解離性健忘とは?記憶を失ってしまうの?解離性障害のひとつ解離性健忘の原因・症状・治療法などを解説

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解離性健忘は、解離性障害のひとつで過去のできごとや感情などを思い出せなくなる精神障害です。強いストレスとなるできごとが原因で生じますが、具体的にはどのような症状があらわれるのでしょうか。この記事では、解離性健忘と物忘れなどとの違いや治療などを詳しくご紹介します。

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目次 解離性健忘とは? 解離性健忘の原因 解離性健忘はどんな症状があらわれるの? 器質的なことを原因とする健忘との違いは? 解離性健忘の診断基準 解離性健忘かなと思ったら おもに精神療法での治療が行われます 家族や周りの人の正しい理解とサポートが解離性健忘の患者さんの支えになります まとめ

解離性健忘とは?

「解離性健忘」とは、強いストレスの原因となった過去のできごとや感情などの一部やすべてを忘れ、思い出そうとしても思い出せなくなってしまうことです。思い出せないことで、日常生活や社会生活で支障をきたし、本人が精神的につらい思いを抱えている場合には治療が必要となります。

アメリカ精神医学会が監修している『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では、解離性健忘を定義する特徴として以下の2つを挙げています。

1.確かに記憶されているはずで
2.通常なら簡単に思い出せるような、体験など自分にまつわる大切な情報が思い出せない


なお、DSM-5のほかにも、精神障害の診断基準には世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)が用いられています。いずれの診断基準でも、解離性健忘は「解離性障害」という大きなカテゴリのなかのひとつの種類として分類され、解離性障害の中で中心的な障害であると考えられています。

解離性障害のほかの障害でも、ほとんどの場合で解離性健忘の症状がみられます。言い換えると、解離性健忘は健忘以外の症状がみられません。

解離性障害については、発達ナビの記事で詳しい解説をしていますので、ぜひお読みいただければと思います。
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なお、解離性健忘は、女性や若い人に多いと言われています。

解離性健忘の原因

大きなストレスや心の傷となるできごとがきっかけ

解離性健忘は、極度のストレスや心の傷などといった、精神的な原因がきっかけとなって生じます。

解離性健忘の原因となるものには、以下のような体験がふくまれます。

・事故・事件・戦闘・災害のような急激なもの
・虐待やDV、いじめ、家族間の葛藤など、精神的苦痛や葛藤が慢性的なもの


本人の心が耐えきれないつらい体験を受けているときは、いつもの記憶の仕方とは異なる方法で、脳の別の場所に記憶されます。そのため、他の記憶のようによみがえらず、思い出すことができないのです。

一方、解離性健忘によってつらい体験を忘れることができると言い換えることもでき、解離性健忘は本人の心を守ってくれる側面もあると考えられています。

自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群など)では解離性障害を起こしやすい

自閉症スペクトラム(特にアスペルガー症候群)と、解離性障害との関連が指摘されています。

自閉症スペクトラム(特にアスペルガー症候群)のある人・子どもは、解離性障害をおこしやすいのではないかと考えられています。

一般的に、自閉症スペクトラムのある人や子どもは、日常生活で困りごとが多い傾向にあります。さらに、コミュニケーションをうまくとることができないために、対人関係を構築することが難しく、つらい思いを抱えている人も少なくありません。

したがって、生活上の困りごとや生きづらさ自体が、解離性障害を引き起こす大きなストレスとなってしまっている可能性が指摘されています。

なお、解離性障害の記事でも自閉症スペクトラムの関係性について解説していますので、お読みいただければと思います。
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解離性健忘はどんな症状があらわれるの?

健忘の起こる期間はさまざま

解離性健忘では、「自分は誰か」「どこへ行ったか」「何をしたか」「そのときどう感じたか」など、自分が関わったできごとについての情報を思い出せなくなってしまいます。

解離性健忘のために思い出せなくなっている期間は、人によってさまざまです。

数分から数時間のことを忘れてしまうこともあれば、数日間から数年間にわたることを忘れてしまう場合もあり、なかにはこれまでに経験したことをすべて忘れてしまう例も報告されています。

解離性健忘の患者さんでは、日常生活を送っているさなかにも、その時々の自分の行動や発言について忘れてしまうことがあります。

【例】
・メールの送信履歴を確認してみると、見覚えのないメールを送っていた
・クローゼットの中に、買った覚えのない服が入っていた

日常生活でこのような身に覚えのないことが続くと、不安に感じてしまい、抑うつ症状を示す人も多いようです。一方で、解離性健忘に自覚のない人も少なくありません。これは、体験したできごと自体を忘れているために、忘れていることに気づかないためです。

解離性健忘といっても、さまざまな種類があります

◇限局性健忘・・・ある限定的な間に起こったできごとを思い出せない症状です。解離性健忘のなかで、もっとも一般的であると考えられています。

◇選択的健忘・・・限定された間におこったできごとの一部が思い出せるだけで、他の部分は覚えていないのが選択的健忘です。戦争に赴いた兵士が、連日の激しい戦闘の一部分しか思い出せずそれ以外のできごとを思い出せないといった例があげられます。

