相談支援の支援者に!心理発達相談に必要な「スキル」が分かる本――井上雅彦先生らによる『発達が気になる幼児の親面接: 支援者のためのガイドブック』

ライター:発達ナビBOOKガイド
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金子書房
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子どもの発達が気になったとき、どこにどう相談しに行ったらいいでしょうか。できるだけ早く、必要な支援が受けられることが大切ですが、そこをつないでくれるのが、「相談支援」です。とはいえ、相談支援をする人は、必ずしもどこかの機関に所属している資格をもった人だけとは限りません。また、専門資格を持っていたとしても、相談者である親・保護者から正確な情報を聞き出すスキルが必要です。井上雅彦先生の新刊、『発達が気になる幼児の親面接:支援者のためのガイドブック』で紹介されている大切なポイントを探っていきましょう。

相談支援のスキルが学べる本『発達が気になる幼児の親面接: 支援者のためのガイドブック』が発売

子どもの発達が気になったとき、子どもの特性に合わせた適切な支援を受けたいと考えるでしょう。でも、どうしたらそうした支援につながることができるのかと、途方に暮れる保護者もいるかもしれません。そうした子どもと保護者を、必要な支援へとつなぐカギとなるのが、幼児期の発達に関する「相談支援」です。

幼児期の発達相談が適切に実施されていくために、相談支援をする側としては、子どもの発達に関するアセスメントや支援技術だけでなく、幼児期の親が抱える子育ての不安、感情の理解や共感、伝え方などの技術が必要となります。

『発達が気になる幼児の親面接:支援者のためのガイドブック』(金子書房)は、こうした相談支援を行う支援者の手引きとなる本です。
発達が気になる幼児の親面接: 支援者のためのガイドブック
井上雅彦 原口英之 石坂美和
金子書房
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「気づき」から支援にうまくつなげるために

子どもの発達について、保護者が支援にたどり着くまでには、「気づき」、「情報収集」、「相談」、「診断」、「支援機関への通所」などいくつかの段階を経ることになります。

発達障害のある子どもの子育てに悩む人が、適切な支援を受けるための最初の糸口となるのが、「気づき」の段階です。
「気づきの段階での支援は、親の気持ちに寄り添いながら傾聴・情報収集し、本人支援を開始する中で成功体験や悩みを親と共有しながら信頼関係を気づき、必要に応じて専門相談へとつなげていくことが求められています。

『発達が気になる幼児の親面接: 支援者のためのガイドブック』P.7より
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4760832769
保育園や幼稚園(ここでは園とします)で子どもの発達の偏りや遅れなどへの「気づき」があったときには、そこから支援へのつなげ方として、保護者への伝え方が重要となります。たとえば、「子どもに発達障害があるのではないか」という指摘を教師や保育士からされた保護者は、
たとえ園で子ども同士のトラブルが頻発したとしても、家庭の中でそのようなトラブルが生じていなければ、「園の対応や相手が悪いのではないか?」などさまざまな疑念をもつかもしれません。

『発達が気になる幼児の親面接: 支援者のためのガイドブック』P.5より
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4760832769
園でできる「気づき」への支援は、専門機関や医療機関へつなぐことだけではなく、親の気持ちを理解し、寄り添う支援から始めることが重要で、大切なのは、「悪者探しをしない」ということだと、井上先生は書いています。保護者は「園が自分の子どもを理解していない」と思い、園は「保護者が子どもの困難さや特性を認めない」と思っていたのでは、先に進むことができません。園も保護者も、最終的に「子どものための支援」が必要だということを忘れてはならないのです。

アセスメントをより的確に行うためのスキル

相談支援の支援者に!心理発達相談に必要な「スキル」が分かる本――井上雅彦先生らによる『発達が気になる幼児の親面接: 支援者のためのガイドブック』  の画像
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=29982000229
子どもの発達障害に限らず、治療や療育方針を立てていくためには、アセスメント(見立て)が必要です。アセスメントを進める過程で大切なのは、冷静に客観的に子どもの様子を見ること。正しいアセスメントができなければ、適切な方針が立ちません。適切な方針が立たないのでは、子どもの困りごとはやがて、その子の生きづらさにつながってしまうかもしれません。何かのフィルターがかかってしまったり、本来の姿でない様子にとらわれたりしたのでは、正しいアセスメントはできないからです。

ただ、発達障害の正確なアセスメントは、身体の病気やケガのように、ひと目で見て分かることや、分析結果のデータだけでできるものではありません。相談の仕方によって、引き出せる情報内容が異なってくる場合もあります。アセスメントを正確に進めるためには、発達障害に関する知識だけではない、聞き取るためのスキルが必要となります。

