臨床心理士とは?役割と資格、支援を受けられる場所、発達障害・不安障害の相談・療法・検査まとめ

臨床心理士は人のこころにアプローチしていく専門家で、国家資格ではなく民間資格ですが知名度の高い資格です。今回は発達障害や不安障害で悩んでいる人が臨床心理士に相談できる場所、行ってくれる心理アセスメントや療法、検査について具体的にまとめました。臨床心理士になるにはどうしたらよいのか、どこで活躍しているのかなど、臨床心理士の仕事についてくわしくご紹介します。

臨床心理士とは
臨床心理士はクライエント(=カウンセリングや福祉での相談者)の視点に立って、クライエント一人ひとりの独自性や固有の特徴、問題点を見つけることに重きを置いています。これに加えて、どのような援助の仕方が最適なのかも同時に明らかにしようとします。クライエントの特徴によって、さまざまな臨床心理学技法を用いてクライエントのこころを支えていきます。
しかし、臨床心理士はこころの専門家ではありますが医師とは異なります。そのため、薬をつかった治療や障害かどうかの診断をすることはできません。また医師にかかる場合は、健康保険が適用されますが、臨床心理士に相談する場合は基本的には健康保険が適用されません。
臨床心理士の活躍の場
「二次障害」や精神疾患に対する心理アセスメント
医療機関や福祉施設だけでなく、学校や会社の相談室で活躍されている臨床心理士の方もいらっしゃいます。家庭裁判所で調査員として関わったり、鑑別所で子どもの特性を踏まえたうえで処遇の検討をしたりする方もいます。他にも、DVで苦しんでいる方の相談にのったり子育てに悩んでいる保護者の相談にのったりしている方もいらっしゃいます。
臨床心理士以外の心理学系資格も多く、臨床心理士以外の資格で活躍されている方も多くいます。
臨床心理士になるための資格取得の方法は?
受験資格は大きく3つの種類にわけることができます。
・日本臨床心理士資格認定協会によって指定された大学院を修了している者
(ただし、大学院によっては1年以上の心理臨床経験も必要になる場合があります)
・諸外国で上記と同等かそれ以上の教育をうけて、日本で2年以上の心理臨床経験がある者
・医師免許取得者で、取得後2年以上の心理臨床経験を有する者
試験は一次試験と二次試験があり、臨床心理査定、臨床心理面接、臨床心理的地域援助およびそれらの研究調査等に関する基礎的知識と技能について問われます。
一次試験は筆記で100問のマークシート型の試験(150分)と定められた字数内での論述型試験(90分)の2種類を1日で実地します。二次面接は2名の面接委員による口述での面接試験です。一次試験、二次試験ともに合格すると、臨床心理士として名乗ることができるようになります。
臨床心理士は資格取得後も定期的な継続研修や研究実践を求められ、5年毎に資格の再認定を受けることが義務付けられています。
臨床心理士による相談~心理療法の流れ
心理アセスメントとは、生活におけるクライエント独自の行動やふるまいを調べたり、さまざまな検査をしたりして、クライエントの状態を理解して判断することです。
たとえば観察法、質問紙法、投映法、作業検査法、面接法などの方法を用いて行われます。心理アセスメントの結果から、臨床心理士はクライエントにとってよりベストな心理療法を提示し、心理療法をすすめていきます。
臨床心理士による、発達障害に対する心理アセスメント
発達障害の子どもにはよく以下の3種類のアプローチで心理アセスメントが行われます。
1.聞き取りによるアセスメント
出生状況や出産時の子どもの状態といったことから食事・衣服の着脱・排泄・睡眠などの生活習慣がどれくらい身に付いているのかといった成育歴や発達に関すること、保護者が子育てをしているなかで感じている問題や子ども自身の今までの生活の様子・病歴・家族関係など事例によってさまざまです。
2.知能検査・発達検査・スクリーニング検査
◇知能検査
知能検査ではおもにIQ(知能指数)の値を指標とすることが多いです。従来は、精神年齢と生活年齢をもとにもとめる比例IQを用いることが多かったですが、最近では、同年代の平均との隔たりをもとにもとめる偏差IQが中心になってきています。
知能検査を行う目的は認知発達の水準を科学的・客観的に評価することで、その人の得意分野、不得意分野を分析することです。知能検査の結果からわかる子どもの得意、不得意分野から療法の方向性を決定するために使われます。
代表的な知能検査に以下のようなものがあります。
・ウェクスラー式知能検査
・田中ビネー知能検査

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発達検査では日常生活や対人関係などにおける子どもの発達基準を数値で表したDQ(発達指数)を算出します。子どもが成長していくには、発達段階に適したアプローチが必要になります。そのため、発達段階を客観的に知るための手段として発達検査は使われます。
ただし、発達指数の値だけで子どもの発達状態を判断をすることはありません。あくまでものさしの一つであり、発達検査から分かる能力のバランスや日常生活の様子などを総合して子どもの発達状態を把握します。
代表的な発達検査には以下のようなものがあります。
・新版K式発達検査
・乳幼児精神発達診断法

