聴覚過敏の原因と、具体的な改善方法は?

日常生活や学校・仕事に支障をきたすこともある聴覚過敏。周囲の人が気にしないような音が、耳を覆いたくなるほど気になってしまう。普段は気にならなかった音が、やけに頭に響く。これは体からのサインです。ここでは、聴覚過敏の具体的な特徴、原因や改善方法などについて詳しくお伝えします。

聴覚過敏とは?
聴覚過敏には、はっきりとした明確な定義はなく、医師のとらえ方によりその定義が異なります。
出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/120/9/120_1184/_pdf/-cha...聴覚過敏を指す用語にはいくつかの種類がある。
Hyperacusis:音に対する異常に低い許容
Phonophobia:音や声への不合理な恐れ
Odynacusis:聴覚刺激による疼痛
この中でもHyperacusisが聴覚過敏一般を示す用語として用いられる。
引用:聴覚過敏の診断と治療|坂田俊文,日本耳鼻咽喉科学会会報120(9) p.1184-1185,2017年
音が響く
・耳をつんざくように音が響く
・頭の中で音が反響する
・耳に音が刺さって、脳が震える感じ
症状の程度も様々であるといわれています。例えば、作業を中断せずとも我慢できる場合から、意識がもうろうとして横にならないと耐えられないほどの場合もあります。聴覚過敏の症状が強い場合、耳をふさぎたくなるほど耳の奥が痛くなったり、頭痛が起きたりするような身体的な痛みを伴うことがあります。症状の程度によっては休憩をとったり、不快感の原因となっている音から離れたりすることが必要です。
気になるのはどんな音?
・人と人が会話している音
・救急車両のサイレンの音
・打ち上げ花火の音
・駅や街中での人ごみの音
・子どもの声
・ゲームセンターやボーリング場での音
・ドアの開け閉めやノックの音
・食器と食器が触れ合う音
特に、低い音よりは、女性の話し声や子どもの騒ぎ声、また食器が触れ合う音などの高い音を苦痛に感じる人が多いようです。ある特定の音が気になる場合もあれば、耳に入る全ての音に対して苦痛をもよおす場合もあります。精神状態や体調によっても不快感の度合いは異なります。
聴覚過敏に至る原因、メカニズムは?
脳や耳の身体的機能不全
強大な音が入ってきたときには、私たちの耳では、音をそのまま耳の奥の細胞に伝えることを防ぐためのシステムが働きます。具体的には、鼓膜を緊張させたり、「耳小骨」と呼ばれる骨の音の伝わり方を調節させたりするのです。このシステムが何らかの原因でうまく機能しないと、大きな音が直接耳に飛び込んできて、耳の中で音が鋭く響いてしまう症状が見られることがあります。顔面神経麻痺、てんかんの際に生じる聴覚過敏はこれにあたります。
2. 音の強弱を調整するシステムがうまく働いていない
耳の中の鼓膜のさらに奥に「蝸牛(かぎゅう)」と呼ばれる部分があります。そこには、内有毛細胞という「音を電気信号に変換して脳に情報を送る細胞」があります。この細胞がうまく働かないと、音の強弱が調整されにくくなります。音の強さが少し強くなっただけなのに、音がものすごく大きくなって響くような感じがするときには、この内有毛細胞がうまく働いていないと考えることができます。このような現象は、補充現象(Recruitment)と呼ばれます。
3. 音の情報を処理する脳機能が何らかの問題を起こしている
私たちは、自分にとって必要な音とそうでない音を、無意識にふりわけて脳の中で処理をしています。それを選択的注意といいます。聴覚過敏の症状が現れるときには、この選択的注意が機能していないことがあります。情報の取捨選択ができず、脳が耳に入る全ての音に対して情報処理を行おうとしている状態であるといえます。
もうひとつ考えられる原因としては、聴覚の情報を処理する脳の機能である「聴覚野」の感度が上がって、音がやけに大きく聞こえるのではないかと考える医師もいるようです。偏頭痛の際に生じる聴覚過敏はこのケースが多いと考えられています。
自律神経の乱れ
健康な状態であるときには、交感神経と副交感神経というふたつの神経により構成されている自律神経のバランスが整っている状態です。しかし、精神・心身に過度のストレスがかかると、自律神経に乱れが生じます。
つまり、交感神経が緊張状態に陥り、副交感神経の働きが低下するのです。交感神経の緊張状態は、アドレナリンを体内に作用させます。アドレナリンは、生命の維持のために必要な体を活発にさせるホルモンですが、過剰に作用しすぎると、心拍数が急増したり、血管に過度に収縮が起こります。
これが聴覚過敏を伴う耳鳴りや難聴など、耳の不調の原因のひとつとなります。耳の症状のほかにも、肩こりや手足のしびれ、頭痛など様々なさまざまな体の不調を引き起こします。
聴覚過敏が起こりやすい人は?
身体的・精神的なストレスにさらされ続けている人
・生活の中でトラブルを抱えている
・チームの中心的役割に立っている
・気が休まらないような心配事を長く抱えている
・体に負担がかかり続ける環境に置かれている
上記のような場合はストレスにさらされやすく、その結果聴覚過敏の症状が出ることがあります。
身体的なトラブルを抱えている人
まずひとつには、難聴を伴う疾患です。具体的には、突発性難聴、急性低音障害型感音難聴、メニエール病などの耳の疾病のあるときには聴覚過敏の症状が見られます。このようなときには、同時に耳鳴りの症状が見られるときもあるようです。
もうひとつには、女性の場合月経前や月経中には、普段気にならなかった音が気になってしまいイライラするということがあります。聴覚過敏のほかにも、めまいや耳鳴りの原因が月経前症候群(PMS)だったということも考えられます。
発達障害と聴覚過敏の関係は?
発達障害の子どもは幼児期に、特定の音に対して耳を塞ぐ、または泣き叫ぶなど強い抵抗感や拒否感を示す場合があります。耳鼻科を受診しても異常が見つからなかった場合には、発達特性としての聴覚過敏の可能性を検討してみましょう。子どもの特性を理解し、その子が苦手な音が起こりにくい環境調整をする、嫌な音が起こった時の対処法を子どもが身につけられるよう支援するなど、子どもが苦しみを軽減させる手立てを探していきましょう。

