言葉通りに受け取るASDきょうだい。教習所テストや公的書類で「曖昧な表現」に悩む子へ、親ができるサポートは?
ライター:寺島ヒロ
Upload By 寺島ヒロ
発達障害のある子どもが、学校や役所などの書類を前にして「何を書けばいいのか分からない」と困っていることがあります。本人に聞いてみると、文章が読めないわけでも、内容が理解できないわけでもない。書いてあることを正確に理解しようとし過ぎて、ちょっとした表現の曖昧さや矛盾に引っかかって悩んでしまうことが多いようです。
監修: 室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科
名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
筑波大学医学部卒。国立成育医療研究センターで小児科研修終了後、東京女子医科大学八千代医療センター、国立成育医療研究センター、島田療育センターはちおうじで小児神経診療、発達障害診療の研鑽を積む。
現在は、名古屋市立大学大学院で小児神経分野の研究を行っている。
名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
自動車免許を取ろう!
最近、娘(19歳・ASD/自閉スペクトラム症と睡眠障害あり)が自動車学校に通い始めました。
小中ずっと体育の整列では先頭だったぐらい小柄な娘ですので、「自動車の操作って、けっこう大変なのでは?」と思っていたのですが、シートを合わせればちゃんと手と足の届く範囲で操作できるように設計されていて、車の操作そのものにはそれほど苦労しなくて済んでいるようです。
そういえば、普通自動車は当然運転したことはないのですが、重機は運転できるのでした、うちの娘。
大学の課外講習で重機オペレーターの資格を取ったのです。
大学の課外講習で重機オペレーターの資格を取ったのです。
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今回、普通自動車運転免許を取ろうと考えたのは、重機を公道で動かすことを考えてのことでもありました。
教科テストが心配
そんなやる気十分の娘ですが、ものすごく心配していることがあります。
それは「教科テスト」です。
それは「教科テスト」です。
どうやらインターネットで「ASDの人は自動車学校の学科試験で苦労することがある」という話を見つけたらしく、自動車学校に通い始めてすぐ問題集を自費で購入、「確かにこれはちょっとの油断で落ちる!」と、不安におののきながらせっせと問題集をやっています。
自動車学校への送迎バスの中でも、Webアプリで問題集をやっているそうです。
「この日本語、どういう意味?」
実のところ、娘が苦労しているのは、交通法規や操作方法の手順などを覚えることではありません。テストの中に、正確な日本語の用法に照らし合わせてみると、「その言い方でいいの?」と思うような文章が出てくるからです。
自動車学校のテストというと、昔から「問題文の日本語が分かりにくい」という話はありました。
もちろん、試験問題ですから、つくる側にもいろいろ事情があるのでしょうが、ASD傾向のある人間にとっては、この「なんとなく分かる言い回し」が、まだまだ結構難しいのです。
ASDの人が考えていること
例えば、『雨の日は気をつけて運転しよう』という言葉を文字通り厳密に受け取ると、「〇か×かって言ったら、×だよね。晴れの日も気をつけて運転しないといけないから」とまず考えます。
でも、「普通」とされる一般的なニュアンスでとらえるなら、『雨の日はより気をつけて運転しましょう』を略したものだな、と推測できる。それで「〇だ!」と答えると、「文字通りに読んでいない」としてテストでは不正解となってしまう。
それで混乱してしまって、「何を答えたらいいのか分からないよ……」ということになります。ASDの人が頭を悩ませるのは、解答が分からないからじゃなくて、どのあたりまで「普通(問題の意図や文脈)」を推測すれば良いのかがブレる場合なのです。
分岐の多い文章は処理しきれない
困ったことに、こういう「正確に読むとちょっと変な文章」は、自動車学校のテストだけに存在するわけではありません。世の中にいっぱいあります。
以前、息子(26歳・ASD/自閉スペクトラム症あり)がWebで年金関係の書類を書いていたときにも、似たようなことがありました。
申請書の設問には、「○○について申請したい人は、▷▷についても答えてください」というように、途中で質問が分岐することがよくあります。
「○○を申請する人はこちらにも答えてください」と書いてあれば、「はいはい、じゃあ答えますよ」となるのですが、「申請したい人」となっているから、うちの子どもたちは、そこで止まるのです。
「自分は○○を申請したいわけではない」
「申請しないと不利益になるから、仕方なく申請しているだけだ」
「では、この質問に答える必要があるのか?」
……となるわけです。
「申請しないと不利益になるから、仕方なく申請しているだけだ」
「では、この質問に答える必要があるのか?」
……となるわけです。
別に怒っているわけではありません。
「自分にはこれを答える権利があるのか?」
