現役医師が語る、発達障害の診断を受ける前に大切にしたいこと―児童精神科医・吉川徹(4)
ライター:吉川徹
児童精神科医の吉川徹です。前回の記事では、発達障害のある人が受診できる医療機関について解説しました。今回は、発達障害の診断を受ける適切なタイミングはいつなのか、また診断を受ける前の大切なプロセスについてです。
執筆: 吉川徹
愛知県医療療育総合センター中央病院子どものこころ科(児童精神科)部長
あいち発達障害者支援センター副センター長
子どものこころ専門医
日本精神神経学会指導医・専門医
日本児童精神医学会認定医
児童精神科医。発達障害を中心とした子どもの精神医療に長く従事するとともに、行政機関や親の会などと連携した活動にも取り組んでいる。
あいち発達障害者支援センター副センター長
子どものこころ専門医
日本精神神経学会指導医・専門医
日本児童精神医学会認定医
発達障害の疑いがあるとき…医療機関を受診する適切なタイミングはいつ?
発達障害の疑いのある方、またそのようなお子さんがいる保護者の方で、「医療機関をいつ受診するか」にお悩みの方もいらっしゃるかと思います。
また、「発達障害の存在が疑われる子どもに医療機関の受診をすすめる際、どんなタイミングがよいのでしょうか」というのは、支援者の方もしばしば口にされるご質問です。
発達障害のある子どもの場合であれば、保護者は様々なプロセスを経て、子どもの発達特性に気づき、その特性と長くつきあっていくための準備を進めます。その過程は男女が出会って、結婚に至るプロセスに少し似ています。
また、「発達障害の存在が疑われる子どもに医療機関の受診をすすめる際、どんなタイミングがよいのでしょうか」というのは、支援者の方もしばしば口にされるご質問です。
発達障害のある子どもの場合であれば、保護者は様々なプロセスを経て、子どもの発達特性に気づき、その特性と長くつきあっていくための準備を進めます。その過程は男女が出会って、結婚に至るプロセスに少し似ています。
このプロセスは、もちろん全てをたどっていく必要はありませんし、正しい道筋というものもありません。最近では結婚式を挙げない人も増えてきました。どうしても診断書やお薬が必要でなければ、かならずしも確定診断を受ける必要はないのです。
ただ、もしできることであれば、発達障害の特性とずっとつきあっていく準備がそれなりに整った段階で、医療機関の受診ができると、きっとよい節目になるでしょう。
ただ、もしできることであれば、発達障害の特性とずっとつきあっていく準備がそれなりに整った段階で、医療機関の受診ができると、きっとよい節目になるでしょう。
医療機関を受診する前の大切なプロセス「障害とつきあう準備」は、どうすれば整うのか
では、「発達障害とつきあっていく準備」はどうすればできるのでしょうか。前回の記事でも触れましたが、診断を受ける前の支援が大切になってくると私は考えています。
最初に発達障害の特性に気づいた誰かが、診断を受ける前から上手く支援を始めて、医療による支援へと繋げてくれる。そうすると保護者は、子どもの特性に合わせた関わり方をすると、少し物事が楽になる、前に進みやすい、という感覚をもつようになります。
このように、保護者が発達障害とつきあう準備ができていたほうが、診断は正確になり、その後も医療のサービスを最大限有効に使えることになります。
もしもその準備が整っていない段階で、「あなたの子どもさんは発達障害の疑いがあるので病院に行って下さい」と言われてしまったら、何が起こるでしょうか。
おそらく、一部の保護者は「絶対に障害だと言われたくない」と思って病院の門をくぐります。
そうすると、「赤ちゃんの頃は?」「普通でした」「保育園では?」「年少さんは問題ありませんでした。年中になってから行くのを嫌がるようになりました」「ああ、それはきっと担任の先生が……」といった、診断に結びつかないやり取りになってしまいがちです。
発達障害の診断には、もちろん子ども自身の状態の観察なども参考になりますが、それまでの発達の経過、道筋の情報が極めて重要です。ここが上手く聞き出せないと見落としや誤診に繋がってしまうのです。