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発達障害に関するスクリーニング検査は、どの精密検査を行うべきかの判断や潜在的な発達遅滞や発達障害の可能性を検査するために行われます。
スクリーニング検査は、たくさんある発達障害のうち、子どもの障害として可能性のあるものを絞り込むためのものです。スクリーニング検査には網羅性が重要視されるため、正確性はそれほど高くはありません。
かりに検査で陽性が出たとしても精密検査するかどうかの判断基準になるだけで、発達障害であることが確定するわけではないということに注意が必要です。
スクリーニング検査は乳児健康診査、1歳6ヶ月健康診査、3歳児健康診査などの場でも活用されています。代表的なスクリーニング検査には以下のようなものがあります。
・STRAW
・M-チャート
・ADHD-RS
・LDI-R
・PARS
3.行動観察
臨床心理士による、発達障害へのアプローチ
臨床心理士と一概に言っても、臨床心理士の行う療法にはさまざまな種類があります。それぞれの臨床心理士によって専門とする心理療法が異なる場合もありますし、どの療法を適用するかはクライエント一人ひとりの状態でも異なります。
ここでは、発達障害へのアプローチとして代表的な心理療法をいくつか紹介します。
1.ソーシャルスキルトレーニング
発達障害の子どものなかには、支援を受けないままではソーシャルスキルを身につけることが難しく、友達と良好な関係をつくることが困難である場合や、集団生活が苦手な場合があります。ソーシャルスキルトレーニングは、スムーズに身につけられなかったソーシャルスキルを獲得するための療法です。

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2.ペアレントトレーニング
ペアレントトレーニングにはいくつか種類がありますが、基本的には臨床心理士などの専門家のもとで講義・ワークを行うことが中心のプログラムです。臨床心理士のもとで学んだことをホームワークとして継続していきます。
保護者はホームワークをしていくなかでうまれた不安や悩みを相談することもできます。ペアレントトレーニングの効果として、保護者の不安解消や子育てに対する自信を得られることや子どもが好ましい行動をとる傾向が強くなることが期待されます。

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臨床心理士は「二次障害」や精神疾患に対する支援も行います
今回は精神疾患の一つ、不安障害を例にとって心理アセスメントについて説明します。
臨床心理士は心理アセスメントを通して、クライエント一人ひとりの不安障害の原因となる考え方を明らかにしていきます。心理アセスメントは具体的には投影法、作業検査法や質問紙法などの方法が用いられます。
臨床心理士は、不安にかられてしまうような場面を具体的に想定して、そのときの無意識な思考をクライエントから読み取ります。さらに、その思考になった原因となる考え方やその場面でのクライエントの行動などを明らかにしていきます。
臨床心理士による「二次障害」・精神疾患の心理療法の例
臨床心理士による不安障害に対する代表的な療法として、認知療法・森田療法・曝露法(エクスポージャー法)があります。
1.認知療法・認知再構成法
たとえば、テストであまり点数がとれなくてなにをやってもだめだと不安になっている場合について考えてみましょう。「次回はいい点が取れるかもしれない」と考えたり、「勉強ができなくても歌はうまいから、自分はなにをやってもだめなわけではない」と考えたりすることができるようになると、強く不安にかられることがなくなります。
2.森田療法

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3.曝露法(エクスポージャー法)
たとえば、人前で話すことが苦手な人であれば、親しい人からはじめて、少しずつ人数を増やしたり見知らぬ人の前で話したりするようにしていきます。
特に発達障害のある人の曝露法適用にあたっては、治療法に関しての十分な心理教育を行い、スモールステップで本人に合わせて導入する必要があるといわれています。
実際にはこれらの心理療法は家族療法やいくつかの療法を組み合わせて適用されることも多いです。
臨床心理士にどこで会えるの?
◇医療施設
精神科医と臨床心理士が連携して治療をしている病院もあります。
◇学校・園のスクールカウンセラー
学校や園にはスクールカウンセラーのいる相談室がある場合があります。スクールカウンセラーの多くは臨床心理士の資格を持っています。スクールカウンセラーが相談室に常駐せず、毎週決まった時間のみ相談を受け入れているようなケースもありますので、詳しくはお子さんの通われている学校・園にそれぞれお問い合わせください。
◇発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある人に対して総合的な支援をしている専門機関です。地方自治体によって指名された社会福祉法人、特定非営利活動法人によって運営されており、保険・医療・福祉・教育・労働などの機関と連携することで地域における総合支援ネットワークを築いています。
発達障害者支援センターには「発達障害者支援センター運営事業実施要綱」に基づいて障害者支援の専門家が配置されています。しかしセンターによっては、臨床心理士ではなく、言語聴覚士、精神保健福祉士や医師などの専門家が配置されている場合もあります。
◇大学附属の心理相談施設
多くの大学には、学生向けの相談室を用意してあります。臨床心理士を養成している大学には臨床心理相談センターなどの付属の相談施設を持っているところもあります。詳しい利用方法については各大学のホームページで確認できるようになっているのでご確認ください。
◇私設心理相談室
私設心理相談室は個人もしくは複数人で経営されている相談室です。臨床心理士ではない資格でも同じような相談室を経営している場合もあるので、臨床心理士に相談したい場合は各相談室に確認してください。
以下のサイトからお近くの臨床心理士のいる相談室を探すことができます。
公認心理師とは
その結果、公認心理師法という法律が平成27年9月9日に議員立法によって成立して、9月16日に公布されました。公認心理師法は、公認心理師という国家資格を定めるとともに、国民の心の健康を増進させていくことを目的にした法律です。
公認心理師法の大部分は公布の日から2年以内に施行されることになっています。厚生労働省によれば、平成29年9月15日までに施行される予定になっています。
公認心理師という資格の説明は、以下の通りです。
出典:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html公認心理師とは、公認心理師登録簿への登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいいます。
(1)心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
(2)心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
(4)心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
まとめ
この記事内で取り上げた療法はあくまで一例にすぎないということをしっかり留意して、臨床心理士とよく相談して療法や通う頻度・期間を決めていただけると幸いです。

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発達障害のキホン さんが書いた記事

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