今年はなぜインフルエンザの流行が早い?鼻から接種するワクチン「フルミスト」の特徴と注意点【専門家コラム】
ライター:今高城治
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獨協医科大学 小児科学教授の今高誠治先生による解説企画。今回のテーマはインフルエンザワクチンです。今年は例年より早くインフルエンザの流行が始まっていることが話題となっています。保護者の方にとって、インフルエンザワクチンの接種時期はいつがベストなのか、どのタイプを選ぶのかなど、迷う方もいるのではないでしょうか。特に現在注目されている、鼻粘膜に噴霧するタイプのワクチン「フルミスト」について、今高先生に解説いただきます。
執筆: 今高城治
獨協医科大学医学部小児科学教授 Imataka Lab/GAME-Fプロジェクト代表
獨協医科大学医学部小児科学教授。医学博士、MBA。子どもの発達や神経疾患の診療・研究に携わり、ゲーム・SNS・生成AIなど子どもを取り巻くデジタル環境についてGAME-Fを提唱。
GAME-F:https://game-f.org/
研究室サイト:https://imataka.labby.jp/
インフルエンザは冬だけの感染症ではない
2026年は例年より早く、夏の終わりからインフルエンザの流行が始まりました。厚生労働省の報告でも、9月から10月にかけて患者数の増加が確認されています[1]。
インフルエンザといえば、寒く乾燥した冬に流行する感染症という印象があります。しかし、世界に目を向けると、必ずしも冬だけの病気ではありません。
日本の夏は南半球では冬に当たり、オーストラリアなどではインフルエンザの流行期を迎えます。また、東南アジアなどの熱帯地域では、年間を通じてインフルエンザウイルスが循環しています。
近年、日本を訪れる外国人旅行者は年間4,000万人を超え、日本人の海外旅行も活発です。夏休みには空港や航空機、観光地などで多くの人が行き交います。例えば、海外旅行中に感染した人が帰国後に家庭や学校、職場などで周囲に感染を広げることも考えられます。2009年の新型インフルエンザや2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、国境を越えた人の移動が感染症の拡大に大きく関係することを示しました。今年の早期流行についても、国際的な人の移動が関係している可能性があります。海の外からウイルスの侵入を阻止する「水際対策」は感染症の国内流入を遅らせる重要な手段ですが、季節性インフルエンザの侵入を完全に防ぐことは困難です。だからこそ、国内での予防が大切になります。
実は、今年インフルエンザの流行時期がずれたのは、日本だけではありません。地球温暖化に伴う気温や湿度の変化と降雨パターンが、インフルエンザの季節性に影響する可能性があり、世界中で研究されています。さらに、海外からのウイルス流入だけが原因とは限りません。前年に接種したインフルエンザワクチンの予防効果が薄れたこと、さらに夏休み以降の学校行事で子ども間での接触機会が増えたことも関係しています。
インフルエンザといえば、寒く乾燥した冬に流行する感染症という印象があります。しかし、世界に目を向けると、必ずしも冬だけの病気ではありません。
日本の夏は南半球では冬に当たり、オーストラリアなどではインフルエンザの流行期を迎えます。また、東南アジアなどの熱帯地域では、年間を通じてインフルエンザウイルスが循環しています。
近年、日本を訪れる外国人旅行者は年間4,000万人を超え、日本人の海外旅行も活発です。夏休みには空港や航空機、観光地などで多くの人が行き交います。例えば、海外旅行中に感染した人が帰国後に家庭や学校、職場などで周囲に感染を広げることも考えられます。2009年の新型インフルエンザや2020年の新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、国境を越えた人の移動が感染症の拡大に大きく関係することを示しました。今年の早期流行についても、国際的な人の移動が関係している可能性があります。海の外からウイルスの侵入を阻止する「水際対策」は感染症の国内流入を遅らせる重要な手段ですが、季節性インフルエンザの侵入を完全に防ぐことは困難です。だからこそ、国内での予防が大切になります。
実は、今年インフルエンザの流行時期がずれたのは、日本だけではありません。地球温暖化に伴う気温や湿度の変化と降雨パターンが、インフルエンザの季節性に影響する可能性があり、世界中で研究されています。さらに、海外からのウイルス流入だけが原因とは限りません。前年に接種したインフルエンザワクチンの予防効果が薄れたこと、さらに夏休み以降の学校行事で子ども間での接触機会が増えたことも関係しています。
鼻から接種するワクチン「フルミスト」とは?
