個性的な同級生への初恋から30年。子育てして気づく、伸びやかな発想の彼を支えた親のチカラ

ライター:鈴木希望
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今日は私の初恋の話をする。「鈴木おばさんの色恋なんてどうでもいい」と言わず、できればどうか読んで欲しい。人の親になった今、あのころのことを振り返って…初恋の彼が、ある大切なことに気づかせてくれたから。

恋愛なんて他人ごとだった…オクテな私の初めての恋

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あなたが中学生のころ、クラスではどんな男子がモテていただろうか?

地域や年代によって差異のある事柄だろうが、バスケ部のキャプテンやらサッカー部のエースやら、スポーツに長けている子が人気というのはよく聞く話で、私が通っていた中学校でもそうだった。

では、私自身はどうだったか。当時の私は、地味で目立たずコミュニケーションが苦手な女子だった。それもあり、いかにも人気者といった雰囲気の男子はまぶしすぎるというか、自分とは別世界の存在であるかのように感じていた。そして、奥手でなおかつ自分に自信がなかったため、恋愛なんて他人ごとだと思っていたのだ。

そんな私にも春は訪れる。中学1年生のときのある土曜の昼、部活動の練習に向かう前、教室で弁当を食べていたときのことだ。通路を挟んで隣では、同じクラス、別の部の男子たちが歓談しながら弁当を食べていた。なんの変哲もない光景だ。しかし、私の目の端に写りこんだ、Kくんの弁当だけがどうにも異様であることに気がついた。

(なんか、やけに白くない…?おかず、持ってきてないの?)

恐る恐るそちら側を向こうとした瞬間、
「うわぁ!今日も伸びてる!」
とKくんが叫ぶではないか。
(伸びる…?どういうこと?)

思い切ってKくんの弁当箱に目をやると、なんと、中身はそうめんだった。
(え?ちょっと、なんなのこの人!?)

彼は、そうめんが好きすぎるあまり、どうにか弁当にしようと小学生のころから試行錯誤を繰り返している、ということが、男子たちの会話で分かった。今から30年前は、コンビニ弁当にさえ麺がほとんどなかった時代だ。弁当箱にそうめんを詰め込んで来る中学生男子なんて、衝撃的にもほどがある。

驚愕のあまり、口をポカンと開いている私の視線なんぞ気にも止めず、
「今週もダメだったかー!」
だとかなんとか言いながらつゆをそうめんにぶっかけ、一気にかきこんで部活に向かうKくんの後ろ姿を眺めながら、
「か、かっこいい…!」
と小さく呟いてしまった。

それが私の初恋だった。

好きなことには尽力を惜しまない、飄々として掴みどころのない少年

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Kくんとは小学校が一緒だったが、同じクラスになったことはなかった。名前は知っているけれど、人柄についての噂までは聞こえてこない、つまり、あまり目立たない男子。しかし、身近になってみたら、なかなか愉快な男子であることが分かった。

と言っても、盛大なギャグをかましてクラス中を笑いの渦に巻き込むタイプではなく、ふと教室が静かになった瞬間、ポツリと呟いた一言で笑わせる――という表現で伝わるだろうか。そして班ごとにつける日誌は2秒で分かる嘘だらけ、先生からの諌言も飄々とかわす掴みどころのなさは、なんだか見ていて飽きなかった。

そして、かなりのキョンシー(死体妖怪)マニアであることも分かった。この数年前にヒットした中国のホラーコメディ映画をきっかけに、敵役であるキョンシーに惹かれてしまったのだとか。

その映画や派生作品を見るだけでは飽き足らず、なんと、キョンシーの装束(満州族の正装)まで自作したというのだ。好きな作品のコスプレをしたいという気持ちは分からなくもない。しかしKくんの場合、どこに着ていくわけでもなく、「キョンシーが好きだから」という、ただそれだけの理由のみで、親御さんに手伝ってもらいつつ、型紙を起こすところからつくり上げたというのだ、満州族の正装を。

「俺、Kがあの服着てるの見たことあるよ」
Kくんと仲の良いTくんが言うので、私は身を乗り出しそうになった。
「え?どこで?」

「小学校の校舎。Kが、一度でいいからキョンシーごっこしたいって言うから、夜中に忍び込んだんだよ」(今ではありえないセキュリティの杜撰さ…)
「で、キョンシーごっこってどんなことしたの?」
「あいつがあの服着て、額に御札貼って、キョンシーの真似してぴょんぴょん跳ねてるのを俺が見てた」
(Kくんはともかく、Tくん、楽しかったのかな…)と思わなくもなかったが、好きなことにはそこまでのエネルギーを注ぎ込めるKくんに、私はますます惹かれたのだった。

親になって気づいた、伸びやかなKくんの背景にあったもの

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さてその後。「つき合う」だなんて発想もなく、好きな人に話しかけるのに相当な勇気を要したおぼこい私は、Kくんと距離を縮められるわけでもなく、思いを告げることもなかった。中学校を卒業すると同時に、片思いのままこの恋は終了。

30年経って振り返ると、私が誰かに惹かれるポイントは、このころからあまり変わっていないのだなぁと笑ってしまう。そして親になった今、私はKくんの親御さんの偉大さに気づかされた。

そうめんの件では割愛してしまったが、Kくんが「そうめんを弁当にしたい」「キョンシーの装束をつくりたい」と言い出したとき、親御さんは「やってみなよ」と賛成し、協力を惜しまなかったらしい。そう、彼の伸びやかな発想や行動力の背景には、親御さんの姿があったのだ。

息子と一緒に、どうしたらそうめんが伸びにくくなるか毎週考え、さまざまな案を採用したり、他国の古い民族衣装を型紙から起こして縫い上げるなんて、家庭生活や学業には関係ない。好きでもなければ相当に面倒なことだと思う。

「くだらない。時間の無駄」と、切って捨てることもできたはずだ。それを文句も言わな…かったかどうかは知らないが、とにかく息子の「好き」「やってみたい」という思いを尊重し、サポートし続けるなんて、なかなかできることではない気がする。

近年、冷たいそうめんやそばの弁当がコンビニなどで当たり前のように販売されているのは、かつてのKくんのように「そうめんを弁当にしたい」「そのための労力は惜しまない」という人が存在していたからだろう。一見無駄なように思える発想が、実は有益な何かに繋がるケースがあるということだ。

もし、何の役に立たなかったとしても、好きなことそのものや、それに打ち込んだり、情熱を注ぐ姿勢を、そばにいる誰かに肯定してもらえたら、きっと自信になるし、生きる力にもなるのではないかと私は思っている。
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