ゲームでADHDを治療する? 小児神経科医が解説する新しいデジタル治療【専門家コラム】
ライター:今高城治
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獨協医科大学 小児科学教授の今高城治先生による解説企画。デジタル機器の普及に伴い、子育ての悩みも大きく変化しています。小児科領域でゲーム依存やデジタル機器の影響について研究されている今高先生に、最新の医学的知見や科学的データをもとに、デジタル時代の子育てのヒントを執筆いただきます。
執筆: 今高城治
獨協医科大学医学部小児科学教授 Imataka Lab/GAME-Fプロジェクト代表
獨協医科大学医学部小児科学教授。医学博士、MBA。子どもの発達や神経疾患の診療・研究に携わり、ゲーム・SNS・生成AIなど子どもを取り巻くデジタル環境についてGAME-Fを提唱。
GAME-F:https://game-f.org/
研究室サイト:https://imataka.labby.jp/
「ゲームをやめなさい」から「ゲームで治療しましょう」へ!?
「ゲームばかりしていないで、宿題をしなさい!」子どもにそんな言葉をかけたことのある保護者は少なくないでしょう。ゲームのやり過ぎやスマートフォンへの依存は、現代の子育てにおける大きな心配事の一つだと思います。
ところが最近、医療の世界では、これまでとは少し違った動きが始まっています。なんと、ゲームを利用してADHD(注意欠如多動症)を治療するという新しい方法が登場したのです。
「ゲームを減らすように言われているのに、今度はゲームすることが治療につながるの?」
不思議に感じる方もいるかもしれません。今回は、ゲームを医療に活用する新しい治療法について、小児神経科医の立場から考えてみたいと思います。
ところが最近、医療の世界では、これまでとは少し違った動きが始まっています。なんと、ゲームを利用してADHD(注意欠如多動症)を治療するという新しい方法が登場したのです。
「ゲームを減らすように言われているのに、今度はゲームすることが治療につながるの?」
不思議に感じる方もいるかもしれません。今回は、ゲームを医療に活用する新しい治療法について、小児神経科医の立場から考えてみたいと思います。
ADHDの治療には4つのアプローチがある
ADHDは、不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする神経発達症です。例えば、授業に集中し続けることが難しい、忘れ物が多い、じっと座っていられない、思いついたことをすぐ行動に移してしまう、といった特徴がみられます。ただし、こうした特徴があるからといって、すべての子どもに治療が必要なわけではありません。学校生活や家庭生活で、どの程度困っているのかを考えることが重要です。
ADHDの治療や支援は、大きく4つのアプローチで整理できます。
第一は、環境調整と生活習慣の改善です。 家庭や学校で集中しやすい環境を整える、予定を見える形で示す、十分な睡眠を確保するなどの工夫です。特に睡眠不足は、不注意や落ち着きのなさを悪化させることがあるため、睡眠衛生指導も大切です。
第二は、薬物療法です。 メチルフェニデートやアトモキセチン、グアンファシンなどが使用されます。症状の軽減が期待できますが、効果や副作用には個人差があります。
第三は、認知行動療法(CBT)などの心理社会的治療です。 CBTは、考え方や行動のパターンを見直し、日常生活での困りごとに対処する方法です。子どもの年齢によっては、保護者へのペアレントトレーニングや行動療法も重要になります。
そして近年、第四の新しい選択肢として、ゲーム形式のデジタル治療が加わりました。ただし、従来の治療に置き換わるものではなく、既存の治療や支援を補う方法として位置づけられています。
ADHDの治療や支援は、大きく4つのアプローチで整理できます。