インフルエンザの予防方法として、近年注目されているのが、鼻から接種するワクチン「フルミスト」で、日本では2024年から使用されています[2]。フルミストは、病気を起こす力を弱めたインフルエンザウイルスを鼻の中に噴霧する「弱毒生ワクチン」です。
通常のインフルエンザウイルスは、鼻や喉から侵入し、気道の粘膜細胞で増殖して、発熱や咳などの症状を引き起こします。一方、フルミストに含まれるウイルスは、温度の低い鼻や上気道で増殖しますが、体温に近い下気道や肺では増殖しにくいように作られています。この性質を利用して、鼻の粘膜で限定的にウイルスを増殖させ、自然感染に近い免疫反応を引き起こします。
つまり、病原性を弱めたウイルスを鼻粘膜に噴霧し、インフルエンザが発症するリスクを抑えながら身体に免疫をつける仕組みのワクチンです。
通常のインフルエンザウイルスは、鼻や喉から侵入し、気道の粘膜細胞で増殖して、発熱や咳などの症状を引き起こします。一方、フルミストに含まれるウイルスは、温度の低い鼻や上気道で増殖しますが、体温に近い下気道や肺では増殖しにくいように作られています。この性質を利用して、鼻の粘膜で限定的にウイルスを増殖させ、自然感染に近い免疫反応を引き起こします。
つまり、病原性を弱めたウイルスを鼻粘膜に噴霧し、インフルエンザが発症するリスクを抑えながら身体に免疫をつける仕組みのワクチンです。
注射の痛みがなく、1回で接種が完了
フルミストの大きな利点は、注射の痛みがなく、1回の接種で済むことです。国内ではフルミストは2歳から18歳までが対象で、左右の鼻に1回ずつ噴霧します[2]。
従来の注射型インフルエンザワクチンは、13歳未満では原則2回、13歳以上では原則1回の接種です。例えば、中学1年生でも12歳であれば、注射型は2回接種が基本となります。一方、高校3年生でも18歳であれば、フルミストを接種できます。ちなみに接種回数や対象年齢は、学年ではなく接種時の年齢で判断します。
では、フルミストと注射型ワクチンでは、どちらの予防効果が高いのでしょうか。フルミストは鼻の粘膜でも免疫を誘導する特徴があり、海外の研究では注射型より高い発症予防効果を示した例もあります。しかし、流行したウイルスの種類や接種する人の年齢などによって結果は異なり、どちらが優れているとは一概にいえません。また、生ワクチンだからといって予防効果が長く続くわけではなく、両者の効果の持続期間に明確な優劣は示されていません。インフルエンザウイルスは毎年流行する種類や性質が変化し、ワクチンによる免疫も時間とともに弱まるため、どちらも毎シーズンの接種が基本となります[7,9]。
接種料金は医療機関によって異なり、自治体による助成制度にも違いがあります。フルミストは注射型ワクチン2回分より1,000~2,000円程度高くなる場合があります。13歳以上では注射型が1回で済むため、フルミストとの差額が3,000円以上になることもあります。そのため、実際の自己負担額を比較してワクチンを選ぶことも大切です。
従来の注射型インフルエンザワクチンは、13歳未満では原則2回、13歳以上では原則1回の接種です。例えば、中学1年生でも12歳であれば、注射型は2回接種が基本となります。一方、高校3年生でも18歳であれば、フルミストを接種できます。ちなみに接種回数や対象年齢は、学年ではなく接種時の年齢で判断します。
では、フルミストと注射型ワクチンでは、どちらの予防効果が高いのでしょうか。フルミストは鼻の粘膜でも免疫を誘導する特徴があり、海外の研究では注射型より高い発症予防効果を示した例もあります。しかし、流行したウイルスの種類や接種する人の年齢などによって結果は異なり、どちらが優れているとは一概にいえません。また、生ワクチンだからといって予防効果が長く続くわけではなく、両者の効果の持続期間に明確な優劣は示されていません。インフルエンザウイルスは毎年流行する種類や性質が変化し、ワクチンによる免疫も時間とともに弱まるため、どちらも毎シーズンの接種が基本となります[7,9]。
接種料金は医療機関によって異なり、自治体による助成制度にも違いがあります。フルミストは注射型ワクチン2回分より1,000~2,000円程度高くなる場合があります。13歳以上では注射型が1回で済むため、フルミストとの差額が3,000円以上になることもあります。そのため、実際の自己負担額を比較してワクチンを選ぶことも大切です。
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花粉症や鼻づまりがある場合は?