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病院での治療
精神科・心療内科では、お薬を出してもらえるほか、カウンセリングなどの心理療法を受けられることがあります。耳鼻科では、その症状に至るまでの経緯や、睡眠時間や職場の環境、家での過ごし方など生活について医師から訊ねられます。原因について解明したあと、お薬を出してもらったり、生活指導を受けたりすることになります。また、耳鳴りの症状に対して施される「TRT(Tnnitus Retraining Therapy)」という治療をしてもらえる病院もあります。
リラックスを心がける
感覚過敏は精神状態の影響を受けます。精神状態が悪く不安が強いと重くなる傾向があります。積み重なっている仕事や心配事を一度わきに置いて、リラックスを心がけ余裕をもちましょう。
治療・薬を「加える」ことだけでなく、聴覚過敏を引き起こしている原因となる物事(ストレスやプレッシャー、心配事など)を「減らす」という視点も持っておくのがよいでしょう。
環境を調節する
そのように周囲の環境を調節できず、聴覚過敏の症状が強く、またそのような環境下に長くいなければならないときには、耳栓やイヤーマフを着用して音を塞いでしまうのもひとつの方法です。耳栓をすることによって、自分の耳に入る音をコントロールすることができます。
耳栓もイーマフも製品によって、遮音を得意とする音域が変わってきます。製品を選ぶときには、「自身の耳(あるいは耳の穴)の大きさにあったもの」、「使用していて痛くないもの」、「自身の苦手とする音をカバーしてくれる遮音性能のあるもの」という3つの観点をもつとよいでしょう。
聴覚過敏の症状を訴える子どもが周りにいる場合には、周囲の大人が環境に配慮する必要があります。例えば、ドアの開け閉めをそっと静かにする、大きな音を出すことを避けられないときには、子どもを別の部屋に移動させるなどです。このように少し気遣うだけでも子どもの症状は軽減されます。

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というのも、「音を聞くため」にある耳を常に塞ぎ、その機能を抑制してしまうと、音を伝えるシステムに摩擦を生むと言われているからです。その摩擦が体内で大きな抵抗を生み、自律神経の偏りに拍車がかかります。その結果、耳が詰まったり、本当に聞こえにくくなってしまうという反応が現れることがある、という説もあります。
耳栓やイヤーマフを着用する際には、主治医など専門家の意見も聞きながら、必要な場面で必要な頻度にとどめて使用すると良いでしょう。
聴覚過敏の体験談
出典:https://h-navi.jp/qa/questions/114598小2の息子は、自閉症で感覚過敏は聴覚が特に酷いです。
お子さんの ”ザワザワした感じ”が辛い、というのは息子とも傾向が似ています。
就学前に苦手な音域を調べたのですが、教室内のようなスピーチノイズ(広帯域雑音)が最も不快だったようです。
お子さんも不快さだけでなく、雑音の中から先生の声を拾いにくいことはないでしょうか..?
聴覚過敏だと本来はフォルターでカットされるべき雑音が、拾うべき音と同じ大きさに聞こえてしまうので、息子には一斉指示が通りにくく30名が同じ空間で過ごす普通級はとても無理でした。
また、子どもが聴覚過敏をもっているかそうでないかは外見からは判断できません。「聴覚過敏がないかもしれないけれど、もしかしたらあるかもしれない」とその可能性について配慮するだけでも救われる子どもがいます。
まとめ
音に対する反応の仕方は様々で、いらいらしたり、パニックになることもあります。それは本人にとってはとても重要なことで、決してわがままでも贅沢でもありません。
自分にとってはなんてことのない「普通」の音が、聴覚過敏の症状をもつ人にとってはひどい苦痛をもたらしていることがあるのです。聴覚過敏は、何らかの負荷がかかっているという体からのサインです。
周囲の人が気にしないような音が、耳を覆いたくなるほど気になってしまう。そんな症状が出てきたときには、ストレスや負荷がかかっていないかもう一度ご自身の生活を振り返り、適切な対処を心がけましょう。

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