ピュアな自閉スペクトラム症、ピュアなADHDは少ない!?意外に多い「重複する発達障害」を紐解く

ピュアな自閉スペクトラム症、ピュアなADHDは少ない!?意外に多い「重複する発達障害」を紐解くのタイトル画像

長年の臨床経験の中で、発達障害と診断された人たちのなかで、割合が多いにもかかわらず十分に理解されずに困っているケースが多いとを感じています。例えば、症状が複雑で、保護者であっても父親と母親でわが子が自閉スペクトラム症なのか、ADHDなのか困り感や見立てが違うこともあるかもしれません。今回は、そんなわかりにくさを抱えた発達障害の一面をご紹介します。

本田秀夫
17255 View

割合が多いにもかかわらず、理解されにくい発達障害のケースがある

私は精神科医として30年以上、臨床経験の大半を発達障害の診療に費やしてきました。今は、信州大学医学部附属病院にある「子どものこころ診療部」を中心に、乳幼児から成長して大人になった方までたくさんの方たちにお会いしています。ここでは、私の臨床経験から、発達障害と診断された人たちのなかで、割合が多いにもかかわらず十分に理解されずに困っているケースについてお話ししていきたいと思います。

発達障害のおさらい

まずは、おさらいとして「発達障害」の種類から紹介しましょう。発達障害には、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害など、いくつかの種類があります。そして、それぞれに特性があります。

たとえば自閉スペクトラム症には「対人関係が苦手」で「こだわりが強い」という特性があり、ADHDには「多動性・衝動性」と「不注意」という特性があります。同じ発達障害でも、種類によって特性は違うわけです。

■発達障害の基本的な特性
発達障害の基本的な特性
※ほかにも、知的能力障害や運動症、チック症、コミュニケーション症などの種類があります。
Upload By 本田秀夫

発達障害の各論だけでは説明できないことも

私は、多くの方に発達障害について知っていただきたくて、これまで、自閉スペクトラム症やADHDについての本を多数出版してきました。ちなみに、自閉スペクトラム症やADHDは、「発達障害」を1本の木にたとえれば、その一部なわけです。

しかし、最近、「発達障害の一部」を取り上げるだけでは、発達障害そのものを説明することが難しいし、発達障害を理解していただくのに十分ではない、と考えるようになってきました。そこで、「発達障害」そのものをタイトルにした本『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』を上梓し、発達障害のなかでも割合が多いにもかかわらず、十分に理解されていない人たちの話をまとめようと思い立ったのです。

みなさんには、こんな経験はないでしょうか?

本やインターネットなどで「発達障害」の解説を読んでも、その内容が自分や自分の子どもにいまひとつ当てはまらず、結局、発達障害のことがよくわからなくなってしまったというケースです。
「発達障害」を1本の木にたとえると
「発達障害」を1本の木にたとえた図。自閉スペクトラム症やADHDなどは、発達障害の一部
Upload By 本田秀夫

ミスが多くて、コミュニケーションが苦手な人

ここで、ある成人女性のケースを紹介しましょう。

彼女は、仕事でミスが多く、職場でいつも苦労していました。本人はよく気をつけているつもりですが、見積書の金額を間違えたり、資料作成時に必要なページを飛ばしてしまったりします。ただ、彼女は余計なおしゃべりをせず、一生懸命に作業をするため、真面目な人と評価され、先輩にサポートされて、働いていました。

ところが、キャリアを積むうちに仕事の幅が広がり、仕事量が増えると、ミスが目立つようになってきました。彼女は真面目な人でしたが、趣味がなく雑談も苦手で、社交的ではないため、「余計なおしゃべりをしない真面目な人」というよりは、「同僚とうまくコミュニケーションをとれない人」と評価されるようになっていきました。

彼女は「このままでは、やっていけないのではないか」と不安を抱いています。
職場で困っている成人女性のケース
職場で困っている成人女性のケース。仕事量が増えるにつれミスも目立ち、コミュニケーションがうまくとれない人とマイナスの評価をされるように…
Upload By 本田秀夫

