リタリン(メチルフェニデート塩酸塩)とは?コンサータとの違いは?ナルコレプシーへの薬リタリンまとめ【精神科医監修】
ライター:発達障害のキホン
リタリンはナルコレプシーへの適応が認められている中枢神経刺激薬です。かつては、うつ病への適応も認められていて、適応外ではありましたがADHD(注意欠如多動症)にも処方されていました。なぜ、今はADHD(注意欠如多動症)には処方されていないのでしょうか。コンサータとの違いや薬物依存なども含めて、リタリンについて詳しくご紹介します。
監修: 山科満
中央大学文学部教授
精神科医から文系の大学教員となって,発達障害傾向ゆえに不適応に陥っている若者の多さに驚き,発達障害と本腰を入れて向き合うようになった。
リタリンとは
「リタリン」は、メチルフェニデート塩酸塩という成分の入った薬の商品名です。メチルフェニデート塩酸塩は、ADHD(注意欠如多動症)の症状に適応が認められているコンサータの成分と同じです。しかし、現在リタリンは睡眠障害のひとつナルコレプシーのみに適応が認められており、リタリン流通管理委員会に登録されているリタリン登録医の診断のもとで処方される薬です。
リタリンは脳の中枢神経刺激薬のひとつで、脳の神経伝達物質「ドーパミン」の働きを活性化させる作用をもっています。ドーパミンは脳内の報酬系と呼ばれる領域に大きくかかわっていて、幸せを感じたり、追い求めたりすることに作用しています。報酬や罰に対する行動の動機づけのほかにも、作業記憶などの認知機能をつかさどる役割を担っているとも考えられています。
しかし、ドーパミンに作用する薬を誤って使用すると、効果だけでなく悪影響もうまれてしまうことがあります。もっと幸せな気持ちになりたいと不必要に薬を飲み続けて、薬への習慣性をもつようになったり、薬なしではいられなくなる薬物依存に陥る可能性もあるのです。残念ながら、リタリンも乱用や不正使用が大きな社会問題となりました。詳細については後の章でご紹介します。
リタリンは脳の中枢神経刺激薬のひとつで、脳の神経伝達物質「ドーパミン」の働きを活性化させる作用をもっています。ドーパミンは脳内の報酬系と呼ばれる領域に大きくかかわっていて、幸せを感じたり、追い求めたりすることに作用しています。報酬や罰に対する行動の動機づけのほかにも、作業記憶などの認知機能をつかさどる役割を担っているとも考えられています。
しかし、ドーパミンに作用する薬を誤って使用すると、効果だけでなく悪影響もうまれてしまうことがあります。もっと幸せな気持ちになりたいと不必要に薬を飲み続けて、薬への習慣性をもつようになったり、薬なしではいられなくなる薬物依存に陥る可能性もあるのです。残念ながら、リタリンも乱用や不正使用が大きな社会問題となりました。詳細については後の章でご紹介します。
リタリンはナルコレプシーのみに適応が認められています
リタリンは現在、睡眠障害のひとつナルコレプシーのみに適応が認められています。ナルコレプシーは、時間や場所を問わない強烈な眠気や居眠り、睡眠発作を起こす疾患です。リタリンのもつ覚醒作用が、ナルコレプシーのある人の日中の眠気を改善させる効果があると考えられています。ナルコレプシーについては、以下の記事に詳しい説明があるのでぜひ参考にしてください。
ナルコレプシーの制御できないほど激しく眠くなる症状、その原因や治療法、ナルコレプシーとADHD(注意欠如多動症)との関連まとめ
医師の指導のもとでリタリンの処方が必要だと判断された場合、成人に1日20mg~60mgを1日1~2回に分けて経口投与されます。年齢や症状にあわせて医師が適正な量を調整します。
頻度は明らかになっていないものの、起こる可能性のある重大な副作用には以下のものがあります。服用後にこのような症状が出た場合は、すぐに医師に相談してください。
頻度は明らかになっていないものの、起こる可能性のある重大な副作用には以下のものがあります。服用後にこのような症状が出た場合は、すぐに医師に相談してください。
1)剥脱性皮膚炎:症状があらわれた場合は投与を中止し、適切な処置を行うこと。
2)狭心症:症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
3)悪性症候群(Syndrome malin):発熱、高度の筋硬直、CK(CPK)上昇等があらわれることがあるので、このような場合には体冷却、水分補給等の適切な処置を行うこと。
4)脳血管障害(血管炎、脳梗塞、脳出血、脳卒中):症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
5)肝不全、肝機能障害:肝不全(急性肝不全等)、肝機能障害があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
引用:患者向医薬品ガイド リタリン|独立行政法人医薬品医療機器総合機構
今までに分かっているリタリンのおもな副作用は、頭痛・頭重、注意集中困難、神経過敏、不眠、眠気、口渇、食欲不振、胃部不快感、便秘、心悸亢進、不整脈、排尿障害、性欲減退、発汗、筋肉の緊張などです。このような症状があらわれた場合にも、医師に相談することが大切です。
なお日本睡眠学会によるナルコレプシーの診断・治療ガイドラインでは、依存性のより少ないモディオダール(商品名:モダフィニル)という薬が、ナルコレプシーの治療薬の第一選択として挙げられています。そのため、以下のような場合に限って、リタリンの処方が推奨されています。
メチルフェニデートの主な適応
A.モダフィニルを保険適用量上限まで投与しても十分な改善が得られず、社会生活上問題となる眠気・居眠りが残遺する場合
B.すでに長期間本剤を服用していて、他剤への置換が困難なケース
C.副作用のために他剤使用が困難か、増量が不可能な場合
