どのようなときに成年後見制度を使えるの?

どういった場合に成年後見制度を利用することができるのでしょうか。成年後見制度を利用することに決めた、きっかけの上位5位をご紹介します。

第1位 預貯金等の管理・解約
第2位 身上保護
第3位 介護保険契約
第4位 不動産の処分
第5位 相続手続き
参考:成年後見関係事件の概況 平成31年1月~令和元年12月|最高裁判所事務総局家庭局
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2020/20200312koukengaikyou-h31.pdf
成年後見制度は、金銭的なやりとりや契約の取り決めをきっかけに利用を検討する方が多いようです。

成年後見制度には家庭裁判所が成年後見人などを選任し、すでに判断能力が低下している人に対して支援する法定後見制度と、あらかじめ本人が任意後見人を選び近い将来に備え支援者と支援内容を決めておく任意後見制度の2種類があります。違いとしては、後見制度の始め方、後見人の選出方法、サポート内容、報酬、などがあります。

両者には具体的にどのような違いがあるのか、どのような方を対象にしているのか、なにができるのかを詳しくご説明していきます。

法定後見制度とは?

法定後見制度とは、現時点ですでに判断能力が低下している方を支援する制度です。認知症や精神疾患のある方といった現時点で判断能力が低下している方は生活を送る上で、色々な困難さがあります。お金を自分で管理することが難しい場合や悪徳商法に巻き込まれてしまうことが少なくありません。

そういった支援を必要とする人を本人(それぞれを成年被後見人・被保佐人・被補助人という)、支援する人をそれぞれ成年後見人保佐人補助人と呼びます。本人の判断能力の度合いに応じて、後見、保佐、補助の3類型に分かれています。

後見: 常に自分では物事を判断できない場合
 ・家庭裁判所は本人のために成年後見人を選任します
 ・成年後見人は本人の財産に関するすべての法律行為を本人に代わって行うことができます
 ・成年後見人または本人は、自ら行った法律行為に関しては日常行為に関するものを除いて取り消すことができます  

保佐: 判断力が著しく不十分な場合(簡単なことは自分でできますが、法律行為はほとんど判断できません)
 ・家庭裁判所は本人のために保佐人を選任します
 ・保佐人に対して当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権を与えることができます
 ・保佐人または本人は本人が自ら行った重要な法律行為に関しては取り消すことがができます

補助: 判断力が不十分な場合(大体のことは自分で判断できますが、難しい事項については手伝いが必要です)
 ・家庭裁判所は本人のために補助人を選任します
 ・補助人には当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権または同意権(取消権)を与えることができます

支援を必要とする人(本人)を、それぞれ成年被後見人・被保佐人・被補助人といい、支援する人を成年後見人・保佐人・補助人と呼びます。

成年後見人、保佐人、補助人とは

成年後見人、保佐人、補助人とは家庭裁判所に選ばれ、本人に代わって法律行為など定められた行為を行う人をいいます。

成年後見人は本人にどのような保護・支援が必要かといった事情に基づき、家庭裁判所が援助する人物を選任します。ただし、希望通りになるとは限りません。そのような場合でも、申請を取り下げることはできないので、注意が必要です。

成年後見人には、本人の子どもをはじめとする親族や、法律・社会福祉士の専門家、社会福祉法人や福祉関係のNPO法人などが選ばれる可能性があります。また、成年後見人は1人だけ選ばれるとは限りません。専門職の後見人を置きつつ、身の回りの法律行為については親族と役割分担する場合もあります。

成年後見人、保佐人、補助人のすべてに共通する役割には、大きく分けて財産管理、身上保護、報告の3つがあります。

■財産管理
財産管理とは、証明書・契約書などの保管や法務手続きを行い、生活費を管理することです。一般的には多額の現金や預貯金は成年後見人が管理し、必要な分のみ本人が持つという形をとります。定期的に家庭裁判所にお金の動きを表す収支予定表を提出し、指示指導を受ける必要があります。これを後見監督といいます。このために領収書を常時管理し、金銭出納帳に記録することが求められます。

