「ゲームをやめられない」正体は脳の暴走?小児神経科医が解説するゲーム障害と家庭でできる5つの対策【第45回日本思春期学会総会・学術集会】
ライター:発達ナビ【編集部Eye】
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2026年8月29日に千葉県・幕張メッセで開催された「第45回日本思春期学会総会・学術集会」の教育講演では、獨協医科大学医学部小児科学教授の今高 城治先生による『思春期のインターネットゲーム障害 ― ハマる・やめられない・暴走する脳の正体』と題した講演が行われました。
今回は、本講演で語られた深刻化するゲームへの依存における「やめられない脳の仕組み」や「家庭で今日からできる具体的な工夫」を分かりやすくレポートします。
なぜ今ゲームに依存する子どもが増えている?
ここ数年で、子どものゲームやスマートフォンを利用する時間が急激に増えたと感じている保護者の方は多いのではないでしょうか。その背景には、いくつかの大きな環境の変化があると今高先生は指摘します。1つはデジタルデバイスの急速な普及です。子どもでもスマートフォンを持ち、通信技術も発展したことで誰もがどこでもゲームに触れることのできる環境となりました。もう1つは気候変動やコロナ禍による外出自粛、行事の縮小です。こうしたストレスフルな環境の中で、子どもたちにとってゲームは友だちとのつながりをつくり、息抜きをするための重要な手段となっていきました。
さらに、現代のゲームは単なるおもちゃを超えた進化を遂げています。背景にあるのはAI技術の発展です。ゲームやスマートフォンのアプリは、AIが「この子がどういう癖を持っているか」「どんなタイミングでやめたくなるか」を詳細に分析し、最もやめにくいタイミングで魅力的なアイテムを提示したり、通知を送ったりする仕組みが組み込まれています。ゲームをやめられないのは意志が弱いからではなく、最新のテクノロジーが子どもの心を惹きつけるように巧妙に設計されているからなのです。
一見「ゲームのやりすぎは、本人の甘えやわがまま」と思いがちですが、医学的には異なる見解が示されています。WHO(世界保健機関)はゲームのやりすぎによって日常生活に重大な困難が生じている状態を「ゲーム障害」として位置づけました。これは、アルコール依存やギャンブル依存症などと同じ精神疾患のカテゴリーであり、医療や福祉の対象として、適切なサポートや治療につなげていくべきものであるということが分かります。
「やめられない」ときに脳で起きていること
子どもがゲームに没頭しているときや、親にゲームをやめるように言われて癇癪を起こすとき、脳ではどのようなことが起きているのでしょうか?今高先生は、この脳の仕組みを「車のアクセルとブレーキ」に例えて解説しました。
ドーパミンが「もっとやりたい!」とアクセルを踏む
ドーパミンとは強い快感や高揚感をもたらす物質で、分泌されると「もっとやりたい」とアクセルを踏みます。ゲームで勝つ、「ガチャ」で良いアイテムが出るといったゲーム内の小さな報酬が、ドーパミン分泌のトリガーとなります。
セロトニンによる安心感と前頭前野のブレーキ
脳の司令塔である「前頭前野」には、欲求をコントロールして「もうおしまい」とブレーキをかける役割があります。このブレーキが働くために欠かせないのが、心の安心をもたらす「セロトニン」という物質です。セロトニンが分泌されることで脳が「満足した」と安心感を覚え、ゲームを終えることができます。
セロトニンが枯渇し、ブレーキが壊れる
ゲームをやり続けると、脳がドーパミンによる刺激に慣れてしまい、より強い刺激を求めるようになります。少しの報酬ではセロトニンが分泌されなくなり枯渇していくと、前頭前野のブレーキ機能がオーバーヒートして動かなくなります。これにより「やめたほうがいいのは分かっているのに、やめられない」という悪循環に陥ります。
「扁桃体ハイジャック」による暴走
ブレーキが機能しなくなると、不安や恐怖、本能的な情動を司る「扁桃体」という部位に支配されます(扁桃体ハイジャック)。この状態のときに親から「ゲームを片づけなさい!」と無理やり取り上げられると、子どもは命の危険を感じたかのような強い恐怖や怒りを覚え、暴言・暴力・ものを壊すといった激しい「暴走行動」を起こすことにつながります。
特に、ADHD(注意欠如多動症)などの特性を持つ子どもの中には、もともと衝動性を抑えるブレーキが働きにくい傾向があるため、ゲームにのめり込みやすいという子どもも多いです。普段は落ち着いて座っていられないという子どもが、スマートフォンを与えられると30分座り続けるほど強い影響を受けるというケースもあります。
「予防」が最大のカギ。世界の規制トレンド
今高先生は、「ゲーム障害はなってからの治療よりも予防が何よりも有効である」と話しました。これは、神経系(脳)の発達が5歳で80%、8歳で90%、12歳頃までに約97%完成すると言われているためです。脳のネットワークが形成される大切な時期に、ゲームによる過剰な刺激に晒され続けると「依存しやすい脳のベース」がつくられるというリスクがあります。
世界的に見ると、子どもたちの脳と健康を守るための厳しい法規制を進める国もあります。中国では18歳未満のオンラインゲーム利用を週3時間までに制限。オーストラリアでは16歳未満のSNS利用を禁止する法律を可決し、違反したプラットフォーム企業に多額の制裁金を科しています。
日本ではまだ法的な強制力を持つ規制は少ないため、各家庭や地域での「予防」が大切です。
