情報のインプットのされ方への理解が、コミュニケーションの足掛かりになる
編集長 アウトプットの問題だと言われていたことが、実は刺激=インプットの情報によるものだと分かったわけですね。
自閉スペクトラム症のある人は、相手の表情を「見ない、見ようとしない」と言われてきたけれど、「見ない」のではなく、刺激への過敏性があることによって、相手の表情がよく見えない、という場合も少なくないのでは、と思います。このシミュレータを使って、経験することによって、「こう見えているのか」と分かることがたくさんありますね。本人が感じているしんどさの部分への想像を働かせやすくなりそうです。
長井 自閉スペクトラム症のある子どもの保護者や、当事者もですが、「なんでそういう行動をするのか」という理由が分かるようになった、ということが大きいですね。「バーチャルだとしても、本人の困難さを体験できる」ことが重要です。
編集長 これまでのワークショップを通じて、いろいろな声を聞かれたと思います。当事者以外の方からの声で、印象深いエピソードがあれば、教えてもらえますか?
長井 あるお母さんが、ワークショップ中に「子どもがいつもやっていることをやっていいですか?」と、天井を見ながら、手をひらひらと振って見せてくださったことがあります。
「こうやりながら、子どもがいつも『キラキラして楽しいね』と言うんです。天井には何もないのに、と思っていたんですが、シミュレータをつけたら、たしかにキラキラしたものが見えました。楽しいといえば楽しい。これまでは『キラキラなんてないよ』と言っていたけど、あるんだ、ということが分かりました」と。
このようにして、行動にまつわる「なんで?」の論理的な背景を、シミュレータの体験によって、理解することができると思っています。親も支援者も、当事者も、「なんで?」「どうして?」の理由が1個ずつ分かって、スッとするのだと思います。「安心しました、肩の荷が下りました」とおっしゃる方もいます。
編集長 なるほど。
長井 現象そのものは「ある」だけで、それ自体にはいいも悪いもありません。キラキラが見える子は、困ってはいない場合もあるので、「そんなの見えないでしょ、落ち着いて」とか言わなくてもいい、ということになるんです。支援を考えるときのステップがスムーズになるというか。
編集長 支援以前に、まず知ること・理解することができるギアとして、シミュレータが役に立ってくれそうですね。
長井 自閉スペクトラム症の人には視覚の過敏性がある、と漠然とは言われていたものが、もっとはっきり分かるようになります。どういうときにどう見えるか、が客観的に分かることによって、周りも本人も、自分の状況を整理できると思うんです。
自閉スペクトラム症の人に参加していただいた実験やワークショップのときには、見え方のパターンを教えるだけで、生活上のアドバイスはしていませんが、後日、「実験に参加してからからサングラスをかけたり、こまかく調光できるLEDの照明に変えたりしました」と話してくれた当事者の方もいました。自分の見え方・感じ方に対して理解を深めることで、自分で解を探り当てたんですね。
編集長 すばらしいですね。自分の体験を客観的に見るという体験を通じて、ホワイトアウトやノイズが当たり前だった人が、そうならないための工夫を理解する、ということですね。
長井 自分の中で起こっていることは、外在化されないと、自分でも納得できないでしょう。現象をデータ化することで、自分でも認めて、周りにも認めてもらうことになるんです。
編集長 キラキラして見える、と言うと周りからは「疲れてるだけでは?」と言われたりするけど、一定のロジックで説明されると、言う方も言われた方も両方納得する。説得力のあるシステムですよね。
長井 こういうことを、周りが聞いてあげるといいんですよね、どう見えるの?って。そうすると、当事者としては、共有できた!と思える体験になるんです。「そんなのは気のせい」と片づけられるのではなく、コミュニケーションのきっかけになるんですよ。
編集長 この体験を足場にしてコミュニケーションが始まるんですね。見え方の個人差による違いはあるけど、代表的にはこういうものがある、と分かれば、それを足場にしていくことができる。より解像度の高い理解ができると思います。
自閉スペクトラム症のある人は、相手の表情を「見ない、見ようとしない」と言われてきたけれど、「見ない」のではなく、刺激への過敏性があることによって、相手の表情がよく見えない、という場合も少なくないのでは、と思います。このシミュレータを使って、経験することによって、「こう見えているのか」と分かることがたくさんありますね。本人が感じているしんどさの部分への想像を働かせやすくなりそうです。
長井 自閉スペクトラム症のある子どもの保護者や、当事者もですが、「なんでそういう行動をするのか」という理由が分かるようになった、ということが大きいですね。「バーチャルだとしても、本人の困難さを体験できる」ことが重要です。
編集長 これまでのワークショップを通じて、いろいろな声を聞かれたと思います。当事者以外の方からの声で、印象深いエピソードがあれば、教えてもらえますか?