第一は、環境調整と生活習慣の改善です。 家庭や学校で集中しやすい環境を整える、予定を見える形で示す、十分な睡眠を確保するなどの工夫です。特に睡眠不足は、不注意や落ち着きのなさを悪化させることがあるため、睡眠衛生指導も大切です。
第二は、薬物療法です。 メチルフェニデートやアトモキセチン、グアンファシンなどが使用されます。症状の軽減が期待できますが、効果や副作用には個人差があります。
第三は、認知行動療法(CBT)などの心理社会的治療です。 CBTは、考え方や行動のパターンを見直し、日常生活での困りごとに対処する方法です。子どもの年齢によっては、保護者へのペアレントトレーニングや行動療法も重要になります。
そして近年、第四の新しい選択肢として、ゲーム形式のデジタル治療が加わりました。ただし、従来の治療に置き換わるものではなく、既存の治療や支援を補う方法として位置づけられています。
ゲームそのものが医療機器になる時代
2025年、日本で「エンデバーライド(ENDEAVORRIDE)」というADHD治療補助アプリが医療機器として承認され、2026年6月に発売されました。塩野義製薬が国内で開発を進めた製品ですが、その技術は米国のAkili社に由来します。米国では、2020年に「EndeavorRx」という名称でFDA(米国食品医薬品局:Food and Drug Administration)の認可を受けています。
エンデバーライドは、スマートフォンなどでゲーム形式の課題に取り組む治療です。例えば、画面上でキャラクターを操作しながら、必要な対象に注意を向け、不要な刺激を無視するような課題に取り組みます。ここで重要なのは、単にゲームを楽しむことではありません。複数の課題を同時に処理する「二重課題」や、本人のスコアに合わせて難易度を調整する仕組みが組み込まれています。注意を向ける、必要な情報を選ぶ、状況に合わせて反応する。こうした認知機能に働きかけるよう設計されているのです。
標準的な使用方法は、1日約25分、6週間です。好きなだけゲームを続ける治療ではなく、使用時間と期間が決められています。
なお、エンデバーライドは、誰でも自由に利用できる一般的なゲームではありません。処方には医師の専門的な診療経験や所定の研修、医療機関の施設要件などが定められており、医師の管理のもとで使用する治療用アプリです。※
※ エンデバーライドの処方には、小児ADHDの診療経験や所定の研修修了など、医師に関する要件が設けられています。また、医療機関についても、一定期間内の小児ADHD患者の診療実績などの施設基準を満たす必要があります。具体的な要件は、厚生労働省の診療報酬関連通知および日本ADHD学会の適正使用指針をご参照ください。
エンデバーライドは、スマートフォンなどでゲーム形式の課題に取り組む治療です。例えば、画面上でキャラクターを操作しながら、必要な対象に注意を向け、不要な刺激を無視するような課題に取り組みます。ここで重要なのは、単にゲームを楽しむことではありません。複数の課題を同時に処理する「二重課題」や、本人のスコアに合わせて難易度を調整する仕組みが組み込まれています。注意を向ける、必要な情報を選ぶ、状況に合わせて反応する。こうした認知機能に働きかけるよう設計されているのです。
標準的な使用方法は、1日約25分、6週間です。好きなだけゲームを続ける治療ではなく、使用時間と期間が決められています。
なお、エンデバーライドは、誰でも自由に利用できる一般的なゲームではありません。処方には医師の専門的な診療経験や所定の研修、医療機関の施設要件などが定められており、医師の管理のもとで使用する治療用アプリです。※
※ エンデバーライドの処方には、小児ADHDの診療経験や所定の研修修了など、医師に関する要件が設けられています。また、医療機関についても、一定期間内の小児ADHD患者の診療実績などの施設基準を満たす必要があります。具体的な要件は、厚生労働省の診療報酬関連通知および日本ADHD学会の適正使用指針をご参照ください。
ゲームでADHDの症状は本当に改善する?