発達障害の特性が重複して現れるケース

この人が自分の生活や仕事に悩み、発達障害の可能性を考えて本やインターネットなどで解説を読んだ場合、「ミスが多い」という点を、ADHDの「不注意」の特性ではないかと感じるかもしれません。ところが、この人にはADHDの「多動性・衝動性」はあまりみられません。結果として、自分がADHDかどうか、わからなくなりそうです。

いっぽう、「雑談が苦手」という点から考えていくと、自閉スペクトラム症の「対人関係が苦手」という特性があるようにも思えます。しかし、自閉スペクトラム症の「こだわりが強い」一面があるかというと、「趣味がない」わけですから、どちらかといえば、彼女は自分の場合、こだわりは弱いと感じています。

つまり、この人の場合、自分にはADHDと自閉スペクトラム症、どちらの可能性もあるように感じながらも、どちらの確信ももてないという状態になってしまうわけです。本人は、人よりもミスが多いことや、人に比べて雑談が苦手なことによって苦しんでいます。その背景には、発達障害の可能性が感じられます。しかし、どの障害だと言い切ることができません。発達障害の一般的な解説には、この「発達障害の特性が感じられるけれど、発達障害の診断がつきにくい」タイプのことがあまり書かれていません。しかし、私はこのタイプの人も一定数いるように感じています。

先ほどの女性には、ADHDと自閉スペクトラム症が「重複」しているのではないかと考えられます。そのために、ADHDの「不注意」の特性と自閉スペクトラム症の「対人関係が苦手」な特性がどちらもみられるのだと考えると、彼女の悩みを理解しやすくなります。

また、彼女の場合、発達の特性に「強弱」の差がみられます。「不注意」と「対人関係が苦手」は強く現れていますが、「多動性・衝動性」と「こだわりが強い」ことは、弱いようです。

ただし、本人が「自分には趣味がなく、こだわりは弱い」と感じている場合でも、実際にはこだわりが強いというケースがあります。人は誰でも、自分を基準にしてものごとを考えます。この人にとっては当たり前のことでも、ほかの人がみれば、こだわりとしか考えられないようなことがあるかもしれません。

両親でも、わが子の見立てがそれぞれ違うことも

次に、発達障害の特性を持つ、こんな男の子のケースを紹介します。

その子のお父さんは「うちの子はほかの子にあまり関心を持たないし、こだわりが強いし、自閉スペクトラム症に違いない」と考えていました。いっぽう、お母さんのほうは「うちの子は落ち着きがなくて、いつもバタバタしていて、これはADHDね」と思っていたとします。

同じお子さんなのに、お父さんとお母さんで見立てが違うのはなぜでしょう?それは、人は自分を基準にして相手を見るからです。

この子のお父さんは、小学校のときの通信簿によく「落ち着きがない」と書かれていたそうです。お父さんからしてみると、自分を基準に考えれば、わが子は問題視するほど「落ち着きがない」ようにはみえないのでしょう。わが子の落ち着きのなさよりも、「対人関係が苦手」「こだわりが強い」という自閉スペクトラム症の側面のほうが浮き彫りになってみえたのです。

いっぽう、お母さんは小さい頃から、落ち着きのあるお子さんだったそうです。そんなお母さんからしてみると、わが子はじっとしていられないし、常に関心ごとが移り変わって、十分に「落ち着きがない子」にみえたのでしょう。

「自分」を基準にして考えると、同じ子どもの同じ親という立場でも、わが子への見立てが違ってきてしまうのです。この子の場合、医師に相談したところ、「自閉スペクトラム症」という診断を受けたそうです。ただし、「ピュアな自閉スペクトラム症」というよりは、ADHDの「多動性」の重複も考えたほうがいいかもしれません。

