンの分泌を低下させることが重要です。自律神経系の機能不全は睡眠にも影響を及ぼしかねないことは、想像に難くありません。
3,335名のASDのお子さん(17ヶ月〜17歳)を対象にした調査では、睡眠の問題を抱えている子は便秘である場合が多くみられました(Neumeyer et al., 2019)。消化管も、交感神経と副交感神経の二重支配を受けています。6歳未満のお子さんでは、便秘と不安症との関連もみられたといいます。自律神経系と不安との関連もよく知られており、不安を抱えやすい人では、筋肉の緊張や神経の高ぶりなどを感じることがあります。
3,335名のASDのお子さん(17ヶ月〜17歳)を対象にした調査では、睡眠の問題を抱えている子は便秘である場合が多くみられました(Neumeyer et al., 2019)。消化管も、交感神経と副交感神経の二重支配を受けています。6歳未満のお子さんでは、便秘と不安症との関連もみられたといいます。自律神経系と不安との関連もよく知られており、不安を抱えやすい人では、筋肉の緊張や神経の高ぶりなどを感じることがあります。
「いつも覚醒レベルが高い」状態が、過敏さを引き起こす?
自律神経系がさまざまな身体の疾患にかかわることは分かりました。またどうやら、深呼吸に自律神経系を介して気分をリラックスさせる効果があったり、不安とも関連していそうであったりと、私たちの気持ちや認識にも影響を与えていそうなことが伺えます。自律神経系は、感覚や知覚の鋭敏さとどうかかわっているのでしょうか?
私と数年来、研究を共にしてくださっている関西医科大学・松島佳苗先生のご研究では、ASDのお子さんの感覚特性と心拍との関係を調べておられます(Matsushima et al., 2016)。
私と数年来、研究を共にしてくださっている関西医科大学・松島佳苗先生のご研究では、ASDのお子さんの感覚特性と心拍との関係を調べておられます(Matsushima et al., 2016)。
この研究では、3〜12歳のASDのお子さん37名と、比較対象となるお子さん32名において、心拍変動の高周波成分を計測しました。高周波成分は自然な生理現象である「呼吸性洞性不整脈」を反映しており、したがってその観察から、副交感神経系である迷走神経の活動を評価することができます。ここでは、日常における感覚の問題を短縮版・感覚プロファイルで評価しました。心拍計測の結果、ASDのお子さんでは対照群と比べて迷走神経活動が低いことが分かりました。また、迷走神経の活動が低いASDのお子さんほど、感覚プロファイルで評価した視覚や聴覚の過敏スコアが高いことが示されました。ASDのお子さんでは、副交感神経による鎮静の逆、すなわち覚醒レベルが高いことが、感覚刺激への強い反応につながっているのかもしれません。
ここでの過敏性は質問紙で評価したものでしたが、交感神経の活動が刺激の処理精度の高さ(刺激の感じとりやすさ)に関わっていることを示す研究もあります。一般に、嫌なものを見たときの表情(嫌悪顔)を前にすると、その顔を見た人の心拍数が増加するなど、生理的な反応が生じます。このように覚醒レベルが上昇した状態では、空間的認知の精度が向上します(Allen et al., 2016)。
ここでの過敏性は質問紙で評価したものでしたが、交感神経の活動が刺激の処理精度の高さ(刺激の感じとりやすさ)に関わっていることを示す研究もあります。一般に、嫌なものを見たときの表情(嫌悪顔)を前にすると、その顔を見た人の心拍数が増加するなど、生理的な反応が生じます。このように覚醒レベルが上昇した状態では、空間的認知の精度が向上します(Allen et al., 2016)。
私たちの研究では、嫌悪顔を見ることがASDの人の認知能力に与える影響を分析しました(Chakrabarty et al., 2021)。この研究では、刺激の知覚に必要な最小の時間の長さを調べるという、「時間的認知の精度(変化をどれだけ素早く察知できるか)」を分析しました。その結果、ASDの人では、嫌悪顔の呈示条件では、そうでない条件より短い時間でも知覚できるようになりました。実際に心拍などを計測しているわけではないのですが、生理的な覚醒レベルの上昇が、刺激への時間的な過敏さを引き起こすことが伺えました。
私たちのもっと最近の研究では、同じ時間認知の測定中にMRIを使って脳活動を計測し、不安の高さとの関連を調べました(Atsumi et al., 2025)。ここでは怖いものを見たときの表情(恐怖顔)を呈示しました。その結果、ASDの人における時間認知に関係する脳部位の活動は、不安の高さを介して、感覚プロファイルで評価した過敏性スコアを高めることが示唆されました。
酷暑の夏、大人ができる「環境の調整」と社会モデル的対処
これまで、気候の大きな変化は、自律神経系に問題を抱える人には身体の不調につながりうることを論じてきました。いわゆる健常な人でも、自律神経系の変動は刺激への敏感さにつながりそうです。ASDのお子さんのような自律神経系の困りごとを抱えがちな人は、外界の変化の影響を受けやすく、その感覚過敏への影響も疑われます。大きく気候が変わる季節、どんなことに気をつければよいでしょうか?
子どもは大人より適温の許容範囲が広く、我慢できてしまうことは先述のとおりです。では感覚過敏の多いASDの人では、暑さに敏感かというと、どうもそうでも無さそうです(Casterman et al., 2024)。子どもが暑さのシグナルを送ることにはあまり期待せず、大人が注意して見てあげていることが肝要です。
子どもは大人より適温の許容範囲が広く、我慢できてしまうことは先述のとおりです。では感覚過敏の多いASDの人では、暑さに敏感かというと、どうもそうでも無さそうです(Casterman et al., 2024)。子どもが暑さのシグナルを送ることにはあまり期待せず、大人が注意して見てあげていることが肝要です。
日差しからの防御は、これは感覚過敏にかかわらず、あまねく人に対策が求められます。お子さんにサングラスを着用することに躊躇する方もいらっしゃるかもしれません。大事なのは色の濃さでは無く、紫外線のカット率です。アメリカ眼科学会のサイトでは、100%カットのものがベストで、UV400(400nmまでの光を吸収)も可、としています。こちらのサイトでは、帽子の着用も勧めています。
このほか気圧は、なかなかコントロールが難しそうです。また、外的要因に影響を受けた自律神経系のバランスも、簡単に調整はできないでしょう。と、なれば、過敏が強いだとか、なかなか起床できない、お腹が痛いなど不調がみられる日には無理をしない/させないことも重要です。近年では、学校での始業時間を遅らせるといった、児童の体調に配慮した調整を導入する向きもあります。こうした、子どもに合わせて環境を調整する、社会モデル的な対処がもっと広がると良いですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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