日本ではまだ法的な強制力を持つ規制は少ないため、各家庭や地域での「予防」が大切です。
家庭でできる5つのアプローチ
では、家庭で子どもと向き合うときにどのような工夫ができるのでしょうか。具体的で現実的な5つのポイントをご紹介します。
1.時間制限よりも、まずは「生活リズム」を整える
ゲームの時間を「1日1時間まで」のように厳しく縛るよりも、まずは朝しっかり起きる、学校に行く(または日中の活動をする)、ご飯を食べる、お風呂に入る、夜眠るという基本の生活習慣が崩れていないかに注目しましょう。これらが守れていれば、多少ゲームの時間が長くなっても良しとする姿勢が、子どもの反発を減らすポイントです。
2.寝室にスマホ・ゲームを持ち込まない
ゲームやスマートフォンによる最大の弊害は、睡眠不足と昼夜逆転です。この対策として、「夜眠るときは寝室にスマートフォンやゲームを持ち込ませないこと」は、医学的にも効果があるとされています。夜間はリビングの充電スタンドに置くなどのルールを家族全員で決めましょう。スマートフォンは朝の目覚まし時計としても非常に便利ですが、アナログ時計の利用もおすすめです。
3.「宿題をしたらゲームしていいよ」というご褒美には注意
よく「宿題を終わらせたら、30分ゲームしていいよ」とご褒美としてゲームを使うことがありますが、実はこれには注意が必要です。ゲームを「ご褒美(報酬)」として位置づけてしまうと、脳の中でゲームの価値がさらに跳ね上がり、ドーパミン(アクセル)の働きを強化して依存性を高めてしまうリスクがあります。やるべきこととゲームのご褒美は、切り離して考えたほうが無難です。
4.ほかの依存先(安心できる居場所や楽しいこと)を増やす
今回の講演の中で、先生が最後に伝えられたメッセージがあります。
「人は何かに依存しながら生きています。依存するものが1つだけになったとき、それが『悪い依存(依存症)』になる。大切なのは、依存先を増やすことです」
不登校や孤立などで現実世界に傷つき、居場所がないと感じている子どもにとって、オンラインゲームは唯一の「心の命綱」であり、友だちとつながれる大切な居場所です。それを無理やり奪おうとすれば、子どもは「自分の命綱を切られる」と感じて死に物狂いで暴れ、抵抗します。
ゲームを無理にやめさせるのではなく、ゲーム以外にも頼れる場所、安心できる関係、楽しいと思える活動(役割やスポーツ、オフラインの趣味)を少しずつ増やし、依存先を分散させていくことが、根本的な解決への近道です。
「人は何かに依存しながら生きています。依存するものが1つだけになったとき、それが『悪い依存(依存症)』になる。大切なのは、依存先を増やすことです」
不登校や孤立などで現実世界に傷つき、居場所がないと感じている子どもにとって、オンラインゲームは唯一の「心の命綱」であり、友だちとつながれる大切な居場所です。それを無理やり奪おうとすれば、子どもは「自分の命綱を切られる」と感じて死に物狂いで暴れ、抵抗します。
ゲームを無理にやめさせるのではなく、ゲーム以外にも頼れる場所、安心できる関係、楽しいと思える活動(役割やスポーツ、オフラインの趣味)を少しずつ増やし、依存先を分散させていくことが、根本的な解決への近道です。
5.親自身もスマホの使い方を見直す
子どもに「ゲームをやめなさい」と言いながら、保護者自身がずっとスマートフォンの画面を見てしまう……ということもあると思います。まずは大人もデジタルデバイスから離れ、子どもと目を見て会話する時間を増やせるよう、デジタルデトックスに挑戦してみましょう。
ゲームは敵ではない。子どもの隠れたSOSに耳を傾けて
特に夏休み明けや新学期が始まる時期(9月1日前後など)は、子どもたちが不登校やメンタルヘルスの悪化など、大きなストレスを抱えやすい時期でもあります。そんなとき、ゲームやインターネットのなかでAIやオンラインの仲間と繋がっていることが、彼らにとって唯一の「生きる望み(命綱)」になっていることもあります。
今高先生は「ゲームやデジタル技術自体を悪者にして排除することはできません。大切なのは、それらを楽しめる幸せな未来をどうつくるか、使い方の議論です」と語りました。
もしお子さんがゲームやスマートフォンに依存しすぎかもしれないと不安になった場合は、家庭だけで抱え込まず、小児科や学校、ときには専門の支援機関を頼りながら、子どもが安心して過ごせる居場所を増やしていきましょう。
今回の登壇者である今高先生は、ゲーム行動症の予防と治療に対する研究を進めており、「GAME-F」というゲーム依存モニタリング・機能障害評価尺度を開発されました。ご興味のある方はぜひ以下の情報サイトをご覧ください。
今高先生は「ゲームやデジタル技術自体を悪者にして排除することはできません。大切なのは、それらを楽しめる幸せな未来をどうつくるか、使い方の議論です」と語りました。
もしお子さんがゲームやスマートフォンに依存しすぎかもしれないと不安になった場合は、家庭だけで抱え込まず、小児科や学校、ときには専門の支援機関を頼りながら、子どもが安心して過ごせる居場所を増やしていきましょう。
今回の登壇者である今高先生は、ゲーム行動症の予防と治療に対する研究を進めており、「GAME-F」というゲーム依存モニタリング・機能障害評価尺度を開発されました。ご興味のある方はぜひ以下の情報サイトをご覧ください。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。