では、ゲームを利用することで、本当にADHDの症状が改善するのでしょうか。
2020年に医学誌『The Lancet Digital Health』で報告された米国の研究によると、8~12歳のADHD児348人を対象としたランダム化比較試験が行われ、4週間のゲーム型デジタル治療によって、コンピューター検査で測定した注意機能に、比較対象のゲームよりも有意な改善が認められました。
一方、保護者によるADHD症状の評価では、明確な群間差は認められませんでした。
日本でも、6~17歳のADHD患者164人を対象とした臨床試験が行われました。環境調整や心理社会的治療などの通常治療を続けながら、エンデバーライドを追加したグループと、通常治療のみのグループを比較しました。その結果、6週間後には、エンデバーライドを追加したグループで、医師が評価した不注意症状に統計学的に有意な改善が認められました。また、多動性・衝動性についても改善が報告されています。
ここで注目したいのは、米国の研究では主として検査上の注意機能の改善が示されたのに対し、日本の研究では、不注意症状に加えて、多動性・衝動性についても一定の改善が認められたことです。ただし、これらの結果は、ゲームによってADHDが完全に治ることを意味しません。学校生活や家庭生活における長期的な効果については、さらに検証が必要です。また、医療用アプリであっても、頭痛や吐き気、課題がうまくできないことによるいら立ちなどが起こる場合があります。治療中は子どもの様子を確認することも大切です。
2020年に医学誌『The Lancet Digital Health』で報告された米国の研究によると、8~12歳のADHD児348人を対象としたランダム化比較試験が行われ、4週間のゲーム型デジタル治療によって、コンピューター検査で測定した注意機能に、比較対象のゲームよりも有意な改善が認められました。
一方、保護者によるADHD症状の評価では、明確な群間差は認められませんでした。
日本でも、6~17歳のADHD患者164人を対象とした臨床試験が行われました。環境調整や心理社会的治療などの通常治療を続けながら、エンデバーライドを追加したグループと、通常治療のみのグループを比較しました。その結果、6週間後には、エンデバーライドを追加したグループで、医師が評価した不注意症状に統計学的に有意な改善が認められました。また、多動性・衝動性についても改善が報告されています。
ここで注目したいのは、米国の研究では主として検査上の注意機能の改善が示されたのに対し、日本の研究では、不注意症状に加えて、多動性・衝動性についても一定の改善が認められたことです。ただし、これらの結果は、ゲームによってADHDが完全に治ることを意味しません。学校生活や家庭生活における長期的な効果については、さらに検証が必要です。また、医療用アプリであっても、頭痛や吐き気、課題がうまくできないことによるいら立ちなどが起こる場合があります。治療中は子どもの様子を確認することも大切です。
禁煙治療からADHDへ。広がるアプリ治療
実は、アプリを利用する治療はADHDだけではありません。例えば、ニコチン依存症の治療では、以前からニコチンパッチなどの貼り薬や禁煙補助薬が使用されてきました。そこに新しく加わったのが、2020年に日本で承認された禁煙治療用アプリ「CureApp SC」です。このアプリは、認知行動療法などの考え方を応用し、喫煙したくなる場面への対処や禁煙習慣の定着を支援します。
さらに、高血圧、不眠症、アルコール依存症など、さまざまな領域でデジタル治療が実用化されています。ただし、これらの多くは、行動や生活習慣を変えることを支援するアプリです。
一方、エンデバーライドはゲーム形式の認知課題そのものを治療に利用するという特徴があります。同じデジタル治療でも、その仕組みは大きく異なるのです。
さらに、高血圧、不眠症、アルコール依存症など、さまざまな領域でデジタル治療が実用化されています。ただし、これらの多くは、行動や生活習慣を変えることを支援するアプリです。
一方、エンデバーライドはゲーム形式の認知課題そのものを治療に利用するという特徴があります。同じデジタル治療でも、その仕組みは大きく異なるのです。
ゲーム依存とゲーム治療は矛盾しない?
