サポートは3つの視点から!発達障害のある女の子「からだ・こころ・関係性」の成長と変化、対応と支援の事例集

ライター:発達ナビBOOKガイド
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金子書房
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発達障害がある女の子特有の困難を、「からだ」「こころ」「関係性」の軸で理解する――。未就学児から成人まで、16人の女性たちの事例を集めた『発達障害のある女の子・女性の支援: 「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート』は、保護者や周囲の人たちが3つの軸から理解し、支援することを提案しています。わが子の感じている「不安」をどうすれば「安心」に変えられるのか、その手だてとなる一冊です。

「からだ」「こころ」「関係性」から女の子の発達障害を理解する

2019年3月25日に発売された『発達障害のある女の子・女性の支援』では、発達障害のある16人の女性たちの事例と、それぞれのカウンセリングや支援の方法、当事者や保護者、支援者の声が紹介されています。

「からだ」「こころ」「関係性」を軸に女の子たちの抱えた困難を理解し、どのような支援が行われ、それがどのような変化をもたらしたのかまでが具体的に解説されています。
発達障害のある女の子・女性の支援: 「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート
川上ちひろ ・木谷秀勝 (編著)
金子書房
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なぜ「からだ」「こころ」「関係性」なのか?

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なぜ3つの軸からの理解が大切なのでしょうか。

からだ

思春期にさしかかると、女の子のからだは大きく変化します。二次性徴によって体つきが変わるだけでなく、月経が始まりホルモンが変動するようになります。発達障害がある女の子にとってこの変化は、とりわけ心身に大きな影響を与えることがあります。

たとえば、感覚が過敏な場合が多く、定型発達の人にくらべてからだの変化を辛く感じる、からだの状態を認識してコントロールすることが苦手なので変化に対応しきれないといったことを、本人がうまく自覚できないことが少なくありません。

こころ

知的障害のないASD(自閉スペクトラム症)の子どもは、定型発達の子どもよりも他者理解が遅れる傾向があります。9~10歳ごろに、急に自分以外の人にも「こころ」があることが感知され、他者の心情が想像できるようになるために戸惑い、不安を感じる場面が多くなります。他者理解に加えてからだの変化によるストレスで混乱はさらに深まりますが、それをどう表現すればいいのかわからないためパニックを起こしたり、不安や抑うつを生じやすいのです。

関係性

感覚が過敏であることや、自己コントロールが苦手なことは、社会生活を送る上で起こる疲労感を大きくし、他者との関係性を結ぶところまでいきつかないことがあります。本当は、周囲の人と良好な関係を持ちたいと願っているにも関わらず、対人関係に過敏であることからトラブルになりそうな場面を先回りして回避してしまう傾向もあり、関係性を築く機会を逃し続けてしまうのです。

「からだ」「こころ」「関係性」から生じる困難は、女性に限ったことではありません。ただ二次性徴でのからだの変化の大きさや、女子グループ特有のコミュニケーションの複雑さなどが、女性に与えるストレスを大きなものにする傾向があります。こうした困難は周囲からは見えにくいばかりでなく、自分自身でも認識することが難しいことが少なくありません。

実際にはどんなことが起こり、それに対し周りの人たちはどんなサポートができるのでしょうか。本の中で紹介されている事例を見ていきましょう。

「からだ」からの理解:ASD(自閉スペクトラム症)のある中学3年生・アユミさんの例

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ASDの傾向があるアユミさん(15歳・仮名)は、聴覚過敏の傾向もあり、「学校に行くだけでくたくたに疲れる」のだそうです。同級生の声がざわざわすると辛くなり、記憶もまばらになるほど疲れてしまうので、図書館に退避して体を休めてから帰宅し、そのまま寝てしまうという毎日でした。騒がしいとパニックになって固まってしまうのですが、周囲にはそれが理解されず、アユミさんのストレスは増すばかりです。