■身上保護(しんじょうほご)
身上保護とは、本人の体調や環境を考慮の上で、適切な医療・看護を受けられるよう手配を行うことです。例えば住居・生活環境の確保や整備、介護や入院の手続きなどが挙げられます。ただし、成年後見人自身が本人を介護することは意味しません。専門職の方が後見人に選ばれた場合は親族が協力することがあります。

■報告
報告とは家庭裁判所から要請がある場合に、後見事務に関する報告書を家庭裁判所に提出することをいいます。これは義務付けられており、一般的に1年に1度行います。 

法定後見制度の手続き

法定後見制度を利用するにはどのような手続きをしたらよいのか、ご説明します。

1. 申し立ての予約をしましょう
家庭裁判所に対して申し立ての予約をします。電話もしくは郵送で行うところがありますので、事前に確認しましょう。

2. 申し立てをしましょう
お住まいの地域の家庭裁判所にて申し立てを行います。申し立ては本人のほかに配偶者、四親等内の親族などができます。

3. 面接を受けましょう
家庭裁判所が関係者に事情を聴きます。面接に必要な書類は事前用意しておきましょう。また面接には本人、申し立て人、後見人候補などが出席する必要があります。医師による精神鑑定などの鑑定をする場合があります。その場合は別途、鑑定料がかかります。

4. 家庭裁判所による審判が行われます
主に後見人が必要かどうか、誰を後見人にするのかの2点を中心に協議されます。 

5. 審判の告知と通知
裁判所から審判書が送られます。申立書に記載した成年後見人候補者がそのまま選任されることが多くあります。しかし家庭裁判所の判断により弁護士・司法書士などが選任される場合もあります。不服の場合は2週間以内に不服申し立てを行います。ご本人、配偶者、四親等内の親族のみが可能です。承認の場合は後見開始の審判が確定し、正式に後見人となります。手続きは自治体により異なる場合があります。詳しくは自治体のホームページをご確認ください。
参考:成年後見制度~成年後見登記制度~ | 法務省
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3
参考:成年後見制度における診断書作成の手引|最高裁判所事務総局家庭局
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/201904tebiki.pdf

法定後見制度の手続きに必要な書類

法定後見制度の手続きには、いくつかの資料を準備する必要があります。東京家庭裁判所を一例にご紹介します。

・申立書類
・戸籍謄本
・住民票(世帯全部、省略のないもの)
・登記されていないことの証明書
・診断書(成年後見用)、診断書付票
・知的障害の場合、療育手帳(愛の手帳・みどりの手帳・愛護手帳)のコピー
・総合判定の記載のあるページのコピーも必ず添付してください。

上記の資料を提出する際には個人番号(マイナンバー)の記載がない書類を提出することが求められます。

法定後見制度の申請にかかる費用

法定後見制度の申請の際には費用がかかります。この費用については申立人が用意します。

【手続費用】
・ 申立手数料及び後見登記手数料(収入印紙)
  :3400円分(内訳:申し立て手数料 800円+登記手数料 2600円)
・ 送達・送付費用
  :3270円(後見申立て)/4210円(保佐・補助申立て)
・ 鑑定費用
  :実費(通常は裁判所に予納した金額
・医師の診断書の作成費用  
  : 数千円程度(費用は病院ごとに異なる)
・住民票
  :数百円/部 , 戸籍抄本 数百円/部
・登記されていないことの証明書の発行手数料
  :300円(収入印紙)

鑑定を要する場合は別途、鑑定費用が5~10万円かかります。また申立てを弁護士や司法書士に依頼する場合、費用は自己負担となり別途お金がかかります。依頼する専門家により報酬は異なるので確認しましょう。
参考:成年後見制度パンフレット|法務省民事局
http://www.moj.go.jp/content/001287467.pdf
参考:申立てにかかる費用・後見人等の報酬について|東京家庭裁判所
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/hiyou/index.html

法定後見制度に対する報酬

本人の財産や事情などに基づき、適当な額を家庭裁判所が決定し、本人の財産の中から報酬を受け取ることができます。申し立てがある場合は審判で決定されます。

任意後見制度とは?