発達障害の特性があって困っている人たち

先にあげた成人女性のケースも、「自閉スペクトラム症」と診断された男の子のケースも、発達障害の特性に重複があって困っている人たちです。そして、 そうした重複例はかなり多いにもかかわらず、適切に理解・対応されていないケースが多くみられるのです。

自閉スペクトラム症には、「対人関係が苦手」で「こだわりが強い」という特徴があります。そしてADHDには「うっかりミスが多い」「落ち着きがない」という特徴がみられます。「こだわりが強いこと」と「落ち着きがないこと」は、一見するとまじりあわない特徴です。一見正反対の特徴だからこそ、それらが重複すると、複雑な現れ方をして、十分に理解されなくなってしまうのです。

逆にいうと、自閉スペクトラム症やADHDなどの障害特性のうち、どれか1種類だけが存在しているという場合には、非常に理解しやすくなります。なぜかというと、医学書で解説されている内容に近い行動がみられるからです。

ピュアな自閉スペクトラム症、ピュアなADHDだったら

もしも、先の成人女性が重複例でなかった場合には、どのように行動が変わるか、考えてみましょう。

自閉スペクトラム症の単独例だった場合には、「雑談が苦手」というところは変わりませんが「ミスが目立つ」という特徴はみられなくなるでしょう。同僚に「人づき合いは悪いけど、仕事はできる人」という印象をもたれ、職場に適応できるケースも少なくありません。
ピュアな自閉スペクトラム症の場合
ピュアな自閉スペクトラム症の場合…その人なりのやり方でコツコツと成果を積み上げて、「人づき合いは悪いけど、仕事はできる人」という評価をされることも
Upload By 本田秀夫
いっぽう、ADHDの特性が単独の場合には、「ミスが目立つ」という特徴は残りますが、「雑談が苦手」ではなくなります。そうすると、同僚には「ミスはあるけど、明るくて活動的な人」という印象をもたれ、苦手な面も理解してもらえることがあります。

単独例は、発達特性があるわりにはうまくいっているようにみえるかもしれません。
ピュアなADHDの場合
ピュアなADHDの場合…仕事でミスが目立っても、明るく人づき合いがいいので、チームプレイでなんとか乗り切れることも
Upload By 本田秀夫
発達障害の人の悩みを理解し、支援するために、発達障害が「重複」するタイプで、「ちょっと自閉スペクトラム症で、ちょっとADHD」という人もいるのだということを、ぜひ知っておいてください。

重複して現れることもある、と知っておくだけでも、発達障害の人の行動や心理を読み解くのに役立ちます。
著者:本田秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長、特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。精神科医として30年にわたり発達障害の臨床と研究に従事している。
発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち (SB新書)
本田 秀夫 (著)
SBクリエイティブ
【図解】発達障害とは?もし「発達障害かも」と思ったら?分類・原因・相談先・診断についてイラストでわかりやすく解説します!のタイトル画像

関連記事

【図解】発達障害とは?もし「発達障害かも」と思ったら?分類・原因・相談先・診断についてイラストでわかりやすく解説します!

発達障害の「わかりにくさ」の理由をクローズアップ!12月6日発売、新書『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』の新しい切り口のタイトル画像

関連記事

発達障害の「わかりにくさ」の理由をクローズアップ!12月6日発売、新書『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』の新しい切り口

当サイトに掲載されている情報、及びこの情報を用いて行う利用者の行動や判断につきまして、正確性、完全性、有益性、適合性、その他一切について責任を負うものではありません。また、掲載されている感想やご意見等に関しましても個々人のものとなり、全ての方にあてはまるものではありません。
放課後等デイサービス・児童発達支援の求人一覧です。待遇・給与、勤務時間、研修・教育制度、職員のインタビューからあなたにぴったりの職場を探せます。
会員登録後のエントリーで1,000円のAmazonギフトカードがもらえるキャンペーンを実施中!
あわせて読みたい関連記事

あわせて読みたい関連記事

発達障害のキホンを知る

発達障害のキホンを知る

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら

コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。