カウンセリングではアユミさんのからだの状態が確認されました。全体に過緊張で、首や肩、背中はコルセットを巻いたようでした。

アユミさんの疲れの原因は
・聴覚の過敏さによるもの
・体のコントロールが苦手で、姿勢を保つための力の抜き方と入れ方がわからず、常に過緊張であること
・強い対人緊張や、不安による過緊張があること
などが複雑にからみあったものでした。

アユミさんの辛さを軽減するためには、まず、アユミさん自身が「からだをリラックスさせる方法を知る」ことが必要でした。
まず、アユミさんが座った後ろに筆者が座り、背中の緊張部位の下に軽く膝をあて、少しだけ背を後ろに倒しながら、自分の緊張に気づき、力を抜くよう促しました。その最中に、身体の深部の強い緊張にあたりました。アユミさんは、「この緊張、わかる?」という筆者の声かけにうなずいて集中し、それまでに身に付けたやり方を試して自己弛緩しました。すかさず今度は前屈し、ゆっくりと起き上がるよう促すと、いつも背中や肩に強く力をいれて起き上がろうとするところを、無理なくスムーズに体を起こすことができました。顔をあげたアユミさんは穏やかな表情で「まっくろくろすけが、どこかへいったみたい。でも嫌いではない。厄介なことはあるけど」と、実感できたイメージを教えてくれました。
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一般に、思春期を迎えた女の子がもっとも悩むのは友人関係ですが、ASDがある女の子は友人よりもむしろ自分自身の勉強やからだについて強く意識し、悩む場合があるといわれています。その反面、聴覚などの感覚障害や他の不安があると、「からだ」に安定して意識を向けにくくなり、その限界を意識できなくなってしまうのです。

アユミさんは「からだ」ヘのリラクゼーションのアプローチによって、自分が心地よい状態を認識できるようになりました。緊張を解き、動きやすくなったからだを自分の力でコントロールする体験も積み重ねることができました。この経験は日常生活をも変化させ、困りごとにも前向きに立ち向かえるようになったそうです。

発達障害がある女の子は、一見すると普通の生活を送っているようでも、実は無理をして生活しているのかもしれません。まずは、自分で自分のからだをコントロールできているかどうかを知ることが必要です。その上で自分のからだと向き合いその状態を理解し、少しずつからだをコントロールする方法を学んでいく、その大切さを教えてくれる事例です。

「こころ」からの理解:ASDがある小学3年生・ハルカさんの事例

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ハルカさんは小学3年の1学期の途中から、学校へ行き渋るようになりました。仲のいい友達とクラスが分かれたことと、クラスメイトの会話にうまく入れないことなどが重なったのが直接の原因ですが、実は幼稚園時代からトラブル回避の傾向がありました。友達と遊んでいて、ケンカやいさかいが起こりそうになると、一人遊びに移行するなどの回避行動をとることが多かったそうです。「学校に行かない」という行動も、トラブル回避の最たるものでした。

それにしても、ハルカさんが急に登校渋りをするようになった背景には何があるのでしょう? そこには「他者の心情」の理解が関わってきます。

定型発達の子どもの場合、4歳ぐらいから少しずつ人のこころを感じるようになります(直観的心理化)。さらに経験とともに理解を深め、6歳ごろになると他者の心理の理由も答えられるようになります(命題的心理化)。子どもは直観的心理化と命題的心理化の両方を使い分けながら、他の人のこころへの理解を深めていきます。

一方、ASDがある子どもは、9歳ごろから命題的心理化のみでこころを読むようになります。初めて他人のこころを理解し、相手が自分をどう思っているかに気づきます。この気づきは突然なので、不安を感じてしまうのです。
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『発達障害のある女の子・女性の支援: 「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート』45ページより
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ASDがある女の子は、男子に比べて対人関係に過敏な人が多いと言われています。それでも女の子の多くは、相手とうまく関わりたいという強い気持ちを持っています。であるがゆえに、トラブルになりそうな場面を前もって回避してしまい、うまく関われないことへの葛藤が心身を疲労させます。それがまた回避行動を誘発してしまうのです。

