解離性障害の原因・症状・治療法、解離性障害と自閉スペクトラム症との関連まで解説

ライター:発達障害のキホン

解離性障害は、耐えられないほどのつらい出来事やストレスがあると、その記憶や感情を脳が切り離してしまい、記憶を失ったり、自分が自分でないように思えたりする障害のことです。近年では自閉症スペクトラムとの関連性も指摘されるようになってきました。この記事では、具体的な症状や障害を引き起こすメカニズム、治療について詳しく解説します。

目次

解離性障害とは

そもそも解離ってなに?

解離性障害は、記憶の一部分もしくは全部をなくしてしまう記憶喪失や、自分が自分である感覚がなくなる、勝手に体が動いてしまう、幻聴・幻視など様々な「解離」症状のために、日常生活や社会生活に支障をきたしてしまう精神疾患のことです。

それでは、精神医学における「解離」とはなんなのでしょうか。「解離」とは、自分の体験した出来事の記憶や考え、感情、行動などの一部を脳が自分の意識から勝手に切り離してしまう現象のことです。

実は、解離性障害の人でなくとも「解離」現象は起きており、日常的に「解離」を駆使して生活をしていることがわかっています。そのため、正常な解離と治療の必要な解離を分けて考えなくてはなりません。

そこで、まずは日常生活で起きている正常な「解離」を具体的な例をあげてご紹介します。

日常的に起きている正常な解離

たとえばこんなことを経験したことはないでしょうか。以下にあげる例は、いずれも正常な解離と考えられています。

〇遊びに夢中になって、保護者が名前を呼んでも聞こえていない
→遊びに没頭しているために、自分の意識から遊び以外のことが切り離されている

〇授業中に空想にふけっていて、授業の内容をまったく覚えていない
→空想に没頭していたために、授業参加するという思考や行動が自分の意識から切り離されている

〇会議が退屈で、ぼんやりととりとめもないことを考えていて、気づくと会議が終わっていた
→考えごとに没頭し、会議に集中するべきという考えや行動が自分の意識から切り離されている

〇漫画やスマホに夢中で、友だちに話しかけられても気づかなかった
→漫画やスマホに没頭して、まわりへの意識が切り離されている

〇本を読んでいて、電車を乗り過ごした
→本に没頭して、電車を降りなければならないという思考や行動が自分の意識から切り離されている

〇車の運転をすると、いつもは穏やかな人が汚い言葉遣いをするなど性格が変わる
→穏やかな気持ちや普段とっている行動が自分の意識から切り離されている

〇どうやってペダルをこぐか注意を払わずに自転車に乗れる
→ペダルをこぐという行動が自分の意識から切り離されている

〇ある悲しい出来事を一時的に忘れて、楽しい時間を過ごすことができた
→悲しい出来事についての記憶や気持ちが自分の意識から切り離されている

子ども時代に特有な解離現象 「想像上の友だち(イマジナリーコンパニオン)」

また、発達過程にある子どもに特有の解離現象「想像上の友だち(イマジナリーコンパニオン)」があることも知られています。

実際には見えない誰か(想像上の友だち)と遊んでいたり、会話をしたりする現象で、おもに4歳~10歳頃までの子どもの20~30%にみられます。
心理療法研究会/著、岡野憲一郎/編『わかりやすい「解離性障害」入門』(星和書店、2010年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4791107454
「想像上の友だち」にはたいてい名前がついており、子どもたちのそばにいて励ましたり、慰めたり、時には相談相手となったりしているようです。「想像上の友だち」の存在は子どもたちの心を支え、発達や環境適応を促す役割を担っていると考えられています。

この「想像上の友だち」は、子どもの抱えるストレスから心を守るためにあらわれるほか、人とのつながりを求めている時や、対人関係をつくる準備をしている時にもあらわれるようです。

成長とともに「想像上の友だち」は消えていくとされていますが、成人となって大きなストレスを抱えた場合などには「想像上の友だち」が復活して、心のバランスを保つこともあるようです。なお、このような場合には、治療が必要となることもあります。
岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)
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平島奈津子先生に「解離性障害」を訊く|日本精神神経学会
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=28

治療の必要な「解離性障害」とは

一方、解離性障害では「解離」によってあらわれる症状のために日常・生活社会生活に支障をきたし、本人や周りが辛い思いを抱えていることから、治療が必要となります。

解離性障害はまれな疾患と考えられてきましたが、研究によって比較的多くの人がかかる疾患であることが明らかとなっています。アメリカの全米精神障害者家族会連合会の報告では、アメリカ人の2%が解離性障害を経験しているのではないかと予測しています。
Dissociative Disorders(解離性障害)|nami(全米精神障害者家族会連合会)
https://www.nami.org/Learn-More/Mental-Health-Conditions/Dissociative-Disorders
解離性障害は、15歳くらいの思春期の年齢で起こりやすいとする意見もあるものの、一般的にはどの年齢でも起こる可能性があります。

なお、女性の方が発症しやすいとされ、18歳以下で見てみると男女比は1:3で女性での割合が高くなっています。女性の占める割合は年齢が高くなるにつれて、さらに大きくなるようです。