引用:ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン項目(目次)|日本睡眠学会
リタリンは乱用や依存を防ぐための厳しいシステムも整備されています。まず、リタリンは医師であれば誰でも処方できるわけではありません。リタリン流通管理委員会に申請し、登録された医師のみがリタリンを処方できるように規制されています。
このリタリン流通管理員会では、リタリンの流通量を厳しく管理しています。さらにリタリンを処方する場合には、ナルコプレシー診断に新しい医療技術検査方法を使用することが強く推奨されているほか、処方上限日数も30日と定められています。
このリタリン流通管理員会では、リタリンの流通量を厳しく管理しています。さらにリタリンを処方する場合には、ナルコプレシー診断に新しい医療技術検査方法を使用することが強く推奨されているほか、処方上限日数も30日と定められています。
リタリンが厳しく規制されるまでの経緯
なぜリタリンは、ここまでの厳しい規制が必要になったのでしょうか。この章では、リタリンが規制されるまでの経緯をご紹介します。
リタリンは1958年に販売が承認され、1961年には薬価基準に収載された使用歴史の古い薬です。当時の適応はナルコレプシーと難治性および遷延性うつ病でした。一方、海外では1960年代からADHD症状へリタリンが使用されるようになり、日本でも適応外ではありましたがADHD(注意欠如多動症)の治療にリタリンが処方されるようになっていました。
しかし、2007年にはリタリンが社会問題としてニュースに取り上げられるようになりました。処方された量では足りなくなってしまった患者が、医師から入手した処方箋を不正にカラーコピーする、インターネットで違法に取り引きするなどの事件が起きてしまったのです。
一方、患者だけでなく、医療機関側も十分な診察をせず安易にリタリンを処方したほか、大量に処方するなどといった問題も明らかとなりました。
そこで、海外ではうつ病にリタリンを使用することがほとんどないことや、新しい抗うつ薬の登場などを理由に、2008年にうつ病がリタリンの適応から外されることとなったのです。また同年にリタリンの流通規制も行われたため、ナルコプレシー以外の処方も禁止されました。
結果として、これまで適応外で処方されていたADHD(注意欠如多動症)へのリタリン処方も不可能なものになってしまいました。つまり、リタリンがADHD(注意欠如多動症)に効かない、もしくは悪影響を及ぼすためにリタリンの処方が禁止されたのではないのです。リタリンの不正使用や処方が背景にあったことに留意しなくてはなりません。
リタリンは1958年に販売が承認され、1961年には薬価基準に収載された使用歴史の古い薬です。当時の適応はナルコレプシーと難治性および遷延性うつ病でした。一方、海外では1960年代からADHD症状へリタリンが使用されるようになり、日本でも適応外ではありましたがADHD(注意欠如多動症)の治療にリタリンが処方されるようになっていました。
しかし、2007年にはリタリンが社会問題としてニュースに取り上げられるようになりました。処方された量では足りなくなってしまった患者が、医師から入手した処方箋を不正にカラーコピーする、インターネットで違法に取り引きするなどの事件が起きてしまったのです。
一方、患者だけでなく、医療機関側も十分な診察をせず安易にリタリンを処方したほか、大量に処方するなどといった問題も明らかとなりました。
そこで、海外ではうつ病にリタリンを使用することがほとんどないことや、新しい抗うつ薬の登場などを理由に、2008年にうつ病がリタリンの適応から外されることとなったのです。また同年にリタリンの流通規制も行われたため、ナルコプレシー以外の処方も禁止されました。
結果として、これまで適応外で処方されていたADHD(注意欠如多動症)へのリタリン処方も不可能なものになってしまいました。つまり、リタリンがADHD(注意欠如多動症)に効かない、もしくは悪影響を及ぼすためにリタリンの処方が禁止されたのではないのです。リタリンの不正使用や処方が背景にあったことに留意しなくてはなりません。
ここまでが,薬物療法の主体が中枢神経刺激薬である短時間作用型メチルフェニデート製剤(商品名:リタリン)だった時代である。いうまでもなく,それは適用外で行われたものであったため,積極的にそれを推奨することはせず,有効性を示しつつも,その処方にあたっては禁欲的であることを医師に強く求めるものであった。
その改訂版ガイドラインの出版から1年数カ月経過した2007年後半から2008年初等にかけて,わが国のADHD診療を大きく変えることになる出来事が生じた。すなわち,リタリンの乱用および違法取引が社会問題化し,医師による軽率な処方が批判を浴びるとともに,一部の医師による違法な処方が摘発されたことから,厚生労働省の2カ月ほどの検討を経て,2007年末でナルコレプシー以外の疾患に対するリタリンの処方が明確に禁止されることになった。この展開はADHD診療にとって決定的な危機を招来するはずであったが,幸いにして,使用できる薬剤が皆無となる時期を以下のような事情で回避することができた。それは,その数年前から治験が取り組まれていたメチルフェニデートの徐放剤(OROS錠)であるコンサータ(商品名)が6歳から18歳までの子どもにおけるADHDを適応疾患として2007年12月に薬価収載され、臨床上では2008年はじめより18歳未満の子どものADHDに対して使用可能となったという事情による。
引用:「注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン第4版」はじめに|齊藤万比古(編), 株式会社じほう(2016)