たとえば、面接の準備。この本では、支援者自身の健康状態を整えておくことや、話す人がリラックスできるような部屋のしつらえ方、すわる位置まで、相談者が話しやすい環境を整えることから提案しています。また、アセスメントの選び方、説明と同意、質問の仕方のスキル、決定して試した支援方法の評価の仕方までのガイドラインともいえるノウハウが丁寧に書かれています。

発達障害のある子どもやその保護者の相談支援を行う支援者として必要なのは、学問的な知識だけでないことがよく分かります。そして、気持ちに「寄り添う」という行動を言語化して、「スキル」として習得できるように導いているのがこの本です。

保護者自身のタイプ別に、アセスメントの進め方が異なる

「家族背景・親の特徴に配慮したアセスメントと支援」の章では、こうした相談を受けるためのスキルに加えて、保護者自身の特徴別に聞き方、助言の方法を紹介しています。

保護者が抱えている抑うつ、不安が高い、攻撃的・イライラしやすい、自発的な発言が乏しいなどの、いずれも相談支援者にとって的確なアセスメントを進めるのがむずかしいケースが挙げられています。

たとえば、不安が強く、話題が次々に移り、あれこれ質問するタイプの保護者には、一問一答で答えるのではなく、まず話をじっくり聞いてから答えていくといったことなどの具体的な傾聴の仕方が書かれています。うまく聞くことができない、コミュニケーションができないと、保護者が支援者に対して心を閉ざしてしまいます。それは結果として、子どもの支援がうまくいかなくなる、という問題に直結するのです。

23の事例紹介――臨床の中で、さらに理解を深めるのに役立つこと

第3章では、「親面接の実際」として、実際の相談事例を挙げ、アセスメントの進み方、支援のポイントをさまざまなケースごとに紹介しています。

1.ことばが気になる
2.落ち着きがない
3.かんしゃくがひどい
4.友だち・きょうだいとうまく遊べない
5.集団行動ができない
6.身の回りのことが自分でできない
7.トイレトレーニングが進まない
8.こだわりが強い
9.園に行きたがらない
10.診断について
11.就学に向けて

それぞれの項目については、1事例だけでなく、子どもの診断の有無や親のニーズや特徴別に2~3の事例をあげて、合計23の相談事例から具体的な見立てや支援方法を学ぶことができます。

1.ことばが気になる の事例A 2歳6カ月の男児(診断なし)の場合

小児科の先生から、自閉症にあてはまるところがあるといわれ、母親が相談したケースです。母親は、子どものことばが遅く、ときどき「ぶー(車)」、「マンマ」と言うくらいで心配しており、ことばを増やすためにどうしたら?と相談しています。不安が強く、矢継ぎ早に質問する保護者の場合には、どう対応したらよいか、アセスメントと支援のポイントとして具体的な方法までが書かれています。

例えば、保護者へ丁寧に聞き取りを行い、発語の状況を把握したうえでアドバイスをできるよう、具体例が紹介されています。子どもが冷蔵庫を見て、「あ」とだけ発声しているなら、「“「あけて」と言いながら冷蔵庫を指さす”というモデルを示し、子どもが指差しなどを真似てからあけるようにしましょう」といった具合です。
冷蔵庫の前で「あけて」と発語させるようす
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それぞれの事例を読み進めると、相談支援者による保護者への接し方や、質問の仕方によって、支援方針の立て方という結果までが、ずいぶん違った展開になるのだということがよく分かります。

相談支援者のためのスキルを総合的に学べる本の草分けに

著者の井上雅彦先生
「相談支援には、情報・知識、理解、それと同時に保護者に対する態度や質問の仕方といったスキルが必要」だという、井上雅彦先生
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相談支援に必要なのは、子どもの発達に関する知識、理解、情報、地域の支援情報、支援制度の理解、さらに行動変容に対する理解と技術であり、それと同時に保護者自身に対するアセスメントや傾聴・共感、質問や助言の仕方といったカウンセリングに関するスキルです。

ですが、幼児期の発達相談、特に発達障害に特化して、相談支援のために必要な知識や技術を総合的にまとめられた本というものは、これまでほとんど存在しなかったと、「はじめに」で井上雅彦先生も言っています。幼児期の発達相談支援者に必要なスキルについて総合的に学べる本として、この本の果たす役割の大きさが期待されています。

最後に、この本の教えてくれることについて、簡単にまとめてみましょう。

●「親支援」で支援者が心がけるべきことがまとめられています
●「親面接」での聞き取りの仕方や、判断のポイントが分かりやすく紹介されています
●「親面接」のさまざまな事例が紹介されています

支援の仕事に携わる人のみでなく、多くの人にヒントをもたらしてくれる本『発達が気になる幼児の親面接:支援者のためのガイドブック』、一読してみてはいかがでしょうか。

文/関川香織(K2U)
発達が気になる幼児の親面接: 支援者のためのガイドブック
井上雅彦 原口英之 石坂美和
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