私はこれまで、ゲームやスマートフォンの過剰使用が子どもの健康や生活に与える影響について研究し、情報発信を続けてきました。その立場から考えても、ゲームを治療に利用することは、決して矛盾しているとは思いません。
ゲームの楽しさや達成感を、医療や教育などに活用する考え方を「ゲーミフィケーション(Gamification)」と呼びます。ゲームは人の時間や注意を奪うだけでなく、その仕組みを適切に活用することで、健康や学習を支え、より幸せな未来をつくる可能性も秘めているのです。
しかし、同じゲームでも、医療用と商業用では設計の目的が大きく異なります。スマートフォンやオンラインで楽しむ商業用ゲームには、長く遊び続けてもらうために、報酬や競争、ランキング、課金などの仕組みを取り入れたものがあります。こうした仕組みが、利用をやめにくくする一因になることもあります。
一方、医療用ゲームは、治療効果を得ることを目的に、使用時間や課題が設定されています。
つまり、ゲームを「長く続けさせるための技術」として使うのか、「健康を改善するための技術」として使うのか。 その設計思想の違いが、ゲームとの付き合い方を大きく変えるのです。
もちろん、商業用ゲームがすべて依存を引き起こすわけではありません。また、医療用ゲームに依存のリスクが全くないと断言できるわけでもありません。
大切なのは、ゲームの目的や仕組みを理解し、適切に利用することです。
ゲームの楽しさや達成感を、医療や教育などに活用する考え方を「ゲーミフィケーション(Gamification)」と呼びます。ゲームは人の時間や注意を奪うだけでなく、その仕組みを適切に活用することで、健康や学習を支え、より幸せな未来をつくる可能性も秘めているのです。
しかし、同じゲームでも、医療用と商業用では設計の目的が大きく異なります。スマートフォンやオンラインで楽しむ商業用ゲームには、長く遊び続けてもらうために、報酬や競争、ランキング、課金などの仕組みを取り入れたものがあります。こうした仕組みが、利用をやめにくくする一因になることもあります。
一方、医療用ゲームは、治療効果を得ることを目的に、使用時間や課題が設定されています。
つまり、ゲームを「長く続けさせるための技術」として使うのか、「健康を改善するための技術」として使うのか。 その設計思想の違いが、ゲームとの付き合い方を大きく変えるのです。
もちろん、商業用ゲームがすべて依存を引き起こすわけではありません。また、医療用ゲームに依存のリスクが全くないと断言できるわけでもありません。
大切なのは、ゲームの目的や仕組みを理解し、適切に利用することです。
大切なのは「ゲームをするか、しないか」ではない
デジタル技術は、私たちの生活に深く入り込んでいます。ゲームやショート動画の過剰使用が問題になる一方で、その技術が病気の治療にも利用されるようになりました。
ここで保護者の皆さんにお伝えしたいのは、ゲームを一律に良いもの、悪いものと判断する必要はないということです。
大切なのは、何のために、どのような仕組みで、どのくらい使用するのかという視点です。
ADHDの治療でも、アプリだけに期待するのではなく、家庭や学校での環境調整、十分な睡眠、必要に応じた薬物療法や心理社会的治療を組み合わせることが基本です。
ゲームが子どもの注意を奪うこともあれば、ゲームの技術を利用して注意機能の改善を目指すこともある。私たちは今、ゲームを単なる娯楽としてだけでなく、医療の新しい可能性として考える時代を迎えているのかもしれません。
ここで保護者の皆さんにお伝えしたいのは、ゲームを一律に良いもの、悪いものと判断する必要はないということです。
大切なのは、何のために、どのような仕組みで、どのくらい使用するのかという視点です。
ADHDの治療でも、アプリだけに期待するのではなく、家庭や学校での環境調整、十分な睡眠、必要に応じた薬物療法や心理社会的治療を組み合わせることが基本です。
ゲームが子どもの注意を奪うこともあれば、ゲームの技術を利用して注意機能の改善を目指すこともある。私たちは今、ゲームを単なる娯楽としてだけでなく、医療の新しい可能性として考える時代を迎えているのかもしれません。
A novel digital intervention for actively reducing severity of paediatric ADHD (STARS-ADHD): a randomised controlled trial
医薬品医療機器総合機構(PMDA).ENDEAVORRIDE(エンデバーライド)承認審査資料.2025年.
塩野義製薬.小児期におけるADHDに対するデジタル治療用アプリ「ENDEAVORRIDE」の国内製造販売承認取得について.2025年2月18日.
「ENDEAVORRIDE®(エンデバーライド)」新発売のお知らせ
注意欠如多動症(ADHD)に対するデジタル治療—エンデバーライドと次世代治療用アプリの現状と展望
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。