「学校にも家にも居場所がない」と感じたら。TRPGや趣味トークで見つける"安心できる場所"と大人にできる支援(金子総合研究所/東京学芸大学・加藤浩平先生)
ライター:加藤浩平
Upload By 加藤浩平
余暇活動を通じて子どもたちと関わっていると、時として、学校や家庭が本人の安心できる居場所になっていない、という子どもに出会うことがあります。今回は、家庭とも学校とも異なる「居場所」の必要性と、子どもが安心して過ごせる場とはどういう場所か、また、そういった場所を大人がどう支えていけば良いのかについて考えます。
執筆: 加藤浩平
金子総合研究所 所長
東京学芸大学 非常勤講師
博士(教育学)
編集者として自閉症の子どもたちや家族への取材をするいっぽう、研究者として、自閉スペクトラム症(ASD)やその傾向のある子どもや若者たちを対象にした、テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)などを用いた余暇活動支援の実践・研究に取り組んでいる。
東京学芸大学 非常勤講師
博士(教育学)
学校や家庭に居場所がない子どもたち
発達障害やその傾向のある子どもたちと余暇活動の場で関わっていると、「学校に自分の居場所がない」という子に出会うことがあります。
クラスメイトと話が合わない、教室が騒がしくて居づらい、友だちグループの雰囲気になじめない、学校行事などの集団活動に負担を感じる、一生懸命に周囲に合わせようとしても「話を聞いていない」「空気が読めない」「変なところにこだわるな」と言われてしまう……背景はさまざまですが、そういった経験が重なると、子どもは「学校に居場所をつくれない自分が悪いのではないか」と考えるようになり、学校で過ごすことが難しくなったり、不登校になったりするケースもあります。
そういった子にとって家庭が安心できる居場所になっていれば良いのですが、一方で、必ずしも家庭で自分らしく過ごせるというわけではないケースもあります。親子・家族との関係が良好でも、住環境が狭い、家族の関係が密接すぎる、(年上の子だと)弟や妹の世話をしないといけないなど。また思春期になれば、自分だけの時間や趣味を楽しみたいし、家族とは別の人間関係を求めるようになります。結果として「家でも自分らしく過ごせない」と感じる子もいます。
学校や家庭に居場所がないことは、その子自身の特性のみの問題ではなく、ましてや本人に「能力」がないということでもありません。それよりも、今の環境や人間関係がその子に合っていないということが多いです。「その子の能力が不足しているから、集団に参加できるスキルを身につけさせよう」という視点ではなく、その子の強みや持ち味、興味・関心を安心して表現できる場所がないか、そう考えるところから居場所についての支援は始まるのだと思います。
クラスメイトと話が合わない、教室が騒がしくて居づらい、友だちグループの雰囲気になじめない、学校行事などの集団活動に負担を感じる、一生懸命に周囲に合わせようとしても「話を聞いていない」「空気が読めない」「変なところにこだわるな」と言われてしまう……背景はさまざまですが、そういった経験が重なると、子どもは「学校に居場所をつくれない自分が悪いのではないか」と考えるようになり、学校で過ごすことが難しくなったり、不登校になったりするケースもあります。
そういった子にとって家庭が安心できる居場所になっていれば良いのですが、一方で、必ずしも家庭で自分らしく過ごせるというわけではないケースもあります。親子・家族との関係が良好でも、住環境が狭い、家族の関係が密接すぎる、(年上の子だと)弟や妹の世話をしないといけないなど。また思春期になれば、自分だけの時間や趣味を楽しみたいし、家族とは別の人間関係を求めるようになります。結果として「家でも自分らしく過ごせない」と感じる子もいます。
学校や家庭に居場所がないことは、その子自身の特性のみの問題ではなく、ましてや本人に「能力」がないということでもありません。それよりも、今の環境や人間関係がその子に合っていないということが多いです。「その子の能力が不足しているから、集団に参加できるスキルを身につけさせよう」という視点ではなく、その子の強みや持ち味、興味・関心を安心して表現できる場所がないか、そう考えるところから居場所についての支援は始まるのだと思います。
