「ダウン症って不幸ですか?」その問いに答えるのは、ありふれた日常の光景

ライター:平澤 晴花(発達ナビ編集部)
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ABCのラジオ番組の制作に携わり、ラジオ放送番組部門最優秀賞を受賞された放送作家・ライターの姫路まさのりさん。姫路さんの書籍・処女作となる『ダウン症って不幸ですか?』(宝島社)をご紹介します。

ボク、普通のお父さんですけど、一緒に話をしてもいいですか?

姫路まさのりさんは、「ダウン症は不幸ですか?」という番組(ABCラジオ)の制作に携わり、ラジオ放送番組部門最優秀賞を受賞された放送作家・ライターです。

今回のコラムでは、姫路さんの書籍・処女作となる『ダウン症って不幸ですか?』をご紹介します。

姫路さんはライフワークとしてダウン症のあるひとたちと向き合い、社会に発信しています。しかし姫路さん自身は福祉や教育に携わる支援者でもなく、ご自身にダウン症があるお子さんがおられるというわけでもありません。

また私も同じく、ダウン症があるわけでも、ダウン症がある家族がいるわけではありません。

いわゆる「当事者」ではないという共通点を持つ人による書籍という点で、同じ距離感に立って読み進めることができました。

ダウン症の子どもを持つ家族、それぞれの真実

『ダウン症って不幸ですか?』では、5つのご家族の物語がインタビュー形式で掲載されています。姫路さんの筆致は柔和でくすっと笑える部分も多く、取り上げているご家族の情景はとても暖かです。私にとっても、感動し共感を覚えるシーンというのは、ありふれた日常的なエピソードの部分でした。

第2章に書かれている2つ目のご家族、梶原さんの娘さん・文乃ちゃんとそのクラスメイトとのラブラブ仲良しシーンは、自分自身の小学校時代を思い出して「ふふふ」と笑いがこみ上げてきたほどです。

私にとってダウン症がある子との原体験は、同じ学校でお昼休みに一緒に遊んだA子ちゃんです。普通に喋ったりトランポリンで遊んで…というほのぼのとありふれた日常の記憶です。

お昼休みが終わっちゃうのが惜しく、後ろ髪惹かれ、特別支援の教室を後にする前にぎゅーっとみんなでハグをする…そのぬくもりを思い出しました。

ひとと触れ合った暖かさというのはいつまでも心に残り、そのことが物事を考え行動する起点にもなります。世代にもよると思いますが、このように日常にダウン症がある子がいる生活を経験している人は少なからずいらっしゃると思います。しかし、それがどんな感じだったか話してシェアしたり、この本のように当事者やご家族以外がまとめた経験談を読む機会というのは、あまり多くはないかもしれません。

私も自分の原体験を思い出すきっかけを得て、引き込まれるように読み進めましたが、特に姫路さんが文中で

「ダウン症のある子どもはまるでコタツの様な存在。温かくひとなつっこさに引きつけられ子どもたちが自然に寄ってきてしまう」

と言っていたのはとてもうなづけました。

それは一般的な「ダウン症がある子どもは天使のような存在」と恣意的に美化する文脈とは違います。"普通のお父さん"として等身大でダウン症のある子どもたちと向き合った姫路さんならではのユーモアとやさしさに溢れた表現だと思います。

ありふれた日常の情景なのに、どうして胸が熱くなるのか

この本を読まれた方は、ダウン症がある子と関わった自分の原体験をふと思い出すような、優しい気持ちになるエピソードにたくさん出会えることでしょう。もちろんその原体験が特にない方にとっても、胸を熱くさせる部分がとても多いと思います。

たとえば、第2章のおおとりを飾る喜井さんご家族のエピソード。ダウン症がある娘・晶子さんの仕事帰りを待っている、定年退職されたお父様。晶子さんから毎日かかってくる「帰るコール」。そして時間ぴったりに始まる二人の晩酌、冗談を飛ばし合いながら楽しむ様子は、ありふれた日常の情景です。

それなのに、毎日がそうして巡っていること自体になぜか目頭が熱くなりました。

私が流すこの涙は一体何でしょうか。ありていにいえば「やっぱりどこかで偏見があった、ごめんなさい」という、社会を構成するひとりとしての懺悔の涙、なのかもしれません。

書籍の冒頭、姫路さんが引いている新出生前診断の示すショッキングな数字とその分析が端的に示すように、実際のダウン症のあるひととの生活像と、妊婦の立場でイメージするそれとのギャップは、決して小さくはないのが現状です。

新出生前診断をめぐっては、賛否両論含め様々な見解が混在する昨今ですが、新出生前診断を受けるか受けないかの選択をする前に、姫路さんのこの書籍を読んでもらいたい。いまここ・現在の日本で、こんなに幸せを分かち合いながら暮らす家族がいるという事実こそ知ってほしい、そう願ってやみません。
次ページ「「ダウン症って不幸ですか?」大規模調査が示す当事者の答え。そして私たち読者は…」

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