大人の発達障害、医療機関との上手な付き合い方は?―児童精神科医・吉川徹(6)

ライター:吉川徹
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児童精神科医の吉川徹です。これまで、「発達障害と医療」をテーマに、医療機関や診断を受けるタイミングなど、様々な角度からお話させていただいています。今回は、成人された発達障害の方がどうすれば上手に医療機関を利用できるのかについてです。

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執筆: 吉川徹
愛知県医療療育総合センター中央病院子どものこころ科(児童精神科)部長
あいち発達障害者支援センター副センター長
子どものこころ専門医
日本精神神経学会指導医・専門医
日本児童精神医学会認定医
児童精神科医。発達障害を中心とした子どもの精神医療に長く従事するとともに、行政機関や親の会などと連携した活動にも取り組んでいる。

発達障害の大人が医療機関を利用するとき、どんな問題が生じるか

児童精神科医の吉川徹です。これまでの連載では「発達障害と医療」をテーマに、医療機関や診断を受けるタイミングなど、様々な角度から執筆させていただきました。

今回は、発達障害と医療の問題を考える際に特に悩ましい、成人された方の医療の利用についてです。この問題は大きく分けて、

●子ども時代から大人への医療の引き継ぎ(移行医療)の問題
●成人期になって初めて、発達障害を主なテーマとして医療を利用するときの問題

の2つがあります。

大人になってもスムーズに医療機関を受診し続けるには

近年では子どもの発達障害を診療できる医療機関はかなり数が増え、診断を受けている子どもも急増しています。こうした子ども達はいつ大人の医療に移行していくのか。これは遠からず全国的に問題になることは目に見えています。

子ども時代に診断を受けた方のうち、大人になっても医療が必要な方は、実はそれほど多くはありません。ただ継続した投薬が必要であったり、前回の記事にあるような診断書が必要であったり、どうしても医療のサービスを継続して利用する必要がある方もいらっしゃいます。

特に小児科で診断、治療を受けていた場合、必然的に移行が必要となることが多いです。児童精神科などの場合では、医療ニーズが高い場合には継続して診療を受けられることもあるでしょう。最近では発達障害の診療に対応できる、成人の医療機関も増えてきています。

成人医療への移行に備えて、地域の医療事情について早めに情報収集を行っておけると安心です。

移行が必要になる時期はおおむね15歳〜20歳前後であることが多いのですが、できれば20歳ごろ、総合支援法医師意見書と障害基礎年金の診断書が揃っていると、後の移行がスムーズです。その時期の移行が可能かどうか、通院中の医療機関に相談してみる価値はあります。

大人になってから初めて発達障害がわかったとき、医師による診断が必要だとは限らない

もう1つ悩ましいのが、大人になってから初めて発達障害をテーマにして、医療機関を受診する際の問題です。成人期の発達障害診療を受け入れていると広報している医療機関はまだ少なく、たどり着くのが難しい地域もあります。それ以外にも成人期の医療には様々な課題があるのです。

まず、そもそも大人になった方の発達障害の確定診断を行うことは、医師にとってもかなり難しいという問題があります。

発達障害の診断の多くの部分は、乳幼児期や子ども時代のエピソードの聴き取りに拠っています。成人するころまでには、養育者の記憶も曖昧になり記録も散逸しており、どんなに頑張っても診断を確定できるだけ根拠が得られないことがあります。こうなるとせっかく受診しても「特性はありそうだけれど、診断は確定できない」と伝えられてしまいます。

特に専門性の高い医師ほど、正確な診断と診断基準を意識するので、このような伝え方が多くなります。乳幼児期の情報が充分得られない場合、発達障害診断のみを目的にした医療機関受診の効率は下がってしまいます。

次に、不眠や不安などの発達障害以外の症状がなく、発達障害の疑いしか医療への「入場券」がない場合、医療機関への受診はそれほど実りのあるものにはならないことも多いという問題があります。成人になるまで診断を受ける機会がなかった方の場合には、当面の主要な問題は発達障害そのものよりも、不眠や不安、抑うつ、強迫症状や精神病症状などであることのほうが多いのです。

このように他の精神症状がある場合には、むしろそれを入り口として、優先して相談、対応することが望ましいことが多いのです。

その場合、受診できる医療機関の間口も広がるので、通える医療機関を見つけやすくなります。「発達障害の診療はしていません」というクリニックでも、通院中の患者さんの疾患の背景にある発達障害には、気づいてくれたり対応してくれたりすることもしばしばあります。この場合でも支援者の口コミなどで、発達障害の対応に慣れた医療機関を選んでおけるとなお良いですね。
次ページ「何のために受診するのかよく見定めて、効率的に医療機関を使おう」

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