妊娠中に気をつけたいサイトメガロウイルスについて、治療や予防法について解説します

ライター:発達障害のキホン
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サイトメガロウイルスとは、人の体液に多く含まれるウイルスです。日本人の多くが抗体を持ち、多くは重い症状は出ないと言われています。しかし、近年サイトメガロウイルスの免疫がなかったり、妊娠中の初感染により生まれてくる子どもに影響が出たりすることが増えています。以下、サイトメガロウイルスの感染経路や症状、重症化を予防するために妊娠期に気をつけたいことを紹介します。

目次

サイトメガロウイルスとは?

サイトメガロウイルスとは、人の体液に多く潜伏していて、その体液に接触することで感染していくウイルスです。略してCMVと呼ばれることもあります。日本では成人の60~90%が過去にサイトメガロウイルスに感染したことがあると言われているため、ほとんどの人がこのウイルスに対する抗体を持っているとされています。抗体を持っていて、健康で免疫力が高い状態の時はサイトメガロウイルスに感染したとしても特にこれといった症状は現れません。

ですが現在、生活環境が以前より改善され、清潔なものに囲まれることが多くなったため、サイトメガロウイルスに感染したことがなく、抗体を持っていない女性の割合が増えていると言われています。

そのため、妊娠中にサイトメガロウイルスに初感染してしまい、そのままお腹にいる赤ちゃんにも感染してしまうことがあります。その場合、低出生体重児で生まれてきたり、視覚障害・聴覚障害・発達障害など体のさまざまな部分に障害が現れたりすることもあります。
参考:サイトメガロウイルス感染症とは |国立感染症研究所ホームページ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/407-cmv-intro.html

妊娠中の女性に感染すると大変?TORCH症候群とは

TORCH症候群とは、妊娠中の女性がかかった場合、胎児に奇形や臓器、神経、感覚器などの障害をもたらす可能性のある感染症の総称を指します。

「TORCH」は5種類の感染症の頭文字をとっています。
TはToxoplasma gondii(トキソプラズマ原虫)、Oはothers(その他)ということで梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)などを含み、RはRubella virus(風疹ウイルス)、CはCytomegalovirus(サイトメガロウイルス [CMV])、そしてHはHerpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス [HSV])を示します。
出典:http://toxo-cmv.org/about_meisyo.html
このように、妊娠期に注意すべき感染症は数多くありますが、この記事ではサイトメガロウイルスについて詳しくご説明します。

サイトメガロウイルスに感染するとどうなるの?

冒頭でも触れたように、サイトメガロウイルスに感染したとしても、正常な免疫機能を持っていれば症状が出ることはありません。出たとしても軽い風邪程度の症状であることが多く、特別な治療をしなくても治ることが多いです。

ですので、サイトメガロウイルスに感染することに対して特別神経質になる必要はありません。一度感染することでサイトメガロウイルスへの抗体がつくられるので、感染すること自体は悪いことではないのです。

サイトメガロウイルスの感染について気をつけるべきことは、妊娠中の方が初めてサイトメガロウイルスに感染してしまうことで起きる先天性サイトメガロウイルス感染症です。加えて、免疫機能が低い方が子どもの体液に触れてそのままにすることで起きる後天性サイトメガロウイルス感染症も注意する必要があります。以下、詳しくご説明します。

先天性サイトメガロウイルス感染症

先天性サイトメガロウイルス感染症とは、サイトメガロウイルスの抗体を持っていない女性が、妊娠中にサイトメガロウイルスに初めて感染することがきっかけで起こります。お腹の中の赤ちゃんにも胎盤を介して胎内感染し、さまざまな症状が出ます。

近年、妊娠可能年齢の女性が、サイトメガロウイルスの抗体を持っている割合は90%台から70%台程度に減少してきていると言われています。このような、サイトメガロウイルスの抗体がない女性のうち、妊娠した時に初めてサイトメガロウイルスに感染する女性は1~2%います。
参考:先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討、妊婦・新生児スクリーニング体制の構成及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究
http://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/mother-to-be.html
妊娠したタイミングで初めてサイトメガロウイルスに感染したとしても、生まれてくる赤ちゃんに何かしらの症状が現れる割合は1割程度と言われています。現れる症状は、軽いものから重いものまでさまざまです。また、生まれた直後から発症することもあれば、生まれた時は特に問題がなくても成長につれて発症することもあります。先天性サイトメガロウイルス感染症では、次のような症状が発症することがあります。
低出生体重:赤ちゃんが軽い体重で生まれてきます。
小頭症:頭の大きさ(頭囲)が小さくなります。
紫斑(皮下出血):出血を止める働きのある血小板が減少して、皮下に出血が起こります。
肝炎:肝臓の細胞が壊れる肝炎の状態になります。
難聴:耳の聞こえが悪くなります。片耳の場合も両耳の場合もあります。
発達障害:軽度のものから重症のものまで、その重症度には大きな差があります。
てんかん:けいれん発作を起こすことがあります。
視力障害:網膜の炎症や眼球形成自体に異常が起こり、視力に影響が出ます。
死亡:多くはありませんが、最重症の場合は死亡することもあります。
出典:http://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/cmv.html
生まれた赤ちゃんが先天性サイトメガロウイルス感染症になっているかどうかは、生後3週間以内に赤ちゃんの尿や唾液を調べることでわかります。生後3週間が経った後でも、へその緒の一部や、赤ちゃんが生まれながらに病気をもっているか調べる先天代謝異常スクリーニング検査で採取したろ紙血検体で検査することもできます。しかし、これらは尿や唾液よりウイルスが少ないので、正確な検査結果が出ない可能性もあります。

