入学を遅らせる「就学猶予」で困難は解決する?自閉症の子どもにとって最適な選択を考えるために…

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わが子の発達がゆっくりだったり、発達に凸凹があると、小学校入学を1年遅らせる「就学猶予」の利用も検討すべき?もう1年かけて子どものできることを増やし、1つ下の学年と一緒に学ぶ環境なら、通常学級に進学してもついていけるかもしれない…そんな風に考えられる保護者の方もいらっしゃるかもしれません。

このような「就学猶予(就学義務の猶予)」制度の利用は、自閉症児も検討すべきなのでしょうか?

立石美津子
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『子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方』著者の立石美津子です。
みなさんは、「就学猶予(就学義務の猶予)」という制度についてご存知でしょうか?これは、病気などの理由で、就学年齢になったけれど小学校入学が難しい場合に、治療・療養をし、教育を行けられる状態になるまで入学を遅らせることができる制度です。

ですが、持病はないけれど子どもの発達が遅い場合に、この制度を利用し、1年間しっかり訓練して周りの子ども達と同じようにできるようになってから小学校に入学させようと考える保護者さんもいるようです。つまり、1つ下の学年の子ども達と一緒に小学校に入学するのです。

私自身にも、自閉症の息子がいますが、自閉症のある子どもの家庭がこの制度を活用することに、疑問を感じています。1年間しっかり訓練してようやく追いついたとしても、入学後に同級生と同じようにできるでしょうか?また、子どもはつらい思いをしないでしょうか?

「就学義務の猶予」とは?

そもそも、「就学猶予」って何?特に持病がない自閉症児の場合でも使えるの?と疑問を持つ人もいらっしゃると思うので、まずこの制度について説明したいと思います。

日本では明治時代の中期ごろから義務教育の基盤が出来上がり始めました。でも、当時は障害のある児童が学校で義務教育を受けるための環境はほとんど整備されていませんでした。そのため、障害のある子どもの保護者は「就学義務の猶予又は免除」を受けることとなり、結果として、障害のある子どもたちは教育をほとんど受けられませんでした。

つまり就学義務の猶予や免除は、その制度の確立当初、重い障害がある子どもが義務教育を受けられない場合に利用されてきたのです。

1970年代に養護学校(現・特別支援学校)が義務化され、特殊学級(現・特別支援学級)も増設されました。これ以降、就学猶予や免除を利用する必要のある家庭の数は大幅に減っています。つまり、障害があっても、学校に通える子どもが増えたのです。

ちなみに、就学義務が猶予や免除される事由については、次の通りです。

日本国民に対して、この就学義務が猶予又は免除される場合とは、学校教育法第18条により、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため就学困難と認められる場合とされています。

ここでいう「病弱、発育不完全」については、特別支援学校における教育に耐えることができない程度としており、より具体的には、治療又は生命・健康の維持のため療養に専念することを必要とし、教育を受けることが困難又は不可能な者を対象としているところです。

出典:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shugaku/detail/1310253.htm
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発達が「ゆっくり」と「凸凹」の違いは?

ある幼稚園の園長先生が、発達障害児を育てている保護者に、何気なく次のような言葉をかけていました。
「発達がゆっくりなのだから、焦らないで、のんびりと長い目で見て育てましょう」

園長先生が意図して言ったわけではなくても、親御さんの中にはこの言葉で誤解してしまう人もいます。「ゆっくり」という表現には、兎と亀の昔話のように、歩みの遅い亀でも地道に努力して頑張れば…
・必ずゴールに到達する
・いつかは追いつく

というニュアンスを私は感じます。

「マラソンでゆっくり走っていても、途中棄権することなく完走すれば、いつかは皆と同じゴールに達する」と解釈して、「頑張らせれば、いつかはほかの子と同じことができるようになるだろう」と考える方もいらっしゃるでしょう。

もちろん、ゆっくり発達し、障害のないお子さんに追いつくお子さんもいるかもしれません。でも、発達障害のある子どもは、能力のバランスや凸凹が大きいことが多く、単に「ゆっくり育つ」というのとは少し意味が違うのではないかと、私は考えています。

1年遅れで、子どもを小学校に入学させた知人の選択

15年以上前の話ですが、私の知り合いの自閉症児の保護者がこの制度を利用して、子どもに幼稚園の年長クラスを2年間経験させてから、小学校へ入学させました。自閉症以外「病弱である」などの遅れはありませんでした。

知人は「年長さんを2年も経験すれば、ほかの子と同じことがきっとできるようになるに違いないわ」と言っていました。

当時は自治体によってこの制度が自閉症児にも一部適用されていたようです。特別支援学校のことを養護学校、特別支援学級のことを特殊学級とまだ呼んでいた時代で、発達障害とかアスペルガー症候群の言葉もまだ理解されていなかった時代でした。

その知人の選択を否定するつもりはありませんし、実際に1年遅らせることでできることが増える部分もあったかもしれません。

でも、同じく自閉症のある子どもを育てる親である私は、心の中で「1年遅らせたからといって、同級生と同じようにできるようになるのだろうか…?」とも思っていました。

ありのままに受け入れ、子どもに合う教育を選ぶことの大切さ

特別支援教育が浸透している現在では、自閉症があることだけを理由に、就学猶予が認められることはそれほど多くはないようです。

でも、幼稚園や保育園や療育関係者から「お子さんは発達がゆっくりなのですね」と言われると、「うちの子は少し発達がゆっくりなのだ。だから1年遅らせてその間に頑張らせれば、何とか追いつくだろう」と考え、この就学猶予を検討する人もいるかもしれません。

発達がゆっくりであることと、凸凹があることとは、違うのではないかと思います。まず、「子どもに合った教育は何か」「その選択は、子どもに無理をさせすぎはしないか」ということを考えてほしいと思います。そのうえで、通常学級か特別支援学級か特別支援学校かを吟味するのがよいのではないでしょうか。

保護者が子どもを「ありのままに受け入れる」ことは、子どもの育ちにとって、とても大切なことです。

「できるだけ健常児に近づけよう」とすることは、保護者の願いであって、子どもに必要な環境や学びとは重ならないかもしれない。

ありのままを受け入れたうえで、子どもにとって最適な道を選択をしていってほしい、私はそう願っています。

このコラムを書いた人の著書

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すばる舎
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