ミュンヒハウゼン症候群とは?仮病とは違う、人からの関心を得たい病気って?

ミュンヒハウゼン症候群とは、重症度の高い病気を装い、人から心配されることに精神的な安定を感じ、同じ行為を繰り返し行ってしまう精神疾患です。大人から子どもまで幅広くかかりやすい病気です。仮病が癖になってしまうのとはどう違うのでしょうか?それでは紹介していきます。

ミュンヒハウゼン症候群とは
「ミュンヒハウゼン症候群」は1951年にイギリスの医師リチャード・アッシャーが発見しました。ミュンヒハウゼン症候群という名前は『ほら吹き男爵』という物語で知られる、ドイツ貴族ミュンヒハウゼン男爵(実在の人物がモデル)の名前から命名されました。
しかしこの名前は精神医学における診断名としては確立しておらず、「虚偽性障害」という別の診断名で診断されることが多いようです。虚偽性障害は世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)(※)とアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)で定義されています。次は『ICD-10』が示す定義になります。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4521737056/・虚偽性障害
身体的あるいは心理的な症状を意図的に捏造することが行われる障害であるが,特にその目的が経済的利益や医療上の恩恵を得るといった外的動機のためではなく患者の役割を得るという心理的動機によって行われるものを指す.
出典:岡崎祐士/総編集『ICD-10精神科診断ガイドブック』(中山書店,2013)
またミュンヒハウゼン症候群と関連して代理ミュンヒハウゼン症候群があります。代理ミュンヒハウゼン症候群も虚偽性障害という精神疾患の一部です。対象が自分自身ではなく代理の人に対して傷害を加え、自分に周囲の関心を引き寄せることで、自らの精神的満足を他者から得ようとします。多くの場合、対象は自分の子どもであるため児童虐待にあたります。
ここでは主にミュンヒハウゼン症候群について紹介していきます。
ミュンヒハウゼン症候群の主な症状
病気ねつ造の方法には大げさに表現したり、作り話をしたり、自傷行為などによる誘発などが含まれます。例えば神経症状(けいれん、めまい、失神など)のエピソードをごまかして周囲の人に話すといったことから、検査で異常がでるように尿に血液を加えるなど病気であるように見せかけます。または敗血症を誘発するために傷口に糞便を入れるなどの自傷行為が見られます。
ミュンヒハウゼン症候群の原因
ミュンヒハウゼン症候群の人は自己肯定感の低さや不安定な対人関係といった問題を持っていることがあります。病気を装うのは自尊心や自分に対する関心を高め、維持しようとする手段だといわれています。
ミュンヒハウゼン症候群の診断基準は?
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4260019074自らに負わせる作為症/虚偽性障害
A.身体的または心理的な徴候または症状のねつ造,または外傷または疾病の意図的な誘発で、確認されたごまかしと関連している.
B.自分自身が病気,障害,または外傷を負っていると周囲に示す.
C.明らかな外的報酬がない場合でも,ごまかしの行動が確かである.
D.その行動は,妄想性障害または他の精神病性障害のような他の精神疾患ではうまく説明できない.
出典:日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院,2014)
ミュンヒハウゼン症候群と似ている精神障害とは?
・詐病(さびょう)
詐病とは、虚偽またはおおげさに強調された身体的・心理的不調を意図的に装うことです。いわゆる「仮病」と、広義では同じです。兵役を逃れる、仕事を避ける、金銭的な補償を獲得する、犯罪の訴追を免れる、薬物を得るといった動機が背景に存在しています。このような明らかな意図があれば詐病の診断が示唆されます。詐病と仮病との違いは、詐病の方がより大きな利益を求めて虚偽な言動を行う点です。またミュンヒハウゼン症候群と詐病との違いは、虚偽をするその目的です。詐病は利益を得るために行っていますが、ミュンヒハウゼン症候群は人からの関心を得て精神的な満足感を感じたいために行っているという違いがあります。
・境界性パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害とは対人関係、自己像、および感情の不安定と、著しい衝動性を示す状態のことです。現実または想像の中で見捨てられることを避けようと、なりふりかまわない努力をします。例えば治療者が面接時間の終了を告げられたことに対して突然の絶望感を味わうことがあります。他にも自分にとって重要な人物がほんの2~3分遅れたり、約束を取り消さなくてはならなくなったりしたときにパニックや激怒することがあります。
ミュンヒハウゼン症候群はこれらの障害と鑑別される必要があります。
ミュンヒハウゼン症候群かも?と思ったら・・・
基本的にミュンヒハウゼン症候群の専門科目は精神科になります。ミュンヒハウゼン症候群である可能性が高ければ精神科を受診してください。
ミュンヒハウゼン症候群かもしれないという自覚症状がある場合は本人自らが精神科を受診することをおすすめします。精神科によって専門医に正しい診断と治療の手立てを受けましょう。カウンセリングなどの治療を早期に開始することで、症状が悪化することを防ぎます。
一方で本人は自覚がなくとも周囲がミュンヒハウゼン症候群である可能性が高いと気づいた場合、いきなり精神科をすすめてしまうと本人の自尊心を傷つけてしまう恐れがあります。受診を促す際の声のかけ方などを工夫したり、付き添いながら受診したり工夫が必要です。
または本人がかかっている内科や外科などの医療機関にミュンヒハウゼン症候群である可能性を伝え、精神科への受診を促してもらえるように協力してもらうことも一つの手段です。
検査・診断方法
ミュンヒハウゼン症候群の治療法はあるの?
しかしミュンヒハウゼン症候群の方が治療へ参加するきっかけをつくることは難しいですよね。そのためミュンヒハウゼン症候群がある本人に対して病気であると告げず、家族の了承を得て精神医学的治療を行うことを推奨する専門医もいるようです。治療は本人だけでなく医師・家族の連携が必要になってきます。
ミュンヒハウゼン症候群の方が積極的に治療に参加すると症状が緩和していくことがあります。逆に治療を本人の意思とは関係なく、強制してしまうと本人の自尊心を傷つけ、怒りを買ったり、医師または病院を替えてしまったりすることがあるので注意してください。
まとめ
この病気に気づきやすいのは本人よりも、周囲の人たちの方が多いと言えるでしょう。治療法はまだ確立していませんが、カウンセリングなどの精神医学的治療を受けることで症状が緩和する場合があります。周囲の人たちの本人に対する接し方などを専門家に聞くこともできます。
周囲の人も本人がどうして病気を装ってまで関心を引きたいと思っているのか考え、病気が悪化・再発しない環境を協力しながらつくることが大切だと思います。ミュンヒハウゼン症候群にかかってしまった本人の背景を理解しておくことが効果的な治療のための手掛かりとなるかもしれません。