◇全般性健忘・・・自分が今まで体験してきたことすべてを忘れてしまう症状です。自分が誰であるのかさえも忘れてしまう場合もあります。ただ、これまでのすべてを忘れてはいるものの、現在からの新しい記憶を追加することは可能です。

日本では、1950年に全般性健忘が初めて報告されて以来、これまで130例以上の報告があります。ちなみに、限局性あるいは選択的健忘の報告は20例未満ですが、忘れていることの自覚がないために報告されないのではないかと考えられています。
◇系統的健忘・・・ある特定の領域についての情報を思い出せなくなってしまう症状です。たとえば「家族」「恋人」など「ある特定の人物」などについての記憶が思い出せなくなってしまうことなどがあります。

◇持続性健忘・・・新しいできごとが起こるたびに、そのできごとを忘れてしまう症状です。

解離性のフラッシュバック

解離性のフラッシュバックと呼ばれる症状が起こることもあります。フラッシュバックとは、映像や音、においなどがよみがえり、過去に心の傷を負ったできごとを再体験してしまうことです。

突然、止まっている画像で思い出すことが一般的であるものの、動画であったり、声を伴ったりする場合もあります。

フラッシュバックは、本人にとってとても恐ろしい体験です。過去に引き戻されたように感じる、もしくは同じできごとが目の前でまた繰り返されているように感じてしまうようです。

フラッシュバックに引き続いて、限局性健忘があらわれることもあります。

何がフラッシュバックの引き金となってしまったのか、本人が自覚できないことも多いために、恐怖感がさらに高まってしまうこともあるそうです。

恐怖を感じる以外にも、体にも症状があらわれることが分かっています。頭痛・動悸・吐き気などのほかにも、性機能障害もしばしばみとめられます。

解離性とん走も解離性健忘の症状のひとつです

解離性とん走は、解離性健忘のひとつです。とん走とは逃げ走ることを意味しており、家庭や職場から突然いなくって、どこかへ行ってしまうのが解離性とん走の特徴です。また、いなくなってしまっている間、「自分は誰であるのか」「どんな人生を送ってきたのか」などの記憶を失ってしまっています。

これまでの記憶を失ってはいるものの、電車に乗るための切符を買ったり、歯を磨いたりといった日常生活で必要な動作の記憶は失われていません。また、それまでに習得した技術も覚えています。たとえば、ピアノを弾ける人が解離性とん走で、自分のことをすべて忘れてしまっていたとしても、ピアノを上手に弾くことはできるそうです。

小学生以下では稀ですが、中学生以上の若い人にも多くみられるようになるようです。身元不明の少年として保護される子どものうち一定割合を占めるとも言われています。

器質的なことを原因とする健忘との違いは?

器質的なことが原因で生じる健忘もあります。例えば、認知症、事故が原因で脳の損傷を受けた場合、アルコール依存症などによって脳の機能が失われることによっても健忘が起きることがあります。

それでは、解離性健忘との違いは何でしょうか。

解離性健忘では通常、解離のきっかけになったできごと以降のことを思い出せなくなります。一方、脳の損傷など器質的なことが原因で生じる健忘では、損傷が起きた時点より前のことも一緒に思い出せなくなることが多いようです。
解離性健忘と器質的な健忘は、コンピュータにたとえられる場合もあるので、以下にご紹介します。

「解離性健忘」・・・開くにはあまりにも危険なファイルであるため、記憶の記載されたファイルにアクセスできないようになっています。この場合の「危険」とは、本人の心に傷を与える危険があることを意味します。

「器質的な健忘」・・・ハードウェア自体が壊れてしまっているために、記憶ファイルがなくなってしまったり、容量が低下して記憶の書き込みができなくなったりしている状況です。
なお、解離性健忘は、自分にまつわる体験や自分が誰であるかを忘れてしまうことが中心的です。しかし、認知症の場合では、自分が誰だか分からなくなってしまうのは、認知機能がかなり低下してから生じると考えられています。

解離性健忘の診断基準

米国精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)での診断基準は、以下の通りです。

A.重要な自伝的情報で,通常,心的外傷的またはストレスの強い性質をもつものの想起が不可能であり,通常の物忘れでは説明ができない.
注:解離性健忘のほとんどが,特定の1つまたは複数の出来事についての局限的または選択的健忘,または同一性および生活史についての全般性健忘である.
B.その症状は,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている.
C.その障害は,物質(例:アルコールまたは他の乱用薬物,医薬品),または神経疾患または他の医学的疾患(例:複雑部分発作,一過性全健忘,閉鎖性頭部外傷・外傷性能損傷の後遺症,他の神経疾患)の生理学的作用によるものではない.
D.その障害は,解離性同一症,心的外傷後ストレス障害,急性ストレス障害,身体症状症,または認知症または軽度認知障害によってうまく説明できない.

【出典】日本精神神経学会/監修『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版(医学書院、2014年)296ページ

出典:http://amzn.asia/5SIZVIb
診断にあたっては、器質的な原因による健忘でないかも含め、専門医による診断の上で解離性健忘かどうかを判断します。

解離性健忘かなと思ったら

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