また、近年では自閉症スペクトラム(おもにアスペルガー障害)と解離の関係が注目されるようになりました。自閉症スペクトラムのある人や子どもは、解離性障害になりやすいのではないかと考えられています。自閉症スペクトラムと解離性障害との関連については、のちほど詳しくご紹介します。
一般精神科医のための子どもの心の診療テキスト(P.72)|精神神経学会
https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/journal/journal110_02_appendix.pdf
岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』243ページ(星和書店、2009年)
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解離性障害でみられる解離症状

解離性障害の種類

解離性障害は、その症状によってさまざまな種類に分類されています。「DSM-5」や「ICD-10」(※)など、どの診断基準や分類に従うかによっても概念や名称が変わる場合もありますが、以下に代表的な症状を紹介します。

「解離性健忘」とは、ストレスの原因となるできごとの記憶や感情の一部分、もしくはすべてを忘れ、思い出すことができなくなる症状があらわれます。

「離人症」とは、自分を見下ろす自分がいるように感じたり、自分が体験していることなのに、まるで映画を観ているように感じたり、現実感が失われます。

「解離性とん走」とは、突然普通の生活から離れて放浪し、放浪している間の記憶がありません。放浪中は、名前や住所などについての記憶がないにもかかわらず、着替えや電車に乗るなどといった日常生活には支障がありません。

「トランス」とは、意識が一時的に平常感覚を失ってしまうものです。催眠状態や宗教儀礼で祈祷師などがトランス状態になるのも解離状態と考えられています。

解離性障害では、強いストレス下に置かれたときに、視線がうつろとなり、呼びかけても反応せず、椅子に座ったまま上半身を揺らし続けるようなトランス状態に陥るようです。さらに、このトランス状態が頻繁に繰り返され長期化する場合に解離性障害のトランスと判断されます。

多重人格障害ともいわれる「解離性同一性障害」とは、一人の人間の中に複数の人格が存在する障害です。それぞれの人格は名前や年齢、性格、趣味嗜好なども異なり、まったく別の人格が現れるようです。解離性障害のなかでも最も深刻な症状であるといわれています。

「解離性運動障害」では、運動機能に異常があらわれることも多く、手足の麻痺など、体の感覚を失ってしまうことや、体の一部が勝手に動いてしまう症状があらわれます。

〇このほかの症状には、解離によっててんかんに非常に似た症状があらわれる「解離性けいれん」、内容はわかっているのに、わざと間違った答えをする「ガンザー症候群」などがあります。

また、解離性障害では誰かの声が聞こえる「幻聴」、見えないものが見える「幻視」の症状があらわれることもわかっています。2003年に東京女子大学の柴山医師が解離性障害の43例を調査したところ、38例(88%)に幻聴の症状があったことを報告しました。

この幻聴や幻視は、統合失調症でもあらわれる症状のために、解離性障害は統合失調症と間違えられやすい疾患です。

統合失調症の幻聴では、声が外から聞こえるものの、意味は不明確であり聞こえも不明瞭です。一方、解離性障害では、声は内部から聞こえることが多く、意味を持った言葉がはっきりと聞こえるという違いがあります。

※ICD-10について:2019年5月、世界保健機関(WHO)の総会で、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が承認されました。日本国内ではこれから、日本語訳や審議、周知などを経て数年以内に施行される見込みです。
参考:ICD-11 | 世界保健機関(WHO)
https://icd.who.int/en/
岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)
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柴山雅俊/著『解離の構造―私の変容と〈むすび〉の治療論―』(岩崎学術出版社、2010年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4753310086
柴山 雅俊著『解離性障害にみられた幻聴』精神医学.2005 47(7), p709-716
http://www.igaku-shoin.co.jp/journalPortal.do?journalPortalId=405
岡野憲一郎/責任編集『専門医のための精神科臨床リュミエール20 解離性障害』142ページ(中山書店、2009年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4521731341

解離性障害の原因

解離性障害は強いストレスからの自己防衛

解離性障害の原因は、強いストレスや心の傷を受けるようなできごとから自分を守るための防衛本能であると考えられています。

人は誰でもつらい感情をさけようとします。つらい体験を思い起こさせる場所や人や考えを回避することで、自分の心を守ろうとします。

しかし、つらい体験が日常的に続くような状況では、どんなに頑張っても回避することができないため、「これ以上心が耐えられない」と脳が判断することがあります。そのとき、脳はそのつらさや感情などを自分の意識から切り離すのです。これが解離のメカニズムです。

つらさを切り離した結果、本人はつらい体験を覚えていなかったり、思い出せなくなってしまったりといった解離症状があらわれます。

解離性障害の治療初期では、とてもつらい体験をあたかも他人事のように淡々と話す場合があるそうです。この場合は、つらい体験をうけたときの感情が自分の意識から切り離されている状態といえます。

