2019年、発達障害についての理解はどう変わる?『私たちは生きづらさを抱えている』著者・姫野桂さんインタビュー

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2018年夏に出版された『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』。著者の姫野桂さんは「東洋経済ONLINE」で発達障害がある22人を取材し、さらに自分自身の体験も合わせて語ることで、「大人の発達障害」とはどういうものかを書き記しました。発達障害当事者への取材から1年以上たった今、発達障害に関する世間の「認知度」はどう変わったのか、2019年はさらにどう変わっていくと考えているのか――取材当時を振り返りつつ、姫野桂さんの思いを聞きました。

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発達障害は、どのくらい理解されている?

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ここ数年、社会の中でも急速に認知され始めた「発達障害」。でも、「大人の発達障害」については、ようやく光が当たり始めたところといえるのではないでしょうか。

今の大人が子どものころ、「発達障害」という言葉はまだ一般的ではありませんでした。発達障害は脳の働き方の偏りによるものなので、以前から発達障害がある人はいたはずです。発達障害についての認知が少しずつ広まる中で、ようやく気づかれ始めました。

2018年夏に出版の『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』。姫野桂さんが「東洋経済ONLINE」で発達障害がある大人・22人を取材し、さらに自分自身の体験もあわせて語ることで、「大人の発達障害」とはどういうものかを書き記した本です。でも、一口に「大人の発達障害」といっても状況は人によって違います。

本書に登場する22人も、
■思ったことをつい口に出してしまい人間関係がうまくいかないADHD(注意欠如・多動性障害)のある男性
■二次障害からうつ病に。買い物依存にも悩むADHDのある女性
■ASD(自閉症スペクトラム障害)、ADHDのある同士で結婚している夫婦 
など、さまざまな特性や生きづらさを抱えながら暮らしています。

このようなリアルな声をすくいあげ、社会に投げかけた『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』。本書の発売前後での認知度について、姫野さんはどのように感じているかを伺いました。
私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音
姫野 桂
イースト・プレス

発達障害の認知度、1年前と現在ではどう変わった?

――本書の中で、「今後、発達障害はアトピーと同じくらいに認知されていくのではないか」という、当事者の言葉が紹介されていました。姫野さん自身は、発達障害の認知度の高まりについて、どう感じていますか?

姫野桂さん(以下、姫野)「当事者を取材した約1年前時点では、幅広く認知されているアトピーほど知られるようになるとは思っていませんでしたし、今もまだそこまでの認知度はないと思います。

ただ、この1年ほどで『発達障害』への理解は広がってきたと思います。この本を出した当初は、発達障害という言葉自体知られていなかったり、発達障害にはASD(自閉症スペクトラム障害)・ADHD(注意欠如・多動性障害)・LD(学習障害)の3種類があるということも知らなかったという感想をいただいたりしました。その中でも、ADHDは今はかなり認知度が上がりましたね。ASDは、旧診断分類のアスペルガー症候群を略した『アスペ』という俗称のほうが、知られていると思います。好ましくないと感じる使われ方をされる場合もありますが…」

生きづらさを感じ、二次障害を発症する当事者も

「普通」の人と同じように働いているつもりなのに、どうして私だけこんなに疲れてしまうんだろう、あるいは「普通」に見えるように努力が必要だと、多くの発達障害のある人は感じています。こうしたことから、適応障害やうつ病など、二次障害を発症する場合もあります。

発達障害のある人の生きづらさの中には、二次障害が影響していることも多くあるようです。

今まで取材してきた中でも、精神疾患や自律神経失調症といった二次障害を発症し、よくよく検査をした結果、発達障害がそれらを引き起こしていたという例は少なくない

出典:https://www.amazon.co.jp//dp/478161700X

二次障害を防ぐために必要なこととは?

では、うつ病になるほど、心身ともに疲れないで生きていくためにはどうしたらいいのでしょう?その答えのひとつが、「発達障害BAR The BRATs」のマスター 光武克さんの言葉にあるかもしれません。

「社会が受け皿を作るというより、もっと主体的に『自分の特性はこうだ』と示して、自分で作っていくものなのかなと思う。そのなかで受け入れられるためには『お互いこういう努力をしましょう』という交渉をしますし、そのうえで相手が望むパフォーマンス以上のものを提示すれば、リターンは確実に来ますから。そうやって自分の場所を僕は守っているつもりです」

「発達障害BAR The BRATs」のマスター 光武克さんの言葉

出典:https://www.amazon.co.jp//dp/478161700X
発達障害がある人は、得意なことと不得意なことが明確に分かれていることがよくあります。できないことは助けてほしいけれど、できることでは相手を助けられることもあるかもしれない。そうすることで、居場所を守り、また二次障害にならないように身を守っているーー。

算数のLDがある姫野さんにも、計算ができなくて確定申告では苦労しているけれど(現在は税理士に委託しているそう)、一方で原稿を書く能力はスピードを含めて非常に高いという特性があります。その力を生かし、新卒で勤めた会社を退職し、現在はフリーライターを生業にしているのです。

――二次障害を防ぐには、発達障害による自分の特性を、まずは伝えて理解してもらうことが必要なのかもしれません。姫野さんは今、どう考えていますか?