集団が苦手だったノボルくんが、仲間との遊びを楽しむまで
ノボルくん(仮名)は、ASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けている中学生の男の子です。学校では休み時間も一人で過ごし、放課後や休日も家で一人で過ごしていることが多く、親やスクールカウンセラーには「自分は『コミュ障(コミュニケーション障害)』だから、友だちはいらない」と話していました。クラスメイトが盛り上がっている話題についていけず、話しかけるタイミングも分からないため、本人なりに「一人でいるほうが楽だ」と考えていたようです。
ノボルくんはスクールカウンセラーの紹介で筆者の余暇活動とつながりました。参加したのはテーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)の体験会。参加者(プレイヤー)が架空のキャラクターを演じ、会話を通して一緒に物語を進めるゲームです。最初のうち、ノボルくんは周囲のスタッフに質問をする以外はほとんど喋らず、ほかの参加者(子どもたち)の会話にも参加できていませんでした。
ただ、ゲームの中の物語(迷宮の中でモンスターと戦って、財宝を手に入れるストーリー)の一場面で、ほかの参加者のキャラクターが怪物に攻撃されて、ピンチになる場面がありました。するとノボルくんがふいに「ぼくのキャラクターは戦士なので、前に出て彼をかばいます」と、ボソッと小さな声で提案しました。結果としてノボルくんのキャラクターが仲間をかばい戦ったおかげで、モンスターを倒すことができ、ほかの参加者たちは「ありがとう」「助かったよ」とノボルくんに声をかけていました。ノボルくんは少し照れたように笑っていました。
それ以降、ノボルくんはほかの子どもたちとも自分から話すようになり「次はどっちに行こうか?」「ぼくはこっちを調べるから、ほかの人があっちを調べて……」と会話する場面が増えていきました。ゲームが終わった後は、たまたま同じアニメが好きな参加者がいたらしく、しばらくアニメについて雑談をしていました。最後に「ゲームで活躍できて良かったし、みんなと話せて楽しかった」と言って帰っていきました。
TRPGは社交スキルを身につけるためのSSTのような活動ではありません。ただ、TRPGは自分の役割が分かりやすく、キャラクターを通じたやり取りで物語を進めていく遊びのため、その中で、安心して他者と関わる楽しさを経験できたノボルくんは、結果として自然とほかの子たちとも話せるようになったのだと思います。学校のクラス集団には入りにくくても、別の環境、別の関わり方であれば、仲間と一緒に過ごせることがある一例です。
ノボルくんはスクールカウンセラーの紹介で筆者の余暇活動とつながりました。参加したのはテーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)の体験会。参加者(プレイヤー)が架空のキャラクターを演じ、会話を通して一緒に物語を進めるゲームです。最初のうち、ノボルくんは周囲のスタッフに質問をする以外はほとんど喋らず、ほかの参加者(子どもたち)の会話にも参加できていませんでした。
ただ、ゲームの中の物語(迷宮の中でモンスターと戦って、財宝を手に入れるストーリー)の一場面で、ほかの参加者のキャラクターが怪物に攻撃されて、ピンチになる場面がありました。するとノボルくんがふいに「ぼくのキャラクターは戦士なので、前に出て彼をかばいます」と、ボソッと小さな声で提案しました。結果としてノボルくんのキャラクターが仲間をかばい戦ったおかげで、モンスターを倒すことができ、ほかの参加者たちは「ありがとう」「助かったよ」とノボルくんに声をかけていました。ノボルくんは少し照れたように笑っていました。
それ以降、ノボルくんはほかの子どもたちとも自分から話すようになり「次はどっちに行こうか?」「ぼくはこっちを調べるから、ほかの人があっちを調べて……」と会話する場面が増えていきました。ゲームが終わった後は、たまたま同じアニメが好きな参加者がいたらしく、しばらくアニメについて雑談をしていました。最後に「ゲームで活躍できて良かったし、みんなと話せて楽しかった」と言って帰っていきました。