また、自分の中に別の人格があらわれる場合には、本人にかわって別の人格がつらい体験を引き受けてくれていることになります。ただ、別人格がつらさを引き受けているからといって、本人がつらい思いをしていることには変わりありません。つらさを解離によって一時的に麻痺させているといえます。
平島奈津子先生に「解離性障害」を訊く|日本精神神経学会
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=28
岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4791160541
解離性障害の引き金となるストレスの要因には、以下の3つのタイプがあります。
1.強いストレスや心の傷となる要因
2.子どもの場合の要因
3.自閉症スペクトラムの場合の要因


それぞれを詳しく説明していきます。

1.強いストレスや心の傷となる要因

かつては、性的虐待をうけることで解離性障害が発症すると考えられてきました。しかし近年では、性的虐待だけでなく強いストレスの原因となるものはすべて解離性障害を引き起こす可能性があると分かっています。

解離のストレスや心の傷をうける具体的な要因は、以下の4つです。
・いじめ(学校だけでなく、きょうだい間でも)
・人間関係のストレス(親子関係や恋人関係など)
・虐待(性的・身体的虐待、ネグレクト、徹底した無視)
・事件・事故(災害や戦争、暴行などのほか、交通事故を見てしまうなどの出来事も含まれます)

2.子どもの解離性障害の原因

虐待は、子どもの解離性障害の大きな原因のひとつです。あいち小児保健医療総合センターに勤める杉山登志郎医師の調査では、あいち小児センターを受診した虐待を受けた子ども575名のうち、解離性障害がみとめられた割合は59%と6割近くを占めていることが明らかとなりました。
杉山 登志郎/著『子ども虐待という第四の発達障害 』(株式会社学研プラス、2007年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4054033652
なお、海外と比べて日本では性的虐待を原因とする解離性障害は少ないことが指摘されています。

このほかにも、子どもの解離性障害では家庭環境が「過干渉」または「放任」の傾向にあると指摘されています。解離性障害の研究論文を横断的に調査した報告では、解離性障害の子どもの46%の家庭で「過干渉もしくは放任」だったことが明らかとなっています。
緒川和代/著『子どもの解離性障害に関する研究展望 ―事例論文を中心に―』(Bulletin of the Graduate School of Education and Human Development, Nagoya University 、 2014)
https://ci.nii.ac.jp/naid/120005553613
この対極する2つの傾向に共通するのは、本来安心して過ごせる場所であるはずの家の中に「落ち着ける居場所がない」ことです。どちらの場合でも、子どもの気持ちを伝えて理解してもらえる環境ではないため、子どもは強いストレスを感じることになります。その結果、解離性障害となってしまうことが考えられています。

また、同じ調査では性格的に「いい子」と呼ばれる子どもに多いという報告もされています。これは「いい子」であるために、親や周囲の期待などに過剰に応えようとするあまり、ストレスを感じて解離を起こしてしまうのではないかと考えられています。
岡野憲一郎、柴山雅俊、奥田ちえ/編『こころのりんしょうa・la・carte 第28巻2号〈特集〉解離性障害』(星和書店、2009年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4791160541
ジュディス・A・コーエン他/著『子どものトラウマと悲嘆の治療 トラウマ・フォーカスト認知行動療法マニュアル』(金剛出版、2014年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4772413871

3.自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)と解離性障害

自閉症スペクトラムや広汎性発達障害(特にアスペルガー症候群)では、解離症状との関連が指摘されています。

アスペルガー症候群には「興味のあることに熱中する」という特徴があります。このため、アスペルガー症候群の人・子どもは、解離をしやすい素質を持っているのではないかと考えられるようになりました。

一般的に、アスペルガー症候群のある人や子どもは感覚過敏や、日常生活でも多くの困りごとを抱えています。コミュニケーションをうまくとることができず、対人関係を構築することに障害があるため、周囲に理解してもらえずにつらい思いをしている人も少なくありません。

解離しやすい傾向にくわえて、生活する上での困りごとや生きづらさが大きなストレスとなり、解離症状があらわれてしまう可能性が指摘されています。

アスペルガー症候群のある解離性障害の患者さんも「居場所がない」と訴えることが多いそうです。定型発達の子どもでは、家族の関係性などのために、家の中に安心できる居場所がなくストレスを抱える場合があります。一方、アスペルガー症候群の人ではその特性のために、社会の中で安心できる居場所がないと感じているようです。

なお、発達障害の程度が軽かったり、保護者や周りの人が発達障害に気づかなかったりして、その子に合わない声がけや育児方法を選択すると、二次障害として解離性障害を引き起こす可能性があるとも考えられます。
柴山雅俊/編『解離の病理ー自己・世界・時代ー』(株式会社岩崎学術出版社、2012年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4753310523
杉山 登志郎/著『子ども虐待という第四の発達障害』(株式会社学研プラス、2007年)
https://www.amazon.co.jp/dp/4054033652
野邑健二/著『アスペルガー障害と解離』精神科治療学、22巻、381~386ページ、2007年
https://ci.nii.ac.jp/naid/50006328961
杉山登志郎/著『高機能広汎性発達障害にみられる解離性障害の臨床的検討』小児の精神と神経、43(2);113-120ページ,2003
https://ci.nii.ac.jp/naid/40005864491
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