後天性サイトメガロウイルス感染症

一方、後天性サイトメガロウイルス感染症は、子どもが生まれた後に何かしらの経路でウイルスに感染し、発症します。子どもだけではなく、子どものお世話をする大人が子どもの唾液や尿などを介して感染することもあります。

サイトメガロウイルスの影響で何かしらの障害を伴う症状が出るのは、多くが先ほど説明した先天性サイトメガロウイルス感染症です。後天的にサイトメガロウイルスに感染した場合、特に症状は現れないということがほとんどです。

ですが、子どもであれば母親から十分にサイトメガロウイルスの抗体をもらえなかった時、大人であれば免疫機能が低下している時にサイトメガロウイルスに感染すると、症状が伴うことがあります。

特に、早産児や低出生体重児の場合は、母親がサイトメガロウイルスの抗体を持っていたとしても、抗体を十分に受け取る前に生まれることが多くあります。赤ちゃんは、胎盤を通して母親からさまざまな抗体を受け取ることで、生まれてすぐに感染症などを発症するリスクを減らすことができています。そのため、抗体を受け取る量が減ってしまっていると、後天性サイトメガロウイルス感染症による重い症状が現れることがあります。
後天性サイトメガロウイルス感染症の症状としては、肝臓の細胞が壊れる肝機能異常、肺胞の壁や周辺に炎症が起こる間質性肺炎、発熱やのどの痛みを伴う伝染性単核症などが挙げられます。
参考:公益財団法人母子健康協会 第31回シンポジウム 「保育園・幼稚園における感染症と対応」
https://www.glico.co.jp/boshi/futaba/no75/con03_02.htm

サイトメガロウイルスの感染経路とは?

サイトメガロウイルスはどのように感染していくのでしょうか。サイトメガロウイルスは唾液や尿、母乳、血液などさまざまな体液に多く排出されています。これらの体液と密接に接触することで感染することが多くあります。例えば、以下のような感染経路が考えられます。
・尿や唾液などに触れてそのまま目・鼻・口などに触ることによる感染
・性交による感染(子宮頸管・粘液、腟分泌液、精液)
・母から子へ、胎盤や母乳などによる感染
・輸血や臓器移植などによる感染

参考:先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症 患者会「トーチの会」Q&A
https://toxo-cmv.org/cmv/q2/
一番考えられるのは、尿や唾液のついた手で目や鼻、口を触った時です。赤ちゃんのおむつ替えや、食事の際に同じ箸やフォークを使うなど子どものお世話をするうえで何気なく行ってしまっていることが、サイトメガロウイルスの感染につながっていることがあります。

また、感染経路の1つとして胎盤や母乳などによる母子感染を挙げましたが、これを知って「赤ちゃんに母乳を与えるとサイトメガロウイルスに感染し、何か症状を引き起こすことがあるの?」と不安に思う方もいるかもしれません。

既にご説明したように、多くの人はサイトメガロウイルスの感染経験があり、抗体を持っています。そのため、母乳をあげることでサイトメガロウイルスの感染による何かしらの症状につながってしまう、ということはありません。

母乳によるサイトメガロウイルスの感染・感染症の発症は、早産児や低出生体重児などの未熟児の場合、少し気をつける必要があります。先ほども説明したように、未熟児はサイトメガロウイルスの抗体を母親から十分に受け取ることができていないケースが多くあります。母親が妊娠時に初めてサイトメガロウイルスに感染した・それ以前に感染していたに関わらず、母乳には一定数のサイトメガロウイルスが含まれています。サイトメガロウイルスの抗体が少ない未熟児が母乳を飲むことで、サイトメガロウイルスによる何かしらの症状が現れる可能性もあります。

ですが、母乳には生まれたばかりの赤ちゃんにとって重要な栄養素や病気に対する抗体が多く含まれています。このような栄養素や抗体は、未熟児で生まれたからこそ、健康に育つために必要なものでもあります。ですので、生まれてきた赤ちゃんが未熟児であった場合、産婦人科や小児科の先生と相談し、母乳をどのように与えていくか考える必要があります。
参考:新生児のCMV感染症
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/73/3/73_148/_pdf
感染経路に関して、加えて知っておきたいことは、サイトメガロウイルスは空気感染や飛沫感染はしないということです。空気感染とは、ウイルスが空気中に浮かんで感染していくことで、飛沫感染はウイルスなどを含んだ分泌物(例えばくしゃみ、咳など)を吸いこんで感染することです。

このため、サイトメガロウイルスに感染し、それにより症状が現れている人が近くにいるからといって過剰に避けたり隔離したりする必要はありません。
参考:トーチの会 母子感染予防啓発パンフレット
https://toxo-cmv.org/pdf/bosikansen.pdf
次ページ「サイトメガロウイルスの診断方法って?治療費用や保険は?」

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