姫野 「自分の生きづらさをまずは言語化すると、うつ病などの二次障害を防ぐことにつながると思います。でも、発達障害の特性により、言語化が難しい人もいます。そういう人が孤立してしまわないよう、周りの配慮やフォローが必要です。最大の病は『孤独』です」

できることとできないことがあるという特性を当事者が発信すること。それによって、周りの人たちの理解が深まること。さらには、うつ病など精神疾患の根底には発達障害の傾向があるかもしれない、と気づいてもらえること。誰をも孤独にしない社会になってほしいという思いが、「最大の病は『孤独』」だという姫野さんの言葉から感じられました。

今後、発達障害の認知はどうなる?

発達が気になる子どもを育てる保護者にとっても、子どもたちが育っていく環境や、将来働くときのことを考えると、「発達障害の社会的認知度」はとても身近で大事な課題です。より多くの人たちに知ってもらうことが、子どもたちにとっても、生きやすい社会の第一歩をつくることになります。

ーーこれから、発達障害は日本の中で、どのように認知されていくと思われますか?

姫野 「テレビやメディアで取り上げられることが増えたので、認知されていくと思います。ただ、これが偏見につながったり、発達障害=すごい人(著名人でもカミングアウトする人がいるので)となることは危険だと思います」

姫野さんが以前、発達障害は特別な才能を持った人ばかりではないとネットで発言したところ、おそらくまだ気持ちの整理がついていない当事者から「発達障害者は成功している人ばかりだ!!」と反論されたのだと言います。

「もちろん成功している人がいるのも事実ですし、私も凸凹の凸の面を活かして仕事をしています。あくまで『できることとできないことの能力の差がある障害』という事実が広まればいいと思っています」

取材から約1年。姫野さん自身はどう変わった?

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これからもまた、できないことに出会い、そのたびに落ち込むと思う。でも、こうやって文章を書いて生計をたてられたり、適切な環境と愛情をもって猫を飼育できていたりと、できていることもある。できることに自信を持ちつつ、できないことは今後も対策と工夫を重ねていきたい。

出典:https://www.amazon.co.jp//dp/478161700X
――姫野さんは自分自身のことについて、このように書いていますが、このころと今と、何か変わったと思う部分はありますか?

姫野 「気持ちの整理がついて、良い意味で割り切れました。今日も、仕事の打ち合わせがカフェであったのですが、ポロポロと文房具を床に落としてしまいました。空間認知能力が弱めなのでこういうことが起きがちなんです。もし診断を受けていなかったら『すいません、すいません』とテンパっていたと思いますが、今日はペンを拾いながら『空間認識が苦手なんですよ〜』と自然に言えました。自分の苦手な分野を自然に言える(悪い意味で開き直るのではなく)ようになったと思います」

自分のできることもできないことも、関わる人たちに率直に伝えられるようになったーー。自分自身を見つめ、そして伝えることは、自分自身を守るとともに、社会での認知も広げていくことになる。姫野さんは、取材を通して得た気づきを、毎日の生活の中で実践しているのです。

『私たちは生きづらさを抱えている』にあるのは、過去ではなく未来への予言

100人いたら100通りの特性があり、できること・できないことは人それぞれ違う。発達障害当事者がそれぞれ違うように、周りの人の受け取り方もさまざまです。姫野さんも、本書の中でこう書いています。

発達障害は100人いたら100通りあるんです。発達障害は本来の性格にちょっと上乗せされたような状態です。(中略)もっとメディアが発達障害の人がどう生きているのかを発信して、それを見た人たちがポジティブな感情でもネガティブな感情でも、それは受け取る側の自由なので、まずは知るきっかけのひとつになればいいなと思います。

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本に登場する人たちが示してくれるのは、過去にあった経験だけではありません。22人のタイプの異なる人たちを取材する中に、これからの社会がこうなってほしい、という渇望が見えてきます。

それはただ、「こうしてほしい」という一方的な思いだけではありません。発達障害がある人自身も、また発達障害グレーゾーンの人も、どう社会に働きかけたらいいのかについての示唆が、この本の中には詰まっているように感じられました。

『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』

発達障害当事者22名を取材。「東洋経済ONLINE」の人気連載に加え、書き下ろし体験レポートも収録。イースト・プレスより、2018年8月に発行。
取材・文/関川 香織
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私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音
姫野 桂
イースト・プレス
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