ダウン症のある人の平均寿命・平均余命は?最高齢は何歳?成人期の医療における課題も【医師監修】

ライター:発達障害のキホン
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ダウン症のある人の寿命・余命は一般的に短いと言われることが多いですが、平均してどれくらいなのでしょうか?また寿命・余命を伸ばすことは可能なのでしょうか?今回は寿命と余命の定義も踏まえ、ダウン症と寿命・余命の関係について説明したいと思います。

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監修: 玉井浩
大阪医科薬科大学 小児高次脳機能研究所 LDセンター顧問
大阪医科薬科大学 小児科名誉教授
小児神経学をベースに、小児期から成人期に至るまで医療・教育・福祉にわたる総合的な診療と支援を実践している。また、日本ダウン症協会の代表理事として、家族支援、公益事業や国際連携も行っている。

ダウン症児の平均寿命は伸びている

ダウン症のある人は、合併症として心臓疾患を合併する子どもが多く、かつては乳幼児のうちに亡くなることも多く、10歳以上生きられるかどうか、という時代もありました。しかし、現代では乳児の心臓手術などの医療技術が発展したため、昔に比べるととても長く生きられるようになりました。

厚生労働省の簡易生命表によると、令和3年度の日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳となっています。一方、ダウン症児の平均寿命は、60歳前後です。一般の平均寿命に比べると短いですが、ダウン症のある人の死亡時の年齢は72%が40歳以上であることを見ても、昔に比べるとはるかに長生きしていることが分かります。
主な年齢の平均余命|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life10/01.html
障害のあるお子さんの暮らし (ダウン症)|こども家庭庁 妊娠中の検査に関する情報サイト
https://prenatal.cfa.go.jp/growth-and-life/living-with-children-21trisomy.html

ダウン症とは

ダウン症は、1866年にLangdon H. Downによりはじめて報告された疾患で、染色体異常による疾患の中ではいちばん多い疾患です。正式には「ダウン症候群」といいます。ヒトの染色体は22対44本の常染色体と性染色体の合計46本の染色体によって構成されていますが、この染色体異常により起こる疾患です。

ダウン症の場合、約95%は「標準型21トリソミー型」と呼ばれるもので、21番目の常染色体が1本多いことで起こるものです。これは受精時に偶然起こるもので両親の染色体に変異はありません。また、約4~5%は「転座型」21番目の染色体の1本がほかの染色体(13番、14番、15番、21番、22番など)にくっついたことによって起こります。、そしてもう一つ、ダウン症全体の1~3%以下の割合の「モザイク型」は、2つの異なる細胞で身体が構成されています。21番トリソミーを持つ細胞と21番トリソミーを持たない細胞が一定の割合で混在しているというような状態です。

ダウン症のある人の平均寿命が延びている理由

上で述べたようにダウン症の原因やタイプについては分かってきているものの、ダウン症そのものを治療する方法は現在のところありません。しかし、医学の進歩によりダウン症のある人に合併しやすい疾患の治療はできるようになってきました。

特に、先天的心疾患や先天性消化器疾患などの治療が乳幼児期から行われることで、ダウン症のある人の寿命は飛躍的に延びています。胎児期や乳児期などの早期にこれらの合併症を把握できるようになり、外科手術などの高度な医療を受けられるようになったためです。また、早期療育や生活改善が実施されるようになり、合併症の予防・身体の運動能力の向上がうまくいっていることも寿命が長くなることにつながっていると考えられます。

ダウン症がある人に多い死因

「平均余命」という言葉を知っていますか?平均余命とは、「ある年齢の人々が、その後何年生きられるかという期待値」のことです。一般に知られている「平均寿命」とは、「0歳での平均余命」のことなのです。60歳の男性が、「平均寿命」が80歳だからといって、「残りの人生は20年だ」と単純に考えるのは間違いです。

令和3年の簡易生命表によると、日本人の平均寿命は男性が81.47歳 、女性が87.57歳です。65歳男性の「平均余命」は、19.85年になっています。65歳男性の残りの人生は平均約20年になる、ということです。つまり「平均寿命」から計算した16年よりも4年ほど長生きできそうである、ということを表しています。これはダウン症のある人でも同じことが言えます。

さらに、ダウン症の場合、生まれてすぐから10歳になるころまでに亡くなるケースも少なくないため、平均寿命はかなり短くなります。例えば0歳のダウン症児の平均余命は48.9歳ですが、1歳のダウン症児の平均余命は51.2歳となっています。1歳でもこんなに違うのですから、10歳を超えたダウン症のある子どもたちは、もっともっと長生きできるでしょう。
参考:Causes of death in patients with Down syndrome in 2014-2016: A population study in Japan
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34622557/

平均余命・平均寿命の違い

ダウン症がある人の死因は、年代によって異なります。ダウン症がある人は、先天性の疾患を持つことが多いため、乳幼児期はそれが原因で亡くなる人が多いのですが、老年期になるとダウン症のない人と大きな差はありません。

2014年から2016年の日本におけるデータによると、乳幼児期から18歳までのダウン症のある人の死因は、先天性心疾患と白血病・リンパ腫などが多くなっています。19歳から39歳の成人期には誤嚥性肺炎や呼吸器感染が多くなり、40歳以降により高まります。
ダウン症のある人は老年期が早く、40歳からとされていますが、老年期の死因は、誤嚥性肺炎・呼吸器感染、早期発症アルツハイマー病が多くなっています。ダウン症のある人は悪性固形腫瘍(臓器等の固形のガン)になる人が少ないといわれており、悪性固形腫瘍による死亡は少ないのですが、それ以外ではダウン症のない人と死因は大きく変わりません。
主な年齢の平均余命|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life10/01.html
厚生労働省 「主な年齢の平均余命の年次推移」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life23/dl/life23-09.pdf
山根希代子 「ダウン症の長期追跡と療育支援」
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/17749/2014101613134871839/KJ00004258008.pdf