秋は、地域によってイネ科の花粉やブタクサ、ヨモギなどによるアレルギー性鼻炎がみられる時期です。
フルミストは鼻の粘膜に噴霧するワクチンのため、鼻水が多い場合は接種前に軽く鼻をかんでおくとよいでしょう。ただし、鼻をかむことでワクチンの効果が高まると証明されているわけではありません。鼻づまりが強い場合は、ワクチンが鼻粘膜に十分届かない可能性があるため、接種時期をずらすか、注射型ワクチンを選ぶことも検討します。
また、アレルギー性鼻炎の点鼻薬を使用している場合も、フルミストの接種が一律に禁止されるわけではありません。
ただし、どちらのワクチンが適切か、また点鼻薬の種類や使用するタイミングについては、接種前に医師へ伝えて相談しておくと安心でしょう。
フルミストは鼻の粘膜に噴霧するワクチンのため、鼻水が多い場合は接種前に軽く鼻をかんでおくとよいでしょう。ただし、鼻をかむことでワクチンの効果が高まると証明されているわけではありません。鼻づまりが強い場合は、ワクチンが鼻粘膜に十分届かない可能性があるため、接種時期をずらすか、注射型ワクチンを選ぶことも検討します。
また、アレルギー性鼻炎の点鼻薬を使用している場合も、フルミストの接種が一律に禁止されるわけではありません。
ただし、どちらのワクチンが適切か、また点鼻薬の種類や使用するタイミングについては、接種前に医師へ伝えて相談しておくと安心でしょう。
注意点は、接種後の発熱とインフルエンザ検査
ここで、保護者や医療従事者に知っていただきたい重要な注意点があります。フルミストに含まれる弱毒化ウイルスは鼻の粘膜で増殖するため、接種後しばらくは、インフルエンザの迅速抗原検査で陽性になることがあります[2]。
例えば、フルミストを接種した7日後に発熱したとします。このとき、鼻から採取した検体でインフルエンザ抗原が陽性でも、それがワクチン由来なのか、実際のインフルエンザ感染なのか区別ができません。これは検査が間違っているというよりも、ワクチン由来のウイルス抗原を実際に検出している可能性があるということです。
そのため、接種後に発熱して医療機関を受診する際には、フルミストを接種した日を必ず医師に伝えるようにしましょう。医療者側も、接種歴と症状、周囲の流行状況を踏まえて検査結果を判断する必要があります。
では、鼻から排出されたワクチンウイルスが、周囲の子どもにうつることはあるのでしょうか。197人の乳幼児を対象とした保育施設での臨床試験では、ワクチンを接種した98人のうち約80%で、鼻からワクチンウイルスが検出されました。一方、接種しなかった99人のうち、ワクチンウイルスがうつったのは1人だけでした。うつった子どもに重い症状は認められませんでした[8]。つまり、鼻からワクチンウイルスが排出されることは珍しくありませんが、ほかの子どもにうつることはまれです。ただし、重度の免疫不全がある人との接触には注意が必要です[2]。
その他、フルミストは生ワクチンのため、妊娠している場合や免疫機能が低下している場合などには接種できません。また、喘息などの呼吸器疾患がある場合には慎重な判断が必要です[2]。その他、卵アレルギーのあるお子さんは、主治医と接種についてよく相談をしてください。
例えば、フルミストを接種した7日後に発熱したとします。このとき、鼻から採取した検体でインフルエンザ抗原が陽性でも、それがワクチン由来なのか、実際のインフルエンザ感染なのか区別ができません。これは検査が間違っているというよりも、ワクチン由来のウイルス抗原を実際に検出している可能性があるということです。
そのため、接種後に発熱して医療機関を受診する際には、フルミストを接種した日を必ず医師に伝えるようにしましょう。医療者側も、接種歴と症状、周囲の流行状況を踏まえて検査結果を判断する必要があります。
では、鼻から排出されたワクチンウイルスが、周囲の子どもにうつることはあるのでしょうか。197人の乳幼児を対象とした保育施設での臨床試験では、ワクチンを接種した98人のうち約80%で、鼻からワクチンウイルスが検出されました。一方、接種しなかった99人のうち、ワクチンウイルスがうつったのは1人だけでした。うつった子どもに重い症状は認められませんでした[8]。つまり、鼻からワクチンウイルスが排出されることは珍しくありませんが、ほかの子どもにうつることはまれです。ただし、重度の免疫不全がある人との接触には注意が必要です[2]。
その他、フルミストは生ワクチンのため、妊娠している場合や免疫機能が低下している場合などには接種できません。また、喘息などの呼吸器疾患がある場合には慎重な判断が必要です[2]。その他、卵アレルギーのあるお子さんは、主治医と接種についてよく相談をしてください。
近い将来、ワクチンは「貼る」「飲む」の時代へ
