【専門家解説】暑さに気づきにくいASDの子を守るには?過敏さと自律神経不全から考える「夏の環境調整」(杏林大学・渥美剛史先生)

ライター:渥美剛史
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年々暑さが厳しさを増し、40℃以上を指す「酷暑日」という新たな言葉も生まれた夏の季節。多様な感覚特性のある子どもたちは、暑さに気づきにくかったり、気温や気圧の変化によって自律神経の不調をきたしやすいことをご存知でしょうか?強烈な日差しや過酷な気候変動は、想像以上に子どもたちの感覚の世界に大きな影響を与えています。夏の気候が子どもの感覚に影響を与えるメカニズムから、大人ができる具体的な環境調整まで、杏林大学・渥美剛史先生が最新の知見を交えながら解説します。(編集部)

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執筆: 渥美剛史
杏林大学 医学部 病態生理学教室 助教
ASD(自閉スペクトラム症)など発達障害の感覚や運動について、そのメカニズムや評価方法などを科学的な視点から研究しています。主に心理学的な手法や、動物、脳画像解析を用いた基礎研究に取り組んでいます。

40℃以上が「酷暑日」に。大人が気づきにくい子どもの「温度感覚」

今年も暑い季節がやってきました。
近年、気象災害が激甚化するなか、夏季を中心に40℃を超える日もざらにみられるようになりました。これまで、35℃以上の日を猛暑日と呼んでいましたが、このほど気象庁は、40℃以上の日を「酷暑日」と定め、高温への一層の警戒を促しています。高温多湿が熱中症のリスクも上昇させる季節、多様な感覚特性のある子どもには、特段の注意が必要でしょう。
そもそも、子どもの感覚は大人のそれとは異なります。
2022年の夏、私の地元である神奈川県で、1歳と2歳のお子さんが車内に放置され亡くなるという痛ましい事故が起こりました。私もよく遊びに行っていた公園での出来事だったので、大変驚きました。車内はかなりの高温だったようです。もう少し年齢が上のお子さんなら、異常な室温の上昇に気づいて車外へSOSのシグナルを送ることができたのでしょうか?
おそらく、かなり年齢が上がらないと、そうした危機回避は難しかったでしょう。子どもが快適に感じる室温の違いを調べた、興味深い研究があります(Chen et al., 2022)。
参考文献:Chen, W., Deng, Y., & Cao, B. (2022). An experimental study on the difference in thermal comfort perception between preschool children and their parents. Journal of Building Engineering, 56.
https://doi.org/10.1016/j.jobe.2022.104723
上記の研究では、体温の調節機能が未成熟で、かつ自分でエアコンを操作することが難しいような3〜6歳の児童とその親御さんとを対象としました。その結果、子どもの適温は20.1℃、大人では22.3℃であり、子どもでは許容できる室温の範囲がより広いことが分かりました。就学前のお子さんでは、温熱環境に対する耐性が強いことが知られており、不快な温度でも我慢できてしまうようなのです。自分の内面を言葉にして表現することもおぼつかないなか、大人が子どもに、温度上昇への気づきにあまり期待するのは禁物です。

20年前より地球は明るい?気候変動で増す日差しのまぶしさ

強い紫外線は白内障のリスクにもつながる
強い紫外線は白内障のリスクにもつながる
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10410003333
視覚の感覚過敏のある方には、屋外はとてもまぶしく感じられることがあるそうで、サングラスでしのいでいるケースもままみられます。ただ、強い日差しはさまざまな人にとって危険です。近頃の屋外のまぶしさには、私自身も辟易しています。
気候変動は、私たちを取り巻く感覚環境にも変化を及ぼします。20世紀に入って、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが劇的に増加しました。こうした環境変化は、地球に降り注ぐ太陽光を遮るはたらきにも影響を与えます。1999年から2017年までの地球照(地球が太陽光を反射して月を照らす明るさ)の観測記録を分析した研究では、太陽光の反射能がこの間に半減していることを報告しています(Goode et al., 2021)。
つまり、現在の地球は、20有余年前と比べ、より多くの太陽エネルギーを取り込んでいる過酷な世界になっているのです。ギラギラと日光が照りつける夏、強い紫外線は白内障のリスクにもなります。感覚過敏に悩む人にとって現代の日差しの辛さとは如何ほどのものだろうか、と案じてしまいます。
参考文献:Goode, P. R., Pallé, E., Shoumko, A., Shoumko, S., Montañes‐Rodriguez, P., & Koonin, S. E. (2021). Earth’s Albedo 1998–2017 as Measured From Earthshine. Geophysical Research Letters, 48(17).
https://doi.org/10.1029/2021GL094888