任意後見制度とは、本人十分な判断能力があるうちに、判断能力が不十分な状態になったときに備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人、公証人または任意後見人に代理権を譲渡し、契約を定める制度をいいます。これにより本人の意思に基づいて財産管理や支援を行うことができます。

公証人の作成する公正証書によって契約を結びます。本人の判断能力が低下したら家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで初めて効力が発生します。任意後見監督人のもと、任意後見人は本人を代理して契約などを行います。

任意後見人・任意後見監督人とは

任意後見人とは、本人に判断能力があるうちに、契約内容をあらかじめ取り決めてお願いする人物をいいます。近い将来に判断能力が低下した時のことが不安な方におすすめです。

任意後見監督人とは、任意後見人を監督する人物をいいます。任意後見人は大きな権限を与えられるため、成年後見制を悪用してしまう可能性が少なからずあります。そのため、任意後見人をチェックするという意味で任意後見監督人がいます。

任意後見人・任意後見監督人は誰がなれるのか

任意後見人には特に法律的な資格は要求されず、誰でもなることができます。家族、友人、弁護士、司法書士等の専門家など信頼できる人を選びましょう。ただし、任意後見人には大きな権限が与えられるので慎重に選びましょう。

それに対し、任意後見監督人は家庭裁判所が選任します。一般的に、第3者である弁護士や司法書士、社会福祉士、税理士や法律、福祉に関わる法人などが選ばれることが多くなっています。

任意後見制度の3つのかたち

任意後見制度の利用は本人の判断能力の状況により、3つのかたちにわけることができます。判断能力の増減に応じて支援内容を変更することができます。

■将来型
現在は元気で判断能力があることから、将来判断能力が不十分になったときに効力を発生させます

■即効型
現在、体力・判断能力ともに衰えがあることから、任意後見契約の直後に契約の効力を発生させます

■移行型
判断能力があるあいだに、任意後見契約と同時に財産管理の見守り契約などを結び、本人の判断能力が低下したら任意後見に移行するものです。

任意後見制度の手続き

任意後見制度の手続きをご紹介します。お住まいの自治体により手続きが異なることがあります。詳しくは自治体のホームページをご確認ください。

1. 公正証書での任意後見契約の締結をします
本人の判断能力が十分にあるうちに任意後見人と具体的な支援内容を話し合い、公正証書という文書の形で契約を締結します。

2. 任意後見契約内容の登記
契約内容は法務局で登記されます。その内容は法務局にて後見登記記事証明書で確認できます。

3. 家庭裁判所への任意後見監督の選任申し立て
本人の判断能力が低下したら、本人は家庭裁判所に申し立てを行います。申し立ては本人(任意後見契約の本人)もしくは配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者ができます。これにより、家庭裁判所が任意後見監督人の選任を行います。そして任意後見制度の効力が発生し、あらかじめ決められた契約内容に基づき任意後見監督人の監督のもと支援が開始されます。

任意後見制度の手続きに必要な書類

任意後見制度の手続きには、いくつかの資料を準備する必要があります。東京家庭裁判所を一例にご紹介します。

・申立書類
・戸籍謄本
・住民票(世帯全部,省略のないもの)
・後見登記事項証明書(任意後見)
・後見登記されていないことの証明書
・任意後見契約公正証書の写し
・診断書(成年後見用)

任意後見制度にかかる費用

■任意後見制度の申請
任意後見制度の申請には主に次のような費用がかかります。
・公証役場の手数料:11,000円
・法務局に収める印紙代:2,600円
・法務局への登記委託料:1,400円
・郵送費
・正本、謄本の作成手数料など

■効力が発生するとき及び効力が発生したあと
効力が発生したとき及び効力が発生したあとには主に次のような費用がかかります。
・任意後見監督人の選任申立て費用
・任意後見契約で定めた、任意後見人に対する報酬
・任意後見監督人の報酬
参考:成年後見制度パンフレット|法務省民事局
http://www.moj.go.jp/content/001287467.pdf

任意後見人・任意後見監督人に対する報酬

任意後見人に対する報酬は本人との話し合いで自由に報酬を決められます。請求があった場合、家庭裁判所の判断に基づき本人の財産から支払われます。任意後見監督人に対する報酬は家庭裁判所が決定します。
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