関連記事
素行障害(CD)とは?症状や原因、ADHDとの関わり、周囲の対応法などを詳しく解説します

関連記事
適応障害とは?うつ病・不安障害との違いって? 症状、原因、治療法、当事者へのサポートの仕方を解説

関連記事
強迫性障害 (強迫神経症) とは?症状・引き起こす要因・治療・相談先・周りの人の対処法まとめ

関連記事
愛着障害とは? 愛着障害の症状・治療法・愛着を築く方法をご紹介します!
この記事に関するキーワード

あわせて読みたい関連記事

機能不全家族とは?影響を受けるとアダルト・チルドレンになる?原因、相談先や家族の立て直し方をご紹介

愛着障害とは? 愛着障害の症状・治療法・愛着を築く方法をご紹介します!
この記事を書いた人
発達障害のキホン さんが書いた記事

発達が気になる子どもの保育園や幼稚園での「加配制度」とは?障害児保育や小学校以降のサポートについても解説。児童発達支援や保育所等訪問まで【サポート情報まとめ】

1歳半健診でことばの遅れが気になったら?赤ちゃんのコミュニケーション力を家庭で育む3つのポイントとは?家庭で活用できるチェックリストも紹介

ワンオペ、発達障害育児に疲れたら、公的レスパイトの活用を。ショートステイ、移動支援、日中一時支援、居宅介護など費用補助もあるサービスを紹介