「気象病」と血圧の変化。知っておきたい自律神経の仕組み

一年のなか、春から夏にかけて気候が大きく変わることは、特殊な感覚特性のある人にはどのような影響を及ぼすでしょう?もちろん、日差しの強さだけでなく、高い気温や湿度、気圧変化につらさを覚える方もいらっしゃるでしょう。感覚過敏に関連して、こうした気候に起因した刺激への反応性について評価できるようなアセスメントは、あまり多くないように思われます。感覚過敏のように、外界の変化を敏感に感じとる場合もあれば、身体が敏感に反応する場合もあると考えられています。
最近、「気象病」という言葉をよく耳にするようになりました。これは気候の影響による不調全般のことを指すようですが、感覚過敏や鈍麻と同様、医学的に診断されるものではなさそうです。ここでいう不調には、頭痛やめまい、関節痛、血圧の変化など、多岐にわたる症状が含まれます。
気温は、血圧の季節変動の主な原因であると考えられています。ある研究では、気候と血圧・心拍数の関係を調べた既存の研究をまとめ上げ、総合的な分析を行うという、メタ分析を行いました(Kuzmenko et al., 2022)。それによると、血圧も心拍も、暖かい季節に最も低くなることが分かりました。
参考文献:Kuzmenko, N. V., Tsyrlin, V. A., Pliss, M. G., & Galagudza, M. M. (2022). Seasonal Fluctuations of Blood Pressure and Heart Rate in Healthy People: A Meta-Analysis of Panel Studies. Human Physiology, 48(3), 313–327.
https://doi.org/10.1134/S0362119722030100
ギリシャの病院で高血圧の薬(降圧薬)の服用患者を対象に行われた調査では、これらの患者さんは夏に起立性低血圧症を示しやすく、女性ではその傾向が強いことが分かりました(Stergiou et al., 2015)。また、季節間の変化が大きいと血圧変化も大きかったそうです。起立性低血圧症は、立ち上がったときに血圧が低下し、めまいやふらつきがあったり、場合によっては失神してしまう疾患で、自律神経系の機能不全によるものとされます。
参考文献:Stergiou, G. S., Myrsilidi, A., Kollias, A., Destounis, A., Roussias, L., & Kalogeropoulos, P. (2015). Seasonal variation in meteorological parameters and office, ambulatory and home blood pressure: predicting factors and clinical implications. Hypertension Research, 38(12), 869–875.
https://doi.org/10.1038/hr.2015.96
ここで少し、自律神経系についてお話をしておきましょう。
自律神経系は、身体の中の状態を一定に保つ機能、すなわちホメオスタシス(恒常性)を担う神経系です。血管や心臓、消化器、汗腺など、手足のような身体部位を操る筋肉(骨格筋)以外のすべての器官は、自律神経系に支配されています。自律神経系は、交感神経系と副交感神経系の2つによって成り立っています。器官によって、どちらか一方であったり、両方から支配されているものに分かれます。たとえば心臓(心筋)は、交感神経・副交感神経の二重支配を受けている器官の1つです。交感神経からの刺激で心拍数は増加しますし、反対に副交感神経によって減少します。
普段の経験からも想像できますが、器官同士も自律神経系を介して影響し合っています。たとえば呼吸に関わる気道や肺は、副交感神経の中でも迷走神経といわれるものが大きく影響しています。深呼吸するとき、息を吸うさいには心拍数は増加し、吐くときには心拍はゆっくりになります。これは「呼吸性洞性不整脈」と呼ばれる自然な生理現象で、心臓が迷走神経からの影響により拍動を調整することによります。生理学を学んだことのない方でも、交感神経が優位だと、興奮気味であり、身体もかっかしている状態である一方、副交感神経が優位だと、落ち着いてリラックスしている状態であると聞いたことがあるかもしれません。深呼吸をすると気分が落ち着くのには、副交感神経が優位になることが関係していそうですね。
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