ダウン症の最高齢と日本におけるダウン症のある人の平均寿命

長くなってきているダウン症のある人の寿命ですが、最高齢はいくつなのでしょうか。
現在記録されているダウン症のある人の最高齢はオーストラリアで73歳、 スウェーデンで87歳、アメリカで70歳です。長寿国といわれる日本では、その年齢をさらに上回り、ダウン症のある人の最高齢は102歳であることが分かっています。

1995年から2016年の約20年間の日本のダウン症患者の経年変化における調査によると、20年間で平均寿命は飛躍的に伸び、2010年以降ダウン症のある人の3 人に 1人が60 歳以上であることが分かりました。
Secular trends in longevity among people with Down syndrome in Japan, 1995-2016
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32567109/
超高齢社会における障害者施策のあり方に関する研究―日本におけるダウン症者および重症心身障害者に関するエビデンス―|茂木成美
https://ci.nii.ac.jp/naid/500001518035/

ダウン症児の寿命は、男女で違いがあるの?

現在のダウン症の人の平均寿命は、男女とも60歳前後といわれています。日本人の平均寿命が、男性81.47歳、女性87.57歳ということを踏まえると、ダウン症の人も女性の方がやや平均寿命が長いなどあるかもしれませんが、この場合も「男女とも85歳前後」ということになります。

ダウン症がある人の平均寿命は明確な男女差はありませんが、合併症の有無などによる差というものは存在しています。特に、先天性の心疾患で生まれてすぐに心不全など症状を発症してしまうと、寿命が格段に下がると言われています。逆に、10歳までに身体的に重度な二次障害が発症しなければ、寿命はぐっと長くなります。

ダウン症の平均寿命が男女とも50歳代を超えているといわれる現代でも、合併症や症状の重度軽度などにより生まれて間もないうちから10歳になるころまでに亡くなってしまうダウン症のある人たちも、まだまだたくさんいるのです。ダウン症では男女の差よりも、症状の重さや合併症の程度などによる差の方がずっと大きいということです。
山根希代子 「ダウン症の長期追跡と療育支援」
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/17749/2014101613134871839/KJ00004258008.pdf

ダウン症のある人の寿命は治療で伸ばすことができるの?

ダウン症のある人の合併症や治療

ダウン症の寿命が短いのは、合併症を引き起こしやすいからといわれています。特に、一番多いのが先天性の心臓疾患です。以前は、この心臓疾患によって半分近いダウン症児が10歳以下で亡くなっていました。10歳以上生きられるかどうかというのが大きなターニングポイントとなるわけです。現在は乳児を含む小さな子どもの心臓手術の成功率が、かなり上がっているので、生存率は以前と比べて上がっています。

また、ダウン症児の多くが併発するといわれている、食道閉鎖症、十二指腸閉鎖症、巨大結腸症、鎖肛、ヒルシュスブルング病などの命に係わる消化器疾患系の合併症もまた、医療の進歩により根治治療さえ可能となってきているのです。そのため、多くの人がこの10歳以上生きられるかどうかというターニングポイントを超えることができるようになり、平均寿命も延びたというわけです。

また、大きな合併症ばかりでなく、筋緊張が低下し、筋肉がつくられにくいというも寿命の短縮に関わりがあるかもしれません。これはダウン症の二次障害の中ではあまり重要視されませんが、治療を受けなくても、生活習慣を見直したり運動不足を解消することが、ダウン症のある人の寿命を延ばすことにつながります。

ダウン症のある人の成人期の医療への課題

ダウン症の平均寿命が延びるということは大変良いことなのですが、それに伴い新たな問題も生まれました。長生きに伴い、乳幼児期や学童期だけでなく、青年期以降にも合併症などの治療が必要となり、その受け皿が少ないことが課題となっています。
子どものころは合併症の治療のためにかかりつけ医を持ち、継続して通院していた人も、成長して治療が必要でなくなると、かかりつけ医を受診することがなくなることがあります。しかし、成長後に発症する疾患もあるため、かかりつけ医を持ち、定期的に検査をしたり、症状が見られたときには早めに治療を開始するのが理想的です。ところがダウン症のある人を成人期や老年期まで長期的にフォローする専門の体制がまだ確立されていないため、どの診療科を受診したらよいか分からないといった事態に陥るケースも少なくありません。

また、成人のダウン症のある人に、アルツハイマー型認知症を発症する人がいるという事実が明らかになりました。全員に発症するわけではありませんが、40代ごろからその症状が現れる人もいるといいます。
原因はまだ明らかにはされていませんが、ダウン症のある人は、異常たんぱく質が産生されやすく、かつ組織や臓器に蓄積しさまざまな障害を引き起こしやすいのです。この異常なたんぱく質が脳に蓄積することで、アルツハイマー型認知症を発症するのではと推測されています。
参考:成人期を見据えたダウン症候群のある児への関わり
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2020/007901/002/0002-0009.pdf
「ダウン症候群のある患者の移行医療支援ガイド」
https://japandownsyndromeassociation.org/transition-healthcare/
次ページ「医療の発展と共に著しく伸びているダウン症のある人の平均寿命。より良い成人期を過ごすために大切にしたい医療とのつながり」

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