ハルカさんは、遊びを通じた心理療法である「プレイセラピー」を受けることになりました。プレイセラピーでは、ハルカさんが感情を爆発させても、セラピストは静かにハルカさんが次の遊びを始めるのを待ってくれます。このセラピーでハルカさんは、自分に寄り添って楽しんでくれる相手がいることと、自分の思い通りに行動しても相手との関係が壊れないことを実感します。このような経験を重ねることで、1年後には教室でクラスメイトと一緒に活動できるようになりました。

発達障害の子どもには9~10歳ごろに大きな変化が訪れ、他者と自分のこころを知るようになります。そのことが引き起こす混乱を、周囲が理解して支援することの大切さをこの事例は教えてくれます。

「関係性」でのつまずき:二次障害の事例

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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10736004419
関係性の構築につまずき、一人で悩みを抱えこんでしまうことで、「二次障害」につながってしまった事例も紹介されています。

軽度知的能力障害とASDがある中学2年生・ユウコさん

ユウコさんはコミュニケーションが苦手で、自分のことを理解してほしいと思いながら、周囲に伝わる表現ができずにいました。ユウコさんは家出と万引きを繰り返し、少年鑑別所に収容されてしまいます。

ユウコさんはおそらく「サイン」や「メッセージ」を何度も出していたのですが、それが適切ではなく、家族の歩み寄りも不足していたのだと推測されます。ユウコさんには3歳児健診で言葉の遅れを指摘され、早期療育を紹介されたものの母親がそれを受け入れられず、他の子に追いつくように厳しく育てられたという背景もありました。万引きと家出は、「理解してほしい」という注意引きの行動だったと考えられます。

保護処分として児童自立支援施設に送致されたユウコさんは、自信を回復するプログラムや心理療法などを通し、数年かけて家庭復帰をしました。

ASDと適応障害がある中学2年生・アンリさん

アンリさんは「セーラー服を着るのが辛い」という理由からカウンセリングを受診しました。小学6年生あたりからのからだの変化に強い違和感を覚えながらも、受診直前までお母さんにも言い出せなかったようです。受診時にはリストカットの痕もありました。

アンリさんの場合、LGBTの中でもFTM(Female To Male)に該当し、からだの性は女性でも性自認は男性、つまり自分のことを男性だと思っています。アンリさんは幼児期から自分の性への違和感を抱いていましたが、「親に申し訳ない。悲しませるのではないか。見捨てられるのではないか」と言い出せずにいたそうです。

カウンセラーと母親、学校は相談を重ね、事細かな「合理的配慮」の方針が定められました。下記はその一部です。
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『発達障害のある女の子・女性の支援: 「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート』145ページより
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校則や慣行の見直しまでをも含む学校の理解と、周囲からのしっかりとしたサポートは、アンリさんの孤独を和らげていきました。

不安やとまどいを、安心に変えるために

からだもこころも大きく変化する、思春期前後の女の子。大きな変化に戸惑う本人に寄り添い、リラックスやセルフコントロールの手だてを教えることは、本人が自信を失うことなく、自分らしく過ごすための大きな助けになります。

この本が伝えている、「発達障害のある女の子への支援で、忘れてはいけない視点」をまとめてみます。

●発達障害がある女の子の支援では、「からだ」「こころ」「関係性」の側面からアプローチし、そのつながりのなかで起こっている困難を理解する必要があります

●女性は月経周期やホルモンバランスの変動など「からだ」の変化に左右されやすく、とりわけ発達障害の女の子たちの「からだ」は「こころ」や「関係性」と強くリンクしています

●からだの問題を、本人が認識しやすいよう基礎体温などの視覚情報に落とし込み、不調の原因を自覚できるようにすることが大切です

●発達障害がある子どもは、力の抜きどころを知らないことがあります。からだにおいてもこころにおいても、「がんばりすぎない」方法を学ぶことも忘れてはいけません


この本に掲載されているさまざまな事例や、当事者の声は、お子さんと一緒に「とまどい」を「安心」に変えていく大きなヒントになるでしょう。
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文/柳瀬 徹
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