子どもの精神薬服用をどう考える?揺れる親心に寄り添うスクールカウンセラー

ライター:池田行伸
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スクールカウンセラーが解決の糸口を探る時、現場教師に何度もヒアリングを重ね様々なアプローチから提案を行います。場合によっては薬物療法の提案をすることもあり、親御さんにとっては寝耳に水「まさか薬なんてとんでもない!」と一蹴されたり、服薬に対するご家族の意見のもつれから、事態が険悪になることも珍しくありません。教育現場での事例を交えお伝えします。

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執筆: 池田行伸
東京都福生市の教育相談室で就学相談に従事
佐賀大学名誉教授
東京学芸大学特命教授
特別支援教育士スーパーバイザー
上智大学文学部卒業 上智大学大学院修了 博士(心理学)。 佐賀大学文化教育学部教授、國學院大学人間開発学部子ども支援学科教授を歴任。幼稚園。小学校、中学校、高等学校、特別支援学校のスクールカウンセラー歴任

多動が続き、抑制できない小学4年生の場合

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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10272002477
こんにちは、國學院大學教授の池田行伸です。

私はこれまでスクールカウンセラーとして、定期的に学校の教育相談室に勤務し、カウンセリングにあたってきました。

今日のお話は、15年程前、新年度になり新たな小学校にスクールカウンセラーとして赴いた時のエピソードです。

教育相談担当教員に紹介されて、担任教師が相談に来ました。

4年生にもなるのに5分と椅子に座っていられない男子生徒がいるという相談でした。放っておくと立ち上がり、後ろの黒板に絵を描いて遊んでいる。教師が手を引いて椅子に座らせると抵抗せず素直に従う。しかしまた数分後には立ち歩く、と言うのです。教師が椅子に座っている生徒の手を握っていると立ち歩かないのだが、四六時中手を握っているわけにもいかず困っているとのことでした。

ちょうど、このような多動が顕著な子どもに対して薬物療法が開始された時期でしたから、医療との連携も選択肢に入れた支援を検討することにしました。

母親も問題行動で悩んでいた。父親に説教してもらうものの・・・

まずは生徒の親と話す機会を設けて欲しいと担任にお願いし、母親との面会を実施します。

すると母親は、開口一番に、

「実は子どもが万引きして悩んでいます。」

と、学校での問題行動以上にもっと深刻な悩みを打ち明けてきました。

友人と店に入り代金を払わず店外に出て、出たその場で商品を開けるのだと言うのです。そのためすぐ店員に見つかります。親が弁償し、父親が万引きがどんなにいけないことかを深夜に及ぶまで教え、懇々と諭しました。生徒も泣きじゃくり、「もうしません」と何度も何度も繰り返したそうです。母親の目にも本当に改心したのだと映ったのですが、次の日また、同じことをやってしまうということでした。

父親は受診・投薬に反対。それでも踏み切った結果

この話を聞き、私は専門医への受診を勧めました。しかし母親は「それを考えているのですが父親が受診、服薬に反対しているのです。」と答えましたが、「このまま放置しておくと、改善する方向には向かわないだろう。専門医の支援を受けた方が良いと思う」と説得しました。

しばらく経った勤務日、朝登校するなり教育相談担当教員が喜々とした表情でやってきて、「病院で薬を処方され、医師の指示に従い、朝に服薬して登校したら1時間立ち歩くことなく椅子に座っていたと、担任が驚いていました。魔法の薬です。」と伝えてきました。この時は、薬物療法の効果を実感することができました。

その後私は勤務校を離れることとなり、その生徒の状況を直接最後まで見届けることはできませんでした。ですが、数年経った頃に「あの生徒はどうなっているのだろうか」と思い、進学先の中学校の養護の先生に連絡したことがあります。

生徒はあれからしばらくして服薬を中止した、父親が「これは麻薬だ」と言い、服薬させないようにしたとのことでした。学校は薬を続けて落ち着いてもらいたいと考えているのだが、父親が「学校のために子どもに麻薬を飲めと言うのか」と言い、話が噛み合わないと嘆いていました。この学校の担当を外れた私はそれ以上かかわることができませんでした。

最初の試みはこのように大失敗でした。学校の教師も驚くような行動の変化は、父親をそれまでの我が子とはまったく異なる別人に出会った感じにさせたようです。元のやんちゃな我が子はどこに行ったんだと。それが飲んでいる薬のせいだとすれば、人を陥れる麻薬に思えたのでしょう。

服薬の意味とはなにか?という問い

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その後、私事ですが、入院しなければならないほどの病を患い、カウンセラーの職を休職していた時期があります。

病床でふと「服薬の意味とはなにか?」という問いが去来しました。

例えば、だれでもいきなり髪が抜け落ち、つるつる頭の我が子を見たら驚愕するでしょう。それが薬のせいであれば、そんな薬は飲むなと叫ぶでしょう。しかしそれが白血病の我が子を救う唯一の方法だと分かれば目に涙を浮かべながらも一緒に頑張ろうと子どもを抱きしめるでしょう。

本人もですが、幼い子どもの場合は特に、「薬を飲む意味」を親が十分理解していなければ、薬物療法による成果は得られないだろうと思うようになりました。

低学年からソーシャルスキルトレーニングを積み重ねてきた子どもの場合

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これまでの経験から薬物療法が効果的であると思われる経過を紹介します。

幼稚園、保育園の頃から多動傾向があり、順番を守らない、他の子どもが遊んでいるおもちゃを勝手にとるなどの問題行動を指摘されている子どもが小学校に入学しました。

早速担任から問題行動が指摘されますが、まだ1, 2年生のうちは他の子どもも幼児期の特徴を残しており、一人ひとりばらばらの思いで発言したり、行動したりするのでそれほど問題行動が目立ちません。

ですがこの時期にもできる支援はあります。

・消しゴムが欲しいからといって近くに置いてある別の子の消しゴムを勝手に使わないように、使うときは「貸してね」と断ること
・使い終わったら放り投げないで借りた子に「ありがとう」と言って返すこと
など、学校生活でのクラスメイトとの基本的な関わり方を教えるソーシャルスキルトレーニングを、学校でも辛抱強く行うのです。

これは担任だけでできることではないので、補助教員、支援員の助けを借りる必要があります。

周囲が困り果てるほどのギャングエイジ。ずっとその子を見ているからこそ…

3,4年生にもなると子どもは成長し、いわゆるギャングエイジに入ります。友人が固定され、集団活動が活発になり統制のとれた動きができるようになります。子どもたちはサッカーや野球のようなチームプレーを好んで行うようになります。大人と同じように、気の合った者同士の集団ができるのです。

このような時期に入ると、勝手な行動をする子どもは集団に入れてもらえなくなります。班活動してものけ者にされることが増えていき、そうなるとその子は学校やクラスが嫌になります。結果、わざと人が嫌がることを行うようになり、それを見て周りの者はさらにその子を避けるといった負のサイクルが生まれやすくなり、時にいじめや不登校に発展することもあります。

幼児の頃、1年生のころからずっと見てきた上でこのような状況に直面すると、ソーシャルスキルトレーニング等の薬物療法以外の方法が限界であることが見えてきます。

親も、他の子に暴力をふるった、他の子の持ち物を故意に壊したなどと、担任や保護者から苦情が寄せられ困り果てます。腕力も強くなります。このタイミングでは特に、薬物療法を含めた医療との連携をもちかけることが重要になります。
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