「机に向かう学習」を手放す

タブレットなら紙の学習よりは取り組みやすくなったものの、今度は「机に向かう」という壁が立ちふさがりました。タブレット学習でも文字を書く問題は出てきますし、姿勢よく取り組んだほうが文字判定も通りやすい。結局は「机に向かうこと」が前提になっていたのです。ところが、そうなると息子はまたウロウロ。「あとでやる」と言いながら、テレビをつけようとしたり、お菓子を食べたり、別のことを始める……。

でも、考えてみれば当然でした。息子にとってタブレットは、普段ソファでゴロゴロしながらゲームをしたり、動画を観たりする「完全なるリラックスの相棒」です。それを急にカチッとした机の上に置かれ、「さあ、ここでお勉強だよ!」と言われても、気持ちの切り替えがうまくいかなかったのです。

「私がまず優先したいのは、姿勢よく勉強することだっけ?」
胸に手を当てて考えてみると、答えはNOでした。今の目的は、とにかく少しでも学習の時間を確保すること。だったら、もう一つの“当たり前”も手放してしまおう。そう決めた私は、思い切って息子にこう言ってみました。

「ソファに寝転がってもいいよ。やりやすい姿勢でやりな」
私のその言葉に、息子も「それなら、まあやってもいいか」という風に、ハードルが下がったようでした。

「自分で取り組む」を手放す

「寝転がってもいいよ」にしてから、息子は以前より気軽にタブレットを開くようになりました。これなら一人でやれるかも……と淡い期待を抱いたものの、やっぱり「ねえ見て!」「こっち来て!」と呼ばれます。結局、まだ一人で取り組むには心細かったようで、私も隣でサポートすることになりました。

ただ、ソファだとさすがに狭い。そんなわけで、いつの間にかわが家の学習場所は「ベッドに二人で寝転ぶスタイル」へと移行していきました。一般的な勉強風景とはずいぶん違いますし、姿勢や視力への影響などデメリットもあります。

でも、私が最優先したかったのは「学習時間の確保」です。それに、私にとっても、机の横でカリカリ監視するより、横になっているほうが圧倒的に楽です。ベッドという一番安心できる場所で、好きなタブレットを使い、隣には親がいる。この「安心とリラックス」こそが、息子が家庭学習に向かうための絶対的な土台でした。

気づけば、かつてはピリピリしていた時間が、「どこまで進んだ?」「このアニメ分かりやすいね」と息子と会話する時間に変わっていました。そうして少しずつ、ベッドでの先取り学習で、学校の宿題より難しい課題に挑戦できるようになっていきました。すると不思議なことに、以前はあれほど大変だった宿題も、楽に感じられるようになってきた様子でした。
親子で寝転がって、刺激の少ない部屋でリラックス
親子で寝転がって、刺激の少ない部屋でリラックス
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「理想」よりも「続けられる形」を

もちろん、これがすべての子どもに合う方法だとは思いません。今のやり方がずっと正解だとも思っていません。成長とともに息子の感じ方も変わり、いつかは机に向かって集中する日も来るかもしれません。

でも今は、「理想の形で始めること」よりも、「続けられる形で始めること」のほうが何倍も大切です。机に向かうことも、一人でやることも、いずれ必要になったときに身につけていけばいいと思っています。

一見、遠回りに見えるかもしれません。けれどわが家にとっては、世間の“当たり前”を少しずつ手放していったこの形こそが、息子が無理なく学習の入口に立つための、第一歩でした。

執筆/河野りぬ

専門家コメント 新美妙美先生(小児科医)

家庭学習について調べると、「机に向かって勉強する」「紙に書いたほうが覚えやすい」「一人で取り組めるようにする」といった方法がよく紹介されています。もちろん、これらは多くの人にとって効果がある学習法です。しかし、それはあくまで統計的な傾向であり、目の前のお子さんにその方法が合っているかどうかは別の問題です。

特に発達特性のあるお子さんでは、学習内容そのものよりも、「情報量が多いと疲れてしまう」「机に向かうこと自体が苦手」「一人では始められない」など、学習に取り組む前の段階につまずきがあることが少なくありません。そのため、方法が合わないことで「勉強は苦手」「勉強は嫌い」という気持ちにつながってしまうこともあります。
そのような中で、河野さんが「何が負担なのか」を一つずつ観察し、お子さんにとって一番取り組みやすい方法を試行錯誤しながら見つけていかれた姿勢には、本当に頭が下がります。

記事の最後に書かれていた「『理想の形で始めること』よりも、『続けられる形で始めること』のほうが何倍も大切でした」という言葉は、とても印象的でした。学習は一時的に頑張ることではなく、長く積み重ねていくものです。続けられなければ、どんなに理想的な方法でも意味がありません。
勉強法は、お子さんによって本当にさまざまです。文字より映像のほうが理解しやすい子、ゲーム形式だと集中できる子、書いて覚える子、聞いて覚える子、体験しながら覚える子、目標があると頑張れる子もいれば、テスト形式より繰り返しインプットするほうが力を発揮できる子もいます。お子さんの数だけ学び方があると思って、固定観念にとらわれず、「この子にはどんな方法が合うだろう」と柔軟に探していくことが大切なのだと、改めて感じました。今回の体験談は、そのことを教えてくれる素晴らしい実践例だったと思います。(監修:小児科医 新美妙美先生)
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https://h-navi.jp/column/article/35031107
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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