長井 あるお母さんが、ワークショップ中に「子どもがいつもやっていることをやっていいですか?」と、天井を見ながら、手をひらひらと振って見せてくださったことがあります。
「こうやりながら、子どもがいつも『キラキラして楽しいね』と言うんです。天井には何もないのに、と思っていたんですが、シミュレータをつけたら、たしかにキラキラしたものが見えました。楽しいといえば楽しい。これまでは『キラキラなんてないよ』と言っていたけど、あるんだ、ということが分かりました」と。
このようにして、行動にまつわる「なんで?」の論理的な背景を、シミュレータの体験によって、理解することができると思っています。親も支援者も、当事者も、「なんで?」「どうして?」の理由が1個ずつ分かって、スッとするのだと思います。「安心しました、肩の荷が下りました」とおっしゃる方もいます。
編集長 なるほど。
長井 現象そのものは「ある」だけで、それ自体にはいいも悪いもありません。キラキラが見える子は、困ってはいない場合もあるので、「そんなの見えないでしょ、落ち着いて」とか言わなくてもいい、ということになるんです。支援を考えるときのステップがスムーズになるというか。
編集長 支援以前に、まず知ること・理解することができるギアとして、シミュレータが役に立ってくれそうですね。
長井 自閉スペクトラム症の人には視覚の過敏性がある、と漠然とは言われていたものが、もっとはっきり分かるようになります。どういうときにどう見えるか、が客観的に分かることによって、周りも本人も、自分の状況を整理できると思うんです。
自閉スペクトラム症の人に参加していただいた実験やワークショップのときには、見え方のパターンを教えるだけで、生活上のアドバイスはしていませんが、後日、「実験に参加してからからサングラスをかけたり、こまかく調光できるLEDの照明に変えたりしました」と話してくれた当事者の方もいました。自分の見え方・感じ方に対して理解を深めることで、自分で解を探り当てたんですね。
編集長 すばらしいですね。自分の体験を客観的に見るという体験を通じて、ホワイトアウトやノイズが当たり前だった人が、そうならないための工夫を理解する、ということですね。
長井 自分の中で起こっていることは、外在化されないと、自分でも納得できないでしょう。現象をデータ化することで、自分でも認めて、周りにも認めてもらうことになるんです。
編集長 キラキラして見える、と言うと周りからは「疲れてるだけでは?」と言われたりするけど、一定のロジックで説明されると、言う方も言われた方も両方納得する。説得力のあるシステムですよね。
長井 こういうことを、周りが聞いてあげるといいんですよね、どう見えるの?って。そうすると、当事者としては、共有できた!と思える体験になるんです。「そんなのは気のせい」と片づけられるのではなく、コミュニケーションのきっかけになるんですよ。
編集長 この体験を足場にしてコミュニケーションが始まるんですね。見え方の個人差による違いはあるけど、代表的にはこういうものがある、と分かれば、それを足場にしていくことができる。より解像度の高い理解ができると思います。
これからの課題は、学術的な知見を社会実装につなげること
編集長 今後の展望を教えてください。家庭や支援者だけでなく、企業や教育現場へと広げていくことで、どんな課題がありますか?
長井 これまでは、「ASD知覚体験ワークショップ」の対象は、保護者や支援者など、自閉スペクトラム症当事者への理解がある人たちでした。これからは企業や教育現場へ広げて、自閉スペクトラム症とかかわりが今までなかった人にも体験してもらいたいと思っています。
編集長 そうですね。今後は、もっと広く社会に向けて、このシミュレータやワークショップを広げていきたいですね。実際に企業や学校の現場に導入する際、このシミュレーションシステムは、どういう役割を担っていくことになるでしょうか。
長井 ものの見え方の「翻訳機」なんだと思います。たとえば言語の違う人たちの間で、同じ思いがあったときに、言葉の通訳や翻訳があれば、相互理解する一歩となりますよね。それと同じように、「こう見えている」ということを翻訳するのが、このシミュレータの役割だと思っています。相互理解に、科学的根拠を加えるのが技術の力です。
今、CRESTのシミュレータの研究は、学術的なところにとどまっているけれど、これを社会に役立てていこうとするときに、熊谷先生やLITALICOさんの力が、より必要となるはずなんです。大学の研究と当事者の間をつなげる役割を、LITALICOさんにぜひ担っていただきたいと思っています。
編集長 対話や試行錯誤が、ここから始まっていくんだと思います。これからのワークショップも、一緒につくっていきましょう。どうぞよろしくお願いします。
撮影:鈴木江実子
長井 これまでは、「ASD知覚体験ワークショップ」の対象は、保護者や支援者など、自閉スペクトラム症当事者への理解がある人たちでした。これからは企業や教育現場へ広げて、自閉スペクトラム症とかかわりが今までなかった人にも体験してもらいたいと思っています。
編集長 そうですね。今後は、もっと広く社会に向けて、このシミュレータやワークショップを広げていきたいですね。実際に企業や学校の現場に導入する際、このシミュレーションシステムは、どういう役割を担っていくことになるでしょうか。
長井 ものの見え方の「翻訳機」なんだと思います。たとえば言語の違う人たちの間で、同じ思いがあったときに、言葉の通訳や翻訳があれば、相互理解する一歩となりますよね。それと同じように、「こう見えている」ということを翻訳するのが、このシミュレータの役割だと思っています。相互理解に、科学的根拠を加えるのが技術の力です。
今、CRESTのシミュレータの研究は、学術的なところにとどまっているけれど、これを社会に役立てていこうとするときに、熊谷先生やLITALICOさんの力が、より必要となるはずなんです。大学の研究と当事者の間をつなげる役割を、LITALICOさんにぜひ担っていただきたいと思っています。
編集長 対話や試行錯誤が、ここから始まっていくんだと思います。これからのワークショップも、一緒につくっていきましょう。どうぞよろしくお願いします。
撮影:鈴木江実子
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