現在、針の注射に代わる新しいインフルエンザワクチンの開発も進んでいます。その一つが、非常に細い針を利用して皮膚からワクチン成分を届ける「マイクロニードルパッチ」です。皮膚に貼り付けて使用するもので、2017年に米国、2020年にはオーストラリアから臨床試験の成果が報告されました[3,4]。開発中のパッチは、長さわずか0.25~0.65ミリの微細な針がついた直径3センチほどのシールを皮膚に貼ることで、ワクチン成分を届けます。通常の注射針のように筋肉まで刺す必要がなく、接種時の痛みをかなり軽減できます。
さらに、錠剤を飲んで免疫を誘導する「経口ワクチン」も研究されています。米国では2020年に第II相臨床試験の成果が報告され、インフルエンザの発症を予防する可能性が示されました[5]。
いずれも実用化にはさらなる検証が必要ですが、近い将来、「注射する」「鼻に噴霧する」「皮膚に貼る」「錠剤を飲む」など、ワクチン接種の選択肢がさらに広がるかもしれません。
インフルエンザに罹患すると、特に乳幼児はインフルエンザ脳症や肺炎など重い合併症を引き起こすリスクがあります[6]。ワクチンは感染を完全に防ぐものではありませんが、発症や重症化のリスクを減らす重要な予防手段です。流行時期の変化に注意しながら、それぞれの子どもの年齢や健康状態に合った予防方法を選ぶことが大切です。
さらに、錠剤を飲んで免疫を誘導する「経口ワクチン」も研究されています。米国では2020年に第II相臨床試験の成果が報告され、インフルエンザの発症を予防する可能性が示されました[5]。
いずれも実用化にはさらなる検証が必要ですが、近い将来、「注射する」「鼻に噴霧する」「皮膚に貼る」「錠剤を飲む」など、ワクチン接種の選択肢がさらに広がるかもしれません。
インフルエンザに罹患すると、特に乳幼児はインフルエンザ脳症や肺炎など重い合併症を引き起こすリスクがあります[6]。ワクチンは感染を完全に防ぐものではありませんが、発症や重症化のリスクを減らす重要な予防手段です。流行時期の変化に注意しながら、それぞれの子どもの年齢や健康状態に合った予防方法を選ぶことが大切です。
[1]厚生労働省.インフルエンザの発生状況について.2026/2027シーズン、2026年10月9日公表
[2]第一三共株式会社.フルミスト点鼻液 添付文書.2026年8月改訂.医薬品医療機器総合機構(PMDA).
[3]The safety, immunogenicity, and acceptability of inactivated influenza vaccine delivered by microneedle patch (TIV-MNP 2015): a randomised, partly blinded, placebo-controlled, phase 1 trial
[4]Safety, tolerability, and immunogenicity of influenza vaccination with a high-density microarray patch: Results from a randomized, controlled phase I clinical trial
[5]Efficacy, immunogenicity, and safety of an oral influenza vaccine: a placebo-controlled and active-controlled phase 2 human challenge study
[6]厚生労働省.インフルエンザ(総合ページ).
[7]Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Considerations for the Use of Live Attenuated Influenza Vaccine and Inactivated Influenza Vaccine When Either is Available.
[8]A randomized, double-blind study of the safety, transmissibility and phenotypic and genotypic stability of cold-adapted influenza virus vaccine
[9]日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会.経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方~医療機関の皆様へ~.2024年9月2日.
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