と、考えて迷ってしまうんです。
「自分にはこれを答える権利があるのか?」
と、考えて迷ってしまうんです。
これ、傍から見ていると「いやいや、そこは申請『したい』でいいんだよ!」なんですが、本人にとっては、そこを確認できないと怖くて先に進めないのです。
しかもこの分岐、一つの書類の中で何度も出てきます。
階層が深くなると文字だけでは処理しきれなくなって、真っ赤な顔で「今日はもうおしまい!」ということになり、先送りが発生する……ということになるのです。
階層が深くなると文字だけでは処理しきれなくなって、真っ赤な顔で「今日はもうおしまい!」ということになり、先送りが発生する……ということになるのです。
たぶん書類をつくった人は、「この表現も混乱なく分かるだろう」と考えているのでしょう。
でも、書いてある文章を一つずつきちんと理解しようとするASDっ子にとっては「なんとなく」が分からないし、それを見ている親にとっては「混乱してしまう人はどうしろと?」と感じて、本当に引っかかります。
「書類が苦手」なのではないのかもしれない
「学生」とだけ書いてあったものが、次のページでは「奨学生および申請者」になっているとか、もう本当に大変です。自分のことかな?違うかな?と何ページもブラウザバックして確認しなければなりません。
そして、ブラウザバックするとそれまでフォームに入力していた文章が全部消えたりして、また暴れたくなるのです……。
息子に「最初に全部読んで、答えをメモ帳なんかに書いておいて、申請フォームにはそれをコピペするだけにしたら?」と言ったら「そんな手が!」と驚いていました。実際に、コピー&ペーストを駆使するようになったら、申請書づくりが格段に簡単になり「別に苦手ではないかもしれない」と言うようになりました。
本当にこんな些細なことで書類仕事は嫌になるし、苦手意識が育ってしまうんだよなあと思いました。
ASDっ子が何度も同じ練習問題をやりたがるのは?
娘が問題集を何度も繰り返しているのは、知識を覚えるためだけではなく、そういう「問題文の癖」を身体に覚え込ませるためなのかもしれません。
「雨の日は気をつけて運転しましょう」と書いてあったら、会話などの文章としては「雨の日は特に気をつけましょう」という意味だろう、と考える。でも、テストではそうとは限らない。だったらもう、「このテストでは、この言い方はこう解釈する」と丸覚えしてしまうしかありません。
コストのかかる方法ですが、目的はテストと分かり合うことではなく、免許を取ることなのですから合理的と言えなくもないでしょう。
「このタイプのテストでは、こういう読み方をする」ということを対処法として覚えておけば、もしかしたら、別の困難に出合ったときにも役に立つかもしれません。
そう思うと、「たったそれだけの設問に時間をかけて、もったいない」とは言えないような気もします。一つの問いで多くの学びができる……と、私も前向きにとらえたいと思っています。
執筆/寺島ヒロ
執筆/寺島ヒロ
専門家コメント 室伏佑香(小児科医)
具体的な例を交えながら、ASD(自閉スペクトラム症)の方が文章や書類のどのような部分で困りやすいのかを共有いただき、ありがとうございました。ASDの方の中には、言葉を文字通りに捉えやすかったり、文脈や暗黙の前提をどこまで補って読めばよいのか迷いやすかったりする方もいます。また、条件分岐が重なる書類では、いくつもの情報を頭の中に置いたまま判断していく必要があり、それ自体が大きな負担になることもあります。どの部分で負担が生じているのかを具体的に見つけていくことが大切ですね。
息子さんが、いったんメモ帳に答えを書いてからコピー&ペーストすることで取り組みやすくなったという工夫は、入力した情報が消えてしまうことへの対策として有効なのはもちろん、頭の中で処理していた情報をいったん外に出し、整理しながら進めるという意味でも、とても良い方法だと思いました。
娘さんが問題を繰り返しながら、「このタイプの問題ではこう読む」というパターンをつかんでいくことも、自分に合った対処法を身につけていく一つの方法ですね。
自分がどこでつまずきやすいのかを知り、「こうすればできる」という方法を少しずつ増やしていく経験は、これから別の困りごとに出合った時にも役立つ、大切な力になっていくのだと思います。(監修:小児科医 室伏佑香先生)
息子さんが、いったんメモ帳に答えを書いてからコピー&ペーストすることで取り組みやすくなったという工夫は、入力した情報が消えてしまうことへの対策として有効なのはもちろん、頭の中で処理していた情報をいったん外に出し、整理しながら進めるという意味でも、とても良い方法だと思いました。
娘さんが問題を繰り返しながら、「このタイプの問題ではこう読む」というパターンをつかんでいくことも、自分に合った対処法を身につけていく一つの方法ですね。
自分がどこでつまずきやすいのかを知り、「こうすればできる」という方法を少しずつ増やしていく経験は、これから別の困りごとに出合った時にも役立つ、大切な力になっていくのだと思います。(監修:小児科医 室伏佑香先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。