TRPGは社交スキルを身につけるためのSSTのような活動ではありません。ただ、TRPGは自分の役割が分かりやすく、キャラクターを通じたやり取りで物語を進めていく遊びのため、その中で、安心して他者と関わる楽しさを経験できたノボルくんは、結果として自然とほかの子たちとも話せるようになったのだと思います。学校のクラス集団には入りにくくても、別の環境、別の関わり方であれば、仲間と一緒に過ごせることがある一例です。
「お姉さん」の役割から解放されて過ごせたメイカさん
メイカさん(仮名)は、ASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けている中学生の女の子です。4人きょうだいの一番年上のお姉さんで、年下の弟や妹の世話をよくしていました。母親との関係は良好でしたが、家に帰ると「お姉さん」として頼られることが多く、自分の好きなことについてゆっくり話したり、一人でくつろいだりする時間は、あまり持てていませんでした。
メイカさんはスクールソーシャルワーカーの紹介で、筆者とつながり、筆者が企画した子どもたちが自分の好きなものを持ち寄って順番に語り合う「趣味トーク」という活動に参加しました。メイカさんは最初、あまり自分から話をせず、聞き手に回っていましたが、彼女の順番になると、遠慮がちに持ってきたグッズをカバンから出してきました。それは彼女がハマっているスマートフォンゲームのキャラクターグッズ(アクリルキーホルダーとクリアファイル)でした。
活動には、アニメやゲームが好きな大学生のピアスタッフも参加しており、ピアスタッフがメイカさんのグッズを見て、「私もこのキャラクターが好き!」「最近のイベントも良かったよね」と話しかけると、メイカさんはパッと顔を輝かせて作品について語り始めました。やがて休憩時間にも、声優やほかの関連作品について、ピアスタッフやほかの参加者と楽しそうに話すようになりました。
家庭では弟や妹を気遣う「お姉さん」だったメイカさんも、この場では、年上のお姉さんのようなピアスタッフに話を聞いてもらう側になることができました。活動中には、椅子の背にもたれながらリラックスして笑う姿も見られ、後日、母親からは「余暇活動の日は、帰って来ると、いつもより表情が明るいし、家族とも仲良く過ごしている」という報告も受けました。
家庭で担っている役割から一時的に離れ、自分の好きなものについて話を聞いてもらい、普段とは違った環境や人間関係の中で自分を表現できること。そんな体験が一時的にできるだけでも、子どもはホッとできますし、心のエネルギーを取り戻す時間になります。
メイカさんはスクールソーシャルワーカーの紹介で、筆者とつながり、筆者が企画した子どもたちが自分の好きなものを持ち寄って順番に語り合う「趣味トーク」という活動に参加しました。メイカさんは最初、あまり自分から話をせず、聞き手に回っていましたが、彼女の順番になると、遠慮がちに持ってきたグッズをカバンから出してきました。それは彼女がハマっているスマートフォンゲームのキャラクターグッズ(アクリルキーホルダーとクリアファイル)でした。
活動には、アニメやゲームが好きな大学生のピアスタッフも参加しており、ピアスタッフがメイカさんのグッズを見て、「私もこのキャラクターが好き!」「最近のイベントも良かったよね」と話しかけると、メイカさんはパッと顔を輝かせて作品について語り始めました。やがて休憩時間にも、声優やほかの関連作品について、ピアスタッフやほかの参加者と楽しそうに話すようになりました。
家庭では弟や妹を気遣う「お姉さん」だったメイカさんも、この場では、年上のお姉さんのようなピアスタッフに話を聞いてもらう側になることができました。活動中には、椅子の背にもたれながらリラックスして笑う姿も見られ、後日、母親からは「余暇活動の日は、帰って来ると、いつもより表情が明るいし、家族とも仲良く過ごしている」という報告も受けました。
家庭で担っている役割から一時的に離れ、自分の好きなものについて話を聞いてもらい、普段とは違った環境や人間関係の中で自分を表現できること。そんな体験が一時的にできるだけでも、子どもはホッとできますし、心のエネルギーを取り戻す時間になります。