自閉症の息子が「一人で買い物」、身につけるべきスキルはお金の計算じゃなかった!

ライター:立石美津子
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知的障害がある自閉症の息子を育てる私は、「一人で買い物ができるように、お金の計算をマスターさせよう」と躍起になっていました。中学生になった息子は、特別支援学級での数学でもつまずき、手作りのお金の計算プリントにも苦手意識が生まれはじめていました。そんなとき、担任の先生の言葉に、ふっと肩の荷をおろすことができたのです…。

数学は難しい

『発達障害に生まれて』(松永正訓著/中央公論新社)のノンフィクションの題材となった立石美津子です。
自閉症の息子が中学の特別支援学級に通っていたころのことです。夏休みの宿題に2ケタや3ケタの掛け算の問題が出されました。

息子は小学2年生までは特別支援学校、3年生から6年生までは特別支援学級に在籍していました。進学した中学校の特別支援学級のクラスメートには、小学校時代の6年間、通常学級に在籍していた子もいました。

通常学級にいたクラスメートと息子では、今まで取り組んできた算数のレベルが大きく違います。特別支援学級の数学は習熟度別に4クラスにわかれていたものの、一番易しいレベルの息子のクラスでも3ケタの掛け算のような、難しい問題が出されることがありました。

私は、宿題を前に苦痛の表情をしているのを見て、「こんな問題やらせても、実生活の中で使うことないのになあ…」と思ってしまいました。自力で筆算することができない息子は「計算機!計算機!」と訴えるので、私は言われるままに計算機を手渡していたものです。
計算機を使う様子
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計算機を使っているので、計算ミスすることはありません。担任の先生に「自分の力で解いた」と勘違いされるといけないので、「計算機で解きました」と保護者欄に書いて提出しました。

担任の先生に相談してみたら

そんな折、個人面談がありました。担任に思い切って次のように相談しました。

「学校の数学は生活に直結していません。私は、日常生活に必要なお金の計算を教えてほしいです」と伝えました。そして、家庭で取り組んでいることについて話しました。

学校での数学の学習には懐疑的な私でしたが、一人で簡単な買い物くらいできるようになって欲しいと、お金の計算についてのオリジナルプリントをやらせていました。
計算の学習をする息子
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計算プリント
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それから、コンビニでの買い物練習もさせていました。
そのことを伝えると、意外にも、担任の先生は「そんなにお金の計算を躍起になって教えなくてもいいと思いますよ」と言うのです。先生は、こう続けました。

1. どんなに努力しても難しいこともある。できないことをすべて克服させようとするのではなく、できることをさせるようにしましょう。

2.日本は治安が良い。お金の計算が出来なくても大丈夫。財布を広げて「わからないので取ってください」と言えば、店の人が多めに取ることはない。お釣りだって「この人、計算できないから」と判断して、わざと少なく渡す悪人はいません。

3.大事なのは「自分から助けを求められること」。なんでも自分一人の力でできるようにならなくてもいい。

4.難しい計算問題ができても、物の価値がわからない子がいる。「白菜は2,000円くらい」と平気で言ったりする。その価値がわかるようになるのはなかなか障害のある子どもには難しい。

それからこんな話もしてくれました。

「『お金の計算がわからなくちゃダメだ』と親から厳しく言われ練習をしている生徒がいました。その子は、財布から正しい金額を出すことができないことを恥ずかしいと思ったのか、商品を黙って持ち帰るようになってしまったんです」

難しい計算はできなくてもいい

先生と話すうち、私はふっと肩の荷がおりました。そして、次のように考えました。

・思い返せば、日頃からお金の課題を特訓しているせいか、苦手意識がすでに出ていて、「パスモがないと電車乗らない、買い物しない」と言い出した。お金を握らせると、地面に捨ててしまうこともある。

・ 治安の良い日本にこれからも住むのだ。老人が財布を広げて店の人に取ってもらっている光景をスーパーでたまに見かける。お金の計算ができないのなら、息子もそうすればいい。

・将来はカードだけで買い物するキャシュレスの時代がやってくるだろう。

・宿題がわからないとき「計算機」と言ってきた。そんなこと思いつくなんて案外、生活力が育っているではないか。偉いぞ!

・計算できなくても買い物できる。誰かに助けてもらって生きる。これも自立。

一人で計算させようと躍起になって苦手意識を植えつけてしまっては本末転倒。必要なときに助けを求められる力が大切だと気づいたのです。
次ページ「生活するのにいくら必要かがわからない」

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