「『仮に』理解して、『実際に』支援する」。これはある児童精神科医が編集した書籍の副題ですが、とても良い言葉だと思います。
支援を始める時に診断は不要です。まず特性に気づいた人がその「仮の理解」に基づいた支援を実際にやってみる。
それが上手くいったときには、その子どもが少数派のものの見方、感じ方、考え方の道筋を持っていること、その理解に基づいた支援が上手くいったこと、その特徴がいわゆる発達障害の特性であることを保護者に伝え、専門機関を受診することで、より効率のよい支援ができる可能性があることを伝えます。
最初に発達障害の特性に気づいた誰かが、診断を受ける前から上手く支援を始めて、医療による支援へと繋げてくれる。そうすると保護者は、子どもの特性に合わせた関わり方をすると、少し物事が楽になる、前に進みやすい、という感覚をもつようになります。
このように、保護者が発達障害とつきあう準備ができていたほうが、診断は正確になり、その後も医療のサービスを最大限有効に使えることになります。
もしもその準備が整っていない段階で、「あなたの子どもさんは発達障害の疑いがあるので病院に行って下さい」と言われてしまったら、何が起こるでしょうか。
おそらく、一部の保護者は「絶対に障害だと言われたくない」と思って病院の門をくぐります。
そうすると、「赤ちゃんの頃は?」「普通でした」「保育園では?」「年少さんは問題ありませんでした。年中になってから行くのを嫌がるようになりました」「ああ、それはきっと担任の先生が……」といった、診断に結びつかないやり取りになってしまいがちです。
発達障害の診断には、もちろん子ども自身の状態の観察なども参考になりますが、それまでの発達の経過、道筋の情報が極めて重要です。ここが上手く聞き出せないと見落としや誤診に繋がってしまうのです。
「『仮に』理解して、『実際に』支援する」。これはある児童精神科医が編集した書籍の副題ですが、とても良い言葉だと思います。
支援を始める時に診断は不要です。まず特性に気づいた人がその「仮の理解」に基づいた支援を実際にやってみる。
それが上手くいったときには、その子どもが少数派のものの見方、感じ方、考え方の道筋を持っていること、その理解に基づいた支援が上手くいったこと、その特徴がいわゆる発達障害の特性であることを保護者に伝え、専門機関を受診することで、より効率のよい支援ができる可能性があることを伝えます。
準備段階の支援がうまくいかなかったときには
もし最初の支援が上手くいかなかった場合はどうすればよいのでしょうか。
その時には「仮の理解」に基づいて援助してみたが上手くいかなかったこと、更にほかの「理解」や援助の方法を見つけるために専門家への相談、受診が望まれることを伝えられるとよいでしょう。
このときに必要なのは、受診を勧めようとする人が、子どもの特性を理解しようとしてくれて、実際に手を動かしてくれる、信頼できる人だと保護者に思ってもらうことです。診断を受けても、その支援者が引き続き関わってくれると安心できるとき、保護者は「本当は障害なんて言われたくないけど、あの先生が勧めてくれるなら」と思って、診察に臨むことができるのではないでしょうか。
いつ受診を勧めるのか、その答えは、勧める人と勧められる人の間に少し信頼関係が出来てきたとき、ということになるのでしょう。
その時には「仮の理解」に基づいて援助してみたが上手くいかなかったこと、更にほかの「理解」や援助の方法を見つけるために専門家への相談、受診が望まれることを伝えられるとよいでしょう。
このときに必要なのは、受診を勧めようとする人が、子どもの特性を理解しようとしてくれて、実際に手を動かしてくれる、信頼できる人だと保護者に思ってもらうことです。診断を受けても、その支援者が引き続き関わってくれると安心できるとき、保護者は「本当は障害なんて言われたくないけど、あの先生が勧めてくれるなら」と思って、診察に臨むことができるのではないでしょうか。
いつ受診を勧めるのか、その答えは、勧める人と勧められる人の間に少し信頼関係が出来てきたとき、ということになるのでしょう。
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